第20話 ゴーレムと水浴び
「さて、オアシスに着いてまずやることは……」
……周囲の警戒だ。
オアシスは荒野に棲む魔獣にとっても貴重な水場。
ゆえにいつ魔獣と遭遇してもおかしくない危険な場所なんだ。
「私たち以外、生き物は見当たりませんね」
「ああ、どうやら相当運がいいみたいだ」
見える範囲に魔獣の姿は確認出来なかった。
ホッと胸をなでおろし、改めてオアシスそのものを観察する。
想像していたよりもずっと大きくて水量が多い……!
これはちょっとした湖と呼べるほどじゃないか?
それに覗き込めば底が見えるほどの透明度で水質はバツグン。
日の光を浴びてキラキラと輝く水面を見ていると、ザバンッと飛び込んでみたくなる。
オアシスの周りはサラサラの砂で囲まれ、まるで南国の砂浜のようだ。
砂地の外側には短い草が生え、ヤシのような木が生えているのも南国感を強めている。
「魔獣が来ないうちに水を汲んでしまいましょう。その後に水浴びと洗濯をします」
マホロの言う通り、魔獣が来る前に一番の目的である水の確保をしておくべきだな。
そうすれば、トラブルが起こってもすぐに逃走することが出来る。
「えっと、背中についてるコンテナに水を入れるには……俺の体ごとオアシスに入れてしまうのが一番簡単そうだな」
ということで俺はザバンッ……とはいかず、ゆっくりと水の中に入って背中のコンテナを水で満たし、形状変化でコンテナを密封した。
隙間もヒビもない、完全な一枚岩のコンテナだ。
水が入って体の重量はかなり増したが、この状態で激しく動いても水がこぼれることはない。
「よし、後は時間が許す限り水浴びでも洗濯でも構わないよ。ただ、このオアシス結構水深が深いところもあるから、遠くまでは行かないようにね」
「やったー! 久しぶりに水浴びですっ!」
マホロは服を着たままオアシスに突入した。
元気だなぁと見守っていると、水の中で次々と服を脱ぎ始めた……!
いや、水浴びするなら服を脱ぐ方が自然か。
マホロは俺の前で裸になることに抵抗がないようだし、俺がとやかく言う必要もないな。
……とは言っても、あんまりジロジロ見つめるのも悪い気がしてくる。
マホロの気が済むまでは、オアシスの周りの植物でも観察して……。
「ガンジョーさん、私のことちゃんと見ててくださいね! サラサラの砂に足を取られえて溺れたり、突然やって来た魔獣に襲われるかもしれませんから!」
「それは……確かに。ちゃんと見守ることにするよ」
砂浜に座って、心底嬉しそうに水を浴びるマホロを見守る。
子どもを海や川に連れて来た保護者が、子どもから目を離すわけにはいかない。
マホロが言っていることは正論だな。
それにしても、このオアシスの水……綺麗過ぎないか?
水の流れがない貯水池みたいな場所なのに、一切の淀みがない。
魔獣の水飲み場ともなれば魔獣同士の戦いが起こり、血が流れることもあるだろう。
周りには植物が生えているのだから、枯れた葉や熟れた実が落ちて水を汚すこともありそうだ。
なのに、このオアシスは透明で光り輝いている――
その理由にオアシスの底深くから感じる『謎の魔力の塊』が関係しているのだろうか?
それとも、この微弱な魔力を帯びているキラキラの砂に原因が……?
腰を落ち着けて自然を感じていると、いろんなものが見えてくる。
これもまたガイアゴーレムとしての力か……。
「ガンジョーさん……考え事してますね?」
気がつくとオアシスから上がって来たマホロがジーッと俺の方をにらんでいた。
「あ、ごめん……。でも、ちゃんとマホロのことは見てたから安心して」
「確かに目は私の動きを追ってましたけど、それはガイアさんの方ですよね? ガンジョーさんは真剣に考え事をしていたんじゃないですか?」
「はい、すいません……」
マホロを見守るという使命を、俺の代わりにガイアさんが体を動かしてやってくれていた。
1つの体に2つの制御系統があるからこそ出来る技だけど……マホロには見抜かれたようだ。
「このオアシスの水がやたらと綺麗なことが気になってね」
「確かに怖いくらいに綺麗ですよね。メルフィも言ってました。オアシスの水が汚れているのを見たことがないって」
考えていたことを素直に話すと、マホロはにらむのをやめてすぐ話題に乗ってくれた。
本当に素直で優しい子だ。
「いつも水が綺麗ということは、水そのものに綺麗になる力があるんでしょうか?」
「そういう可能性もあるか……。これは一度調べてみる価値がありそうだ」
水に力があるとしたら、ガイアさんでもその正体は掴めない。
あくまでも地属性のプロフェッショナルだからな。
でも、俺としてはここから水路を引いて、瓦礫の街を潤したい。
水の正体を探ることは、街にとっても大きな意味があるんだ。
やれる範囲で調査を行ってみよう。
「ガイアさん、このオアシスを調べてください。水そのものよりも、水を取り囲んでいる環境を」
〈了解、精査――――〉
俺の足元から発せられた光の波が、オアシス全体に広がっていく。
さて、この精査でどんな結果が出るか……!




