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輝く彼女と星間飛行(スタートラベル)  作者: 鋼我
第二章 遊覧飛行
24/60

悪党共の不本意な同盟

 戦艦アマテラスの進路。光輝同盟ライトリーグにほど近い辺境星域アウタースペース。恒星と、大気を持たぬ岩塊のような惑星だけが浮かぶとある星系。そこに、三百を超える船団が集結していた。


 集まった船に、統一性はない。型落ちの軍艦、大型のユニット型輸送船、改造され過ぎてメーカーの分からない船。その中に、カイトたちに蹴散らされたラヴェジャー船団の生き残りの姿もあった。


 数はだいぶ減っており、現在も修理活動を行っている。旗艦だった船の姿はなく、代わりに一番大きい輸送船がその役割を継いでいた。


 ここに集まっているのはラヴェジャーだけではない。商売関係だった商人や軍人、貴族の船もあった。そしてそれらによる会議は、紛糾していた。


「ふざけるのも大概にしろ!」


 吠えるのは小陽カルナバーン帝国の貴族、アンテロ・ニスラ。家を継げる立場ではない為爵位はない。血族であるというだけの男である。ニスラ伯爵家の私兵艦隊を任されているこの男は、通信相手であるラヴェジャーに激怒していた。


「我々に売るはずだった光源水晶こうげんすいしょうが奪われた!? 挙句にその奪還の手伝いをしろ!? どの口でいうのだこの愚物ども!」

「失敗したのは私ではない。他の欠陥品共だ。そしてそれらはすでに死んだ。我々に言うな劣等種」

「ラヴェジャーごときがぁ!」


 アンテロは血管が切れそうなほどに頭に血を上らせていた。そして、切れ散らかしているのは彼だけではない。通信による会議に参加しているほぼすべての人物がそのような状態だった。


 ギラッド合一連邦の軍人エゴール・アニシナ中佐が、何とか怒りを抑えながら建設的な話をしようとする。なお、この国は汎コーズ星間共同国と現在戦争中である。


「……解放された頂点種はどう対処するつもりだ。貴様らに何か策があるとでもいうのか」

「トゥルーマンは間違えない。戦えば勝つ。貴様らがしくじらない限りな」

「……っ!」


 罵倒は、何とか堪えた。吠えても何の意味もないからだ。ラヴェジャーには反省という概念がない。


 会議の参加者は、ラヴェジャーの商売相手だった。希少なエネルギーバッテリーである明力結晶めいりょくけっしょう。そしてレリックである光源水晶こうげんすいしょうを得るために、先払いで船や物資を渡していた。


 しかしやっとそれを支払うという連絡を受けて、指定地点に来てみればこの有様。約束の品は手元になく、もっとひどい話を聞かされたのだ。できうる限り戦力を連れて来いと指定された時は、その意図を訝しんだ。奪還のために戦えと言われれば、全員の頭に血が上るのもむべなるかな。


「戦うためには、情報が必要。映像、解析データ。寄こしてもらおうか?」

「トゥルーマンから物を奪うと? 身の程を知れ下等生物」


 周辺で手広く密輸を行っている闇商人、アダーモの提案に対してラヴェジャーは尊大に答える。蛇に似た獣人である彼の表情は変わらない。一般的な人種には彼の表情の動きが細かくて理解できない、が本当の所だが。


「では皆が死ぬ。被害もたくさん出る。トゥルーマンの優秀さ、運命に抗えるか?」

「トゥルーマンは偶然などに屈したりはしない。だが、被害は許容できない。いいだろう、恵んでやる」


 流石はラヴェジャーと幾度となく交渉を成功させた商人。送られてきたデータを、貴族と軍人へ転送する。


「恩を売ったつもりか?」

「否。我々、すでに運命共同体。事を成すまで誰も抜け出せぬ」


 私兵指揮官の苦々しさを隠さぬ問いかけに、蛇商人は感情の分からぬ返答を返す。そして、アダーモの言葉はラヴェジャー以外誰もが理解している事だった。


 三者は、すでに損切りできないほどにラヴェジャーに対して投資している。このままではアンテロとエゴールは故郷での立場がなくなるし、アダーモも資産の半分を諦めることになる。


 そしてさらに、この状況そのものが致命的だ。ラヴェジャーとの取引の発覚は、致命的なスキャンダルだ。間違っても、他者に知られてはいけない。だというのに、他組織をラヴェジャーは一度に集めたのだ。


 おかげで望んでもいないのに、互いが心臓に銃を向けあう状況になってしまった。憎んでいるわけではない。引き金を引く理由は、今はない。目的は同じだから。


 しかし、ここで損切りを選んだらどうか。相手に自分を撃つ理由を与えてしまう事になる。そんな理由でも、三者は引けぬ状態になってしまった。腹立たしいのは、これが策略などではなくラヴェジャーの考えなしな行動によって引き起こされたという事。


 おかげで、こんな思いまで一つになる。


『この一件が片付いたら、ラヴェジャーは宇宙ゴミにしてやる』


 ともあれ、手に入れた情報を専門家に精査させる。途端に出てくる、奇妙な情報の数々。


「……頂点種の巨大戦艦だが。これ、動くのか? 何で動いているのだ?」

「知らん。推進器が動いているデータは確認していない」

「シールドではない何かで攻撃が防がれている。これは?」

「わからん。我々の計器では観測できなかった」

「戦艦、壊れてた。お前たちは修理していない。間違いないな?」

「そのとおりだ。パーツを抜き取る通常任務が組まれていたくらいだ。あの戦艦はまともに飛べん」


 じゃあ何で動いているんだ……と一同頭を抱えたが、しばらくして教養として頂点種の知識があったエゴールが気付く。


「……光輝宝珠こうきほうじゅの、超能力、か? ここまでできるものなのか? いや、できるからこそ頂点種か」

「馬鹿な……出鱈目が過ぎるぞ」


 アンテロは慄く。あまりにも規格外。ヒトが抗えぬほどに絶対だからこそ頂点種。理解していても、その隔絶した力を認識すると恐怖しか浮かばない。こんなものと敵対しなければならないのか。


「頂点種、何故戦艦を動かす? 持って帰りたいのか? あのガラクタを」


 アダーモが、気づいたことを口にする。そこで、成り行きを黙って眺めるだけだったラヴェジャーが発言する。黙っていた理由は単純に、面倒事は下等生物に任せるスタンスだからだ。


「あのボロ船には、我々から奪ったレリックが積まれている。それから、奴隷だな。それらを持って帰りたいという事だな。強欲な」


 貴様が言うな、という言葉が喉元まで出かかったアンテロ。エゴールもそうだったが、別の気づきによって気持ちを切り替えた。


「軍艦を動かす……かつ、守る。生命維持装置は動いているのだろう。奴隷……捕虜を連れ帰ろうとしている。これだ」

「これ、とは?」


 首をかしげる蛇商人に、軍人は興奮を押さえながら説明する。


「あの軍艦は、その活動のほとんどを頂点種に依存している。故に、タスクが増えればいかに頂点種といえどオーバーフローする。軍艦を守り切れなくなる。ここに、交渉の余地が生まれる」

「交渉……無事に帰りたくば、レリックと明力結晶めいりょくけっしょうを引き渡せ、というのか!」


 私兵指揮官が、感情を押さえず叫ぶ。だが、アダーモは首を傾げた。


「それだと、我々の情報、流れる。立場、おしまい」

「レリックがあれば巻き返せる!」

「そうだ、些細な問題だ! 頂点種と戦って勝つよりはよほどな!」


 ヒューマン二人の勢いに、蛇獣人は否を言い出せなくなった。たしかに、頂点種とまともに戦って勝てるなどと夢にも思わない。投資分を回収できるだけ、十分とするべきだろう。


「おい、貴様ら。何を勝手に話を進めている。あのボロ船に乗っている者は全て我らトゥルーマンの物資だぞ」


 ラヴェジャーが通信で寝言を言うが、もちろん三者は取り合わない。具体的にどうしていくか、実務者による協議が始まった。


 さて、そのような話し合いが行われている同時刻。船団の一部で別の動きがあった。三者は子飼いの戦力のほかに、多数の傭兵を連れていた。その中には、腹心や手足のように使える者もいたが、大多数は別。


 無理やりだったり、騙したり。戦力の水増しの為に強引に連れてきた者達だった。そんな傭兵たちは当然、ラヴェジャーの事など知らされていなかった。なので、この致命的な事態に頭を抱える者達は多かった。


 中古のコルベット艦、レッドフレア号。その艦長であるヴァネッサは、特徴的な癖の強い灰色の髪を振り回していた。


「あああっ! ちくしょう! どーすっかなちくしょう!」


 三者とラヴェジャーの通信を傍受した彼女は頭を抱える。通常だったらこんな事は出来ない。悪党どもでなくても、盗み聞きできない処理は普通にする。だがラヴェジャーはやっていなかった。理由は分からない。間抜けだったのか、誰かの意図したものか。


 彼女にはどうでもいい事だ。自分たちが追い込まれている現状の方が問題だ。


「お嬢、落ち着いてくださいや」

「これが落ち着いていられるか! あと艦長って呼べ!」


 成人したばかりのヴァネッサは、傭兵としては若手だ。故に判断ミスもする。アダーモが振ってきた報酬の良い話に乗ってしまったばっかりに、こんな事態に陥っていた。


 彼女は責任を感じていた。古株の乗員たちは、この仕事に反対していた。自分だって本当は受けたくなかった。しかし、最近傭兵団の帳簿にはマイナスがいくつも刻まれている。そろそろプラスをつけなければと焦った結果がこれだった。


 自分が艦長として相応しくないと、見限られるのはしょうがない。今回の事態は致命的だ。しかし、それよりもこの状況を何とかしなければならない。


 そもそも、頂点種にケンカを売るなんて論外だ。恒星に真正面から突っ込むようなものだ。助かるなんて誰も思わない。そして、自分たちのような傭兵は真っ先に矢面に立たされる。子飼いの戦力はギリギリまで温存する。連中はそういうやつらだ。


 かといって、逃げ出すことはできない。確実に、ラヴェジャーの協力者というカードでこちらを脅しにかかってくる。この場にいるというデータは十分にそれを可能にする。


 戦うと死ぬ。逃げても死ぬ。それでもなお、助かる方法を考えなければならない。ヴァネッサは考える。頭から煙が出そうなほど考える。


『敵は誰だ。頂点種? 頂点種には恨みはない。相手だってないだろう。あたしの敵は誰だ? クソッタレのアダーモだ。あいつが死ねば、いや、あいつだけでなく軍人と私兵とラヴェジャーに死んでもらえば……』


 そこまで考えて、ヴァネッサは顔を上げた。これしかない、という光明を見つけたのだ。


「頂点種に、クソッタレどもを全員ぶっ殺してもらおう」

「お嬢……そんな無茶な」

「無茶だろうと何だろうとやるしかねーんだよ! あたしらが表稼業に戻るには、それしかない! そのためには……何だ? 何が必要だ……? とりあえず、戦力と情報か。何をするにしても」


 ヴァネッサは、気合を入れて自分の太ももを引っ叩いた。体にフィットしている為、いい音が鳴る。


「よぅし! 取り合えず、クソ共にバレない方法でほかの傭兵とコンタクト取るぞ! ドローンでも宇宙遊泳でもなんでもやって!」


 彼女の破れかぶれな前向きさは、辛うじて艦内の士気を保った。幸か不幸か、同じ境遇の傭兵は多かった。船の種類は戦闘機から改造輸送船、最大でコルベット艦。足が速く小回りが利く。


 秘かに作り上げたネットワークを使い、ヴァネッサは起死回生のチャンスを待つ。そして、この活動が彼女に一枚の切り札を与える事となった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新しい部下が手土産と一緒にやってくるとは流石の頂点種族の豪運やな
[良い点] またヒロインが増える予感。 [一言] >間抜けだったのか、何者かの意図か だってラヴェジャーですよ?たぶん前者。意図的だったなら、闇商人が怪しいですね…
[一言] 更新乙です。 ラヴェジャーと取引って有能だけど野心が高すぎて信頼を喪った奴が一発逆転を狙う って感じなんだろうな…。 まともなやつならこんないつすっぽかされるかわからん取引絶対しないわw
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