12:苦労性のお父様
「シャーロットォ!! お父さんの寿命縮むからぁ!」
パーティーが終わり、招待客を見送ってすぐに、父はシャーロットに半泣きになりながら抱き着いてきた。
「ごめんなさい、お父様」
父に悪いことをしたと思い、シャーロットは正直に謝った。娘が目の前で王族に対して間違っていると言い始め、さぞ肝が冷えたに違いない。
ただでさえ平和主義の父なのだ。だからこそ、前回の婚約も押し切られたのだから。
「でも私、本当のことを言っただけです」
しかし、シャーロットが謝ったのは父をヒヤヒヤさせたことについてであり、自身の発言が悪いとはまるっきり思っていなかった。
「シャーロットォ! そうだとしても、それを口に出さないほうがいいこともあるんだよぉ!」
まったく反省していないシャーロットを父が窘める。
しかし、その言葉からして、父もシャーロットと同じ考えであることが伺えた。
「たとえ、すんごいボンクラになりそうな子供が王太子でこの国終わったなと思っても! それを口にしてはいけないんだよお!」
「お父様」
「親バカとかのレベルじゃなくて、これに危機感持ってないだなんてガチの馬鹿だなとか思っても言わないんだよお!」
「お父様」
シャーロットはそこまで言っていない。辛辣すぎる。
興奮している父の言葉を遮ってシャーロットは話しかける。
「私、言いたいことを言わなすぎるのってよくないなと学んだのです」
そう、シャーロットは後悔していた。
元婚約者にもっと昔から「あなた馬鹿だからどうにかしたほうがいい」「女の趣味が悪い」「王位についたらすぐ下剋上されるタイプ」となぜはっきり言わなかったのか。
あんな男に少しでも気を使ってしまったのがもったいなかった。自分の貴重な時間を使ってしまって損をした気分だ。
「我慢だけではなにも生まないということを、私は痛感しました」
本当に、我慢しないでボコボコにしなかったことが悔やまれる。せっかく王家から護身術を学んでいたというのに。元婚約者を始末するために使うべき技術だったのに。
「そうだとしても、ほら、時と場合と、一番は人によるだろう? そういうのは」
父の言いたいことはわかる。王族には我慢したほうがいいと言うのだろう。たとえ相手がどうであれ、王族は王族だ。しかし。
「あと単純にすごく腹が立ちました。親の尻拭いを初対面の小娘にさせようとする魂胆が」
シャーロットは王妃と、ましてや王太子であるリオンとも初対面である。
大事なことだから二度言うが、初対面である。
今日初めて会った人間に、息子の更生を頼むなど、どうかしている。
それに、最初にお願いされたとき、自分からのお願いを断るはずがないという確信を持っているのが感じ取れた。
すごく腹立たしかった。すごく。
頭の中どうなってるのかと耳元で大きな声で訊ねたかったぐらいだ。
「王族ってみんなこんな自分本位なのかと思ってがっかりしましたよ。まあ、その後私の言葉で気付いてくれたようだから、まだいいほうの王妃様なんでしょうけれど」
人の上に立てば自ずと傲慢にもなるものである。あるが、その傲慢さを発揮された対象は堪ったものではない。
シャーロットのズケズケした物言いに、父は周りをキョロキョロ見回した。
「シャーロット! 人に聞かれたら大変だぞっ」
「もうみんな帰りましたから大丈夫ですよ」
父が焦っているが、シャーロットは気にしない。聞かれたら聞かれたである。
「もし住みにくくなったらまた国を出ればいいだけじゃないですか」
オルドン家の事業は薬の開発と販売だ。それはどの国でも受け入れられる、重要な事業だ。だからどの国でも歓迎される。
もしこの国で何かあっても、他に移ればいいだけで問題ないのだ。まだこの国に来て日も浅い。執着はあまりない。少なくともシャーロットは。
しかし、父の反応を見るに、そう思っているのはシャーロットだけのようだ。
「そうだけど……でも爵位ももらったし、親戚に恩もあるし……」
「そうですね。だから王太子殿下の遊び相手の件、引き受けたのです」
本当なら断りたかった。全力で断ろうと思ったけど、王妃の必死な様子と、プルプルしている小心者な父親を見て、仕方なく引き受けた。繊細な父が倒れたら困る。
「……私はこの国で暮らせなくてもいいんですけど、お父様たちはそうじゃないみたいなので、頑張ってやってみますよ」
「シャーロットォ! ありがとぉ!」
鼻水を垂らしながらシャーロットに泣きながら礼を言う父に、シャーロットはちょっと引いた。




