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魔法使いフェイ  作者: 川木
ベルカ街
118/202

117 短い尻尾

「な、なんじゃ? そんなにくすぐったかったかの?」


 リナの制止に指を抜いたフェイに対して、リナは左手で自分の左耳を押さえつつも、フェイの方は見ずに答える。


「すっごい、すっごいくすぐったい。もうダメ」


 そう言うリナはフェイには見せられないくらい、顔が真っ赤になっていた。元々フェイとの触れ合いで赤くはなっていたのだが、それにくわえて耳穴を触られた予想外の刺激に隠せないほど心臓はばくばくしていた。

 そして慌てているリナは気づいていないが、顔だけでなく、首筋、そして耳まで真っ赤になっていた。とっさにそえた左手だが、あくまで指をいれられないようにするためで、指の隙間から耳はよく見えていた。


「そ、そうか、すまぬ、えと、うむ。もう、せんから、許してくれ」


 そんなリナの態度に、フェイまで顔を赤くした。

 恥じらって全身真っ赤になっているリナが可愛くて、何だか妙にどきどきしてしまって、たまらなくなってしまう。今すぐリナを抱き締めて、独り占めしたい。


「う、うん。別に、大丈夫だけど」

「まさか、耳の穴の中がそんなにくすぐったいとはの。もう指をいれんよ。すまんの」

「……うん。そうして」

「うむ……」


 会話をすることで、何とか先程の感覚から脱することができたリナは、熱をひかせて左手も下ろす。何とか平静を装えそうだ。

 そうしてちょっとだけフェイを向いて、先程の恥ずかしさを誤魔化すように微笑むリナ。

 その、まだ僅かに頬の赤みが残るはにかむ笑顔に、何故か、どきっとした。フェイは自分の心臓がいつもより早く動いて、いつもと違う自分に気づいていた。


 だけどそれは嫌ではなくて、そんな高ぶった自分の状態でもっといたくて、リナのことをもっと見ていたい。


「リナ、指は入れぬから、もっと触ってもよいか?」

「え、うーん、いいんだけど、実験って、まだ終わらない?」

「ん? ああ、実験とは別に関係ないんじゃが、私が触りたいんじゃ。ダメかの?」


 できればやめてほしいが、一度いいと言った以上、途中でやっぱり協力しないなんてことは言えない。苦し紛れにあとどのくらいかと尋ねて、返された返事にリナは固まる。

 突然何を言っているんだ。実験と関係ないなら、無様な姿をさらすのは避けたい。しかしフェイが個人的に触りたいと言うなんて、珍しい。

 普段からスキンシップが好きな方ではあるが、あくまで普通の範囲だ。だけどベルカ人でもないリナの耳を触りたいなんて、普通の要望ではない。


 手を繋ぎたいとかとは違う。リナに触れたいと言っているのだ。それはいつも密かにリナがフェイに思っていたことで、それと少しは似ていると言うなら、それは、期待してもいいのではないか。

 フェイに触れられること、驚いたし、くすぐったくて声が出て恥ずかしいけど、嫌ではない。フェイだけには、何をされるとしても、心の底から嫌になんて思えない。


「…………だ、ダメ……じゃ、ないです」


 リナははじらってまたうつむき状態に戻りながらそう言って、フェイはそっとリナの耳に触れた。

 さっきは実験で、今度はフェイが触りたいから。それだけで、さっきと同じように触られているだけなのに、さっきよりもずっと、どきどきした。


 フェイもまた、さっきは何ともなかったはずなのに、恥じらう赤いリナの耳に触れると何だか熱くて、くすぐったさに通常より乱れたリナの息遣いが何だか妙に耳について、息が上がりそうだった。


「リナ」

「な、なに?」

「いや……リナは、可愛い、と、思っての」

「……馬鹿」

「む、お、怒ったのか?」

「怒ってないわ……ちょっとだけ、恥ずかしいだけ。だから、外ではこう言うの、絶対駄目だからね」

「う、うむ。リナとの秘密じゃな」

「ええ……」


 普段に比べて、物凄く特別な内容を話しているとは思えないのに、何故かいつもと違うように思えて、余計にフェイの心臓は忙しくなったけど、リナの耳を撫でるの動きは、まだしばらく止まることはなかった。








 耳愛でから翌日、ちょっとばかり気恥ずかしさがあったが、気を取り直してお仕事だ。


「エッメリナーん!」

「…………おはよう、ベアトリス」

「え、なにその間? めっちゃ間ぁ空いてるし、嫌そうな顔なのなんで?」

「変な呼び方しないで。あと声大きくて恥ずかしい」

「おっと、ごめんよ」


 教会で依頼書を見ているとベアトリスに絡まれた。近寄ってきたベアトリスはにへらと悪びれずに一言謝罪すると、気安げにフェイに向かって右手をあげる。


「フェイもおはよう。私のこと覚えてる? 私はぁ、エメリナからよーく聞いてるから覚えてるよっ」

「覚えておるよ。リナからはベアトリスのことも聞いておるし」

「あー、なんか反応普通」

「んん? そう、か? 何か面白い反応をした方がよかったか?」


 テンション高めのベアトリスの、しかし今までにないがっかりーとばかりの対応のされ方に、フェイは困惑しながら首をかしげる。


「そんな気を使わなくてもいいわよ」

「いーじゃん。私フェイのギャグ聞きたーい。じゃあ改めて、エメリナからよーく聞いてるからね!」

「え、えーっと、そうか。じゃがいかにわしのカッコいい話を聞いたとしても、わしに惚れるでないぞ」

「んふっ、ふふっ。やばい。つっまんないけど、今までのこと考えたらうける」

「もう。フェイをからかわないでよ」

「むー。なんなんじゃ! もう知らぬ。リナ、行くぞ」


 リナの友人であるし無下にするつもりもなかったが、聞きたいと言うから考えたのにつまんないとか言われてご立腹してしまうフェイ。ぷんすかぷんである。

 リナの手をとって歩き出すフェイに、からかいすぎたとベアトリスは慌ててフェイの前に回り込んで両手をひろげる。


「ああっ、ごめんごめん! つい! つい出来心なの。馬鹿にしたんじゃないって。もう変なこと言わないからー、ね?」


 顔を寄せてねー?と半笑いで懇願されて、フェイは眉をしかめながらも足を止めて、リナを振り向く。


「まあ、ちょっとしつこいけど、悪い人じゃないから、許してあげてよ」


 リナとしてはフェイにちょっかいだされるのはいい気分ではないが、フェイが毅然とした態度で拒否したのはちょっと格好よかったし、ちょっとうざいこともあるけど事実としてベアトリスは友人として付き合いやすいタイプだ。フェイにあんまり苦手意識が芽生えて、疎遠になるのはおしい。

 リナのフォローにフェイはへの字にしていた口をゆるめた。


「……リナに免じて許そう。じゃけど、わし、意味もなく馬鹿にされるのは嫌いじゃ。改めてくれねば、お主と友好関係を築くことは難しいぞ」

「ありがと! わかってるわかってる! 悪かったよぅ。フェイと会ったの久しぶりだから、テンションあがっちゃったのよ。フェイのこと好きだから故なのよ。わかってくれるわよね?」

「むー、まぁ、それならよかろう」


 馬鹿にされるのは嫌いだし、嫌いな相手とは付き合いたくない。だが不快に感じたとは言え、それが相手の好意ゆえだと言うなら、一概に嫌だと断ずるわけにもいかない。

 リナと出合い過ごすことで、自分以外の思考も考慮しなければいけないと身に染みているフェイは、とりあえず今のやりとりは水に流してあげることにした。


「さっすが! じゃ、と言うわけで、一緒に依頼しよーよ。あと3人一緒なんだけど」

「ん、構わんよ」


 と言うわけで、と言いながらちらっと左方へ視線をやって自分の連れを示すベアトリスに、フェイもそちらへ目をやりながら同意した。

 わざわざ声をかけてこうして進路妨害までしているので、そう提案されることは想定内だ。








 ベアトリスの本日のパーティは、兄のガブリエルとその相棒のカルロス、そしてベアトリスの友人であるアンジェリーナだ。アンジェリーナももちろん猫耳だ。


「あのさぁ、いくら子供って言っても、じろじろ見すぎ。失礼でしょ」


 アンジェリーナはベルカ人には珍しく、尻尾が短いタイプだった。可愛い。だけどじろじろ見ていると嫌がられたお尻を見られているようなものなので当然だが。


「む。すまぬ。つい、触ってはいかんか?」

「駄目に決まってるでしょ! ちょっとベアトリス、一緒に依頼しなきゃダメなわけ?」

「まぁまぁ、可愛い子なんだからいいじゃん。有能だし。フェイも、アンジェリーナが嫌がってるんだからやめてね?」

「むう。わかった。不愉快にさせたなら謝る。すまんな。もう言わんから許してくれ」


 思わず口に出してしまったが、親しくないのに尻尾を触るのは失礼なことだとわかっているので、フェイは素直に頭をさげる。

 その態度にアンジェリーナはふんっと鼻をならして半目になって腕を組む。


「いいけどさぁ、おっさんでもおんなじことしてくるやついるし、そこまで怒ってないけどさぁ、でもなんか上から目線の言い方じゃない? むかつく」

「む、むう。わしとしては、普通に謝ってるつもりなんじゃが」

「てか、話し方変だし」

「それはわしの勝手じゃろ」

「アンジェリーナ、そんなに突っかかんなくてもいーじゃん。子供だよ? てか、普通におんなじベルカ人でも珍しいし、子供の時よく触らせてって言われてたじゃん。そんな怒ること?」

「それがマジトラウマだから、子供に言われるのが一番嫌なのよ」


 だから最初にガツンと断らないと、と断固触らせない立場をとるアンジェリーナ。珍しい尻尾だけあって、ベルカ人マニアのよその人間だけではなくて普通のベルカ人にすら見られることのあるアンジェリーナ。さすがにベルカ人が言い出すことはないが、見てくる人間の中で触らせてと言ってくるものもいなくはない。

 なので普段なら絶対嫌だけで済ませているが、相手が子供の場合は勝手に触ろうとすることもある。きつく言って嫌われるくらいがちょうどいい。


 子供のころ、同じく子供であった近所の猫耳たち。彼らは嫌がるアンジェリーナの泣き声もなんのその、無理矢理尻尾を触りまくった。それから子供に対しては警戒心過剰気味なアンジェリーナだった。

 ちなみに触りまくった代表格がベアトリスだったりする。


「いい? 絶対勝手に触らないでよ。あなた、えっと、エメリナ?も、目を光らせてよね」

「わかったわ。フェイ、いいわね?」

「うむ。わかっておる。嫌がるおなごに無体をするつもりはない。安心せよ」

「ならいいけど」


 アンジェリーナとの出合いはまずまずの悪さだったが、とにかく本日のお仕事開始である。









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