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魔法使いフェイ  作者: 川木
ザグルド村
134/202

133 言葉について

 やってみろとフェイに送り出されたはいいが、リナは店員に近寄りつつ、不安しかない。だって直接話をしていなくても、店員同士でだべっているのは普通になに言ってるかわからない言語だし。


「ーー、ん? あ、追加注文かな?」


 なのでリナに気づいた店員がリナに声をかけてきて、びっくりした。普通にわかる!


「あ、はい、えと、カットフルーツを、ひとつ」

「はいはい。季節だしオレンジね。ーー」

「!」


 店員はリナの注文に頷くと、振り向いて厨房の方へこえをあげた。しかしその声は、オレンジと言っているだろうに何かわからなかった。

 リナはそそくさと席へもどり、フェイに顔を寄せて声をひそめる。


「フェイ、ただいま」

「うむ。どうじゃった?」

「聞こえた聞こえた。でも、私の方を向いてる時しかわからなかった」

「そりゃあそうじゃよ」


 フェイの説明によると、まず伝える魔法、『伝心』は声が出ない場合につかう。先天的に喉を使えない人ではなく一時的に声が出ない時につかう魔法をつかったので、口や喉の動きと関連している。

 口を開いて自分が伝えたいと思ってしゃべろうとすれば、それに合わせて通常声が届く範囲にいる人に自分の気持ちが伝わる。この魔法は応用すると、通常伝えられない広範囲に一度に話しかけられるものだ。


 もうひとつの聞く魔法は『聴覚』で、こちらは先天的に耳が聞こえない人向けの魔法だ。さきほどの伝心は自分の意識を相手の脳みそへ伝えるものだが、逆に聴覚は相手の意識を読み取るものだ。

 本来相手の意思を読み取るのは禁じられているが、聴覚は必要に応じた制限のもとつくられている。相手が自分に対して伝えたいと思って口を開かなければ、その意思を読み取ることはできない。要するに会話用のみに調整されている。


 この二つ目は元々違う用途で作られたものだが、組み合わせることにより会話できるのではないかも思ったのだ。なお身体的問題により話すことも聞くこともできない人のための補助魔法も存在するが、さらに高度なものになるため、今回はこの二つにしている。

 元々話すことができる両者が会話するならこの組み合わせで十分だ。


 頭で考えていることを、相手の頭へ直接伝えるものなので、もしかすると言葉が違ってもできるのではないかと思ったのだが、うまくいったようだ。


 ただし伝心は魔法を使う本人の思考を表すためなので、規制が緩く対象をしぼらず声と同じように回りの複数人へ展開させることができるが、聴覚は魔法を使っていない人へ大きく影響させるものなので魔法を使う本人以外へ話している言葉は範囲外になる。

 その為リナの言葉は通行人もを聞くことはできるが、リナは通行人の言葉は聞こえないとなる。


「うーん、なるほどねぇ」


 フェイの説明を聞いて、リナはうんうんと頷いた。説明の途中から訳がわからなくなったので聞き流したが、とりあえず最後の部分は頭に残ったので問題ない。

 途中から店員がもってきた果物をつまみつつされた気安げな相づちに、フェイもあんまりわかってなさそうだなと気づいたが、理解をしてもリナが魔法を使えるようになるわけではないし、別にいいかと諦めた。


「うむ。まあ、とにかくリナも話せるならよかった。では、そう言うわけじゃし、次へ進むとしよう。ルートはどうするかの」


 フェイは先程購入した地図をひろげた。目安のグリルイア内にはついていたが、ムダにここで時間を潰すことはない。

 リナも地図をのぞきこみ、人差し指でザグルド村をさしてから、迷うように指先を動かす。


「んー、そうねぇ。まだお昼までにはだいぶ時間があるし、と言うか、かなり進んだわね。この調子なら、街道を無視してこう飛んでも、お昼過ぎにはこっちにつくんじゃないかしら」

「うーむ、そうじゃのう。じゃけど、あれ目が疲れるんじゃ。前の、リナの故郷に行ったときみたいに、間違って行きすぎたりしても、怒らんでくれよ」

「いや、前も怒ってないし。それに、ちゃんと私も見るから安心して。ほら、ここ、ここに大きな関門があるから、絶対気づくわよ」

「ふむ」

「魔力とかが負担じゃなくて、目が疲れるだけなら私が見るから、やってみない?」

「構わんが、そのようにリナがせくのは珍しいの」

「そう? んー、でもそうかしら。やっぱり私も、色々なところへ行ってみたいと思ってるもの」


 はにかむようにリナがそう言うと、フェイとしてももっとリナを色々なところに連れていきたくなる。フェイが知りたいな行きたいなと言うだけじゃなくて、リナの為にも、あちこちへ行ってみたい。


「そうじゃの。海、楽しみじゃの」

「ええ。それじゃあ、お昼までにここ行って、午後は、んー、あんまりいい目印がないから、スピード落としてこう?」

「うむ。そうじゃな。では、そこからは、この山々を越えて、後は街道に沿っていくのがよいかの」

「んー、そうね」

「うむ。では、さっそく行こうではないか」


 最後のフルーツを口に放り込み、フェイとリナは立ち上がった。








「あった! あれよ! スピード落として」

「ん? うむ」


 あまりに早く景色が流れていくので、ちょっぴりうとうとしてきたフェイだが、リナに繋いだ手を動かして声をかけられ、言われるままスピードを落とした。


「フェイ、ちょっとさっきから恐かったんだけど、ちなみにもしフェイが寝ちゃったらどうなるの?」


 移動に関してはフェイに任せきりなので、積極的に回りを見るわと提案してはいるけれど強くは言えないリナは、うとうとするフェイに背筋が寒くなったものの遠慮して目的の街影が見えるまで声をかけずにいたが、やはりどうなってしまうのかは気になる。

 フェイは何てことない顔でリナを振り向いて、空いている左手で目を擦りながら答える。


「うむ。結界は維持できんな。ただ飛行魔法はぼけっとしてても使えるから、多分大丈夫じゃ」

「本当に? 万が一落ちたら大怪我すると思うんだけど」

「うむ。結界はずっと集中を要するが、基本的に魔法は使い始めれば、後は魔力を流し続けるだけじゃから、寝てても問題ない」

「ふーん? それってどんな感じなの?」


 寝てても魔法を使い続けていると言うのは、結構すごいのではないだろうか。魔法がつかえず、唯一身近だった魔法師のアントワネットも魔力量と使える魔法の種類の問題から、寝ながら魔法を使うなんて考えられなかった。なので凄さと言うのがリナには全くぴんとこない。

 フェイはうーんと、魔法を使わないリナにもわかるように説明するべく首をかしげて考える。


「寝ながら息をする……いや、寝ながら歩くような感じかの」

「難易度に差がありすぎるんだけど。まずフェイは寝ながら歩けるの?」


 寝ながら息しないと死ぬし、当たり前のことすぎる。しかし寝ながら歩くなんて、どれだけ器用ならできるのか想像もつかない。夢遊病か。


「むーん、立ったまま寝る、かの」

「ああ、それならまあ、わかる」


 立ったまま寝ることはリナにも経験がある。重心を安定したさせていれば、案外そのまま寝てしまえる。

 狩りをする際には獲物が巣穴から出てくるまで待ち続けることもある。そう言うときには姿勢をキープしたまま軽く眠るので、そう珍しいことでもない。


 リナが頷くとうんうんとフェイもうなずき返す。


「さて、ではそろそろ地面に降りておくかの」

「ええ、そうね」


 森が切れているあたりから高度をさげ、フェイとリナは街道から少し外れたあたりに降りた。山々をつっきる形になったので、どうしても正規の道から離れてしまっている。

 念には念をいれるに越したことはない。あまり大々的に飛べることは知られないようにする必要がある。さも街道から来ましたと街の見張りから思ってもらえるよう、フェイたちは早めに降りて街道からあるくことにした。


「こうしてのんびり歩くのも久しぶりね」

「そうじゃの。まあ、せわしないということもなかったが、たまにはこう言うのもいいじゃろ」


 空の旅はそのスピードに反して、物凄く疲れるものではない。少なくとも走るよりずっと楽だし、前述の通りうとうとしててもまっすぐは進む。

 しかしあんまりにもぼーっとしてると行きすぎたりしてしまうし、ただじっとしていると言うのも案外不自由なものだ。

 それに対して歩きで行きすぎることはないし、暇すぎて寝てしまうことはない。ずっと歩くのは大変だが、たまにやるぶんには気分転換にはなる。


「のう、リナ」

「ん、何?」

「海で思い出したんじゃけど、リナは泳いだことがあるのか?」

「ん? まあ、あるっちゃあるけど」

「そうなのか。家の近くには浅い川しかなかったし、アルケイドの湖では誰も泳いでおらんし、その発想もなかったが、遊びとして泳ぐこともあるんじゃろ?」

「そうね。私も海には行ったことがないし、ちょっと深い川で魚をとったりして遊んでくらいだから、泳げるとはなかなか言えない程度だけど」


 基本的にリナの幼少期は山川田畑だ。足がつかないほど深くてかつひろい水場はなかった。アルケイドの湖では夏の暑い頃は子供が水遊びをすることはあるが、それもしっかり泳ぐようなものではないし、成人したリナがまざるのも恥ずかしい。

 一応知識として泳ぐこと自体は知っているが、遊びとして泳ぐと言うこと自体が珍しい。しかし自分達も走ることが娯楽のひとつであったので、海があり泳ぐのが当たり前の環境であればそれが娯楽となるのも理解できる。


 ちなみにリナが言う泳いだことがあると言うのは、本の数メートル犬かきをする程度だ。長距離を泳ぐことのない近辺では泳ぎ方などと言うのは知識として教えられない。何となく水をかくだけだ。

 フェイもまた山育ちなので泳ぎの経験はない。フェイは書物から泳ぎの知識はあるがそれだけだ。


「そうか、じゃが私よりはましじゃろ。一緒に泳ごうなっ」

「そうね。うん、いいわね。なんか、こう、いかにも旅行って気になるわね」

「うむ。あとなー、海って何があるじゃろ」

「そうねぇ、……魚? そうそう、海にしかいないようなおっきい魚って言うのももいるらしいわよ」

「ほう、なるほどの。それは見てみたいのぅ」


 まだ見ぬ海に思いを馳せながら、繋いだ手をぶらぶらさせて二人は街へ歩いていった。









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