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魔法使いフェイ  作者: 川木
ワーガスト街
138/202

137 いちゃいちゃの境界線

「リナー、起きよー」


 フェイに起こされ、リナは目が覚めた。同じベッドで、お互いにはだけて寝ていたはずだが、フェイはきちんと服を着替えてベッドの脇に立っていた。

 その手にしがみつくようになっているリナに、呆れたように笑いながら、肩を揺らしてくる。


「フェイ……起こしたい?」

「む? 起きているではないか。ほれ、早く」

「起こしたい?」

「……いや、なんなんじゃ? そりゃあ、起こしたいから起こしておるんじゃけど? すでに10回以上呼んでおるけど?」

「じゃあ、キスしてくれたら起きる」

「……では、失礼して」


 目をつぶって促すと、フェイはちゅっと唇を重ねてくれた。頬をゆるめながら改めて目を開けると、はにかんでいるフェイがいた。幸せを噛み締めながら起き上がる。


「おはよう、フェイ」

「うむ……リナ、好きじゃよ」

「ん、私も好きよ」

「えへへ。さぁ、では今日も、のんびりデートするとしよう」

「そうね」


 ちょっとだけ、デートよりもこうして部屋でまたいちゃいちゃしていたいなと思ったリナだが、また休日の前ならフェイから提案してくれるだろう。









 本日は明日受けようかと思っている釣りについて見てみたくて、また海へ行った。

 昨日見ていた砂浜より少し離れて、船がたくさん停泊している。そこへ近寄ると、すでに大半が漁を終えているようで、魚の入った箱を港へ下ろしているところだった。


「まだ昼にも早いと言うに、もう終わりか」

「そうみたいね。魚の種類とかにもよるかも知れないけど、少なくとも昨日見た依頼書だと、日の出前に出発らしいし」

「なにっ!? そ、そうじゃったか? そこまで見てなかったんじゃけど」

「そうよ? だからちょっと大変そうかなとは思ってたけど」

「む、むむぅ。しかし、のう。……やはり、漁に出るのはやめにして、今日、個人的に釣りを楽しむとしようではないか」

「別にいいわよ。じゃあ、釣具を貸してもらえたりしないか、ちょっと聞いてくるわね」


 と言うわけで、本日は釣りです。漁師の一人に尋ねると、近くに観光客向けに釣具のレンタル店があるとのこと。


 波止場から離れて、さらに奥へ進むと、開けた浜辺があり、小さな小屋と、そのすぐ近くに複数のロープがくくりつけられた杭があり、ロープで舳先が繋がれた小舟がたくさん浜辺に並んでいた。

 手前の浜辺とは低めの塀で区切られていて、塀の切れ目の入り口部分には、釣り屋と看板がでておる。中へ入って手前の掘っ立て小屋のような店舗に入る。


「おー、いらっしゃーい」


 受付台に足をのせて、やる気がなさそうに釣竿を磨いていたおっさんが、顔をあげてそう言った。


「二人だな。船と釣竿2本のセットで、昼過ぎまでなら2000Bでいいぞ。説明は、そこの読んどけ」


 おっさんはめんどくさそうに、かんかんと銭入れ用の受け皿をならして、釣具で壁の説明書きを指した。

 その態度に呆れつつも確認する。ルールは


 まず船は常に小屋の横の杭と繋がった状態で、それより先に行くのは禁止。釣具を他へ持ち出すのも禁止。釣れた魚は持ち帰るも海に返すも自由。波が荒れたり天気が崩れたらロープをひいて無理矢理回収することもありえる。

 

 くらいで、まあ要するに、目の届く範囲で自由にしてよしと言うことだ。

 下記には船の漕ぎかたや釣りの方法についても簡単に書いてあるのでざっと読む。


「ふむ。では、それで頼む」

「毎度」


 お金を渡すとさすがに店主も立ち上がり、船をだす用意をしてくれた。釣具と、その為の餌となる虫が入った小さな入れ物と共に渡された。

 木製の縦長の入れ物に、手足のない小さな虫がうようよしていて、覗き込んだフェイはぞっと背筋を粟立てた。

 特別虫が苦手だと言うわけではないが、こうも密集していると気持ちが悪い。


 ともあれ船にのって、漕ぐこと数分。ロープの限界近くまで沖に出た。小屋は見えるが、特にこちらを監視していると言うほどでもないらしい。

 少し離れているので、遠くに漁船の姿があるくらいで、人影などもない。静かに、船に当たる波音だけが耳に届く。


「ふむ。こうして、腰を落ち着けて海を感じるのも、いいものじゃな」

「そうね。でも釣りも始めるわね」


 ぼんやりと沖合いを見つめるフェイを横目に、リナは釣具をセットする。


 船にはいくつか釣竿を固定できるようになっているので、ずっと持っている必要はない。さっさとセットするほど釣れる確率は高くなる。

 もっとも、もっと積極的に釣りたいなら手に持って、絶えず動かしたり、よりよい位置を探し求める方が効率的だが、そこまでするほどでもない。セットしてのんびりして、お昼の分くらい釣りたいなと言うくらいだ。


「はい、フェイはこっちの竿が反応したら引いてね」

「うむ。すまんな」

「いいわよ。虫も、なんか苦手そうな顔してたし」

「む……気づいておったか。別に、触れんことはないが、少しな」

「わかるわよ。私も馴れてるけど、いい気持ちはしないもの」


 リナは好んで触りたいほどでもないが、しかし気持ち悪いと言うほどでもない。気持ちはわかると言いつつも平然と虫餌を釣り針に取り付けていた。


 ともあれ、これで落ち着けると、フェイはごろりと船の中で寝転がった。


「うむ。空しか見えん」

「当然でしょ。と言うか、寝るの?」

「そう言うわけではないんじゃけど、なんとなくの。リナ、こっちへ来て膝を貸してくれ」

「嫌よ」


 フェイの要請は断り、リナもフェイの隣に寝転がった。向かい合って座れば何も問題ないが、隣になって寝転ぶとさすがに狭い。

 リナの意図をくんでフェイが仰向けから横向きになって半分あけてくれたことで、寝転がることはできたが、しかしリナも横向きなので、お互いの姿しか見えない。



「これ、宿から出てきた意味があるのかの?」

「ふふ、さぁ?」

「なんじゃー」


 文句を言うフェイに、リナは意味もなく笑いながら、右手でフェイの左手を掴んだ。


「一人でも二人でも、寝転んでたら同じでしょ」

「それはでもほら、すぐ起きて、竿をひけるからの。こうして横向きじゃと、起きるのが難儀じゃろ」

「そこは魔法でひけない?」

「ひけるが……」


 手をにぎにぎするのに、なんだか歯切れが悪くて視線をそらすフェイに、リナは頬を膨らませる。


「と言うか、なによ。私と見つめあうのが嫌だって言うの?」

「そ、そうではなく……ちと、照れる」

「フェイ可愛いー」

「むぅ。リナの方が、可愛いんじゃ」


 からかうように言われたフェイは、唇を尖らせてから、そう反論しながら身を乗り出して、リナにキスをした。


「んっ。い、いきなりね」

「リナが可愛いから悪いんじゃ。あと、くっついてくるからじゃ。いちゃいちゃしたくなっても、仕方あるまい」

「まあ、多少は」

「じゃろ?」


 照れ臭くなって目をそらすリナの肯定に、フェイは気をよくして、リナにおおいかぶさるようにして上からキスをした。


「ん、んぅんっ。ちょっ、ちょっとフェイ、駄目よ」


 口の中に入ってくるその舌の感触に、流されかけつつもリナは理性でフェイの肩を左手で押し返した。フェイはリナの右手を強く握りながら、熱い息をもらす。


「ん、何故じゃ? いちゃいちゃしたいと、リナも同意してくれたじゃろ」

「ど、度合いがあるわよ」

「? いちゃいちゃとは、こうしてリナと触れあうことじゃろ?」

「いっ、いやいやいや!」


 フェイの右手が胸元に降りてきたことで、リナは慌てて起き上がり、先程押したフェイの肩をつかんで、フェイを逆に下に寝転がせた。

 思わずやったその行動は力加減をあやまり、フェイが痛みを感じたりはしないが、その勢いのよさに船は大きく上下した。


「ぎゃあ!」


 結果、一度目に沈み込んだ勢いで少量の水が入ってきて、フェイの顔面に直撃した。


「わ! ご、ごめんなさい」


 すぐに揃って起き上がる。コップ3杯分ほどの海水は、顔に当たらなかった分も含めて、すでに寝転んでいたフェイの衣服に染み付いてしまった。

 魔法で乾かして、その場は落ち着いたが、フェイは少々ご立腹で、頬を膨らませて反対方向の舳先へ腰を下ろし直した。


 と言っても元々小さな船なので、2メートルも離れていないが。


「フェイー、ごめんって。悪かったわ」

「ふん。別に怒ってはおらんけど。いちゃいちゃする気が失せたわ」

「もー、なによぅ。フェイが、いきなりあんなとこ触ってくるからじゃない」

「いちゃいちゃしてもよいって感じじゃったじゃん。なんじゃい」


 すっかりお冠である。リナは頭をかく。

 今までも、フェイのあまりの世間知らずの為に恋人としての話し合いをしてきた。しかしそれでもやっぱり恥ずかしいので、明確な単語や行為を避けての話し合いだったので、どうもフェイとの認識には差異がある。


「いじけないでよー。と言うか、うん。恥ずかしいから明言は避けてたけど、もう、思いきって言います。外でエッチは禁止です」

「んあ? えっち?」


 復唱されて、リナは頬を赤く染める。意味を知らぬフェイが、無垢な顔でそんな風にあっさりと口にしたことで、何だかどきどきしてきた。

 それにくわえて、いくら実際にやっていると言っても、改まって口に出すのは気恥ずかしい。


「ああ、もう、だからぁ……その、舌をだしたり、体に特別な触れかたをするのを、そう言うのよ。いちゃいちゃって言うのは、普通はエッチまではいかない程度のことを言うのよ」

「むう」

「ねぇ、わかってくれてる? そりゃ、外でする人もいるけど、恥ずかしいの。それはフェイもわかってくれたじゃない」

「うむ。しかし今は二人きりではないか」

「み、見られてるかも知れないじゃない」


 リナの言い分にフェイは腕をくんで、体を傾けてじっくりと考える。不満点がないわけではないが、一先ず話の内容を理解できたかどうかなら、理解できた。


「むぅ……じゃが、しかし、リナの言い分はわかった。矛盾しておると思っておったが、そもそも先日に話し合った際にも、本当はそのように言いたかったのじゃな?」

「ええ。今くらい人がいないなら、ちょっといちゃいちゃするくらいならいいけど、その、エッチは駄目です」

「ふぅむ」


 理解できたが、しかしだからといって、納得するかは全く別問題だ。フェイとて別に、無理に野外でえっちとやらをしたいと言うわけではない。今だって別に、リナを脱がそうとまで考えていたわけではない。

 なのにあんなに嫌々と言われるのは、気分はよくない。リナだってノリノリだったし、そもそもリナから近寄ってきたのに。


 その不満を伝えると、選手交替、今度はリナがうっと怯んで口をつぐんでしまう。


「船の中でじゃし、服を脱ぐまでいかなければいいじゃろ?」

「いや、だって、その……そこまでされたら、私だって、その、む、むらむら、しちゃうもの」

「むらむら?」

「う、そ、それもか」


 こう言う、何気なく使った言葉まで意味を解説するのは今更仕方ないことではあるが、しかし下ネタにしかならない単語なので、やはり説明するとなると気恥ずかしい。


「こう、なんと言うか、えっちな気分になると言うか、そう言う興奮をする時に使うのよ」

「つまり、リナとキスをして、頭がぼーっとして体がむずむずする時の感覚と言うことじゃな」

「え、ええ。そうね」

「ふむ……なるほど。確かに、それはあるかも知れんの」


 そう言うつもりではなかったが、しかし舌をからめるとどんどんドキドキしてくるし、そう言う気持ちになる可能性は否定できない。それを危惧しているのだと言うなら、フェイとしても納得できる。

 そんなフェイの相槌に、リナはぱっと表情を明るくする。


「! そう、そうなのよ。だから仕方ないでしょ」

「うむ。では、具体的にどこまではいちゃいちゃで、どこからはえっちかを決めようではないか」

「え。そう言うの、必要?」

「また押されて、今度は海にでも突き落とされてはかなわんからの」

「う……わ、わかったわよ」


 具体的に話し合いをしてしまったら、それこそむらむらしそうだと思ったが、フェイが譲歩してくれると言うのに、情報を渋っては意味がない。リナは気合いをいれて、フェイと妥協点を探した。









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