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(´・ω・`)復活。でも今日は片方のみ
辺りはすっかり暗くなり、オークの死体が散乱する中に一人佇む。
追跡をしていたは良いのだが、逃げ切ったと安心した豚共がノロノロとし始め、終いにはちっとも動かなくなったことに業を煮やした結果がこの有様である。
恐らくこの集団は報告すれば殺されるとでも思って保身に走って戻らなかったのだろう。
なので別のグループの足跡を探す外なく、この暗闇では如何に夜目が利くと言っても見えにくいことには変わりはない。
「まったく、面倒なことになったものだ」と近くの豚に八つ当たり。
最後の生き残りもこれで終了となり、俺は仕方なく暗くなった平原の探索を開始する。
すると思ったよりもあっさりと別の集団の足跡を発見。
やはり方角はこちらで合っているらしい。
(さてさて、後どれくらいかかるかはわからないが、オークのボスとのご対面もそう遠くなさそうだな)
思えばこの肉体スペックを存分に発揮できる相手というのは未だ出会うことができていない。
蜘蛛男は相性が最悪であれは戦闘というより生存競争に近い。
互いに殺し合う関係であったが、向こうの切り替えが遅すぎたおかげで俺は難なく勝利をもぎ取ることができた。
人間との戦いなどただお遊びレベル――よって語るまでもない。
妙に大きいシャドウヴァイパーを相手にした時は存分に腕力を振るうことができたが、ただ力に任せただけの戦闘と呼ぶには程遠いものだった。
レッドオーガは惜しいものがあった。
腕力だけならば悪くなかったのだが、それ以外がダメだった。
この体になってからというもの、そのスペックを知るにつれて「全力で闘争を楽しみたい」という願望が時折顔を覗かせる。
未だその願いは叶っておらず、今回こそはと思えどその正体が「帝国産合金を使って武装をしているだけのオークなのではないか?」という懸念がある状況では期待もできない。
ともあれ、調子に乗ったオークとその首魁を血祭りに上げることには変わりはなく、こうして夜通しで追跡を行うことにも文句はない。
一日二日眠らなくても問題はないし、食べなくても平気というのは改めて便利なものだと実感する。
しばらく足跡を辿っていたところ、俺の視界に大きな建造物が映る。
(あれは……スタジアムか? 大分崩れてはいるが、何となく程度に原型を留めている。なるほど、ここが本拠地か)
帝国内にあるスタジアムは全部で三箇所のはずなので、ここが今どの辺りなのかがわかった。
問題は帝国南部の地理には疎く、周辺の街の状況等は期待できないということだろう。
この辺りの地形は起伏が乏しく、街の跡が見られないことが少し不思議に思えるが、この200年で何が起こったかなど今の俺には知る由もない。
しかしながら帝国の建造物を利用するのは頂けない。
確かにある程度屋根が残っているここならば拠点としては十分だろう。
内部の通路は人間用なのでオークにも使用ができ、使えるものが残っているのであれば下手に作るよりかは立派なものとなるのも間違いない。
だが、豚如きが帝国の遺産を利用するというのは癪に障る。
これはゴブリン同様に駆除が必要だと判断した俺は、スタジアムに近づくと望遠能力を用いて侵入経路を探す。
入り口付近には篝火が焚かれ、見張りには複数のオークが巡回しているようだ。
荷物の置き場所も考える必要があり、侵入自体容易なれど都合が良いところを見つけたい。
そんな訳で見張りに見つからない距離を保ちつつ、スタジアムの周りをぐるっと回る。
結果、丁度崩れた天井部分からの侵入が、荷物を安心して置けそうな場所もあって最適であると判断。
早速スタジアムに向かって走り、壁に飛びかかって力技で登っていくと当然と言うべきかあっさりと見つかった。
オーク相手に隠密は無理があるから仕方がない。
天井部分に見つけた丁度リュックを引っ掛けつつも隠せる場所に荷物を置き、俺は6mほどの高さから飛び降り観客席にダイナミックに着地する。
すると一斉にスタジアム内のオークがこちらを振り向いた気がした。
取り敢えずエンペラーを探すとしても、数千はいるであろうオークの中から見つけるよりも、向こうから出てきてもらうように仕向ける方が労力は少ない。
「ガアァァァァァァッ!」
なので俺は吠えた。
「俺はここにいるぞ」という強烈な主張に、敵陣でも我が物顔で悠々と歩く姿を見せつけてここのボスを挑発する。
だが期待していた反応はなく、周囲のオークも向かってくる気配はない。
仕方なくそのまま歩いていると、誰も止めに入らないため俺はグラウンドへと下りてきてしまった。
これでもまだ無反応というのだから、ここのボスは腰抜けなのだろうか?
そう思っていると耳に何者かの鳴き声が聞こえた。
声は決して大きくはない。
だがそれに反してオークの動きは素早かった。
人垣――いや、豚の壁が割れ、一筋の道が出来上がる。
「ここを進め」という無言の訴えに俺は鼻を鳴らして応じてやる。
この先にいるのがここのボスであることは間違いないだろうし、オーク達の動きからして統率力は高いと見える。
だがしかし、俺から逃げ出してきた奴がここにもいると思うのだが、この様子を見るに恐怖を塗り替えることはできなかったようだ。
要するに俺よりもボスを恐れており、弱いと見做されているということでもある。
周囲を観察しながら豚の道を歩いていると、そいつはゆっくりと姿を現した。
俺の視線の先――壇上へと登る武装したオークらしきモンスターが見えた。
(オークっぽい……けどなんか違う)
「なるほど」と頷ける特殊個体――確かにオークらしさは見えるのだが何かが違う。
武装しているから全て見えているわけではないのだが、顔はオークに近いが体格はオーガ寄りという何とも言い難い引き締まった見慣れぬ姿に俺は首を傾げてしまう。
武装に関してはバカでかいサーベルに何の装飾もない板のようなタワーシールドを持ち、鎧兜は恐らく革製と俺を相手にするには理に適っているのではないだろうか?
しかし体格がオーガに近く、こうもオーク離れした引き締まった体を見ていると「エンペラー」よりも「マッスルオーク」とかの名前の方がしっくりくる。
(となると名付けの理由はその統率力にあるべきか? 個としても強いが本領を発揮するのは群だろう。ならばこの個の強さを突き詰めた俺を相手にどこまで食い下がれるか見せてもらおうか)
俺は悠々と前へと進み、エンペラーは壇上の上で待ち構える。
そしてその距離が20mを切った辺りでエンペラーが手にしたサーベルを掲げた。
「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!」
まさに雄叫び。
雄々しい叫びとはまさにこのことである。
周囲を取り囲む豚が一斉に観客席の方へと走り出し、一部残ったオーク達は急いで篝火を設置して火を灯して駆け足で立ち去る。
スタジアムに明かりが灯り場は整った。
壇上からエンペラーが飛び降り、大地を響かせるようにドスンと着地して俺へと向かい歩き出す。
両者の距離が10mを切り、互いに自然体のまま向き合った。
合図など必要ない――この戦いにはルールなどなく、勝敗を決するのは相手の死のみである。
俺は体勢を低くすると、それに反応するようにエンペラーは盾を構える。
(よろしい。まずは力比べだ)
中々こいつもわかっているな、と頬が緩みそうになるが遠慮はしない。
俺は地を蹴り構えた盾に向かって突進する。
まだ全力は出さないが、普通のオーガであれば間違いなくふっ飛ばされる速度で俺という質量が衝突する。
大きな音を立て、タワーシールドで俺の突進を受けたまま数メートル後退したものの、エンペラーは姿勢を崩さず踏ん張っている。
俺はと言うとまさか止まるとは思っておらず、驚愕こそしたもののすぐに前へと踏み出した。
だが動かない――いや、動かせない。
(まさか、拮抗しているのか!?)
まさに驚きの連続である。
だったら本気を見せてやろうと思ったところで盾の横からサーベルが突き出される。
それを馬鹿正直に受けてやる気はないのでサイドステップで回避からの左ストレート。
当然の盾で防がれることになったが思った以上に硬い感触が俺の拳から伝わった。
だが、次の一撃はそうはいかない。
もう少し楽しみたいのは山々だが、防がれたままというのも気分が良くない。
なので、ここで本気の右ストレートをタワーシールドに打ち込んだ――本体ではなく装備破壊を目的とした一撃だ。
違えることなく命中し轟音がスタジアムに響く。
手応えは、なし。
エンペラーはたたら踏むように数歩下がったが、その盾には拳の跡が僅かに残るものの健在だった。
(おい、ちょっと待て)
覚えがある。
これはあの時の感触だ。
俺が目覚めて間もなく、絶望した時のアレだ。
(ゲートに使われてる金属じゃねぇか! なんてもの装備してやがる!)
確かにあのゲートならばタワーシールドほどの厚みでも俺の全力も受け止めることが可能だろう。
「厄介なものを!」と憤ると同時に、フロン評議国が為す術もなかった理由が大いに理解できた。
そしてエンペラー自身のパワーも俺に匹敵するほどである。
これは人間には荷が重いと痛感させられた。
しかしどうしてこんなにも俺は楽しいのか?
わかっている――眼の前のこいつは正しく「敵」と認識できる脅威である。
俺は興奮を鎮めるように夜空を見上げ、大きく息を吐いた。
エンペラーへと視線を移し、腰を落として両手を地面に構えを取る。
さあ、戦闘を始めよう。




