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ぶん投げた柱が真っ直ぐにオークキングに飛んで行く。
それをオークキングは咄嗟の反応でグレートソードを使い受け止めたが、質量で物申す柱の前には踏ん張りも許されず瓦礫の山から転げ落ちた。
正しく狙い通りの結果に俺は満足気に頷くと、八匹の重装オーク達は後ろを振り返り青ざめていた。
(恐らく「勝っても負けてもやべぇことになる」とか考えているのだろうが、お前らの勝利とか有り得ないから)
というわけでより勝利を確実にするための一手を容赦なく発動。
リュックを置いて「ヒャッハー、乱闘だぁ!」と言わんばかりに通路を封鎖していたモブオークの群に突撃。
(なんか「俺VS」をやってる気分になるな!)
所謂プレイヤー対圧倒的多数という、単騎を相手に物量攻めをしてくる敵AIをばったばったとなぎ倒す系のゲームである「俺VSシリーズ」だが、この場合は「俺VSオーク」と言ったところか。
ちなみに俺が好きなのは三作目の「俺VSエイリアン」だ。
敵から武器などを奪いながら空まで飛んで無双できるのが魅力で、ただ雑魚であるゴブリン相手に駆け巡る一作目とは出来が違う。
シリーズ恒例である勝ち確定時の処刑用BGMを脳内で流しながら、縦横無尽に豚がひしめく大通りで絶賛虐殺中。
「俺はお前らと戦いに来たんじゃない。俺はお前らを殺しに来たんだ」と言わんばかりに喚く重装オークを無視して逃げ惑う豚を屠殺する。
殴って殺す。
蹴って殺す。
投げて殺す。
武装もまともにしていないオークは兎に角脆い。
肉壁は瞬時に崩壊し、大通りは我先にと逃げ惑う豚で溢れかえっている。
そこに大きな瓦礫をガンガン投げ込み混乱を誘発させて被害の拡大を狙う。
これが狙い通りに上手く行き、倒れたオークが後続に踏み潰されては死んでいく。
重装オークは俺をどうにかしようとドタドタ走って向かってくるが、当然重武装ならその分足が遅くなる。
元よりオークの足など大した速さではなく、縦横無尽に屠殺場を駆け回る俺に追いつくことができようはずがない。
その状況を息を切らせるほどに走り回ったところで漸く理解したのか、手にした武器で盾を打ち鳴らしたり、ぶーぶー鳴いて手招きしたりと挑発行動に出る。
当然の如くこれを無視。
屠殺対象の豚はまだまだ多いので、阿呆に構っているほど暇ではないのだ。
大通りが豚の死体で溢れ、瓦礫の山に戻ったオークキングが癇癪を起こしたように激しく喚いている。
どうやら転げ落ちた際、打ちどころが悪かったらしく気を失っていたのだろう。
遅すぎた復帰に周囲のオークの視線が痛々しい。
だが、指揮官が戻ったことにより戦況は劇的に変化。
戦士タイプと思しきオーク達は号令に従い一箇所に集まる。
そこに突入してサクッと皆殺しにする俺――実に効率的に屠殺を行えるようになった。
ちなみに重装オークはまだ息切れしているので最後にする予定だ。
というわけで指揮官がいれば武装オークを効率良く処理ができると学んだ俺は、次の号令を待っているのだが、豚共の方も学んだらしく号令を無視して逃げ出している。
何という人望……もとい豚望のなさ。
「こんな役に立たない豚なら最早必要ないな」とオークキングに飛びかかり、無慈悲にその首をへし折ってやろうかと思ったのだが、意外なことに跳躍からの一撃を軽快なバックステップで回避したのだ。
それだけではなく、俺の着地に合わせて大きく踏み込むとグレートソードを振り下ろしたのだ。
当然そんな大振りの一撃が当たるはずもなく、逆にグレートソードを足で踏み抜いてやった――のだが、折れていない。
(おや、手加減しすぎたか?)
しかしそれにしては踏んだ時の感触がおかしい。
なのでもう片方の足でオークキングの腕を蹴り飛ばし、残った手から大剣を引き剥がすとその材質を確かめるように拳で叩く。
(うん、めっちゃ硬い。しかも大きさの割に軽い)
こうして近くで見れば、その刀身が金属板を削ってできたかのような粗末な作りであることもわかる。
つまり、このグレートソードは帝国産の合金を削って作られたものだと思われる。
これはエンペラーとやらの正体が怪しくなってきた。
同時に一つの懸念が生まれる。
確かに帝国が作った合金で武装しているならばマスケット銃程度では貫通など不可能だ。
こいつが「その一部を与えられていた」と仮定した場合、フロン評議国がオークの軍勢に勝利するためにはこの合金製の武具を取り上げなくてはならない。
思った以上に面倒なことになりそうだ、と俺は大きく溜息を吐いた。
ついでにぶぎぶぎと命乞いをしている片腕の豚を奪った大剣で斬りつける。
サイズは少々小さいが、ショートソード感覚で使える武器ではある。
ただ、やはりというか元々が武器として作られたわけではないので切れ味はお察し。
腕力で押し切る武器であることには違いないが、もう少し力を抜いて扱えなければ本気で使った際にスクラップ化は免れない。
とはいえ折角拾った使用可能な武器である。
オロオロしている重装オークへ向かってのっしのっしと歩き始めると、八匹の豚が「お前が行けよ」とばかりに仲間割れを開始。
逃げ切ることができないと理解しているらしく、時間を稼ぐ生贄を決めようとしているのだろうが、そいつは一体何秒時間を稼げると言うのかね?
そもそも十秒程度時間稼ぎをしたところで何になるのだろうか?
というわけで俺が目の前に来ても第一犠牲者を選択できなかったオーク達は、八匹揃って仲良くあの世に旅立った。
ついでに合金剣の刃も潰れて鈍器へとクラスチェンジ。
後は逃げ遅れた連中を適当に追撃してこの街でやることは終了なので、置いていたリュックをいそいそと背負い込む。
逃げる豚を投擲の的にしながら追いかけ回し、すっかり日が暮れたところで街の中に生き残りはいないか探す。
そうして隠れてやり過ごそうとしたオークを20匹ほど処分したところで、気になる音を俺の耳が拾う。
しばし立ち止まりその音を聞いていたのだが、それに合わせるようにピタリと止まる。
(んー……人の声だよな? しかも悲壮感がないというか……誰かと会話をしていたような?)
オークに占拠された街で何日も潜んでいられた、ということはないだろう。
(となるとここに来て間もない……もしくは隠し通路――あ、下水か!)
聞こえてきた位置や状況からそう推測するのが多分正解。
帝国の生き残りならば下水道くらいは作っているはずだ。
だがこの巨体では中に入ることは叶わない。
なので地下にいるであろう存在を無視せざるを得ず、彼らが持っているであろう情報は諦めるしかない。
仕方がないと割り切ってはいるものの、やはり言葉を話せないというのは色々な場面で不都合が生じる。
ともあれ、やることはまだまだあるのでこの件はこれ以上考えないようにする。
俺は街に潜む生き残りを粗方排除できたと判断し、次は逃したオークを追跡する。
十分な時間が経過しているので、連中は追っては来ていないと安心してボスの下へと逃げ帰ってくれるはずだ。
そんな訳で街を出て豚の足跡でまずは追跡を試みる。
結構な数が逃げ出しているので見つけるのに苦労はしない。
問題はパニックを起こしてあらぬ方向へ逃げている豚がいる可能性があることだ。
取り敢えず前線があると思われる南側を優先して見てみるが、こちらに逃げる足跡はほとんどない。
東側を見ると結構な量の足跡が残っており、その全てが北へと向いている。
そして北門から逃げた豚も同様に北へと続く足跡を残している。
(これはほぼ決定かね?)
まずは足跡を辿る。
その先に特殊個体「エンペラー」がいるかどうかはわからないが、最低でも手がかりくらいはあるだろう。
さあ、豚共を追い詰めよう。
お前らが狩られる側であることを思い出すまで、俺はお前達を狩り続ける。




