第54話 ゴーレムと久しぶりの教会
ラブルピアに朝が来た。
新たな名を与えられて初めての朝だ。
天候は快晴。いつも通りカラッとした空気が吹き抜ける。
朝日を浴びて白い灯台は輝いているように見えた。
太陽が出ている間は光を放つ必要がないので、レンズの中の炎の勢いは弱めている。
でも、消えているわけではない。
なんてったって『消えない炎の灯台』だし、曇りの日なんかは昼間でも光を放つ機会があるだろう。
「さて、マホロが来たら骨壺を埋めて、埋葬を完了させるかな」
それはひとまず霊園が完成したことを意味する。
なので、一緒に霊園を作って来たマホロがいる時にした方がいいと思ったんだ。
俺の想いを知ってか知らずか、いつもより早めにマホロが霊園にやって来た。
「ガンジョーさん、おはようございます! 霊園の門を開けてください!」
霊園の門も金属製だけど、防壁の門と違ってこっちはオシャレな洋館にでも設置されていそうな柵の門扉だ。
柵ということで金属の棒と棒の間に隙間があるし、門扉越しに中の様子も伺えて会話もしやすい。
施錠に関しては門扉の中央に取り付けられた金属製のかんぬきで行っている。
そう、昨日までは――
「うわっ!? 門がひとりでに開きましたよ……!?」
マホロの『開けてください』の言葉に反応して門が開いた。
よし、実験は成功だな。
「おはよう、マホロ。驚かせてごめんね」
「その反応……ガンジョーさんの仕業ですね! 一体どんなカラクリなんですか?」
「原理としては、灯台のエレベーターと同じ電磁魔動式さ。門扉からかんぬきを取り外して、代わりに磁力でロックするようにしたんだ。開く時も磁力を使うことで、触れずとも出入りが出来るというわけさ」
「なるほど……! それは物を運んでいて手が使えない時とか便利ですね!」
「そうそう! 開閉はさっきのマホロの『開けてください』とか、言葉を使うだけでいいんだ。どの言葉に反応するのかは調整中というか、動作を管理する地の魔宝石の学習次第になるけど、よほど変わった表現をしない限り、いろんな言い方で開くと思うよ」
「この仕組み……防壁の門にも使えそうですね!」
「ああ、早速今日にでも実装するつもりさ」
そうしてマホロを霊園に招き入れたところで、外に出していた骨壺を埋めていく。
その後、今日埋葬したお墓に一つ一つ手を合わせ、霊園はひとまずの完成を見た。
ズラッと並んだたくさんの墓石は、見るたびに込み上げてくるものがある。
ここに眠る彼らに対して、俺は出来る限りのことをして来たつもりだ。
どうか安らかに眠れるように……そう祈り続けよう。
「では、防壁の中に戻りましょう。ぐんぐん育っている教会の裏庭の植物たちを見てほしいです!」
「おっ、それは楽しみだなぁ~」
ずっと防壁の外で活動していたから、久々の帰宅となる。
防壁の門の電磁化は後回しにして、まずは教会に向かう。
その道中で出会う街の住人たちは、みな元気そうにしていた。
まだ食べ物が十分ではないのでやせてはいるが、生活に豊富な水が使えるのはやはり大きい。
水が生命の源だということを実感するばかりだ。
「教会の扉も電磁化しますか?」
「はははっ、それも悪くないね!」
上機嫌で教会の扉をノックすると、「開いてますよ」という返事があった。
扉を引いて中に入ると……そこにはメルフィさんと見知らぬ女性がいた。
「おかえりなさいませ、ガンジョー様。霊園の完成、お疲れさまでした」
「ありがとうございます! ……あの、そちらの方は?」
俺が見知らぬ女性を示すと、女性の方も俺が誰だかわからないようで、首をかしげていた。
勝気そうなつり目に短い赤髪、細身で身長はメルフィさんより高いが俺ほどではない。一七〇センチくらいだろうか?
それと俺は彼女のことを見たことがあるような、ないような……。
この街の住人の顔はすべて一度は見て、ゴーレムの高い記憶能力で覚えてもいる。
なのに、彼女の顔は何ともピンと来ない。
とはいえ、新しくラブルピアに流れ着いた人がいたという話も聞かないし……。
「アンタが……ガンジョー? 何か前に見た時と全然違うような……」
赤髪の女性が口を開いた。
少しかすれ気味のハスキーボイスだ。
真っ赤な髪にシュッとした顔立ちとスタイル、そしてこのカッコいい系の声……。
俺が元いた世界なら、ガールズバンドのボーカルをやっていそうな雰囲気がある。
まあ、ちょっと俺の独断と偏見が入った印象だけどね。
「いや! アンタ偽物だろ! 絶対こんなんじゃなかったって!」
俺がのほほんと彼女の印象について考えている間に、赤髪の女性は声を荒げ、ビシッと俺を指さした。
そんなこと言われても、俺はこの世界に来てからずっとゴーレムで……あっ!?
そうだ……メタルゴーレムになって見た目変わってるんだった!
「これはいろいろ事情があってですね……! 見た目は変わってますけど、俺はガンジョーなんです! 前にトロールのステーキとか、大水路とか作ってた時のガンジョーと同一人物なんです!」
ここで究極大地魔法を使って何かを作ってみるとか、実は戻ろうと思えば前の姿にも戻れるので、戻ってみせれば良かったのだが……テンパっていた俺はその場しのぎの言い訳が出てしまった。
これでは信用されないどころか、ますます疑われてしまう……!
「なんだそうなのか! 疑って悪かった!」
女性はニコッと笑って、納得してしまった。
信じやすい人なのか、それともトロールのステーキとか大水路に触れたから信じてくれたのか?
でも、過去に俺がやって来たことを知っているということは、彼女はずっとこの街にいた人ということになる。
それだと、その顔にピンと来ない理由がわからないんだよなぁ……。
「あのさ、今日はアンタにお願いしたいことがあって教会まで来たんだ。まあ、まずはゆっくり私の話を聞いてくれよな!」
聞く前提で話を進める女性……。
まあ、いろいろ気になることがあるし聞くんだけどね。
「おっと、その前に自己紹介だな。アタシはヘルガ・カルナブルス! アンタのおかげで復活を果たした革細工職人さ!」
そう言って赤髪の女性は、俺にピースサインを見せつけた。




