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【電書化】婚約破棄されたけど、追放された先の国の年下王太子に気に入られています【コミカライズ】   作者: 沢野いずみ
本編

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33:リオンの告白



「俺はシャーロットが好きなんだ」

「……え?」


 想像もしていなかった言葉にシャーロットは固まった。

 今、リオンは、なんと言ったか。

 理解が追い付いていないシャーロットに、リオンは再び口を開いた。


「シャーロットが好きなんだ」


 聞き間違いではない。

 二回も繰り返されればさすがに受け入れないわけにはいかない。

 リオンは今、シャーロットに告白している。


「ど、どうして……」

「好きになるのに理由が必要か?」


 そうではない。が、シャーロットにはリオンがなぜ自分を好きになったのかわからなかった。

 言っては悪いがシャーロットはリオンにズケズケと物を申したし、何ならかなり失礼な態度もしていた。仲良くなってからも、それは変わっていない。異性として好かれる要素が自分ではわからない。

 何も言わないシャーロットに、リオンはため息を吐いた。


「必要なら教えてやる」


 リオンがテーブルを指でタンッと叩いた。


「初めから可愛らしい女の子がいるなと思った。艶のある茶髪をたなびかせて、水色の目をキラキラさせながら挨拶されて、ドキドキしてた」

「え? まさかあの初めてあったときの話をしてる?」


 初めてリオンと会ったとき。挨拶されたときはとても好印象だった。

 その後他の子供の弱みを握り暴君になっていた姿を見て一気に評価は下がった。

 それにその後、温室でもシャーロットに無礼だった。


「とても嫌な態度されたけど」

「そ、それはっ……素直になれなかっただけだ!」


 素直になれなくて無礼になるとはどういうことだ。いくら常識のない生意気王子だったころのこととはいえ、照れ隠しというにはほどがある。


「散々悪態を吐かれたけど」

「だから、それは……! しょうがないだろう、好意の伝え方なんかわからなかったんだよ!」


 昔のリオンは、まるで暴君だった。人との接し方も、まったくわかっていない子供だった。


「初めはかわいいなと見た目が好きになったけど、遊び相手として接してくれるうちに、内面も好きになった。シャーロットはいつだって真摯に向き合ってくれたから」


 リオンには、ただ自分に従う人間か、自分をうまく利用しようとする人間ばかりが寄って来ていた。誰もリオン本人を見てはくれていない。

 しかし、シャーロットははっきりと、リオンをおかしいと言った。どうするべきか教えて、リオンを見捨てなかった。


 真剣なリオンの瞳から目が逸らせない。


 このときになって、初めてシャーロットは、自分が自ら恋愛事を遠ざけていたことに気付いた。

 婚約破棄されてから、そういったことが苦手になった。無意識に、自分が誰かと恋愛することなどないと、思いながら過ごし、考えないようにしていた。


 今まで考えなかったことを急に意識するということに、シャーロットは困惑した。

 そしてなによりシャーロットはリオンを男として見たことがない。


「リオン、嬉しいけれど、私、あなたのこと弟のようにしか考えたことなくて」


 シャーロットがリオンをなるべく傷つけないように言葉を探しながら告げる。


「知ってる」


 シャーロットの言葉に、リオンは返した。


「そんなの、もうずっと前から知ってる」


 寂しそうな、切なそうな、そんな表情で笑って。


 そしてそのまま部屋から出ていった。

 シャーロットはその後ろ姿を見ながら、リオンを引き留めることができなかった。

 自分が引き留めて何を言いたいのかもわからなかった。




◇◇◇




「んまぁ、お嬢様! なんですそんな朝から腐って!」


 シャッとカーテンを開けられて、シャーロットは眩しさに目を顰めた。


「うぅ……眠い……」

「ダメですよ、朝です、さあしっかり目を開けて」

「アンナ、もう少しだけ……」

「だーめーでーすーよー!」


 アンナはシャーロットが被っていた毛布をはぎ取った。


「寒いー!」

「さあ起きた起きた!」

「昨日あんまり眠れなかったのよ……もう少しだけ」

「ダメです。朝食に遅れます!」


 アンナは容赦なかった。

 シャーロットは眠い目を擦り、渋々起き上がった。


「お嬢様がこんなに寝起きが悪いだなんて珍しいですね」


 そう、普段のシャーロットは朝に強い。

 しかし、昨日のリオンからの告白で、あれこれ考えてしまってよく眠れなかったのだ。

 おかげで完全に寝不足である。眠い。


「私にもいろいろあるのよ、アンナ」

「まあお嬢様! もしやハロルド様のことで?」


 アンナにハロルドの名を出されて、シャーロットは目を瞬いた。


「え?」

「だって、昨日プロポーズされたんですわよね? それで寝不足だなんて……お嬢様も恋に悩むお年になったのですねえ。アンナは少し寂しいです」


 アンナがハンカチで目を押さえた。

 しかし、シャーロットは愕然としていた。


 ――私、ハロルドのことまったく考えてなかった。


 シャーロットが眠れず悩んでいたのはリオンのことだ。


「私、ハロルドにもしかして真剣に向き合えていないんじゃ……!?」


 衝撃の事実である。

 我ながら、なんと失礼な女であろうか。ハロルドは公衆の面前でプロポーズまでしてくれたというのに、これではあんまりだ。


「もっとハロルドのことを真剣に考えないと……」

「お嬢様、髪を梳かすので前を向いてください」

「あ、はい」




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