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輝く彼女と星間飛行(スタートラベル)  作者: 鋼我
創団トラブルメモリー
42/60

協力国との交渉

 この頃、アキラ達の姿は汎コーズ星間共同国にあった。頂点種の突然の訪問に、国を挙げての歓迎をもって迎えた。多分に、政治的な意味合いが含まれている。


 理由としては、アキラ達が持ち込んだものが大きかった。戦争中の敵国であるギラッド合一連邦、その戦争犯罪の証拠。約束どおりラヴェジャーの関与については削除されているが、外交的に大きな問題であるのは言うまでもない。加えて、その件で光輝同盟ライトリーグから調査を受けることになった。


 主権を持つ国家としては、恥ともいえる外聞の悪い事態。これからのギラッドにとって大きな痛手となる。なお、現在すでに調査団は現地に到着しており、アキラの約束通りに事が進んでいた。これが表ざたになる事はない。


 最終的な取引によって、ギラッドの痛手は多少和らげられることになる。頂点種の意向が最優先なのだ。しかし、それも今の汎コーズには分からぬこと。


 ともあれ頂点種の来訪、敵国の戦争犯罪、おまけで自国の兵士の保護。これを政治的に最大限に利用し、アキラ達もあえてそれに乗ってやった。この後の利益のために。


 歓迎会、パレード、記者会見。一通りに付き合ったアキラは、いよいよ本命である交渉を開始した。場所は、政務ビル。貴賓用の応接室。アキラの他にはドローンに入ったカメリアと護衛としてスイランがついていた。


 アキラは、いつもの少女の姿を取っていなかった。二十代半ばの、スーツを着た大人の女性が豪華なソファに座っている。その成熟した美貌は汎コーズのメディアを騒がせた。対面に座る五十代の男性担当官の鼻の下が伸びっぱなしなのは致し方がないことだった。


「なるほど、傭兵団を立ち上げなさる、と。いやはや、これはまた驚きましたなははは……」


 そんな彼であったが、アキラの申し出には面食らわざるを得なかった。端的な感想は、この女何言いだしてるんだ? だった。彼のイメージした傭兵というのは、武装したならず者である。その職業に対する知識が全くないというのもあるため、わざわざそんな仕事をやりたがる理由がさっぱり思いつかなかった。


「ええ。暴乱城塞レイジフォートレスと戦うためにトレーニングをしようかと」

「……な、なるほど。それはまた、ええとその、高尚なことで」


 担当官の混乱はさらに加速した。事もあろうに、戦場の災厄と戦うなどと言い出したのだ。現在戦争している国にいる身としては、絶対に近寄ってきてほしくない存在だ。あれが出るだけで、国家の行末に大きく影響を及ぼすのだから。


 アキラは、その混乱をしっかり感じ取っていたがスルーした。理解してもらう必要はないと考えていたからだ。なのでそのまま、話を進めてしまう。


「私も大きな戦艦を一つ持っているのですけど、動かすには人手が必要で。優秀なクルーというのは育成に時間がかかると聞いています」

「ええまあそれは。我が方も訓練にはコストをかけておりますから……ふむ」


 ここで、やっと彼の理解できる話にシフトした。元々彼の仕事は、アキラと何かしらの取引ができないか探る事だった。頂点種の恩恵は計り知れない。せっかくの奇縁を、ただ兵士を送り届けてもらってお終いにするにはあまりにもったいない事だった。


 しかし、ここで素直に手札を晒すのは素人の事であると担当官は考える。駆け引きを重ねて、こちらの品の価値を上げる。売るならば高く。商売の基本である。が、相手を理解していないのが彼の失敗だった。


「そういう事ならば多少はお役に立てられるかもしれません。……ですが申し訳ない。何分我々も戦争の真っただ中。兵士、士官はまさしく我らが必要としておりまして……」

「そう。じゃあ、終わらせましょうか」


 にっこりと、社交辞令の笑顔を浮かべてアキラは言い切った。数秒、言葉が理解できず男は思考を停止する。


「……は?」


 やっと絞り出したのが、この声だった。


「戦争、終わらせましょう。ちょっと光輝同盟に連絡いれれば、あっちを止めてくれるはずですから」

「は? ……は? え、いやいやいや! そんな簡単に止まるはずも」

「止まらなかったら私が殴るよって言えば片付くはずですよ」


 表情を変えぬまま、アキラはそう言ってのける。そして、また混乱の迷路に入り込んだ担当官の精神に、直接語り掛けた。


『私、頂点種の光輝宝珠こうきほうじゅですよ? ご理解いただけてます?』

「う、うわぁぁぁぁ!?」


 担当者は跳ね起きるように立ち上がると、そのままソファの後ろに倒れこんだ。生まれてこの方、こういった超常の力に触れた経験はない。自分の常識にない力には、ただ無力だった。


 アキラの後ろに立っていたスイランは、その奇行に片眉を吊り上げた。が、特に問題ないと判断しただ動きを警戒するだけにとどめた。


 ソファの裏側に隠れた担当官は、自身を取り戻すのに少々の時間を必要とした。今のは何だったのか。自分は何をされたのか。相手が何者か。頂点種とは何なのか。ゆっくりと思考を進めていく。


 正直な所、彼にとってアキラ達の存在はただの政治的ポイント稼ぎの相手でしかなかった。自分の地位を守り権益を増やすためのイベント。頂点種という存在を知識として知ってはいたが実感は欠片もなかったのだ。覇権国家の貴賓、という程度の認識だった。


「あまりご理解いただけてないようですし、この後のお話は実際に戦争が終わった後にいたしましょうか?」

「は? いえいえいえ! いやその、それはあまりにも荒唐無稽な……」


 立ち上がった男が否定するが、アキラは取り合わなかった。


「実際に起きてからの方がご理解いただけるでしょう。では、お疲れのようですし続きは後日ということで」

「お待ちください! しばし、少々お時間をいただきたい!」


 長年の経験が男をギリギリのところで話し合いのテーブルに戻した。これはマイナスになる。言っている事は全く理解不能だし、実行できるとは到底思えない。だが、もし仮に本当に覇権国家が介入してきたら? 今、すでに両国に接触しているが、具体的に戦力を送り込んで来たら?


 コストや道理からしたらまったくあり得ない話だ。しかし、過去の記録を思い返せば、光輝同盟はそのような動きを多数行っている。全く理屈が通らない話だが、このバケモノ女がそういった動きを本当にさせたら?


 戦争終結というバカみたいな手札でこっちを殴ってくることになる。交渉どころの話じゃない。どんな支払いをさせられるかわかったものじゃない。最悪、占領されるところまであるかもしれない。覇権国家と戦争? 戦いにならない。戦力差が圧倒的で話にならん。


「考えがまとまったようで何よりです。それで、どうしましょうか? 戦争、終わらせましょうか?」

「余計な事をするな! ……いやその、はは、申し訳ない。咄嗟の事で」


 担当官はそこまで何とか言葉にして、やっと一つの事実に気づいた。恐る恐る、細かく震えながら疑問を口にしようとする。しかし、それより先にアキラが答える。


「ええ、貴方の思考を読んでいますが?」

「や、止めろバケモノ! 読むな!」


 いよいよもって、態度を取り繕うことができなくなった。カメリアもスイランも、主への無礼に特に反応はしない。一般的な種族では当然の振る舞いだからだ。頭の中を読まれて冷静でいられるヒトなどいない。


 それを理解したうえで、アキラは平然と話を続ける。


「そうはいいますが、私には貴方たちのような感覚器がないのです。目で見て、耳で聞いて、喉を震わせて語る。多くの知的種族が保有する能力ですが、私の本体はこれですから」


 そういって、アキラは手の上にソフトボール程度のサイズにした輝く多面体を投影して見せる。


「正直言って私にはヒトと動物、そして無機物の区別がとても付けづらいのです。構造の違い、素材の違い、動きの違い。そのように言われましても、細やかすぎて一つ一つ確認していては切りがない。もっとも分かりやすいのが精神と記憶。これがあればヒトであると認識できます。そしてそれに直接干渉すれば、とりあえずの意思疎通ができるというわけです」


 光輝宝珠という種族としての視点を語っているが、実はこれがすべてではない。彼女の種族が持つ能力はヒトでは計り知れないほどに高い。やろうと思えば、簡単に判別できる。そう、やろうと思えば。


 生まれたての彼女たちは、そのやる気がない。ヒトにもそれが作る社会にも興味がないのだ。光輝宝珠の興味を引き、ヒトの世界への接点となる者達。それを彼女たちは焦点フォーカスと呼ぶ。


 カイトという焦点を得ている今の彼女は、普通にヒトを認識できている。ではなぜこんなことを言い出しているのか。単純に、この担当官を脅すためである。


 わざわざ外見を変えたのもそのため。今までの仲間たちとのコミュニケーションで、男性がどのようにすると耐えがたいかは学んである。普段はそれをしないようにしていたが、自分たちの利益の為ならば武器にするのを躊躇わない。


 もっとも実際に担当官と対面して記憶を読んでみた所、必要なかったと思うに至ったが。


「ですから、これも種族差ということで一つ認識をお願いします。第一、失礼云々を言い出したらあなただって大概でしょう? 種族的にその年齢ともなれば性的欲求が落ちて当たり前だというのに、頭の中大抵それでいっぱいだし。わざわざサイバーウェアと薬で能力を向上させるとか、欲求に溺れすぎでは?」

「止めろ! 私の頭の中を読むな! クソ! クソ! バケモノめ! おい、だれか! だれかー!」

「ああ、叫んでも意味ありませんよ。音は部屋の中で止めていますし、システムはカメリアが乗っ取っていますから」


 担当官はいよいよもって意識がどこかへ飛びそうになっていた。ただの貴賓だと思っていた女はバケモノ。自分の城だと思っていた部屋は乗っ取られている。そして考えは常に読まれている。ほんの数分前まで、何ら変わらぬ日常であったのに、どうしてこうなった?


「それもこれも、貴方がライバルを無実の罪で蹴落として担当官になったせいですね。ずいぶんひどい事をされていらっしゃる。自分がやった横領を擦り付けるとか、ちょっと手慣れ過ぎてませんか? え、三回目なんだ。……うわあ、パワハラ、恫喝、暴行。自分の犯罪を隠すのがこんなに得意ってちょっとどうかしていると思う」

「止めろぉぉぉ!?」


 担当官は、アキラに向けて飛び掛かろうとした。これ以上読まれてはいけない。自分の致命的な秘密にたどり着かれてしまう。そうなってしまったら破滅なのだから。


 しかし、何もかもが遅かった。立ち上がった瞬間、念動力サイコキネシスで抑え込まれてしまう。スイランが何かする必要もなかった。せいぜい、カメリアのドローンを退避させる程度だった。


 アキラとしては、なかなか興味深い個体との遭遇となった。サバイバル中、ラヴェジャーから解放した奴隷の中に犯罪者がいた。それらの記憶と思考というのは、ヒトの個体差を学ぶ上で役に立った。良いも悪いも環境次第、それがヒト。


 数十人のサンプルを観察したアキラであったが、それ等とは別種の存在に知識欲をくすぐられた。己の利益のために、平然と同族を貶める。その動機と行動力の根源は何処から来るのか。それはすぐに探し当てることができた。


「え。貴方、元は別の人なの? 上級市民グリーンの人を殺して成り代わったんだ。さらに、その人の記録を別の人を脅して書き換えて。はー、すごい。私の知る犯罪者の中でもワースト3に入るかな」

「あ、ああ、ああああっ」


 もっとも知られたくない、致命的な部分を暴露されて項垂れる。完全に詰みだった。いや今からでも記録や証拠を消して回れば、と考えたのがいけなかった。当然の事だが、彼はカイトほど読まれ慣れていない。


「あ。カメリア。この人の証拠って押さえられる?」

『問題ありません。個人用データはすでに確保してあります。古い記録でなくても、脱税の証拠だけでおつりがくるでしょう』

「……どうしようもないじゃないか」


 隠し事が出来ない。多くの利益を表沙汰に出来ない手段で得ていたこの男にとって、それは両手両足をもぎ取られたに等しかった。


『それでは、これからいかがいたしましょうか』

「うん。それなんだけど、この人から良いこと教えてもらっちゃった。一番上のヒトとお話しすればいろいろ早いみたい」


 絶望に打ちひしがれていた担当官だったが、アキラのその言葉は聞き逃せなかった。事もあろうに、絶対に内外に漏れてはいけない秘密まで読まれてしまった。自分が漏らしたとバレれば、処刑だけでは済まされない。


「や、やめろ! あの方のことは最高機密! 表に出してはいけないのだ! 私だって、直接言葉にすることすら出来ないのだ!」

「うん。でも記憶から読んだし。ありがとうね」


 アキラの姿が、元の少女のそれに戻る。口調と態度も同じように。


「よっし、それじゃあおねだりにいこっか」


 頭を抱える担当者を残し、一行は部屋を後にした。この後、アキラたちはこの星の隠れた最高権力者に無理矢理面会する。そこで行われた事を記録しているのはカメリアだけ。会った事も含めて、表には出なかった。


 そうして決まったことは下に伝えられ、正しい手続きによって実行される。シュテイン大尉をはじめとした、サバイバル組のアマテラスへの出向。さらに、諜報活動の訓練をした兵士を五百人、後方支援役の名目で派遣することになった。


 件の担当者は、傭兵団との窓口として働いている。何もかも失い、ただのいち職員として。

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― 新着の感想 ―
[一言] 圧倒的な種族値による暴力!
[良い点] システムに脆弱性があるとそこからハックされる。 道理ダナー
[良い点] カイトたちが慣れてるせいで新鮮な反応だ……!!!
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