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第64話 ゴーレムと出発進行

「仕組みは単純明快……その風の装具たちはこのメタルゴーレムの体と魔力回路接続(サーキットリンク)してるんです。だから、風魔鉱石の使用で消費されるのは俺の魔力なんです」


 この街の魔鉱石のほとんどを魔力回路接続(サーキットリンク)した地の魔宝石の魔力で動かしているのと原理は同じだ。

 等級Aの魔鉱石の魔力消費が大きいなら、豊富な魔力を持つ俺が負担する。


 逆に言えば、俺の魔力にも限界はあるので、使いたい放題というのは少々言い過ぎたかも?

 でも、メタル化してから保有出来る最大魔力も上がっているし、よほど派手に魔法をぶん回されない限り大丈夫なはずだ。


「流石はガンジョーさんです! でも、ガンジョーさんを困らせないよう、そもそも危険な目に合わないように行動しようと思います! 新しいショベルも大切に使います!」


 マホロがウィンドショベルを高々と掲げる。

 相変わらず物分かりがいい子だ。


「ジャングルでは危険な行動をしない……まずそれが大前提です。風の装具の効果は実際にジャングルの魔獣と戦ってみて、十分に通用することを確認済みです。ですが、時には通常の個体より強力な魔獣と遭遇する可能性もあります。単独行動は控え、俺と一緒に行動してください。俺がいれば、大抵の魔獣はどうにかしますから」


「アンタ……カッコいいね!」


 ヘルガさんが少女のようにキラキラと目を輝かせる。

 風の杖を受け取った時、ヘルガさんは戦闘が起こることを想像して不安そうな顔をしていた。


 そもそも争い(ごと)が苦手な人なんだろう。

 相手が人間であろうと、魔獣であろうと……。


 少なくとも、近くにいてくれれば俺が魔獣から彼女を守れる。

 メタルゴーレムのパワー、重量、機動力が生み出す戦闘能力はすさまじい。


 通常の人間以上のスピードで鋼鉄の塊が殴りかかって来ることを想像すれば、その強さがわかりやすいだろう。おまけに魔法まで使えるしな。


「アタシもジャングルではガンジョー神の言うことを絶対に守るよ。足を舐めろと言われたら舐めるし、脱げと言われたら脱ぐ!」


「ヘルガさん……子どもの前ですんで……」


「あっ、アハハハ……ッ! いやぁ、ごめんごめん! 慣れないジョークなんて言うもんじゃないな!」


 ヘルガさんは頭をかきながら『こりゃ反省』といった仕草を見せる。

 本当にジャングルに行けるとわかって、彼女のテンションが爆上がりしていることが伝わって来る。


「私が考えるようなこと、ガンジョー様が考えていないわけがありませんでしたね。出過ぎたことを申しました」


「いえいえ! 実はこの方法を思いつくのに結構苦労しましたから……! これからもメルフィさんの助言を頼りにしてますよ。皆さんは俺にとってこの世界の先輩ですから」


 とりあえず、これで全員に風の装具が行き渡ったし、ジャングルで守るべき行動も伝えられた。

 後は現地で何が起こるか次第だ……!


「それでは、乗客の皆さんはプラットホームから客車に乗り込んでください。俺は先頭車両になりますので」


 我ながら『先頭車両になりますので』という言葉は、まだ慣れずに笑ってしまいそうになる。

 人間のままだったら絶対に言う機会がない言葉だ。


「よろしくお願いします、ガンジョーさん!」


 乗客となる三人と一匹が乗り込み、扉が閉まったことを確認してから先頭車両となる。

 長き苦悩の末に俺がたどり着いた体勢は……体育座りだ!


 地面に座って膝を立て、その膝を両腕で抱え込んで完成する学校ではお馴染みの姿勢。

 普通に胡坐(あぐら)をかいた方が楽だし健康にも良さそうと感じる謎の姿勢……!


 しかし、その姿勢を横から見ると新幹線みたいなシルエットになっている。

 足の先端から受けた風を斜め上に受け流し、空気抵抗を減らせそうな形に……見える気もする。


「ガイアさん、連結と開門をお願いします」


〈了解しました〉


 先頭で体育座りになった俺の体が浮遊し、お尻のあたりで車両と連結する。

 そして、落とし格子の門が上へと引っ張り上げられ、進むべきレールを(さえぎ)る物がなくなる。


〈微速前進――〉


 ゆっくりと車両が動き、防壁の外へ出る。

 だが、まだ出発進行とは言えない。


〈レールに放電を行います〉


 街からジャングルまで敷かれたレールの全体にビリッと電流が流れる。

 これにより、レールの上に障害物がないかチェックし、魔獣の場合は軽い電気ショックで追い払う。


〈障害物クリア――続いて電気防護柵を展開します〉


 レールの左右の地面に格納しておいた三メートルほどの金属製ポールが、ガシャンガシャンと音を立てながら一斉に飛び出してくる。

 そして、ポールとポールの間にはバチバチと電流が流れ、走行中に魔獣が侵入してくることを防いでくれる。


「ちょちょちょちょ! どんだけいろんなもん作ってるんだよ……!?」


「私の知らない発明品がこんなに……!?」


 ヘルガさんとマホロの声が客車から聞こえてくる。

 客車の防音性に問題ありだな……という冗談は置いといて、この魔獣()けの数々もここ数日の準備に含まれているものだ。


 そう、あれはジャングルまでレールを敷設したところで体育座りの姿勢を思い付き、試運転がてらそれで街まで走って帰ろうとした時――俺は線路に侵入していた魔獣を()きかけた。


 今まで魔獣の命をいくつも奪って来たし、それを食べて街の人々の(かて)にして来た。

 だから、魔獣を轢いたところでそれを回収し、またみんなの食料にするだけ……とは言えない。


 リニアトレインは速い。大型の魔獣にぶつかりでもしたら、内部への衝撃は計り知れない。

 ただでさえ座席にもクッション性がないんだから、こちらとしても事故は避けたいんだ。


 ゆえにこの魔獣避けを作り出した。

 これなら安心安全な走行を約束出来る!


〈進路オールクリア〉


「リニアトレイン、出発進行!」


 今、体育座りのゴーレムが加速する――

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