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7/4 狼のサイズを微調整


(´・ω・`)体高の数値見てたわ……

 最後にリュックの中身をチェックし、忘れ物がないことを確認するとそれを背負って昇降機の縦穴から地上に出た。

 間食用に果物も幾つか入れておいたので、箱の中身はもう半分もない。

 なので残りは拠点用に置いているクーラーボックスへと移し替えておく。

 予想以上に甘みが強く、高品質であることから中々の上物を貰ったようなので大切に食べていこう。

 戸締まりもきちんと行い、いざ出発――取り敢えず北東に向かいカナン王国へと入ることを目指す。

 洞窟の位置は凡そではあるが覚えている。

 しかし蜘蛛男を殺した場所は正確にはわからない。

 大体の方角と曖昧な距離しか記憶にはなく、月が出ていたとは言え夜中である。

 見覚えのある何かがあるとも思えず、探索は難航することを覚悟しながら森の中を駆ける。

 北側へ向かうのは久しぶりということもあってか、木々の間隔に少しばかり感覚が追いついていない。

 エンペラーという二人目を食ったことで能力が全体的に向上しており、そちらにも慣れなくてはならない。

「しばらくは速度を落として進む方が良いだろう」と折角なので周囲に注意しながら走る。

 もしかしたら未発見の研究所を見つけることができるかもしれないので、森の中を見ておくことは重要である。

 見つけたゴブリンを轢き殺しつつ北東へと移動していると、初めて見るモンスターを発見。


「おお……フォレストウルフの群れか。初めて見たわ」


 帝国時代では大変珍しいモンスターだが、こうして群れで見ると有り難みが薄れる。

 薄く緑がかった灰色の毛皮が非常に高価であった記憶があり、乱獲されたことで領内では駆逐されてしまったとされていたはずだ。

 体長は1.5m~2mほどと通常の狼よりも大きく、他種族に対して非常に攻撃的であり、同族以外を全て餌と見做す厄介なモンスターとして記録されており、それが原因で討伐されることが多かったために帝国では根絶させられたとテレビで聞いた記憶がある。

 つまり何が言いたいかと言うと――狼共が襲ってきた。

 全部で17匹いるようなので「半数も減らせば逃げるだろう」と最初に飛びかかってきたフォレストウルフの首を速度重視の小パンで叩き折り、俺の足首に噛み付いたのは尻尾で掴まえて木に叩きつける。

 その際に俺の足に突き立てられていた牙が音を立てて折れた。

 当然傷一つ付いていない――と思ったが、小さいけど痕が残っていたことを後ほど確認した。

 攻撃を止めない狼共の一匹を掴まえ、それを武器のように振り回して3体ほどノックアウトしたところで勝てないことを理解したのか後退を始める。

 こちらが追撃をしないとわかって引き上げていったが、死亡が4匹だけだったので中々の引き際である。

 きちんと統率された群れは帝国であっても危険と認識されていたので、きっと彼らはカナン王国の南下の良い妨げになってくれるに違いない。

 そう考えれば北側のモンスターはあまり駆除しない方が良いのかもしれない。

 但しゴブリン、お前はダメだ。

 人型のモンスターは下手に知能があるから帝国の遺産を利用する奴が稀にいる。

 それだけではない。

 使い方がわからず壊してしまうのならばまだしも、その価値も理解できずに遊びで破壊活動を行うゴミがいるのだ。

 だから連中は生かしておけない。

 見かけ次第に殲滅だ。

 そんなわけで害虫駆除も兼ねて森を見ながら走ったのだが、日が暮れた辺りでようやく感覚が馴染み始めた。

 問題はこれから夜が来るので速度を少し落とす必要があるということだ。

 幾ら夜目が利くと言えど、完全に馴染んだ状態とは言えない今の状態では、絶対にぶつからないという保証はないのだ。


(そう言えば、この辺りはいつも夜に通り過ぎているイメージがあるな)


 一度明るい時にここら一帯を探索するのも良いかもしれない。

 そんなことを考えながら、朝日が登るまで進み続けた。

 ということで久しぶりのカナン王国。

 見覚えのある街道を発見したので、まずは蜘蛛男と遭遇した洞窟を探す。

 途中「方向が逆だったかな?」とウロウロすることになったが、どうにかあの時の洞窟を発見――したのは良いのだが人がいる。

 しかも明らかに盗賊などの類ではなく、きちんとした装備を身につけており、周囲にはテントを始めとした簡易の拠点が作られている。


(状況がわからんな。これはあの洞窟絡みで問題が発生して王国側が何かやっているのか?)


 蜘蛛男絡みではないだろうが、これは些か都合が悪いことになるかもしれない。

 とは言え、俺はこの洞窟に用があるわけではない。

 ここを中心に何かしているというのであれば、出会ってしまう可能性はあるが問題にはならないだろう。


「ああ、結構な人数が拐われていたからその捜査、という線もあるな」


 俺は小さく呟くと、木々の隙間から見える簡易拠点をしばし観察する。

 距離はあるが念の為に擬態能力も使用し、周囲の景色と同化しつつ距離を詰めて会話を拾うことにしたのだが……思ったよりも喋らない。

 このことから連中は寄せ集めではなく、正規兵かそれに準ずる者達と思われる。

 こちらの存在がバレるとは思えないが、数が多ければ何が起こるかわからない。

 目視できる範囲だけで7名――洞窟の中やテントにも人がいることを考えれば、20名以上と見ておいたほうが良い。

 それだけ人数がいるならば魔術師だっているかもしれない。

 魔法にはまだまだ馴染みが薄い故に、警戒はするに越したことはないだろう。

 ジリジリと距離を詰めつつ耳を澄ませるが、聞こえてくるのは虫の鳴き声や風で擦れる葉と葉の音。

 それでもじっと身を潜めて何か情報を落とすのを待っていたところ、洞窟から三人の男が姿を現した。

 ようやく外の空気を吸えたというように大きく体を伸ばして深呼吸をしている。

 三人は会話をしているようなのだが、ここで俺は痛恨のミスを犯す。


「――。―――、―――」


 何を言っているのかわからない。

 カナン王国語であることは間違いないのだが、訛りもあってかぶっちゃけ全く聞き取れなかった。


(やっべ、単語が少しだけ聞き取れたけど文章として意味がちっとも理解できねぇ)


 標準的なカナン王国語なら少しは聞き取れるのだが、早口であることも差し引いてもあれは無理だ。

 これは想定していない事態である。

「ここでの情報収集は諦めた方が良さそうだ」と判断した俺はさっさとその場を後にする。

 しかし背を向けた俺の耳に「アルゴス」という単語が聞こえてきたことで状況が変わる。


(まさかとは思うが、洞窟の中の惨状を「俺がやった」とか思ってないだろうな?)


 いや「そういうことにする」可能性もある。

 どちらにせよ、あまり好ましい状況とは言えないことになりつつある。

 まあ、元々カナン王国とはほとんど敵対関係にあるので今更ではあるが、それでも間違った情報が出回るのは歓迎できない。


(とは言え、現状俺にできることはと言えば……真犯人を突き出す――却下。現在俺はあれを目的に動いている。渡すという選択肢はない)


 ならばどうするか?

 しばし彼らに背を向けたまま考える。

 出した結論は――放置。

 よくよく考えれば、今の俺はカナンに構っているほど余裕のある身ではない。

 第一、俺はあいつを人間部分と蜘蛛の部分を引き千切るようにして殺害している。

 つまり同一の個体として認識されない可能性が高く、何をしたところで俺への疑惑を払拭するに至らない。

 よって、彼らへの干渉は諦めてとっとと目的を果たす。

「余計な時間を食ったな」と見つからないように距離を取り、擬態能力を解除すると記憶を頼りに蜘蛛男の殺害現場を探し始めた。

 そして太陽が真上に差し掛かった辺りでようやく俺は蜘蛛男と決着を付けた場所を見つけることができた。

 そこには確かに俺が残した「死ね」という文字が刻まれており、ここがあの時の場所であることを示している。

 だが、肝心の蜘蛛男の死体は何処にもなかった。

 それどころか「死体があった」という痕跡すら、この場所には見当たらなかったのだ。


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