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(´・ω・`)最近ちょっとPCの調子がよろしくない。

 無事であった荷物にホッと胸を撫で下ろし、取り出した水でまずは返り血を洗い流す。

 中身の確認が終わり、何も取られていないことがわかったので次はメモ帳に予め応答を用意しておこうかとペンを取る。

 しかし予想できるものがあまりない。

 既にありきたりな質問に対する回答のメモは用意されており、使い回しをする気満々であることから必要はない。

 幾つかのパターンに応じて使えそうなものは用意はしてみたが、どうにも無駄に終わりそうな気がして気分が乗らない。

 となるとやることが少なく時間潰しには別のことをする必要がある。

 仕方無しに狩りにでも行ってみるが、流石にあの数のオークが動いた後では大きな獲物がさっぱり見つからない。

 結局二時間ほどかけて手に入ったのが兎一匹――最低記録を大幅に更新してしまった。

 まあ、時間は潰すことができたので街へと向かう。

 城壁が目視できた辺りで向こう側も慌ただしくなり始める。

 のっしのっしと歩いて街へと近づくと俺を指差す城兵がちらほら見受けられた。

 城壁の上の人がどんどん増えていくことから思いっきり警戒されていることがわかる。


(うーん……下には話が行っていないということか?)


 近づくに連れ向こうの動きも望遠能力を使わずともわかるようになってきた。

 クロスボウとマスケット銃を構えてお出迎えしている姿を目撃。

 解放した女性陣は一体何をやっていたのだろうか?

 仮に何かあったとして、どのようなパターンがあるのか考える。


・モンスターとの取引など無効。よって何も言っていない。

・司令部に行くまでに情報が握り潰されている。

・帰還できず。再びオークの餌食に……


 すぐに思いつくのはこの三つ。


(ああ、一応「伝えはしたが相手にされなかった」というのもあるか)


 というかこの可能性が高いように思えてきた。

 幾ら意思疎通が可能とは言えモンスター。

 そして今フロン評議会が戦っているのはオークというモンスター。

「無謀だったのかもしれんなぁ」と遠い目をしたところで銃声――着弾地点は俺の手前。

 取り敢えず、現在の銃はどのような弾薬を使っているのかと手を伸ばし、地中に埋まった弾丸を取り出すと、変形した丸い鉛玉を見てがっかりする。

 わかっていたことだが、この技術の凋落っぷりはくるものがある。

 かつて栄華を極めたとすら思えた帝国――その時代を生き、今その子孫が使っている武器がこれでは嘆きたくもなる。

 俺は大きく息を吐いて佇む。

 失望した、というほどのものではないが、俺への対応を見る限り最早帝国の残滓すらないのではないかという不安が頭に浮かぶ。

 記憶にある帝国ならば「うほ、何あのモンスター!? 言葉わかるとか意味不明なんですけど!?」とかハイテンションで騒ぎ立て「面白そうだから続報よこせ」と娯楽があるのに娯楽に飢えた市民が悉く政庁に押しかけていただろう。

 そしてその姿をマスメディアが撮影し、一躍話題になった後は気づけばテレビ主演。

 ちょっと肌色が多い番組に出演してハプニングが起こって――


(ああああぁぁぁぁぁぁ! どうして? どうしてここまで衰退した!?)


 口惜しさにハンカチを噛み切りそうだったが、ここで感情抑制機能がお仕事。

 ちょっと感情が複雑になりすぎていたのでありがたい。

 というより思考が少々ぶっ飛びすぎていることから、冷静になる前の俺は相当ショックが大きかったようだ。

 ともあれ、発砲されている以上は応じないわけにはいかない。

 こちらとしてもモンスターとして引けない部分がある。

 下手に舐められれば馬鹿な行動に出る輩が必ず出てくる。

 それを阻止するために多少の被害は許容してもらう。

 何より、撃ったのだからその覚悟はあるはずだ。


「ガアアアァァァァッ!」


 リュックを下ろした俺は一吠えするとダッシュで城壁に向かう。

 同時に一斉射が行われるが、その直前に速度を上げた俺には当たらない。

 数発掠めはしたものの、それでどうこうなるような体ではなく、仮に直撃していたとしても大したダメージにはならないだろう。

 10mほどの城壁に飛びかかり、壁を蹴って更に上へと昇ると腕を伸ばす。

 抵抗する隙すら与えず城壁の上に登った俺にマスケット銃が火を噴くも、硬い外皮に阻まれ熱痒い程度に留まる。

 思わず命中した腹部をポリポリと掻いてしまうほどなのだから、その威力はクロスボウよりも間違いなく上である。

 ちなみに俺の体の中でも特に硬い肩や背中に至っては「何か弾いているな」程度の感触である。

 取り敢えず後ろにいる最寄りの兵士を尻尾でベチコンと叩き、前方にいるのは手を伸ばして捕まえる。

 後ろから撃たれる分には痛くも痒くもないので放置。

 しかし前方から撃たれた場合、腹部は兎も角、顔面に当たるのは勘弁して欲しい。

 なので掴まえた兵士を盾代わりにしてズンズンと狭い城壁の上を歩く。

 詰めていた兵士達が慌てて後退するが、道が詰まって渋滞を起こしている。

 流石に10m下へ落下させては死人も出るので、手を伸ばして掴まえては後方に投げることで渋滞を解消してやる。

 投げられた兵士は情けない悲鳴を上げているが、この高さで「たかいたかい」をされれば大人でも腰を抜かすだろう。

 そんなわけで障害物を排除しながら城門の上に到着。

 巨体故に中に入れないのが残念だが、外から見る限りおおよその仕組みは理解した。


(うーん、技術力はカナンよりはマシと言ったところなのか?)


 カナンのものを見たわけではないのでわかるはずはないが、多分これくらいだろうという目安はあるので何となくという感覚的な推測である。

 邪魔する奴を適当に尻尾であしらったり、銃を撃ってくる兵をデコピンでふっ飛ばしたりしてフロン側の出方を窺っていると、攻撃が通じていないことを理解したのか銃声が聞こえなくなった。

「これで掻く必要がなくなる」と思っていたのだが――


「一斉射! ってぇぇぇ!」


 部隊長の号令に合わせ十数丁の銃口が火を噴いた。

 声に反応して顔面を両腕で守ったが、銃弾は胸や腹部に集中して命中しており、あまりの痒さにガードを解いてボリボリと掻く。

 全く通じていないことに唖然とする兵士達の前で、これ見よがしに大きな欠伸を一つ。


「舐めるな、バケモノ!」


 隊長と思しきオッサンがサーベルを抜いて単騎で突撃。

 兵には下がるように命令しているのだから囮を兼ねた捨て身の特攻だろう。

 髭を生やしたナイスミドルの覚悟を無にするかの如く、渾身の一撃を指で摘み、空いた手で帽子を取ると頭頂部がハゲていた。

 俺は申し訳ない気持ちでスッと帽子を戻し、サーベルを動かそうと無謀な力比べを挑むオッサンの肩にポンと手を置く。

 すると何が気に食わなかったのか、オッサンがサーベルを手放し俺に殴りかかってきた。

 当然俺を殴れば手を痛めるだけなので放置したが、オッサンが邪魔で発砲できない兵が物凄く困った顔でこの光景を眺めている。

 俺としてはもう少しだけ引っ掻き回して痛い目を見せるつもりだったが、このオッサンの勇敢さに免じてこれくらいで許してやるつもりでいた。

 なのだが、当のオッサンがヒートアップしすぎてどうしたものかと天を仰ぐ。

 流石にこれだけ時間があれば「何かおかしい」と思う者も現れる。

 攻撃をする意思もなくただ見守る者が増えていく中、ただオッサンの叫び声が響く。

 最初は「貴様のようなモンスターが!」とか言っていたのだが、拳が限界なのか俺の脛を蹴り始めては「お前に何がわかる!」と頭頂部の悩みに変わっていく。

 俺はもう一度慰めるようにオッサンの肩をポンポンと叩く。

 すると落ちていたサーベルを拾って切りつけられた。

 ポッキリ折れたから不問にするが、取り敢えずこのオッサンを窓口にすることにして拉致。

 オッサンを抱えて城壁の上から飛び降りると、置いた荷物の下へと走って移動する。

 情けない声を出す帽子が何処かに飛んでいったオッサンを地面に下ろし、リュックから用意しておいたメモ帳を取り出すと、それを目の前に突きつける。


「オークに捕まっていた女性38名を解放し、そちらに帰還させた。この情報は知っているか?」


 そう書かれたメモを見たオッサンが目を見開く。


「まさか……言葉を理解しているのか?」


 オッサンの呟きに首肯し、続きのメモを見せる。


「そちらの指揮官と話がしたい。彼女達を護衛し、帰すという交換条件でその場を設ける約束を取り付けている」


「待て、どういうことだ!?」


 メモを見たオッサンが大声を出すが、俺は気にせず新しくメモに文を書く。


「そのままの意味だ。後方のオークの砦を襲撃し、囚われていた38名の女性を解放。彼女達との交渉の結果、この街へ帰還するまでの護衛を条件に指揮官、またそれに該当する人物との会談の場を設けることを約束した」


 その文を読んだオッサンが「信じられん……」と呟くが、それが一体どの意味なのかは不明である。


(もしかしたら全部という可能性もあるが、モンスターが相手ならこの反応が普通なんだろうな)


 疑わしい目でこちらを見ているが、自分が生かされていることから「本当のことも混じっている」程度の信用はあるだろう。


「一先ず貴殿にはお帰り願おう。日没まではここで待つ」


 そう書いたメモを渡し、オッサンには帰ってもらった。

 途中オッサンが何度もこちらを振り返るが、俺は無視してその場に座り込んだ。

 これで進展してくれれば良いんだが、と溜息を吐く。

 同時に日没まで結構時間があるということに今更気づいた俺は「やっべ、もうちょっと時間制限きつめにした方が良かったかも」と後悔していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] おっさん(´;ω;`)イキロ
[一言] こちらとしてもモンスターとして引けない部分がある。 って主人公の帰属意識は人間じゃなくてモンスターになってしまっているのか。 遵法精神もほぼ無いしそれじゃあ討伐対象になっても仕方ない。
[一言] >記憶にある帝国ならば これどこまで本当なんだ。記憶にある通りなら、最後はマスメディアでアイドル扱いになってるじゃねぇか...!
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