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(´・ω・`)残念ながらPCのスペックはしょぼい。今までずっと32BITの古いの使っててようやく64BITになったのよ。
痕跡がない、というのもおかしな話である。
場所は間違いない。
それならばその死骸がないのは何故か?
仮になくなっていたとしても、そこに「死体があった」という何らかの痕跡が残るはずである。
この奇妙な現象について、俺が出せる結論は二つ。
一つは遺伝子強化兵は死後、跡形もなく消え失せる――これに関しては技術の流出を防ぐためと思えば適切な措置である。
二つ目は第三者の介入。
つまり、誰かが死骸を持ち去り、ここには何もないように隠蔽を行った。
この二つのどちらかと思われるが、まさか自然に跡形もなく分解されるようなことが起こることはないだろう。
さて、この場合前者であるなら「俺が無駄足を踏んだ」というだけで済む話だが、後者となると何が起こるか想像できない。
しかしながら人間の上半身と、頭部のない大きな蜘蛛を見て、それらが一つであったと断定できる者がいるだろうか?
実物を見たことがあるならば話は別だが、そうでないなら関連付けたとしても、食われた人間と死んだ大きな蜘蛛である。
真実に近づくことはないだろうが、ここでもう一つの判断材料が出てくる。
洞窟にいた兵士達だ。
明らかに練度、士気の高い部隊をこんな辺鄙な場所で運用する理由とは何か?
もしも彼らが死骸を確保し、何らかの手段でその痕跡を抹消していたとしたら?
考えれば考えるほど不安になってくる。
技術的な漏洩はあり得ない。
だが、蜘蛛男の死体が有効利用されるのは避けたい。
何故ならば、彼が持っていた毒で俺は一度死にかけている。
他にも酸や糸は俺に対して有効な手段となりうるため、それらを再現――もしくは類似する何かを作られた場合のことを考えれば、放置しておくことはできない。
(面倒なことになったと嘆くべきか……それとも、事前に知ることができたことを喜ぶべきか?)
一番良いのは帝国の素晴らしき技術で事後処理が済まされていることだが、ここぞという時に期待を裏切りやがるのが我が祖国のお家芸。
「確認は必要である」という結論が出たところで俺は大きく溜息を吐く。
とにもかくにも怪しいのはあの洞窟。
厳重と呼べないまでも、明らかに僻地にしては不釣り合いの警備に「疑ってください」と言わんばかりの怪しさである。
となれば後は彼らの処遇をどうするか、である。
既にカナン王国とは敵対関係となっているので今更な話なのだが、脅威度を上げすぎて他の国と連携を取られるのも面白くない。
この程度ならば問題とは思わないのだが、お偉いさんやその関係者を殺してしまえばどうなるかはわからない。
結果として、エルフ達が動くようなことになるのが一番拙い。
ないとは思うが絶対ではない。
何より、蜘蛛男の情報を持ち帰っているであろうエルフ達に、この件を知られた場合どうなるかの予測がつかない。
「派手には動けんなぁ……」
この状況を一言で言えば「凄く面倒くさい」である。
放置するにはリスクが大きく、関与すれば蜘蛛男と何らかの関係があることが疑われる。
そして俺は隠密能力はあるが、洞窟という閉所では巨体故に隠れることが不可能に近い。
見つからずにことを平和的に進めるのは絶望的。
なので見つかることなく暴力的に解決しよう。
要するにここで「擬態能力」という手札を晒す覚悟でスニークミッションを行う。
苦渋の決断だが、最高と最悪を鑑みれば決して分の悪い賭けではない。
最悪さえ引かなければ収支はプラスに傾くはずである。
ちなみに最高の結果は蜘蛛男の死骸が保存されており、これを見つかることなく奪取に成功。
これを食らうことで三度目の夢を見ることである。
逆に最悪はと言うと――蜘蛛男の死骸がそもそもなく、擬態能力がバレた挙句に生存者を出して情報を持ち帰られる。
結果、俺という存在に対して疑惑を向けられ、そこにエルフが加担したことで帝国との関係が暴かれることである。
こうなれば世界の敵は必至であり、幾ら俺でも生存が危ぶまれる。
もっとも、何もしなければいずれタイムリミットが来てそうなるので、これに関しては遅いか早いかの違いだろう。
そんな訳で覚悟は決まった。
洞窟へと戻り、擬態能力を使用してテントを遮蔽物として近づき、周囲の人間の位置と距離を正確に把握する。
(外にいる兵士は全部で13人……思ったよりも少ないが、これを洞窟内の誰にも気づかれずに意識を奪うか殺害するって、結構難易度高くないか?)
何よりも位置が悪い。
全員がバラバラというわけではなく、三人がテントの中で休んでおりそれが三か所ある。
二人が洞窟の入り口の前に立っている。
残りの二人はバラバラに洞窟周囲を巡回しているようなので、まずはこちらからノックアウトしに行こう。
まずはウロウロしている二人を別々に首に手刀を落とすことで意識を奪うフリをして絶命させる。
次に洞窟の前に立つ二人に近づき、石を投げて音を立ててそちらを振り向いた直後に一人に腹パン。
吹っ飛んだ拍子に隣を巻き込み運悪く岩の尖った部分で頭部を強打。
一名即死、もう一名も腹部損壊につき死亡。
異変を察知される前に急ぎテントへと向かう。
しかしここで音を聞かれてしまい「何事だ!」と声を出して出てきた男を力業でテントに押し戻したところ、転んだ際に頭を強く打って気絶。
そして姿を見られるわけにはいかないので一枚の布を隔てた死角からの残る二人を攻撃。
全身打撲による死者一名、頭蓋骨陥没で一名死亡となりテント一つを攻略。
続けて隣を襲撃するが、どうやら仮眠中だったらしく出てくるのが遅かったがため、再びテントの中でご就寝となった。
潰れたテントに血の染みが広がっていく中、この状況でも最後の箇所からは人が出て来ない。
なので遠慮なく先ほどと同じようにテントごと潰す。
何故か死体はいずれもズボンを履いていなかった。
というわけで生存者が一名しかいなかったので、後顧の憂いを断つべく首を捻って前衛的なポーズを取らせて死亡理由を誤魔化す。
他の死体にも同様に武器を持たせるなどやってみたが、どう考えても無理がある。
(よし、パワーアップしたことで手加減がより難しくなったことがわかった。これは良い収穫だ)
負け惜しみ全開で頷きつつ、次は洞窟へと侵入する。
内部に入ると思ったよりも人の気配がなく、スムーズに奥へと進むことができた。
人がいないので死者も三人だけで済んだのは幸いだ。
ちなみに洞窟内では擬態能力を使用していても、照明となっている松明のおかげで動くとバレやすい。
なので後ろからか待ち伏せかの二択となる。
特にこれといった障害もなく、また見つかることもないまま奥の扉があった場所が見えてきた。
瓦礫は片付けられているが、俺が壊した時のままで見事な大穴が空いている。
そして部屋の中には男が三人――そして形を保ったままの蜘蛛男の人間部分が机の上に置かれていた。




