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6/8 リュックを下ろす描写を追加
夜が明ける。
交代で睡眠を取ったというよりも、ただ横になって目を瞑っていただけと言った方が正しい状態では、精神的な消耗は勿論のこと、寝具もない森の中では肉体的な疲労の回復もあまり見込めない。
(これは少し無理をしてでも帰還を急がせた方が良いかもしれんなぁ)
朝食に昨晩焼いた肉の残りを噛み締め、女性達は疲労を隠せない表情で歩き出す。
代表の女性のおかげでどうにかまとまっているが、不満を口にする馬鹿が出るようなら口を挟む方が良いかもしれない。
だが危惧していたことは起こらず、むしろ代表の説得が効いたのか、前日とは打って変わっての速度で進む。
問題は進路が南ではなく東であることだ。
それとなく話に耳を傾けていたところ、どうやら開拓村用の集積所が近いらしく、そちらに進路を取っているようだ。
資材だけではなく、緊急用の物資も備えているようなので、そこで物資を確保してから戻る計画と話している。
元より進路を真っ直ぐ南に向けては、街を攻めているオークの軍勢のど真ん中にぶつかるため都合が良いとのことだが、それ以上に彼女達にまともな休息を取らせることができるのが大きいだろう。
そういう理由があってのことならばと進路変更を受け入れたのだが――まあ、予想通りオークが占拠している。
(砦を拡張工事したりとどこから道具を調達していたかと思えば……こういうのって敵に有効利用されるのがお約束だけど、実際目の当たりにすると面倒な話だよな)
というわけで荷物を置いてサクッと集積所にいるオークを殲滅。
女性陣が俺を制止しようとしたが無視する。
やり方は簡単。
まっすぐ突っ込んで手当り次第殺すだけ。
合計88匹のオークが無事物言わぬ肉塊に変身。
逃げた豚さんもすぐに追いつき屠殺完了。
後は適当な場所に集めて放置すれば終了である。
後半の作業の方が時間がかかるのでちょっと手伝って欲しいと思ったが、銃を扱う前提の女性陣にはオークの重量は無理があるだろうと断念。
大人しく一人でオークとその残骸を拾い集めて一箇所に固める。
すると代表の女性がこちらに近づいて巌しい顔で近づいて来る。
「仲間を呼ばれたらどうするつもりだ?」
この意見に周囲が賛同している辺り、どうやら彼女達は俺の実力を全く把握できていないようだ。
俺はわかりやすく面倒臭そうに大きな溜息を吐くと荷物を取りに行く。
そして俺が戻った時には代表の女性がテキパキと指示を出して物資の確保に勤しんでいる。
汚れた手足は綺麗にしておいたので、リュックから紙とペンを取り出し一言書き始める。
「探知範囲を人間レベルで考えるな。周囲にオークの存在が確認できなかった。また逃走を許すようなら最初から仕掛けはしない。加えてオークの嗅覚から君達が気づかれるのは時間の問題だった。排除する以外に選択肢はない」
これを見せても未だ納得はいかないようだが、やはりモンスターの姿では信用は疎か理解もままならないということだろう。
正常な反応ではあるのだが、ここのところエルフと関わることが多かったこともあり、その落差に少しばかりがっかりしている自分がいる。
軍人というのは傭兵やハンターに比べて頭が固いのかもしれない。
必要な物資が集まるまで倉庫が並ぶ集積所の外で周囲を警戒。
特に何か起こることもなく、またオークがやって来ることもなかったので滞りなく作業は終了して出発となった。
休息もなしに進むことに若干の懸念があるが、彼女達としては一刻も早くオークの領域から抜け出したい、と言ったところだろうか。
仕方なしに彼女達の後を追い、進路を確認すると前に出て先導する。
平野の移動となったので速度は出てるはずなのだが、身を隠す場所がないおかげで警戒に注意を払いすぎているのか時折足が止まる。
そんなことを繰り返しながらの行軍なのだから当然予定通りには進まない。
今日も中途半端な位置での野営となる。
このままだと先に水が尽きてしまうのではないかと不安になってくる。
(しかしこれで新兵かー……帝国の時とは随分と事情が違うみたいだな)
もしかしたら訓練期間がかなり削られているのではないだろうか?
だとすればそのような状況であるフロン評議会の前線はかなり危ういのではないか?
いっそ、彼女達を放置してそちらに駆けつけた方が良いのではないかという気もしてくる。
(いや、ダメだ。ここで放り出しても、彼女達が自力で戻ることができた場合、俺の立場が危うくなる)
「厄介な拾いものをしてしまった」と思う反面、民間人と大差ない彼女達を守りきった際の報酬も考える。
先の契約はあくまで救出された彼女達とのものであり、フロン軍とのものではない。
何らかの謝礼を要求しても罰は当たらないだろう。
だが、それを差し引いても何か手を打たねば「戻った街が落ちてました」というオチが待っているかもしれない。
そんな訳で翌日。
「今日から移動はこちらの速度に合わせてもらう。できなければ置いていく。これまでの言動からこちらの目的に貴殿らは重要でないと判断した」
そう書かれた紙を見て代表は顔色を変える。
「どういう、意味だ?」
「貴殿らの言動から上層部への取りなしの成算は極めて懐疑的である。よって重要性の低下から不要な労力の削減を視野に入れた結果である」
予想していた答えに予め用意しておいたメモを見せる。
「待て、私は――」
「決定は変わらない。こちらに付いて歩き、安全を得るか――それとも、自力で帰還するか、だ」
考え込む彼女に追加でメモを見せる。
昨晩幾つかのパターンを推測し、複数答えを用意していたのでサクサク進む。
「こう考えろ。私という戦力が今、ここにいる。それを急ぎ連れ帰ることは、プラスになるか? それともマイナスか?」
結果として彼女は俺についてくることを選択。
この決定を伝えると動揺が広がったが、代表がこれをどうにか抑える。
目に見えて行軍速度が変わったが、体力に関しては無理をしてもらう。
これなら早ければ今日中に接敵くらいはできるだろう。
(戦場で「限界だから」は死を意味する。よって、君達も兵士ならば死ぬ気で歩きたまえ)
そんなことを考えながらあるき続けていると、予想通りに昼頃に薄っすらと立ち昇る煙が見えた。
「まさか、ブローフの街が!?」
それを伝えるメモを見て、代表の女性が思わず大きな声を上げる。
彼女達にはまだ距離があるので視認はできていないが、今まさに戦闘中である可能性が高い。
立ち昇る煙は一筋だが、近づけばどうなるかはわからない。
これは急いだ方が良いだろうと提案しようと思ったが、その前に代表が全員に荷物を捨てて駆け足となるよう号令をかける。
「状況次第では接敵してこちらが敵を引きつける。迂回して帰還せよ」
書いたメモを見せると代表が頷き、それを読んだ女性陣もこれまでとは打って変わってやる気に満ちている。
リュックを下ろして平野を走り、立ち昇る煙の数は一つ、また一つと増えた頃――オークの軍勢の一部がようやく視界に入った。
同時にオークが使う攻城兵器が目に入り、その数が目視できるようになってくるとあまりの多さに目を背けたくなる。
(これは5千以上は間違いなくいるな。包囲をせずに一点突破狙いなのは幸いだが、やられてる側はたまらんだろうな)
取り敢えず予定通りに俺は左翼に突っ込んで荒らすことを伝え速度を上げる。
これで彼女達が迂回してオークのいる方角とは違う門に辿りつければミッション完了。
最後まで付いていくのが確実だが、少しばかり状況がよろしくない。
城壁の上に登ったオークが打ち倒されて落ちていく姿がチラホラと見られる以上、時は一刻を争う可能性もある。
その辺を代表は理解しているようで、俺のメモを見て頷くと戦場を迂回するように進路を変更。
一応俺の感知能力ではオークは発見できていないので大丈夫だとは思う。
後は彼女達の運次第だろう。
さて、真っ直ぐにオーク陣営へと走っていると、先頭――いや、この場合最後尾を目視できる距離にまで近づいた辺りで発見された。
「ブオッオー」という笛の音で重武装のオークが5匹ほどこちらの進路に立ち塞がるように前に出る。
城壁の上ではオークを押し返した兵の一人が俺を見つけて指差した。
まだ少しは余裕がある模様――ならば、存分に暴れさせてもらおう。
その手始めに、この重武装のオークである。
バトルアクスやモールと言った重量武器を構える豚を前に、俺は一切速度を落とさず駆ける。
(さあ、質量の暴力を見せてやろう!)
タイミング良く振り下ろされたバトルアクスを無視して更に加速し、衝突の瞬間に首の力で跳ね上げた。
得物を振り下ろす前に跳ね飛ばされた重装のオークが宙を舞い、それを一瞥することもなく真っ直ぐに豚の群へと突撃する。
突然背後から現れたモンスターを前に、為すすべもなく蹂躙されるオーク達――それをどのような思いで見ているかは知らないが、好機と見た城壁の上の人間達が攻勢に出る。
あれならば、最早城壁に登られるようなことはないだろう。
「ガアアァァァァァ!」
俺は吠えた。
その存在を誇示するように、豚共に恐怖を刻みつけるために、大きく吠えた。
(我が愛すべき帝国臣民の子孫達よ、無様な姿を見せてくれるなよ!)
テンションは最高潮。
やりすぎないように気を付けつつ、存分に大暴れさせてもらおうか。
傭兵団の名前にミスがあり修正しました。




