111 アーロンの依頼の終わり
誕生日会翌日にはフェイとリナは依頼へ出掛けた。少しばかりお金をつかったので、しっかりお仕事をすることにした。どうもフェイは黄金猫にはすかれやすいようで、捕まえた後の確保が楽だった。
あとは怒り犀だ。依頼を受ける際には少々もめたが、二人がかりなら大丈夫とフェイを説得した。
幸い想定外なことは起こらず、無事にその日を終えられたのはいいが、帰ってきた二人をアーロンが待ち構えていた。ストーカーか。
警戒してフェイの前に立つリナだが、それに対してアーロンの方が怒り顔でフェイは首をかしげた。
「アーロン、どうしたんじゃ?」
「どうしたもこうしたもないよ。何も言わずに来ないし、宿にいって不審がられるし、何とか依頼に行ったって聞いたから待ってたんだよ」
「む? あれ? わし、前回で仕事やめるって言っておらんかったっけ?」
「え、ええ!? 聞いてないよ!?」
きょとんとするフェイに、眉を逆立てていたのから一転してアーロンは情けないくらいに肩を落とし、わたわたと両手を上下させてフェイに近寄る。
そんなアーロンに対してリナはフェイを背中にかばいつつも、首だけフェイに向けた。
「と言うかフェイ、アーロンの仕事やめる話したのって、昨日じゃない」
「おお、そうじゃったか。すまんの、アーロン。つい、浮かれて忘れておった。すまんのう」
「い、いやいやいや、いいんだよ」
「まぁ、私もすっかり忘れていて、すみません」
ととりあえず謝るリナだが、それは正しくない。実際には教会についた時点で、あ、そう言えばアーロンに何も説明してないんじゃない?と思い出したのだが、めんどくさいしいいかとスルーしたのだ。
ぶっちゃけリナとしては、あんまりアーロンの印象はよくないし、むしろこれで怒って嫌われて距離ができた方がすんなり二人だけの依頼に戻れるし嬉しい。
「いやいや、全然全然」
だがアーロンはへらりと笑って手をふって否定した。リナの思惑に気づいている訳ではないが、フェイの気まぐれっぷりには気づいているので下手に出ているのだ。
「たまには体を動かしたくなることもあるよ、うん。やっぱり毎日って言うのは無理だよね。講義の日を減らそうか。とりあえず次はあさ、明明後日にしようか」
そうしてとりあえず完全に止めさせるのだけでも止めさせようと、次の予定を決めようとする。
そんな端からどう見ても必死に繋ぎ止めようとするアーロンに、さりとてフェイはひくこともなく首を横にふった。
「いや、元々リナの怪我が直るまでじゃったしの。言わんかったのはもちろんわしが悪かったが、もうやめてもいいじゃろ」
「いや、いやいや。ほら、結局さ、魔道具造りで結構時間つかったしさ。せめてその分!」
「とは言ってものぅ」
別にフェイはアーロンを嫌いではない。何だかんだいいやつだと思っている。ただ、講義するのに飽きた。それに講義だって基本的なことを教えた。これ以上は実際に魔法をやってならっていくものだ。元々アーロンは魔法使いなのだから、後は自分でやればいい話だ。
そうフェイは説明したが、アーロンは全く納得できない。そりゃそうだ。まず魔力を出して操作して魔法陣を描く、の段階でできない。だからもっと教えてもらわないと。
だがフェイからすれば、それができないとか教えようがないわーって感じなのだが。魔法陣を教えてほしいとかならともかく、魔法の使い方そのものは感覚なのだから、口だけでは教えるのは難しい。しかもアーロンは具体的に何を教えてくれではなく、すごく大雑把に教えろと言ってくるので、どう教えればいいのかわからない。
別にフェイは教師になるための訓練も想定もしていないのだから、もうぶっちゃけめんどくさい。子供相手なら弟子として時間をかけて根気強く育てるのもいつかはありだろうが、おっさんだし。
そんなあからさまに面倒そうなフェイに、アーロンは焦った。
それなりに良好な関係を築けていたと思っていたので油断していた。これはもう形振りかまっていられない。とにかく少しでもフェイの魔法を調べて王都へ報告しよう。
宮廷魔法師にそれほど興味を持っていないようだが、なぁに、なればフェイの実力ならすぐに出世するし、そうなれば感謝されること間違いない。紹介したアーロンも都合をつけてもらえるだろうし、フェイも安定した職を得てWinWinだ。
とアーロンは脳内宮廷魔法師畑な脳みそで考えて、とりあえず講義は諦めて関係を継続させることだけを目的として話を持っていくことにした。
「わ、わかった。講義は諦めるよ。でも、依頼とか一緒にしないかい? ほら、一緒につくった魔法具の効果も気になるしさ」
「ふむ、まあ、別に一緒にするくらいはかまわんが」
構わないのだが、一緒につくったことになるのだろうか。確かにアドバイスはもらったし、特にデザインには大きく貢献してもらったが、自分で魔法陣を刻んで自分で組み立てたのだから、基本的にフェイ作だと思っている。
と言うか、充填型魔法具も知らなかった癖にどうしてそうも大きな顔ができるのか。作っている間も合間合間にたくさん質問されたので、ちゃんと色々教えてたし。
そうして不満丸出しの顔をするフェイに、アーロンだけではなくリナももちろん、あ、これはアーロンと依頼も一緒にしたくないんだなと察した。
なのでアーロンにドン引きだったリナもフェイに声をかける。
「フェイ、別に無理しなくてもいいのよ?」
「いや、人数がいる分には構わんじゃろ」
二人でも困ったことはないが、それでも人手があればその分効率的だ。解体作業をリナだけにやらせるよりはアーロンでもいないよりマシだ。
それに魔法を教えること自体は嫌ではない。素人に毛が生えた程度のアーロンでも、何も知らないより話の通りもいいし、教えるのは楽だ。
毎日は飽きるが、依頼をしながら話すくらいなら構わない。フェイとしても、一度受けた以上できるだけ相手をしてあげようと言う気持ちはある。
そんなフェイの態度に、リナはあれと首をかしげつつも、まあ、嫌じゃないならいいか。と頷いた。
今までもそうだったが、適当に冒険者同士で臨時パーティーを組むのはよくあることだ。固定パーティーにいれろと言う話ではないのだし、フェイがオーケーなら反対するほどのことでもない。あまり気は進まないが。
「そう? じゃあ、アーロンさん、依頼を一緒にするのはいいですけど、魔法以外には何が得意なんですか?」
「え? 魔法以外?」
「はい。魔法はフェイがやりますので。得意ってほどじゃなくても、こう言うのができるとか、普段の依頼をするパーティーではこう言う役回りとか、あります?」
依頼を元にパーティーを組むこともあるが、今回はパーティーを決めてから依頼を受ける。明日からの話ではあるが、朝からぐだぐたするより依頼の方向性くらい決めておいた方がいいだろう。
例えば足が早いのが自慢なら群れを狙いたいし、力持ちなら荷物持ちとして期待して重量のあるものを選んでもいい。フェイの魔法で多少強化するとしても、元々得意な方がよりよい。
「えっと……明日までの課題にしても、いいかな?」
「え、まぁ、いいですけど」
いいけど、いきなり幸先が不安になる返答だと、リナは少し呆れた。
○
「ビクトール!」
フェイたちと別れて家に帰ったアーロンは玄関を開けるなり、同居人であるビクトールを呼んだ。
すぐ近くの居間にいたビクトールははいと返事をして、エプロンを外してから顔を見せた。
「お帰りなさい、アーロンさん。どうしましたか。元気ですね」
「元気じゃないよっ。困ったことになったんだ」
「そうですか。とりあえずお茶をいれますから、あがってください」
「ああ」
居間にはいり、いつも座る席につくとほぼそれと同時にお茶がいれられた。昔はお茶もろくにいれられなかったのに、今では一人前の従者のようだ。
ビクトールは自分の分もお茶をいれて、向かい合うように座った。
「で、どうしました? フェイを迎えにいったにしても、ずいぶん遅かったですね」
アーロンが家を出たのは午前中のことだ。夕方過ぎの今では時間がかかりすぎだし、何よりフェイがいない。
見捨てられたのかな、とビクトールは思いながら尋ねた。暑苦しいおっさんと二人きりで、しかも鼻息荒く魔法魔法とねだられるなんて苦行以外の何物でもない。自分ならすぐに嫌になるのに、もったほうだろう。
ビクトールはアーロンのことを理解しているし、尊敬もしているが、いい加減魔法師を諦めたんだから髪くらい切れよといつも思っていて、内心結構ボロクソだった。
「ああ、エメリナ君の怪我が治ったから、講義は終わりになったんだ」
しょんぼりと肩を落とすアーロン。それを冷ややかに見ながらビクトールは慰めの言葉をしぼりだす。
「仕方ないですよ。誰だって、おっさんより若い女の子をとりますよ」
「おい。そう言う問題じゃない。と言うかそう言う言い方をするな。まるで僕がふられたみたいじゃないか」
「そんな、誰もアーロンさんがお稚児趣味なんて言ってませんよ」
「そんな風に思ってたのか!? 僕はただ、純粋に彼の魔法の素晴らしさに惚れ込んでいるだけだぞ!?」
「わかってますよ」
もちろん冗談だ。逆にそうだったら怖い。命の恩人だからこうして奉公しているが、いくら自分が対象外でも性犯罪者についていく気はない。
「それに、全くダメになったわけじゃないっ。依頼を一緒にすることになった」
「よかったじゃないですか。なら雑談がわりに教えてもらえますし」
「ああ、僕もそう思う。だけどそれが困ってるんだ」
「どうしてですか?」
今度は本当にわからない。魔法師であるアーロンは依頼においては割りと人気があり、みな組みたがる。実際依頼において群れを相手にする魔法師は有効で、稼ぎやすい。
「僕よりフェイ君の方が魔法ができるから、魔法以外で戦力が求められている」
「あ、無理ですね」
それは仕方ない。アーロンが惚れ込むくらいだから、よほどフェイの実力はすごいのだろう。なら魔法以外役に立たないひょろロン毛では、身の置き場もないだろう。
「だから困ってるんだ。……そこで相談なんだが、一緒に依頼をしないか?」
「別にいいですけど、アーロンさんだけいらないとかなっても、自分で何とかしてくださいよ」
「うっ、だ、大丈夫だ! ……多分」
ビクトールはそれなりに腕利きだ。元々王都の軍属兵士で、そこそこの腕前だった。怪我をしてから、あまり走れなくなってしまったが、それでもそれなりに冒険者としてやっていける程度には問題ない。そんなビクトールを出すことで、依頼を一緒にする価値があると思わせたいのだろう。
それならそれで構わないが、ビクトールは二人の実力は全く知らない。そんなにうまくいけばいいが。
アーロンは魔法研究で頭を使いすぎて魔法馬鹿だからなぁと、内心呆れつつも、とりあえずビクトールは久しぶりの冒険者稼業のため、剣でも磨いておこうとお茶を飲みきって立ち上がった。
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