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第71話 ゴーレムと引っこ抜き

「ほ、本気で言っているのか!? 確かにさっき戦っていた巨獣よりはこの木の方が小さいが、持って運べるような物なのか……!?」


 シルフィアが身振り手振りで困惑する自分の感情を伝えて来る。

 だけど、俺のことを信じていないかと言われれば、そういうわけでもなさそうだ。


 巨大化(ビッグボディ)の大きさを一度見れば、木を持ち運ぶこと自体は可能に思えるからな。

 しかし、俺が考えている手段はもう少しスマートかつ……力技だ。


「ああ、運べるさ。根っこが生えている地面ごとボコッと掘り起こして、リニアトレインの貨車に乗せる。後は安全走行で街まで一直線だ」


 俺は出来る限り穏やかな口調でシルフィアに説明した。

 穏やかに接すれば、穏やかな反応を返してくれる。

 シルフィアはそういう優しい子だと思うんだ。


「……わかった。ここまで来たら私も覚悟を決め、ドンと構えていよう。私の家の引っ越しはすべてお前……いや、ガンジョーに任せる。そのぉ……よろしく頼む」


 シルフィアは照れ臭そうに視線を逸らし、ボソッとお願いの言葉を発した。

 俺にとってはそれだけで頑張る理由には十分だ。


「ああ、必ずシルフィアの家を街まで運ぶよ。もちろん、中の家具も壊さないようにね」


 おそらく、掘り起こした木と土の横幅はレールから大きくはみ出るだろう。

 なので、帰りは電気防護柵を展開することが出来ない。

 魔獣の襲来に気をつけつつ、安全に運ばないとな。


「お、そうだ……。中の家具をロープで固定しておかねばならんな」


 シルフィアはハッとした表情を見せ、はしごを上って家の中に入っていった。


「私もお手伝いします!」


 マホロがその後を追って家の中に入っていく。

 幼いマホロだからまだ微笑ましい光景だが、見方によっては半分ストーカーになっているような気も……。


「おおっ、これは機織(はたお)り機ですか!? タンスにテーブル、ベッドみたいな家具もちゃんとありますね! この服とかロープはシルフィアさんのお手製ですか?」


「ああ、そうだ。ジャングルでは自分で作る以外、手に入れる方法がないからな」


 二人の会話から、中に入らずともツリーハウスの内装が思い浮かぶ。

 そして、シルフィアに裁縫(さいほう)木工(もっこう)の技術があることもわかった。


 どちらも今のラブルピアに必要な力だ。

 ガイアゴーレムは地属性の物質を操れても、植物由来の物質には無力。


 そして、これは俺個人の性質でもあるんだが……細かい作業は苦手だ。

 大きな木材を扱う場合はまだしも、手元で小さな針を使って布を縫う自信はまったくない。


 情けは人の為ならず――人を助けることは、巡り巡って自分のためになる。

 少々無粋(ぶすい)な話をすれば、シルフィアをラブルピアで受け入れることは、街にとっても大きなメリットがありそうだ。


 まあ、それでも彼女に裁縫や木工の仕事を強要する気はさらさらない。

 あの街を見て、気に入って、足りない部分を自分の力で(おぎな)いたいという気持ちが生まれた時には、心から感謝してその力に頼るとしよう。


「……よし! これで家具は簡単には倒れないだろう」


 その言葉と共にシルフィアとマホロがツリーハウスから出て来た。


「とはいえ、今あるだけのロープを使った簡易的な固定だ。大きな衝撃が加われば倒れる。そこのところは心配する必要はない……ということだな? ガンジョーよ」


 シルフィアが挑発的な視線を俺に送って来る。

 その答えはもちろん『イエス』だ。


「大丈夫、シルフィアの大切な家具もちゃんと守る」


「その心意気は良し。だが……」


 シルフィアはまたも俺から視線を逸らし、自身の指と指と落ち着きなく絡ませながら言った。


「家も家具も後からいくらでも直せる。どれも手直しを続けて作り上げた代物だからな。だから、そのぉ……あまり私の家を優先して危険なことはするなよ。お前はマホロや街にとって大切な存在らしいからな。何かあっては困る、私も含めて……」


 まさか、俺のことを心配してくれるとは……!

 完全な不意打ち、予想外の言葉に俺の庇護欲(ひごよく)が一気にかき立てられる。


 今、マホロがシルフィアに強い執着を見せる理由がわかった気がする。

 彼女は知れば知るほど『守りたい』と思わせられる……!


「心配してくれてありがとう。無茶をしない範囲で、君の家は必ず守る。もちろん、シルフィアのことも守ってみせるよ。安心して俺たちの街に住んでほしいからね」


「うむ……。なら、良いのだ」


 シルフィアはうんうんと納得したようにうなずく。

 そんな彼女の手をマホロが握った。


「行きましょう、シルフィアさん! 家を運んでいるガンジョーさんからは、少し離れておいた方がいいと思いますから」


「おっ、おお……わかった」


 流石はマホロ、わかっている。

 これからもう一度巨大化(ビッグボディ)を使って、リニアトレインまで木を運ぶからな。


「みんなは先にリニアトレインへ。俺が木を運んでる間は戦えませんから、安全な車内で待機していてください」


 俺の呼びかけでみんなが移動を開始する。

 十分に離れた後、運搬開始だ。


 究極大地魔法は植物に干渉出来ないが、木の根を土の中に含まれている異物として認識することは出来る。

 それを利用して木から伸びている根の範囲を認識し、それに沿って地面を切り離す。


「思っていたより根の範囲が広くない。これなら貨車を少し作り変えれば載せられそうだ」


〈運搬する物体のサイズに合わせ、巨大化(ビッグボディ)を行います〉


 ガイアさんと連携し、テキパキと手順をこなしていく。

 おかげで大地から切り離した運搬物をリニアトレインまで運ぶのに五分とかからなかった。

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