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(´・ω・`)雨に降られて風邪ひきなう。前が見えない豪雨の前には傘なんていらんかったんや……
拠点に戻った俺は肉を焼きながら考える。
「どうすれば集めた下着を6号さんが身に着けてくれるか?」という難題を前に未だ答えを出せずにいる俺は、うっかり肉を焼きすぎるという職人にあるまじきミスを犯す。
言うなればそれほどまでに考え込んでいたわけなのだが、ダメおっぱいと違い知的な雰囲気を醸し出す6号さんを相手に舌戦など挑んだところで返り討ちは必定。
故にさり気なく、そして下心を気づかれずに着用してもらうには何が必要かを考える。
(やはり状況を利用するのが鉄板――ならば衣服が濡れた際にそれとなく一式を渡すというのが最良の案。しかしその状況をどう作る? 川にいる時に渡す? 不自然にもほどがある。ならば彼女の衣服がずぶ濡れになるような状況とは何だ?)
残念なことにこの土地は雨が決して多くはない。
仮に降ったとしても、森の中では自然が傘の役割を果たすので6号さんの衣服が着替えを必要なほどに濡れるというのは考えにくい。
口で丸め込むのは難しい。
状況を利用するのも難しいとなれば、後は「着てください」と頼む外ないではないか。
「それができたらどんなに楽か」と呟きながら、少し焦げた肉を口にする。
胡椒の量が大分減ってきているので補充も考える必要がある。
塩に関してはまだまだあるので大丈夫だが、思えば食糧事情の改善も未だ目標を達成していない。
問題が多い。
それを一つずつ解決していくはずだったのだが、次から次へと問題が発生する。
(いや、問題というより俺の欲求だ。帝国時代の記憶が今の俺を形作っているんだ。比較対象はどうあがいたところでそうなる)
結局本を持ち帰ることにしたものの、果たしてそれが「役に立つか?」と問われれば残念ながらわからない。
技術的な本に関してはフロン評議国に持っていくというプランもあるが、今の文明レベルがどの程度なのかを知っておかなければ公正な取引など不可能だろう。
またこちらの前に「誰が」出てくるかを考えるならば、化物相手だろうが物怖じしない彼女を相手にする場合、平然と俺をやり込めようとしてくるのは確実。
誠意というのは同じ人間同士でなければ適用されないのだ。
さて、思考を戻しつつ肉を食う。
真っ向勝負では分が悪い。
というより、下手を打つと俺がそういう目で見ていることがバレる。
それだけは何としても避けなくてはならない。
あくまで俺はモンスターとして彼女達と接する必要がある。
でなければ自然調和委員会である6号さんの興味を持続させることは難しい。
「いっそプレゼントとして贈るのはどうだろう?」
十分に過ぎるほどに咀嚼した肉を飲み込み呟く。
幸いにも俺が持ち帰った下着は密閉された箱の中にあったものなので見た目は新品のままである。
一つ一つが丁寧に包装されていたので多分お高い下着なのだと予想する。
「衣服の一種と思ってついでに贈る……いけるか?」
モンスターなのでその辺よくわかっていませんアピールをすればいけなくはないのではないか?
いや、しかしそれはわざとらしいのではないか?
このような葛藤を食事が終わるまで続けていたのだが、冷静に考えてみれば「下着を贈ってくるモンスター」というのはどのように映るかを考えた結果、俺はこの案を没にした。
しかし夜中の暇潰しに本を読んでいた時、水着姿のグラビアアイドルを見て閃いた。
「そうだ! 水着みたいなものだと思ったことにしよう」
それならば何の問題もないはずだ、と俺は大いに満足し、その夜はぐっすりと眠ることできた。
翌朝――んなわけあるか、と頭を抱える俺は昨晩の愚かな思考を放棄する。
(いや、悪くはないのかもしれない。だが6号さんが着てくれるかどうかは別の話だ)
こうなったらダメおっぱいで我慢しよう――そんな妥協が俺の頭を過る。
しかし、そこで俺の煩悩が新たな策を授けてくれた。
(そうだ。「ついで」にすれば怪しまれることはない!)
そう、本命であるはずの6号さんを「ついで」にしてしまえばおかしなことなど何処にもないのだ。
ダメおっぱいを前面に出すことで本来の目的を隠蔽する。
都合が良いことにアーシルーからは「モデルになる」という目標を聞いている。
ならばこれはその手伝いだ。
幸いこの施設にある本をまとめた本棚の中に、ファッション雑誌があったことを記憶している。
それを添えてやれば下着を贈ることの理由になり、そのついでに6号さんにも渡せば怪しまれることはないはずだ。
ブラのサイズはしっかりと事前に調査済みであり、6号及び8号のものをしっかりと揃えてきた。
残念ながら9号以上は基本オーダーメイドとなるため手に入らなかったが、ここにカモフラージュとして5号と7号も混ぜることにより「サイズを知られていた」という違和感を消す。
俺に裸を見られているのは二人も承知しており「大体これくらいというサイズをまとめて持ってきたのだな」と思われれば勝利である。
(……いける。これならば安心して手渡すことができる!)
やはり問題は着てくれるかどうかがわからないことだが、こればかりは最早運を天に任せるしかないないだろう。
ちなみに見ることに関しては「川で見ることができるんじゃね?」と難易度は低く見ている。
しかしそうなると裸を見ることができなくなりそうではあるが……そこは悪戯小僧共の出番である。
パンツすら脱がしてのける悪ガキなのだからブラの一つや二つ問題ではあるまい。
というわけで早速返礼用の箱を用意して下着を底に丁寧に詰める。
ファッション雑誌は一緒に入れておくが、懐中時計はケースに入れたままリュックの中に仕舞う。
こちらは手渡し用なので別なのだ。
後は事前に紙にセリフを書いておけば準備完了である。
贈答用と来客の着替え用に分けているので、この策が実らなくても次がある。
取り敢えず朝食がまだなので狩りをしよう。
地上へ出た俺は森の中で獲物を探す。
30分ほどで見事な鹿を確保し、戻って解体を済ませると今日も今日とて焼肉開始。
鉄板の上を見ながら紙に書く文面を考える。
そうして粗方書く内容が決まったところで肉はなくなり後片付けを始める。
食器等を自然乾燥に任せながら、メモが5枚出来上がったので一枚を千切って箱の中に入れる。
内容を簡潔言うと「ダメおっぱいだけにあげるのも何なので6号さんの分も入れといたよ。好評なら感想をどうぞ。また用がある時にでもついでに持って帰ってくる」というものだ。
一応これらは交換材料となるので食に彩りができることを期待する。
最後に宝石類だが……これは今回使わないことに決めた。
考えてみればこの手の値段がわかっていない。
加えて一度に色々と出しすぎるのもよろしくない。
以上の理由でこれはまたの機会となった。
そんなわけで後片付けも終わったので荷物を持ってエルフの里に向かって移動を始める。
時間的には少しゆっくり行けば川に6号さんがいる頃合いだ。
折角なので道すがら覚えた野草を確認しながら歩くとしよう。
そんな具合にゆったりとしていたら途中からしばらく全力疾走する羽目になった。
ゆっくりしすぎた結果がこれだよ。
こんな感じで川が近づいたところで速度を落としてこんにちは。
川に出た俺を待っていたのは6号さんとその後ろに隠れる子供達。
どうやらまだ悪ガキ共は勝利を手にしていなかったらしく、6号さんの濡れた肌着がピッタリと肌に張り付ている。
(白だからばっちり透けて見える。これもいいね!)
俺は心の中で親指を立て、6号さんに向かって軽く目礼をする。
それを見ていた彼女はホッと胸を撫で下ろす仕草を見せた。
(あ、そう言えば警報みたいなのがあったんだな。なるほど、それで子供達を後ろに逃がしたのか)
護衛とかいないのかね、と思ったがこの辺りにはエルフが苦戦しそうなモンスターはいない。
「アルゴス」なんていうモンスターはいるが、今の俺は紳士的であるから安心安全である。
「手紙は読んでくれたかしら?」
その場から6号さんが俺に声をかける。
俺は頷くと用意していたメモを取り出し川へと入る。
「中々良い果物だった。また食べたいのだが余剰はあるか? それと渡したいものがある」
このメモを見せた後、俺は一つここにこう書き足す。
「急ぎの用ではない。ここの用事を済ませてからで構わない」
それを見た6号さんが子供達を呼ぶ。
俺は距離を取って下流で体を洗ったり魚を獲ったりしていたのだが、終始子供達の視線を集めていた。
おかげで悪ガキ共が6号さんに挑むことがなく、最後まで脱がされることなく川での授業を終えてしまった。
そして着替え終わった彼女に声を掛けられ、俺はその場を離れる。
気が付けば結構な量の魚が石で囲っただけの簡易的な生簀にいたので、そちらを指差したところ「食べないなら逃がしてください」と怒られた。
怒られた俺がおかしいのか子供達が笑っている。
トボトボと生簀を壊す俺を見て警戒を解いたのか、その内の一人が駆け寄ってくる。
「お前ダッセーな!」
笑って指差すクソガキの足をしゅぱっと尻尾で掴み「逆さ吊りの刑」に処す。
だが怖がったり謝ったりするようなことはなく、声を上げて楽しんでいる。
こんなんでテンションが上がりまくるのだから子供というのはよくわからん。
逆さまでプラプラと揺れるクソガキがはしゃぎ、6号さんはどうすればいいのか、とワタワタしている。
エルフの子供の好感度を稼ぎつつ、俺は彼女の隣を歩く。
どうやら里までついて来て欲しいようだ。
懐中時計を渡すタイミングを逃してしまったが……まあ、向こうについてからで良いだろう。




