第65話 ゴーレムと密林探検隊
リニアトレインのスピードはおそらく元ネタのリニアモーターカーほど速くはないだろう。
それは技術の問題というより、距離の問題だ。
自分の足で越えていくには遠い遠いジャングルも、リニアトレインの尺度では近すぎる。
トップスピードに入った後は、安全に停止出来るように少しずつ速度を落としていく。
加速前は聞こえていたマホロたちの声も、加速後は聞こえなくなった。
リニアトレインのスピードに絶句しているんだろう。
まさにあっという間にジャングルが見えて来る。
「定刻通りにただいま到着!」
定刻なんて決めていないが、一度言ってみたかったので言う。
安全にジャングル側のプラットホームで停止した後、客車のドアを開く。
だが、マホロたちはなかなか降りて来る気配がない。
「まさか……気絶してないだろうな……」
俺は先頭車両としての役目を終え、プラットホームに降り立つ。
すると、マホロたちもよろよろと客車の中から出て来たところだった。
「ああ、良かった……! ごめん、俺の走り方が悪かったかな……」
「い、いえ、ガンジョーさん……! 全然揺れませんでしたし、酔ってもいませんよ……! ただ、すっごいスピードにみんなビックリしてるだけです……!」
ノルンも含めて降りて来た乗客たちは目を見開いている。
まあ、生まれて初めて乗った列車がリニアトレインなら、こういう反応になるかも。
「すっげぇ……! 本当にあのカラカラの荒野の果てに青々としたジャングルがあったんだ……!」
ヘルガさんは両手を広げてジャングルを受け止めるような仕草を見せる。
この中でジャングルに始めて来るのはマホロとヘルガさんだな。
俺も初めてジャングルをその目で見た時は驚いたものだ。
「メルフィはいつも食べ物を手に入れるためにここに来て、ノルンは私を追ってこのジャングルにいたんですね。そして、ガンジョーさんも……」
マホロはギュッとウィンドショベルを握りしめる。
「ジャングルの熱気を実際に感じると、とても過酷な環境だとわかります。だからこそ、私のために頑張ってくれるメルフィやガンジョーさん、私を追って来てくれたノルンへの感謝の気持ちが強くなります……! いつもありがとうございます!」
「ふふっ、どうしたしまして! でも、今日はマホロもその一員さ。ヘルガさんのために、そして寒い冬に備えてみんなに温かい革を作ってもらうために、一緒に頑張ろう!」
「はい!」
覚悟が決まったところで、ジャングル探検開始だ。
リニアトレインの車両は頑丈に作ってあるので、魔獣に多少遊ばれても壊れはしない。
そのままプラットホームに置いていく。
「みんな、出発前にも言ったけど俺から離れて単独行動はしないように。手分けして探した方が効率が良さそうに思えるけど、それで怪我人や犠牲者が出たら意味がない。安全なジャングル探検を心掛けるんだ」
「「「はいっ!」」」
女性陣三人の気持ちのいい返事が返って来る。
しかし、何か足りないような……。
「……ノルン? 聞いてるか?」
人間の言葉を理解し、いつも返事をしてくれるノルン。
しかし、今回は俺の言葉に耳を貸さず、あたりをキョロキョロ見渡したり、いろんなところの匂いを嗅いだりしている。
魔獣の縄張りの警戒をしてくれているのか……?
「……ニャ!」
ノルンがキッとジャングルの奥を見据える。
そして、ノルンはそのまま単独で走り出してしまった!
「ノルン!? どうしたんだ!?」
「ノルン、離れちゃダメだよ!」
俺とマホロの呼びかけに、ノルンは一度立ち止まって振り返る。
だが、またどこかへと走り出してしまう。
「仕方がない! はぐれるわけにもいかないし、全員で追いましょう!」
俺の提案にみんなうなずいてくれた。
ネコらしいマイペースな一面を見せることもあったが、危険性を十分理解しているであろうジャングルで単独行動とは……よほど譲れない理由があるんだな。
一緒に生活して来たからわかる。
ノルンの行動はわがままでも脱走でもない。
何かを俺たちに伝えようとしてるんだ。
まさか、ヘルガさんが求める植物の場所をもう知っているとか……!?
その可能性は高い。ノルンは時折俺たちの方を振り返って、ちゃんとついて来ているかを確認している。
俺たちをどこかへと導いているんだ。
体力に自信がないヘルガさんの調子を確認しつつ、必死にノルンを追う。
そうして、たどり着いたのは……。
「家……? 木の上の……ツリーハウスか?」
ノルンが立ち止まった場所には、木の上に作られた家があった。
木の形を尊重して建てられた家は、内部を木の枝や幹が貫通している。
しかし、これは明らかな人工物……。
つまりはこのジャングルに誰かが住んでいるのか……!?
「ニャアァ~~~~~~ッ!!」
ノルンが仲間に呼びかけるような雄叫びを上げる。
すると、ツリーハウスの中からドタドタと音が聞こえ、玄関の扉が開いた。
「ノルンかッ!?」
扉の向こうから飛び出していたのは、十代後半くらいの少女だった。
でも、ただの少女じゃない……!
髪の色が左右で分かれ、目の色も左右で違う。
さらに髪に隠れていない左耳は鋭く尖っている。
エルフ――俺の頭の中にその文字がよぎった。




