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第45話 ゴーレムと灯台計画

「もうじき日が暮れて暗くなる。本格的に動き出すのは明日からってことにしたいが……とりあえず、灯台のコンセプトだけは聞いておきたい。一体、どんな灯台を建てたいんだ?」


 そう問いかけて来るおじさんの顔はやる気に満ち溢れていた。


「コンセプトは人と魂を導く灯台です。荒野をさまよう人たちを瓦礫の街に導き、倒れた人の魂を天へと導く鎮魂の塔……それが消えない炎の灯台です」


 マホロの言葉に、おじさんはふむふむとうなずく。


「大きさはどれくらいを考えてる?」


「にわか知識ですけど、石造りの灯台は四十メートルを超えていれば十分と聞きます。なので、ここの灯台もそれくらいの大きさがあれば十分かなと」


 大きさについては俺が答える。

 おじさんは「なるほど……」と言って、数秒間腕を組んで考え込んだ。


「……四十メートルあれば灯台は立派なもんだ。ただ、この荒野に建てるのなら、もう少し高さがあってもいいと思う。というのも、海の近くに建てる灯台ってのは、小高い岬に建てて海面からの高さを底上げしてるんだ。でも、この荒野はほとんどまっ平だろう?」


 確かにこの荒野はほとんど起伏がなく、平坦な地面がどこまでも続いている。

 そこに灯台を建てると、光が届く範囲は完全に灯台の高さに依存する……。


「この荒野は広い……。光を生み出す光源の種類にもよるが、四十メートルだと光が届く範囲がかなり限られる気がする。それは旦那にしてもお嬢ちゃんにしても不本意だろう」


「どれくらいの高さまで……建てられそうですか?」


 俺は本質に迫る質問をする。

 高ければ高いほど、光の届く範囲は広がる。


「世界には百メートルを超える灯台もあるという……。長年ここに住んでいるが地震が起こる地域ではないし、台風や長く続く大雨もない。皮肉にも人が住むのに適した土地ではないが、巨大建造物を作るのには適している土地だ」


 百メートル……想像もしてなかった。

 建てる目的を考えれば、高いに越したことはないのはわかっている。


 でも、百メートルと聞くと少し怖気づいてしまう。

 ガイアさんの究極大地魔法で、それだけの大きさの灯台を、何があっても倒れない強度で作り上げることが出来るか……?


〈可能です〉


 可能だった。

 ガイアさんがそう言うなら、俺の返事はただ一つだ。


「建てましょう、百メートルの灯台を! 人と魂を導き、この街の復興を象徴するシンボルになるような、大きくて立派な塔を!」


 マホロとおじさんは俺の言葉を聞いて満面の笑みを見せる。

 実際に灯台を建てるのは俺とガイアさんの魔法だ。

 だから、二人とも俺の力強い言葉を聞きたかったんだ。


「じゃあ、俺は早速家に帰って設計図を作ってくるとしよう! それをみんなで見ながら、より理想の灯台に近づけていけばいい」


「ありがとうございます、おじさん」


「なぁに、礼を言いたいのはこっちの方さ。やっぱ、新しい物を作るってのは……いいもんだな。ああしよう、こうしようと考えるだけで心が(おど)る。実物が出来上がっていく(さま)は、前に進んでいることをハッキリと実感出来る。おかげで過去を振り返る暇がなくなりそうだ!」


 おじさんはそう言って霊園から街へ帰る……ところで振り返った。


「ちなみに灯台の光源には何を使うつもりだ? まあ、旦那が廃鉱山から持ち帰って来た等級が高い光魔鉱石なら十分だが……」


「灯台の光源には、おじさんからいただいたこの腕輪の魔宝石を使おうと思います。これがふさわしい使い道だと思いましたので」


「人と魂を導き、この街を見守る……か。へへっ、俺の息子にはちと荷が重いかもしれねぇが……そう考えてくれるのは本当に嬉しい限りだ。ぜひ使ってやってくれ!」


「はい!」


「具体的な話をするなら……灯台の光源として、火魔鉱石は適しているとは言えない。あくまでも炎を生み出す鉱石だからな。光を生み出す専門である光魔鉱石には及ばない。だが、魔宝石となると話は違う。炎の特性を繊細に制御すれば、遠くまで届く灯火(ともしび)を生み出すことが出来る。そこらへんのやり方は……旦那に一任しても構わないよな?」


「ええ、どこまでも照らす灯火を生み出して見せます」


 火の魔宝石のサイズは大きくないが、この街には地の魔宝石がある。

 魔力回路(サーキット)によって二つの魔宝石を接続(リンク)すれば、火の魔宝石の力を何倍にも引き上げられるはずだ。


「おっと、楽しい話をしてたらすっかり暗くなっちっまったな」


 太陽は西の地平線に沈んで、霊園は灯籠に照らされていた。


「ここからの話はまた後日……俺の設計図が完成してからにするとしよう。正直、人生で一番の大仕事だから、あんま急かさず気長に待ってくれると助かる!」


「もちろん、いくらでも待ちますよ」


「私たちはその間、さらに埋葬を進めていきますから!」


 話し合いを終えたマホロとおじさんは街へと帰って行った。

 俺は今日廃鉱山から運んで来てお清めを終えた遺骨を一晩見守るために残る。


「こうして見上げる空に、百メートルを超える灯台がそびえ立つのか……」


 まだ見ぬ巨大建造物に想いを()せ、俺はまだ(さえぎ)るものが何もない星空を見上げた。

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