第21話 ゴーレムと綺麗な水
少しの沈黙の後、ガイアさんの声が聞こえて来た。
〈結果:浄化能力を持つのはオアシスの砂です。日光から得た自然魔力を浄化の力に変換し、オアシスの水質を高いレベルで維持していると考えられます〉
ガイアさんは知りたかったことを端的にまとめてくれた。
この綺麗過ぎるオアシスの水を作り出しているのは砂が持つ力なんだ。
「ガイアさん、オアシスの底深くに魔力の塊みたいなものを感じるんだけど、それにはどういう力があるのかもわかったりします?」
〈そちらは超純度魔鉱石と考えられます。純粋な自然の力が固形化したような物質で、オアシスの水量を一定に維持する力を持っています〉
なるほど、その超純度魔鉱石のおかげでこのオアシスは枯れないということか。
〈さらにこの超純度魔鉱石は、瓦礫の街の大地から魔力を吸い取る存在でもあります〉
「なるほど……。そうじゃないかとは思ってたけど、この強大な力が……」
他から魔力を吸い取ることで、自分たちの領域から魔力を吸い取られないようにし、環境を維持しているんだ。
つまり、街の大地に注入した魔力を維持するためには、こちらも同じような自然エネルギーの塊……超純度魔鉱石を用意しなければならないか。
「ガンジョーさん、つまりどういうことですか?」
マホロが首をかしげながら尋ねてくる。
そうだ、マホロにはガイアさんの声は聞こえないんだったな。
俺はガイアさんの解説をそのままマホロに伝える。
「なるほど……! キラキラの砂とすっごい魔鉱石のおかげでこのオアシスは綺麗なんですね! でも、瓦礫の街の土をカラカラにしている原因にもなっていると……!」
「うん、要するにそういうことさ」
マホロのまとめは直感的でわかりやすい。
とりあえず、ここのオアシスは素晴らしく、残酷でもあるってことだ。
「とりあえず水を汚しても問題はなさそうなので、私は本格的に体を洗いますね!」
マホロは背の低い木から、ピンポン玉のような赤い木の実をもぎ取る。
そして、その木の実を両手で握り、頭の上でパンッと潰した。
破裂した木の実からはドロッとした白い液体が流れ出し、それがマホロの頭に降り注ぐ。
「この木の実から出る液体はシャンプー代わりになるんですよ」
わしゃわしゃと白い液体を髪の毛にもみ込んでいると、もこもこと激しく泡立ち始めた。
同時にちょっと懐かしさを感じるような甘い匂いが立ち込める。
ああ……確かにこれはシャンプーだ!
マホロは頭の泡を使って体も洗う。
泡はなかなかの強さで、体にこすりつけてもなかなか消えない。
おかげでマホロは全身泡だらけで羊みたいになっている。
「この調子でメルフィに頼まれた洗濯物も洗いましょう!」
持って来た洗濯物をオアシスにぶちまけ、水を十分に染み込ませた後、赤い実の液体を使ってわしゃわしゃとこすり洗いしていく。
「俺も手伝うよ」
俺にとっては相当小さい実を指で挟んでパチンッと割り、出て来た液体を使って衣服を洗う。
水の中で洗ってもたくさん泡が出るから、これは相当使いやすい部類の洗剤だ。
汚れは面白いように落ちる。
だが、泡はなかなか落ちないので、気合を入れてすすぎを行う。
「ふー、いい感じだ!」
「木と木の間にロープを張って、そこに干していきましょう」
干された洗濯物、荒野を駆け抜ける風に吹かれて揺れる。
日差しがいい感じに強くて空気が乾燥しているから、あっという間に乾くだろう。
「あぁ……とても爽やかな気分です……!」
洗い終えた体を洗濯物と同じように風で乾かしているマホロ。
もはや彼女の裸にも慣れた。
荒野のオアシスに堂々と立ち、風に吹かれるマホロの姿はまるで絵画のようだと思った。
元々鮮やかだった金色の髪は輝きを増し、まるで本物の金のような光沢を感じる。
だがしかし、マホロに見惚れ続けているわけにもいかない。
乾いた洗濯物を取り込んで帰るまでに、俺にはやりたいことがあるからだ。
「少しでもいいから、ここの砂を持ち帰りたいところだな」
日光がありさえすれば、浄化の力を発揮する砂……。
それはつまり、瓦礫の街でも力を発揮してくれるということだ。
屋外に砂を敷き詰めた水場を作れば、そこで体を洗ったり洗濯したりして水が汚れたとしても、しばらく待っていればまた綺麗な水に戻る。
そして、また洗い物に水を使うことが出来る。
とりあえず、教会の裏庭に池を作ってそこで運用試験をしたい。
俺のアイデアが上手く実行出来れば、瓦礫の街の人々はかなり清潔になり、生きる気力が湧いて来るだけでなく病気だって防げるようになるはずだ。
「水の入ったコンテナを一度開けて、砂も一緒に入れようかな……」
〈地属性物質ならば、体内収納を使うことで体内に保管することが可能です〉
「あっ、そういえばそうでした。じゃあ、収納お願いします」
〈了解――オアシスの砂を収納します〉
ギュウゥゥゥと足の裏から物質が体内に入り込んで来る感覚があった。
当然それはオアシスの砂。触れているのなら体のどこからでも収納できるんだなぁ。
〈実行終了。さらに多くの砂を収納すると、体のバランスが崩れる恐れがあります〉
「ありがとうございます。この量でおそらく問題ないです」
裏庭の池に敷き詰められるくらいの量は体の中に入った気がする。
背負った水と体内の砂で俺の体はだいぶ重くなってるが、まだ走行に問題はないだろう。
ガイアさんのサポートのおかげで、ゴーレムの体を使いこなせるようになって来ている。
それでも、まだまだ今は使えない力が眠っている実感がある。
次は何が出来るようになるのか……自分の体なのに他人事のように期待してしまう俺だった。




