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(´・ω・`)ゴキに大苦戦……
基本子供達のペースに合わせて歩くのでゆっくりとした速度で村へと向かっている。
一人が俺の尻尾で宙ぶらりんとなってはしゃいでいたこともあり、道中で警戒が薄れたのか「かまえ、かまえ」とまとわりついてくる子らが出始める。
仕方なしに溜息交じりに肩に乗せてやるなどしてやったところ調子に乗り出すのがクソガキ共。
俺の背中のゴツゴツした部分に手をかけ登り始める者が現れた。
そして俺が前かがみになっていることを良いことに、頂上まで上り詰めた男の子が指を天に掲げて喝采を受ける。
お前は登山家にでもなったつもりか?
ともあれ、調子に乗る悪ガキを尻尾で捕まえ適当に左右にブラブラさせたところ小さな列ができた。
子供の順応性を侮っていたことを痛感させられた。
結局、村に着く頃には子供達に随分と気に入られてしまった。
(いや、どちらかと言うと「遊具」としてか? それとも「玩具」としてお気に入りに登録でもされたか?)
「もっと遊びたい」と名残惜しそうに声を上げる子供達と別れ、俺は6号さんに案内されて村を歩く。
そうして子供達が見えなくなったところで立ち止まり、こちらをじっと見る。
「正直意外でした。子供とはもっと距離を取ると思っていましたので」
言われてみれば、確かにその方が楽だった。
とは言え、そのおかげでこうして6号さんの笑顔が見れたのだから労働の対価としては悪くはない。
なので腕にかけていたリュックからメモ帳を取り出しスラスラとペンを走らせる。
「好きにやらせていただけだ」
意外な一面を見られた照れ隠しを装うと、6号さんがクスクスと笑う。
狙い通りの好感触。
これならばプレゼント攻勢もきっと上手く行くはずだ。
そう思って驚愕の視線に晒されながら歩くこと10分――辿り着いたのは恐らく彼女の家。
「うわ、ちょっとドキドキしてきた」などという考えは一瞬で吹っ飛んだ。
何故かと言えば、彼女のお家はそれはもう大きかった。
(結構有力な家柄なのは知っていたが、ここまで大きい必要はあったのかね?)
古い木造建築の二階建てだが、庭があり倉があり、別館も3つほど存在しているのが見えた。
そしてもう一つ、訓練場のような大きな建造物まで存在しており、どうやらそちらに向かっているようだ。
確かに俺の巨体では家の中には入れない。
そんなわけでそちらにお邪魔することになったのだが、中にいるエルフ達がぎょっとしていたのを無視して適当な場所に座り込む。
メキメキと床板が悲鳴を上げるが、天井も決して余裕があるわけではないので致し方なし。
招待されて地べたに腰を落ち着けるというのもどうかと思うのだよ。
しばらくここで待つように言われたので訓練中の野郎共の視線を浴びながらまったりとする。
贈り物を確認し、リュックの中からタンクを取り出し水を飲む。
誰も気を利かせて飲み物を持って来ないということはあまり歓迎されていないのだろう。
というか、こんな凶悪そうなモンスターを呼び込んでも平気というところに6号さんの立場を改めて認識する。
待つことしばし――6号さんが服を着替えてやってきた。
エルフが着ているいつもの服だが、そのスタイルの良さから別もののように見えてしまう。
そんな彼女の後ろには、それ以上に別物の服に見える体を持つげっそりとしたダメおっぱいが見えた。
これは好都合、と心の中でニヤリと笑う。
ダメおっぱいは俺を見つけるやこちらを指差し何かを叫ぼうとするも、その後ろにいた女性から脇腹を小突かれ「げぼぉ!」と出てはいけない声を出している。
「元気そうで何より」
ささっと書いた文字を見せてやると拳を振り上げたが、今度は肘が脇腹に刺さると痛みに負けてうずくまったまま動かなくなった。
「さて、聞きたいこともあるだろうが、まずは手土産を渡しておこう」
用意していたメモを見せ、まずは懐中時計の入ったケースを手渡す。
それを開けた6号さんは中身を確認すると怪訝な顔をした。
「これは……旧帝国の遺産ですか?」
俺は表情が曇った6号さんに頷くも選択を誤ったことを察する。
「話のネタになりそうなものを選んだつもりだったが」
「あまりこういう物を持ち込まれるのは困ります」
メモを見てそう返す6号さんだが、後ろに控えている女性がそこら辺の事情を簡単に説明してくれた。
「帝国との戦争で少なくない犠牲が出た。なのでこういう技術が使われている物は忌避される傾向にある」という既知の情報だった。
つまり、俺は完全に科学が否定されている世の中であることを忘れていたのだ。
これには思わず苦笑い。
こうなると下着のプレゼントも少し危ぶまれる。
宝石を持って来なかったことを後悔するくらいには窮地に立たされている気分だ。
「こういう物が好まれないのは理解した」
そう書いたメモを見せ、ダメおっぱいを手招きする。
状況を優位に持ち込むことはできなかったが、俺はそれで尻込みするような男ではない。
胡乱げな表情で俺に近づいた彼女にそっと用意していた箱を差し出すも、警戒して中を確認しようとしない。
6号さんに促されてようやく開けた中身を見てダメおっぱいが首を傾げる。
俺が箱の中にある本を指で差すと、こちらを警戒しながら注意深くそれを手に取り中を見る。
それを確認してから用意していたメモを取り出し、そっと開いているページの上に置いてやる。
「モデルになりたいと言うお前のために用意してみた。好きなだけ手に取るがいい」
そのメモを見た後、本をペラペラと捲り箱の中の下着を取り出すダメおっぱい。
最初に取り出したのが黒とは中々良いセンスである。
褒めてやりたいがそれをすれば調子に乗る。
ここは黙っているべきだろうと、反応を待っていると立ち上がったダメおっぱいが黒の下着を握りしめつかつかと俺に歩み寄る。
そして「キィエー!」という叫びと共に、座る俺の顔面に拳を打ち込んだ。
当然手を抑えて転げまわるダメおっぱい。
「そんなんだからダメおっぱいなんだよ」という言葉を飲み込み、俺は「何故殴られるのか?」と言わんばかりに首を傾げて見せる。
「どうせ、また、何か企んでんでしょ!」
あり得ない察しの良さに「こいつ本当にダメおっぱいか?」という疑問が生まれるが、なるほど教育の賜物かと後ろの女性陣を見て納得。
「純粋にお前という存在がどこまでいけるのか見てみたかった」
当然ダメな意味での言葉なのだが、早速ダメおっぱいが難しい顔をしながら騙されそうになっている。
やはりこいつはダメおっぱいで十分だ。
「アーシルーで遊ぶのはそれくらいにして頂けませんか?」
おっと、ここで6号さんからお叱りを受けた。
確かに多少は教育を施しマシになったと思われるこの問題児。
元に戻されてはたまらない、ということだろうか?
(まあいいか。こいつが教育程度でまともになるはずがない。いずれ俺の前で下着姿でポーズを取らしてやるさ)
それとなく「たくさんあるので貴女も如何です?」とそれとなく勧めてみたものの、6号さんはバッテンを作り「結構です」と笑顔で冷たい反応を見せてくれた。
ちなみに訓練場にいた男衆はその発言でわかりやすいほどに落胆していた。
なんだ、わかる奴もいるではないか。
これはそれとなく圧力をかけてもらうという選択肢も生まれており、まだチャンスは残されているとみるべきだろうか?
俺が真剣にその可能性を検討し始めたところで、6号さんが一つ咳ばらいをして仕切りなおすと切り出してきた。
「単刀直入に聞きます。あなたはあの地下に何があるか知っていますか?」
思ったよりも直球だったが想定内である。
なので俺もメモを走るペンの動きに迷いがない。
出来上がったものを彼女の前に差し出すと、それを手にして内容を読み上げる。
「『奥には入れないからこの目では見ていない。だが何があるかは凡そ見当が付いている』ですか……」
向こうもこの回答は予想通りと言ったところだろう。
少しつまらなそうな声が訓練場に響いたことで、場の空気が変わったように思える。
僅かな静寂――それを破り6号さんが口を開く。
「では、アレが何であるかは知っていますか?」
俺は黙って首を横に振る。
知ってはいるが教えるわけにはいかないことである。
俺がそうやって黙っていると、神妙な面持ちで6号さんから無視できない言葉を聞くことになった。
「あの場所にあったものは、生命への冒涜と言っても過言ではありません。私達はアレをこの世から消し去るべきだと判断しました。命を弄ぶのではなく作り変える――いや、あれは新たな生命を、種を作るための忌まわしい行為。それを我々は見過ごすことはできません。『禁忌』がそこにある以上、我々は動かなくてはなりません。協力して頂けますか?」




