ハイスピード・ショウダウン
カイトは、加速状態のままバック転を成功させた。彼のいた場所に、単分子ソードが振り抜かれていく。アクロバットを決めなければ、暴乱細胞製スーツと言えど無事では済まなかった。
場所は、大型戦車タヂカラオの上。周囲には、特殊部隊の車両があり、砲撃戦の真っただ中。キングソード隊の車両も攻防の最中であり、とこもかしこも砲火が放たれている。
何故こんな事になったのか。事は数分前にさかのぼる。グロリア大尉率いる部隊は、砲撃しながら敵車列の最後尾に到達。そのまま内部に突入した。そこまではいたって好調だった。
速度、火力、防御力。全てキングソード隊が上回っていた。そして内部に入り込んだことにより、敵の砲撃が限定的になった。さしもの敵部隊も、仲間ごと撃つという愚行は選択できなかった。
撃てば当たる。当たれば吹き飛ぶ。数の差が、逆に有利に働いていた。このままいけば、敵を撃滅できる。あいては散開するぐらいしか、打つ手はないのではないか。カイトはそう思った。その予測は見事に外れた。
特殊部隊は思いもよらぬ方法で反撃に出たのだ。敵兵士が車両から飛び出て、その上に飛び上がった。そして加速システムを起動すると、その上を飛び跳ねてこちらに乗り込んできたのだ。
慌ててカイトは対歩兵用の武装を準備しようとした。しかし、それよりも早く仲間が動いた。兵員輸送車の扉が開くと、なんと相手と同じように兵士が飛び出てきたではないか。
あれよあれよという間に始まる、走る車列の上での格闘戦。一瞬のうちに複数の戦闘が同時に成される。目にもとまらぬ、影と影の戦い。こうなってしまうと、迂闊に敵車両を破壊することもできない。仲間がそちらに向かっていないタイミングを見計らって砲撃をしなくてはいけない。
当然、カイトも思考加速を起動する。二つの光源水晶と、体内にある暴乱細胞がそれをサポートする。常人よりも負荷をさげて、高速の思考と行動を可能にする。
初めのうちは、仲間の行動をサポートするつもりだった。それもすぐに無理だと分からされた。キングソード隊の戦いはただ凄まじいの一言に尽きた。不安定な足元、変化する戦場、加速状態の負荷。これらの悪環境の中で、確実に勝利を積み重ねていく。
すれ違った相手を蹴り飛ばす。自ら車両に飛び込んで、敵を地面に投げ落とす。銃、ナイフ、拳を駆使して敵を追い込む。砲撃を誘って、同士討ちをさせる。そんな状況が四方八方で同時に起きる。邪魔をしないようにするだけで精一杯。フォローなど、身の程知らずの戯言だった。
現状維持が正しいか、と思ったがそれもすぐに覆された。敵兵がタヂカラオに取り付き始めたのだ。仲間が負けたとかそういう話ではない。単純に相手の方が数が多いのだ。いかに彼らが手練れでも、処理能力には限界がある。
今度こそ、と対歩兵装備を車体の各所に設置して迎撃する。まき散らされるレーザー。車体各所から生えるニードル。振り回されるアーム。序盤はこれで何とかなった。だがほどなくして新しい問題が発生した。
暴乱細胞の欠点。エネルギー問題である。それでなくても、ここまでの戦闘でそれなりに消費していた。光源水晶の生産力は十分高い。しかし戦車形態の消費力もまた高い。これに被弾と迎撃の消費が加われば、コンデンサーの中身は空に向かって一直線。
事ここに至っては、呑気に戦車の中にいるわけにはいかなかった。かくしてカイトも己の車両を守るため、高速戦闘の舞台にエントリーすることになった。
(今のは、あぶなかった!)
バック転を終えて、着地する。目の前の敵は健在。剣を構えてカイトの出方をうかがっている。カイトの手にはハンドガンとナイフ。両方とも、カメリアの企業が作った品だ。
ハンドガンの弾は、対シールド対応。当たれば大きく減衰させる。もちろん殺傷力もある。ナイフに至っては、対単分子武装コーティングが施されている。分子構造の隙間に入られぬよう、上から隙間なく専用溶液が塗布されている。
これはそれほど珍しくない技術だ。ダルザンガでも専門店で頼めば施してもらえる。欠点はコーティングそのものが決して頑丈でないこと。スーツや装甲などに使用してもあっという間にダメになる。
それでも、こういう状況で盾として使う分は持ってくれる。それに、単分子装備にも弱点がある。構造上、薄くしなくてはいけないため脆いのだ。コーティングされた武装とぶつかれば、あっさり欠ける。または折れる。
相手もそれを理解している。刃と刃の凌ぎ合いになる……普通であれば。タヂカラオの操作は、現状のカイトでも問題なくできるのだ。
とりあえずとばかりに、急ブレーキを踏んでみる。カイトは問題ない。暴乱細胞製の車体とスーツを繋げれば、振り落とされたりはしない。しかし相手はたたらを踏むことになる。それでなくても加速状態。わずかな動きがどうしようもない隙になる。
ハンドガンを二連射。突き進む弾丸も、飛び出す薬きょうも視認できる。自らに向かってくるそれを相手も視認したのか、踏ん張る体制から飛び上がり身体をひねって避けようとする。
足が車体から離れた。カイトの行動は一つだった。戦車を再加速、さらに履帯の動きも変えて大きく曲がる。わずかではあるが浮いてしまっている敵にはそれに対応できない。何とか手を伸ばすが、掴めるところもない。
それでも、相手はあきらめなかった。手首に仕込まれたワイヤーフックが起動する。車体のどこかに引っかかれば、復帰ができる。カイトが見ていなければ、それもできただろう。
あわてず騒がず、ハンドガンで射撃。小さな的だったが、スーツのサポートがあれば当てるのは難しくなかった。頼みの綱は、銃弾によって千切られた。
戦車が敵を置き去りにする。高レベルのスーツを着ているから、落下しても死ぬことはないだろう。しかし、戦線復帰は絶望的だ。対処完了、としていいだろう。
(ありがとう、ハリウッド!)
地球にいた頃見ていたアクション映画。こういったシーンがそこそこあった。カイトが相手を振り落とすことをすぐに思いついたのは、そういった娯楽映像のおかげだった。
(でも、敵はまだいる)
センサーが、新たな来訪者を感知していた。今度は三人。まともに応戦しては、勝てるかどうかも怪しい。装備の差があっても、相手はプロフェッショナルでカイトは未だ訓練兵だ。
それの差は、足場を自由にコントロールできるというアドバンテージで埋めるしかない。エネルギー消費を抑えるために出てきたのに、それは今の所かなっていない。これらへの対処に、さらに残量は減っていく事だろう。
もう一度急ブレーキをかけるか。そう考えたが、丁度見えたそれを見て考えを改める。代わりに敵が車体に着地した瞬間、足元の細胞の硬度を下げた。
金属のように見えるそれが、いきなり黒い泥に変化してさしもの特殊部隊も対応しきれない。加えて、拘束の為に再び硬くなっていくのだから相手としたら恐怖だろう。そしてそれだけでは終わらない。
三名の背面が、激しく輝く。彼らのシールドをほぼ消滅させたのは、レーザー射撃。キングソード隊の隊員が、飛び乗った三名を撃ち抜いてくれたのだ。
皆がパワードスーツに身を包んでいる為、外見では判別できない。アイコン表示を見れば、マルビナ中尉だったと分かった。
感謝しつつ、車体のアームを動かす。拘束し、シールドも消えているのであれば対処は楽だった。掴んで、遠く放り捨てればお終い。周囲に敵影が無いのを確認して、加速状態を解いた。
思考と行動の高速化に疲労を覚える。しかしまだ、倒れるほどではない。暴乱細胞が働きだし、身体のケアを始めていく。
油断ならぬ状況が続いていた。しかし、絶対的なピンチというわけでもなかった。タヂカラオの周囲であれば、カイトも有利に戦える。キングソード隊は持てる力を発揮し、敵部隊を撃破していく。
そして相手側にとって唯一の利点である数の力は発揮できない状態にある。下手に散開すれば、各個撃破される。そもそもカイトたちの方が速度が速い為、包囲も難しいのだ。自ら集団の内部に飛び込んできた現状の方が、まだ戦い様があった。上手くいってはいなかったが。
連携、装備、作戦目的。状況はカイトたちに傾いていた。苦戦はするが、勝利が見えぬという状態ではない。このまま進めば、勝てるだろう。そのような流れだった。
だからこそだろうか、この事故が起きたのは。浮遊戦車の砲撃で、敵車両が吹き飛んだ。その衝撃で、装填されていた砲弾が発射された。狙いも何もない、ただの事故。その砲弾は地面に当たり、角度が浅かったため跳ね飛んだ。そして運悪く、タヂカラオの隣を走っていた敵車両の底を抜いた。
戦闘車両は、基本的に底部分の守りが薄い。取捨選択の結果である。攻撃を受けるのは底以外の方が多い。そちらの装甲を分厚くするのは当然である。地面にぶつかった結果、元の威力から幾分弱くなったとはいえ砲弾だ。戦闘車両を破壊するには十分だった。
砲弾は内部を暴れ回った。乗員はもとより、電装系、燃料系、搭載されていた弾薬。何もかも混ぜ込んでしまった。着弾、着火、爆発。その流れは瞬く間に行われた。
出鱈目に飛んでいく砲弾。まき散らされる破片。そしてその中でも飛び切り大きな装甲板が、タヂカラオを強かに叩いた。
「う、おぉ!?」
予想できなかった事態に、カイトも慌てる。それに付け込まれた、というわけではない。事故と攻撃がちょうど重なっただけ。やや強弁になるが、これも事故の一部と言えなくもない。あるいは相手がチャンスをものにしたか。
衝撃に揺れていたタヂカラオに、状況をうかがっていた敵車両の砲撃が突き刺さった。装甲板の衝突によってシールドが減衰していたのが良くなかった。ダメージに抗おうと、内部エネルギーが一気に消費された。
シールドダウン。状態維持が困難になり、黒い戦車は空気の抜けた風船のようにしぼんでいく。残されるのは上に載っていたカイトと辛うじて戦車の形を保った黒い塊。車列からも離される。
「ヒルコォォォ!」
カイトは叫びながら塊の中に飛び込んだ。それに反応して、暴乱細胞は大きく丸いボールとなる。回転して移動すると、その場に砲弾が連続して突き刺さった。このチャンスを放置する特殊部隊ではなかった。
最後尾どころか車列を崩してまで、カイトへ攻撃を加えていく。キングソード隊もそれをさせまいと戦っているが、いかんせん数が足りていない。それどころか一部が足止めとして残り、カイト襲撃を専門にするものと別れようとしている。
カイトは必死で黒ボールを回転させる。現状、シールド発生装置を作れるほどのエネルギーはない。暴乱細胞は壊れないが、一定以上の熱や衝撃を受けると機能を停止してしまう。そうなってしまえばただのお荷物でしかない。
バージすることはできない。これはアキラから預かった大事な貴重品だ。仮に敵側に渡ってしまったらきっと酷い事になる。カイトのその考えは大雑把だが的を射ていた。
仮にこれをザムザム製薬が手に入れた場合、確実に内乱が起きる。国内の有力企業による奪い合い。そして時間を置けば、これが国外にまで波及する。周囲の大国がレリックを求めて戦端を開く。命を失うヒトの数は、軍人だけでも1000万では利かないだろう。
己が大戦争の引き金に手をかけているとも知らず、必死で転げまわる。こんな事もあろうかと、ヒルコ状態での逃走シミュレーションは経験していた。なんとかセンサーを起動させて、必要なものを探し出す。
「あった! 水路の跡!」
何もない荒野であっても雨は降る。平坦ではないから、流れが生まれる。そういった凹みを利用すれば、わずかでも時間が稼げる。最高は地下に潜り込む事だが、流石にそこまでは望めない。
砲弾を受けて地面が吹き飛ぶ。弾けた岩が黒スライムを叩く。今は何の防御力も持ち合わせていない。衝撃はカイトにも届く。パワードスーツ・スサノオを纏っているおかげで、怪我はしなかった。この時は。
状況はさらに悪化する。車両部隊が、半包囲を始める。ミサイル、レーザー、レールガン。多種多様な攻撃が向けられ、いくつかは直撃する。機能停止していく細胞の割合が増えていく。当然、お荷物を抱えるので移動速度も低下する。カイトにも、徐々に衝撃が届き始める。
「負けて……たまるか。諦めて、たまるか」
一発一発の衝撃が、スレッジハンマーで殴りつけられたのように体に響く。反吐を吐く。眩暈がする。骨や内臓にダメージが入る。しかしカイトは移動を止めない。この程度の不調は経験済みだ。脳が潰れるまで、諦めることはない。
水路跡の隙間に飛び込んだところで、限界が来た。機能停止した暴乱細胞が半分を超えた。これ以上の移動は至難だった。それでもカイトは、光源水晶に移動を命じる。加えて、救難信号も発する。
相手にもバレるが致し方がない。隠れたのは見られているだろう。なら、毒を食らわば皿までだと腹をくくった。
何度か、近くの地面を削る音と衝撃が届いた。しかしそこで終わった。おそらくセンサーで、カイトが停止したのを確認したのだろう。今、生産されているエネルギーはカイトの生命維持に全て使用されている。センサー類を誤魔化すこともできない。こちらが瀕死なのを検知したのだ。
タイヤやキャタピラの音が近くまで寄せてきて、止まる。複数の足音が聞こえている。わずかな金属音は、銃器によるもの。
果たして、命乞いは通じるだろうか。協定を交わしていないので、殺害を含めた捕虜虐待も十分ありうる。相手を殺しているのだから、報復されるのはしょうがない。
カイトはアキラを思った。もし自分が殺されたら、彼女はどう思うだろうか。多分、怒るだろう。それはありがたいが、その後が問題だ。果たして彼女の怒りと報復は、いち企業いち部隊で収まってくれるだろうか。
仮に収まらなかったら、誰がなだめてくれるのだろうか。カメリアはだめだ。主に押されたら弱い。フィオレ姫も難しい。粘ってくれるかもしれないが、勢いに押し負けそう。そうなったらもう、スイランさんしか……。
『それは恐ろしいので、できれば御免被りたいな』
久方ぶりの感覚が、カイトの意識に届いた。それに対して、カイトは挨拶もなくただ一言返す。
『助けて』
『応』
カイトが逃げ込んだ水路跡を、敵兵が取り囲んでいた。数十人が、銃を構えている。隊長の号令があれば、総攻撃をかける。そんなタイミングだった。一人のバイタルサインが、レッドシグナルを発した。その場所を見やれば、奇妙な光景が広がっていた。
兵士の身体を一本の鉄棒、金属槍が上から下へと貫いていた。パワードスーツを貫き、肺と内臓をやられている。誰が見ても致命傷だった。その槍は長く、上に一人の女が艶めかしく絡みついていた。
薄型のボディスーツであるがゆえ、その豊満な体形が惜しげもなくさらされている。しなやかに鍛えられた、美術品のような身体。多くの男を視線を釘付けにするそれは次の瞬間、爆発した。
『殺』
それは、殺意だった。害意の念話が、その場にいた兵士全員へ叩き付けらた。様々な訓練を受けている特殊部隊といえども、こればかりは初の事態。動きが止まってしまう。
意図してそれを成した女戦士、スイランがその隙を見逃すはずもない。棒から滑り降りつつ、死体から得物を引っこ抜く。そして体のバネを最大限使用し、天を突いていた槍をまっすぐ振り下ろした。
技術レベル4のシールドとパワードスーツ。その二つの守りを、槍の振り下ろしは難なく突破した。頭部を打ち据えられた兵士は、糸の切れた人形のように倒れた。そして、攻撃はそれで終わらなかった。
振る、突く、薙ぎ払う。一動一殺。スイランが舞えば兵士が死んだ。金属槍に高性能な対シールド装備を仕込んであるとはいえ、それだけでは説明できない戦果だ。
いうまでもなくそれだけスイランが鍛えられた戦士であり、超常の力を備えるライズという種族の本領を発揮した結果だった。
「さ、散開! 囲んで撃て!」
やっと、念話の影響を抜けた兵士が仲間に呼びかける。しかしそれに答えられるものはまばらであり、そうしている間にも数が減っていく。
「にげろ! こんなバケモノと戦ってられるか!」
「待て! 敵前逃亡……ぐぶっ」
「うあぁぁぁ!?」
ついに、士気が崩壊した。無理もない。これが全身サイバーウェアに置き換えられた、人型戦車のような相手だったらまだ理解できた。相応の戦闘も考えられた。しかしライズは彼らにとって未知の存在だった。知っていても与太話であり、真実であるとは思っていなかった。
背を向ける敵兵に対し、スイランは手を止めた。代わりに通信を入れる。
「こちらスイラン。司令部、見ているか?」
『はい、どうぞ』
いつも通り落ち着いている声だが、スイランにはそれに怒りが籠っているように感じた。彼女に向けられたものではない。この場の敵全てへ通信相手は感情をたぎらせている。
「敵兵が逃げる。私はカイトの護衛に回るが?」
『そうしてください。敵兵はこちらで対処します。救護班が到着するまでよろしくお願いします』
「承った」
通信を終える。空に響き渡る、空気を裂く轟音。複数の空間戦闘機が飛び回っているのだ。それが友軍であると、スイランは知っている。他ならぬその中の一つに乗ってやってきたのだ。
『こちらアマテラス航空隊。キングソード隊、応答願う』
共有している通信帯から、鳥人ガラスの声が届く。答えるのは、グロリア大尉だ。
『こちらキングソード隊。応答問題なし』
『航空支援を行う。すでに敵はマーク済だ。距離を取ってくれ』
『了解した。仲間が一人はぐれた。位置情報は送信されている。支援を要請する』
『問題ない。すでに腕利きが飛び込んだ』
『了解。これより離脱する』
通信が終わり、車両群に動きが出た。小部隊が、けん制射撃をしつつ大群から離れていく。同時に、空から轟音が下りてきた。ガラス率いる航空隊が、地上へ向けてミサイルを放つ。
上空に向けて、車両群から迎撃レーザーが放たれる。幾分かは数を減らすが、すべて落としきることはできなかった。複数の爆発が、車両を破壊する。
このままではまずいと、車間距離を開ける。群れていては、まとまって潰されるだけだと。しかし、それは悪手だった。地上ではそれなりの距離でも、空から見ればそうでもない。戦闘機の速度なら一瞬だ。
再び、白い尾を引きながら、無数のミサイルが降り注ぐ。迎撃レーザーは、上手く機能しない。まとまっていたが故に破壊確率が高かった。火力もまとめられた。分散してしまえばそれもかなわない。
離れたが故に、巻き添えこそは無かったが結局また損害がでた。地上からの攻撃は全く届かない。速度を上げて逃げようにも、相手の方がはるかに速い。そこに三度目の攻撃が入る。今度はレーザーバルカンだ。
降り注ぐ赤い輝き。大型ジェネレーターに支えられた大火力には、シールドがあっても耐えられない。ほどなくして、動ける車両はなくなった。それとほぼ同時刻、キングソード隊がスイラン達の元へ到着した。
「カイトは!」
指揮車両から飛び降りたグロリアが問いかけるが、女戦士は首を横に振る。
「バイタルは危険値だが、暴乱細胞で維持されている。そしてそれがあるため、私では手が出しようもない。専門家が必要だ。すでに連絡は終わっているから、ほどなくして降りてくるだろう」
「……っ。そうか。隊員の保護に感謝する」
「なんの。我が戦友でもあるからな……と、話している間にご到着だ」
空から新たな音が下りてくる。中型輸送船である。ひどくシンプルで整備性と生産性を突き詰めた形であり、採用者の趣味が透けて見える。開けた場所に降りるや否や、無数のドローンが後部のカーゴスペースより雪崩出る。
それらが暴乱細胞に群がっているのを眺めていると、新しい通信が入った。
『こちら航空隊。訓練所周辺の敵部隊への攻撃に増援を要請する。数が多くてこのままでは時間がかかる』
『了解。第二チームを発進させます』
「……コールサインを整備する暇もなかったのか」
はあ、とため息をつくグロリア大尉。スイランは苦笑する。
「それを言ったら、もっと大事な物がまだ決まっていないのだ」
「それは?」
「傭兵団の名前。まだアキラ様が決めかねておられる」
「……ああ、そういえばそうか。確かに、聞いた覚えがない」
ドローンにより暴乱細胞の塊が輸送機に搭載される頃、遠方から爆音が轟いてきた。訓練所方面から聞こえてきたそれを聞いて、とりあえず片が付いたとスイランは理解した。




