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第62話 ゴーレムとリニアトレイン

〈試作一号をベースにリニア仕様の客車を作成します〉


 ガイアさんが作り出した客車の3Dモデルは……俺とマホロが力を合わせて作った試作一号から車輪を取っ払い、代わりに分厚い金属板のような物が取り付けられていた。


〈下部に取り付けた魔動磁石とレールの間に発生する磁力によって車体は常時浮遊します。走行時も乗り降りの際も浮遊しています。地面と接触するのはリニアを使用しない完全停車時のみです〉


 常時浮遊……!

 まさに魔法の乗り物って感じになって来た。


〈レールの形状に変更を加える必要はありません。『ガンジョー』によって作成されたレールは最適の物です〉


「あ、ありがとうございます」


 ガイアさんからお褒めの言葉をいただいた。

 これでレールと客車の形状は決定だな。


「とりあえず創造(クリエイト)しておこう」


 3Dモデルから実物を作り上げる。

 客車に関しては試作一号の車輪を外して、レールに合わせて横幅を広げるだけで済んだ。


「ガンジョーさん! もうすでに車体が浮いてますよ!」


「本当かい?」


 マホロと一緒に車体の下を覗き込むと、確かに車体はレールと接触していない。

 魔法の磁力によって完全に浮遊しているんだ!


 今は完全停止状態なわけだから浮かせる必要はないが、これも浮遊しているところを見せたいというガイアさんの粋な(はか)らいかも。


「この調子で貨車も作っておこう。一度の往復でたくさん物資を運べるように三両くらいあればいいかな」


 貨車はその名の通り荷物を乗せる車両だ。

 形状は屋根がない開放型にする。


 元いた世界の駅に立っているとたまに見かける貨物列車――そこに積み込まれているコンテナたちも、雨や風に晒したくない物資を運ぶ時には適した形状だと思う。

 でも、この荒野に雨は滅多に降らないし、ジャングルから持ち帰る物は植物か木材だ。

 密封して運ぶ必要はあまりないだろう。


「客車一両、貨車が三両……これで車両は合計で四両になったな」


「列をなす車両……これがまさに列車というわけですね!」


 結果として車両の大きさは路面電車くらいになり、間近で見るとかなり迫力がある。

 こんな立派な列車の先頭になるのが……俺だ。


 レールの形が変わっているので、仁王立ちで走る訳にもいかない。

 どんな体勢で走るのか……考えておかないとな。


「こいつの呼び方を統一しておきたいな。リニアモーターカーが元ネタだけどモーターなんて積んでないし、電車や列車というのも少し違う……。シンプルに『リニアトレイン』でいこうか」


「いいですね。とても馴染みやすい響きです!」


 マホロのお墨付きをいただけたので、今日から目の前の乗り物は『リニアトレイン』だ。

 もし俺の元いた世界に同じネーミングの乗り物がすでにあったとしたら……存在する世界が違うので許していただきたい。


「ここまでやったら、門の方も改修しておくかな」


 夜を前にして街は薄暗くなり、灯籠(とうろう)が温かな光を放ち始めている。

 あまりガシャガシャ音を立てる時間ではなくなってきたが、門扉(もんぴ)の改修くらいならそう音は出ない。


 リニアトレインが出入りする東の門は、上から格子(こうし)状の門を落とす『落とし格子』に変える。

 本来は鎖で吊り上げるみたいだけど、俺たちはここでも磁石の力を使う。

 磁力によって上に引っ張り、磁力を弱めることで下に落とす。


 安全対策として、上に引っ張り上げた状態では物理的なストッパーも用意。

 格子の隙間に引っかかるような突起を、魔法の力で飛び出させて固定するんだ。


 もし大きなトラブルで落とし格子への魔力の供給が断たれても、すでに飛び出した突起は魔力と命令なしじゃ引っ込まない。

 これで予期しないタイミングで落ちて来る心配はなくなる。


 そして、東以外の門に関しては形状はそのまま、施錠の仕方を電磁ロックに変更する。

 次からはかんぬき(・・・・)をいちいち動かす必要はなくなるな。


「よし、今日はかなり作業が前に進んだな」


「後はレールをジャングルまで敷いて、ガンジョーさんが先頭車両になればリニアトレインは走れますもんね! これは明日にでもジャングルに行けるんじゃないですか!?」


 マホロは街の外へ出てみたくてウキウキしている。

 しかし、今マホロが言ったこと以外にも、やらないといけないことはまだあるんだ。


「マホロ、もうちょっとだけ準備の時間がほしいんだ。それまでおとなしく待っててくれるかい? 待っててくれたら……ヘルガさんと一緒にマホロもジャングルに連れて行くって約束するよ」


「本当ですか!? やったー! 私、ちゃんとおとなしくしてます!」


 ピシッと背筋を伸ばし、『気をつけ!』の姿勢になるマホロ。

 幼い彼女を危険な魔獣が棲息(せいそく)するジャングルに連れて行くなんて約束……安易にしてはいけない。


 でも、生活のほとんどを防壁の中で過ごしていると、とても窮屈(きゅうくつ)な気分になるのはわかる。

 まだ幼いからこそ、いろんな景色を見せてあげたい。

 そのための作戦はすでに考えてあるんだ。

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