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輝く彼女と星間飛行(スタートラベル)  作者: 鋼我
第一章 星の世界へ
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ラヴェジャー船団到達

 アキラ達が物資収集所を占領して30時間が経過していた。船は三交代で常に稼働し続けている。いつ、ほかのラヴェジャーに発見されるかわからぬ状態である。急ぐに越したことはなかった。


 とはいえ、それをするにしても手順が必要だった。まず最初に行ったのは基地全体のスキャンである。敵の生き残りがいるか、トラップはしかけられていないか。物資の状態はどうか、違法な物品はないか。


 アキラの超能力まで使用したチェックは、様々なものをあぶりだした。まずは危険物である。弾薬や爆薬、化学薬品などは活用法がある為船に搬入された。化学兵器や微生物を用いた生物兵器などは処分対象とした。


 次は違法な物品である。ナノマシンを用いた無差別殺人兵器。麻薬。取引が厳しく制限されている希少鉱石などもあった。これらのほとんども処分対象に。希少鉱石だけは、帰還した後にしかるべき場所に提出することになった。


 そして、違法奴隷。解放した者達は、徹底した健康診断の後に観察対象となる。船の為に働いてくれるなら歓迎する。そうでないのなら、行動も自由も制限しなくてはいけない。貢献度に応じて対応を変えざるを得ないのは、余裕のないサバイバル生活故だった。


 彼ら彼女らは、生きているからまだいい。カイトの同胞のように、さらわれてコールドスリープさせられたあげくそのまま命を落とした者達も発見された。遺体はカプセルに入れられたまま、丁重に船に運び込まれた。


 検査し、身元が分かれば故郷に返すか連絡を入れる。それは当局の仕事となるのでアキラ達は遺体を持ち帰るだけだった。


 基地にあったものは、この様に曰くのある物だけではなかった。普通に有用な物資もまた多く発見された。プリンターの材料になる基礎資源。治療に使用される薬物。弾薬や兵器、それに燃料。しかし一番カメリアを喜ばせたのは、船のユニットだった。


 一度宇宙に飛び出せば、文明圏に帰還するまで補給はほぼできない。事故や海賊の襲撃などで、サバイバルを強いられることは珍しい話ではない。そんな極限状態でも生還できるよう、備えとして開発されたユニットが存在する。


 例えば医療室。医療用AIにより、適切な治療を受けられる。必要とされる機材が高額なため、どの船も備えているというわけではない。しかしあれば生還率が確実に上がるのは言うまでもない。


 例えば工作室。ユニットは多くの部品を規格品で作成されている。資材されあれば、工作室のプリンターで必要なものを出力できる。特許の付いた品については、文明圏に帰ったのちに作成料を請求されるが命よりは間違いなく安い。


 変化球で製錬炉。アステロイドをマイニングレーザーで破壊。回収した鉱石から不純物を取り除くユニットである。取り出された各種鉱石は工作室で使用される。


 アステロイド採掘は既知領域を支える基幹産業である。あらゆる星間国家で、日夜多数の船が資源を採掘している。しかしすべての船が製錬炉ユニットを搭載しているわけではない。


 理由は単純。必要とされるエネルギーの多さに尽きる。鉱石を溶かすには高熱が必要。当然エネルギーも相応に要求される。小型ユニット船では運用はほぼ不能。中型ならばジェネレーターも対応してくれるが、ほかの装備との兼ね合いに不安が発生する。


 実質、搭載できるのは大型ユニット船のみ。大型船を運用できるのは設備投資できる資金がある者だけ。製錬炉は成功したアステロイド採掘屋の証ともいえる。実際、運搬と製錬に特化した大型輸送船をリーダーとする採掘船団はよく見られる。


 採掘に特化した複数の小型船が鉱石を集めて大型船に運ぶ。製錬炉で不純物を取り除き、価値ある金属を大量に獲得する。こうして効率的に利益を上げるのだ。そしてそれを狙う宇宙海賊もまた多数おり、護衛の傭兵と攻防を繰り広げるのである。


 閑話休題。このようなサバイバル生活に有用なユニットが多数発見され、スキャンの後に船に搬入されていった。物資運搬が優先の為、設置作業はまだされない。とはいえ、これに喜ぶ乗員は多い。


 設備が足りなかった為、救出されても必要な治療を受けられていない者が複数名存在しているのだ。ラヴェジャーの改造は悪辣だった。中にはスペックアップの代わりに、肉体の耐用年数を削るような調整をされている者もいた。具体例はカイトを鉄パイプ一本でボコボコにした女戦士などである。


 ほかにも、ドローンの製造が可能になるという朗報があげられている。捕虜の解放により、労働力の確保は成された。しかし、船の広さに対してはあまりにも少ない。それをドローンで補うという話である。


 今までは、ラヴェジャーから奪ったそれを使用していた。メンテナンスはプリンターから出力される部品でどうにかなっていたが、製造となると勝手が違った。しかし工作室が手に入った今ならば、ドローンを製造できるようになる。


 もちろん、工場のように量産はできないし、相応に資材は必要だ。しかし代用労力の使用方法は幅広い。戦闘、製造、清掃、整備、運搬……あればあるだけ、楽になる。メンテナンスを考慮して、順次増やしていくようカメリアは試算している。


 この様に、得られたものは数多い。これらは順次、倉庫区画に運び込まれている。アキラの船は大きく、今回の物資だけでは満載には程遠い。しかし確実に、サバイバル生活を豊かにする量だった。


 さて、そのように船員たちは忙しくしていたのだが。その間カイトは何をしていたかというと。


「……暇だ」


 コアルームで、待機を命じられていた。現在、船の外で活動できるのはカイトだけである。正確に言えばアキラもそうなのだが、彼女が船から出ると多くの事柄で不都合が出る。それは本当に最後の手段だった。


 なので、カイトはいざという時に即座に出撃できるように待機していた。何故コアルームかといえば、ここに大型のエアロックがあるからだ。彼の使うマシンは大きく、船の外に出られるエアロックは限られている。


 この船には、戦闘機や護衛船を運用するための設備が存在する。しかし当然ながら未整備であり、ほかに優先すべき設備があるので手が回らない。そもそも、まだ開放しきれていない区画に存在するので調べることも無理である。


 現状、もっとも待機場所にふさわしいのがコアルームだった。発進にアキラの念動力テレキネシスが使えるのも大きなポイントだ。


「ゲームで遊ぶ?」

「仕事中にそれは駄目だろう。……まあ、本や映画は見ているけどさあ」


 アキラの問いに、首を振る。カイトは、スーツを着たままくつろげるという贅沢な椅子に身を沈めた。ここで待機が決まってから、設置された代物だった。さらに娯楽データもカメリアから大量に提供された。地球人の感性に合う作品を探すのは中々骨で、その分だけ時間が潰せるのはある意味助かってはいた。


 さて、この待機任務。カメリアの提案によるものだった。彼女はカイトの生活を管理している。スーツが、カイトの生活が極端であるとのデータを出力していた。


 とにかく、休みが少ないのだ。仕事をするか、訓練をするか。食事などの生活に必要な時間以外は、ほぼそのどちらかしかしていない。彼の身体に残留する黒い機械細胞は、それを可能にしていた。


 カイトのメンタルは、いまだ不安定なまま。訓練と労働でそれを誤魔化している。そう察知したカメリアは、主に報告。今回の待機という名の強制休憩を与えていた。


 緊急出動のために、労働も訓練も不許可。待機中に娯楽データの閲覧は許可という、ほかの者に聞かせられない状態だった。もっとも戦闘員たちからすれば、基地制圧はカイトが出ると自分たちの手柄が減るので休んでいてもらって全く問題なかったが。


「何か面白いって思える作品あった?」

「まあ、一応。ドキュメンタリーが面白かったな。この宇宙の人たちの生活が見れて、純粋に勉強になった。惑星開拓とか、ダイナミックだったし」

「へー。私も見てみようかな。どれ?」

「ええっと、確かタイトルは……ん!?」


 アラームが、船内に鳴り響く。センサーが、空間跳躍を検知したのだ。アキラの表情が強張る。


「わ。まずい、かも。沢山来た」


 カイトのスーツにも情報が転送される。多数の反応が次々と検知される。尋常ではない数だった。船団が、出現したのだ。


「ラヴェジャーの、船団……!」

「カメリア!」

「はい、アキラ様。現在、収集所内で作業していた船員を戻しています。作業はすべて放棄させました」

「間に合うか?」

「船団の動きは早くありません。光学情報ですが、船の外観にかなり差異があります。予測ですが、ありあわせの寄せ集め船団かと。であるならば、足並みをそろえるだけでもかなり困難。速度は押さえて……急速接近する機影あり」


 カメリアの声色が、明らかに緊張したそれになる。アキラも両手で口元を覆った。


「あ。ドラゴンの抜け殻……これって、レリックなんだっけ?」

「はい、アキラ様。ドラゴンシェルです。強固な外殻をフレームとして使用した、覇権国家イグニシオンの誇るレリックです。もっとも脅威度の高い相手が来てしまいました」

「レリックには、レリックだな。出るぞ、上を開けてくれ」


 カイトは立ち上がると、マシンに跨った。コアルームの空気が抜かれていく。


「カイトさん。ドックファイトでは絶対にかないません。砲台に徹してください」

「了解。威力より、手数だな……」

「カイト、気を付けてね! 時間を稼ぐだけでいいからね!」

「分かった。じゃあ、行ってくる」


 天井のエアロックが開く。念動力が発動し、カイトはマシンごとふわりと宙を舞う。満天の星空に飛び出して、そのまま甲板に下ろされる。スロットルを絞って発進。モンスターマシンが真っ白な甲板を駆け抜ける。


 真空であるため、風を切る音は当然ない。ヘルメットのディスプレイに表示される光景は補正が入っている。本来ならば明かりのない、真っ暗な世界であるがカイトの見るそれは違う。黒に近い深い青と輝く星、そして地平線のように先まで続く白い甲板。


 平和になったら、ゆっくり走ってみたいと純粋にそう思った。


「カイトさん。目標地点へ到着後、エネルギー供給元を確保。砲台に変形しドラゴンシェルに対処してください」

「それ、まともに使えるんだ」

「わずかですが、安全に使用できる経路を確認しました。今回のはその一つです」

「それは、なにより!」


 目標地点がマーキングされる。近い。速度を落として安全に停止。すぐさまマシンを砲台に変形させる。前回のような荷電粒子砲ではない。エネルギーも厳しいし、高速で移動する目標に対して連射の利かない兵器では不足がある。


 撃墜できなくていい。攻撃を躊躇わせることができればそれでよい。相手はレリック。倒すには相応の準備と火力が必要。今はそれがないのだ。


 カメリアが準備したデータから、連射式レーザー砲塔を選択する。長砲身なのは前回と変わらないが、特徴的なのは九機のレーザー発振器だ。これが順番に発射されることで連射速度を確保する。若干ながらインターバルも確保できるので、放熱する時間もある。


 指定されたポイントのソケットに機械細胞でできたケーブルを繋いで完了。前回よりはか細いが、エネルギー供給は確保された。


 砲塔の射撃席に収まったカイトは、カメリアから送られたデータをみて顔を引きつらせる。


「なんだこれ。めちゃくちゃ早くないか?」


 船団が出現したのは、星系外縁部だった。一口に外縁部などといったが、その星系ごとに距離は異なる。参考までに太陽系で一番外にある惑星である海王星は、恒星から約四十五億キロメートルの位置に存在する。


 何故そのように遠方に出現したのかといえば、跳躍機関のシステムが理由である。何百光年をわずかな時間で移動できる技術であるが、様々な制約がある。その中の一つに重力圏内だと跳躍が安定しないというものがある。その為、星系の外で跳躍し出現するというのが一般的だった。


 中にはそのような制約なく長距離を移動する技術もあるが一般的ではない。たとえば一部の頂点種が使う空間転移テレポーテーションがそれである。ほかならぬアキラが日常的にやっている事だ。


 さて、一般的に船と種別されるそれには重力制御機関グラビティユニットが搭載されている。これは離陸、着陸、加速、減速など船の移動を助けるために存在する。副次的効果で船内に住居を助けるための重力を発生させることも可能である。


 これを使えば、推進力の低い船でも速度を出すことができる。戦闘船も高速戦闘ができる。しかし限界もある。速度を出せば出すほど、船体に負担がかかるのだ。


「重力制御機関による加速ではありません。覇権国家の秘匿技術と思われます」

「カメリアが慌てるわけだ……すぐに来るよね、これ」

「減速を考えると、すぐとはならないでしょうが、遅くもなりませんね」


 そう会話しているうちに、表示される目標は速度を緩め始めた。しばし、画面に映るそれを睨み続ける時間が過ぎる。


「撤退の状況、どうなの?」

「順調ですが、間に合いません。交戦は避けられないと思われます」

「頑張らないとだめか」

「よろしくお願いします」

「カイト、ちょっとだけ踏ん張って。私も頑張るし、みんなも急ぐから」

「はいよー」


 努めて気楽に返事を返す。カイトはうっすらと冷や汗をかいていた。肌着に変化している機械細胞がそれを吸収するので、不快感はすぐに消える。だが緊張はそのままだし、緩めてもいけない。カイトは忍耐強くそれを待つ。


 こいつが到着する前に、避難完了しないだろうか。そんな彼の希望はあっさり打ち砕かれ、光学観測範囲にそれは現れた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 逃げれば一つ、進めば二つ、奪えば全部だ。
[気になる点] カイト、まだ病み気味か…この窮地を乗り越えられればもう少し気が休まるだろうか。 [一言] ついに接敵、これからがクライマックスフェーズ!断片とはいえ頂点種の眷属同士の戦いやいかに。
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