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(´・ω・`)前パートに「砦侵入前に荷物を下ろす描写」を追加しました。

 最初の行動は尻尾を動かし、女性から剣を引ったくることだった。

 間近で見てもやはり刃は潰されており、剣は勿論のこと鈍器としても不十分なものである。


(こんな物を渡して遊ぶくらいなら俺がこいつで相手をしてやろう)


 手にしたショートソードをオークの横っ腹にぶちかます。

 槍を手放し吹っ飛んだオークを見て、ようやく乱入者に対して行動を起こす豚共だが、武器がないと戦えないのか、屋内へと逃げるように殺到している。

 俺はというとまずは吹っ飛んだ豚の下に悠々と歩いて近づき、手にしたショートソードを倒れたオークの首に押し付け、そこから体重をかけてゆっくりと押し込んでいく。

 当然刃が潰れているので刺さることはなく、首の肉を押し潰すようにショートソードが食い込んでいく。

 豚がどうにかそれを除けようともがくが、オーク程度の力で俺の体重がかかった刀身を持ち上げることができるはずもなく、呼吸がままならなくなったところでペチペチと柄を握る指を叩き始めた。

 このまま窒息死させてやっても良かったのだが、力技で剣を押し込み首の骨を砕いてやる。

 これならすぐに手が離せる上、出血でまともに呼吸もできず苦しんで死んでくれることだろう。

 さて、豚共が戻ってくる前にやっておくべきことがある。

 何匹かは武器を持ってこちらを威嚇しているが、俺はそれを無視して門まで歩く。

 現在広間にいる女性は全部で三人――先程豚と戦っていた人が合流したことで一箇所に固まって身を潜めている。

 冷静に考えて行動できる人物がいるようで何よりだ。

 次々と武器を持って出てくるオークが揃うまで門の前で待ってやる。

 そして一匹の兜を被ったオークが現れ、手にした剣を掲げて号令を発すると、武器を持った豚共がこちらに向かって走り出す。

 それを確認した俺は門を閉じた。

 正確に言えば、生意気にも鉄製の門だったので変形させて開閉不可能にしてやった。

 俺は足を止めたオークの集団に向かい、両手を広げて歓迎する。


(地獄へようこそ)


「誰も逃さない」という俺のメッセージは伝わっただろうか?

 いや、伝わっていないということはないだろう。

 もしそうならお前らはゴブリンレベルだ。

 俺は武装したオークの群れに飛び込む。

 蹂躙が始まった。

 着地地点から逃げ遅れた豚が踏み潰される。

 盾を構えた豚の集団が腕の一振りで薙ぎ払われ宙を舞う。

 突き出された槍は折れ、切りつけたはずの斧が壊れる。

 高所を陣取ったオークが矢を射かけるも、その全ては硬い外皮の前に刺さることなく弾かれた。


「ガアアァァァァァッ!」


 突進という名のぶちかましが豚の肉を引き裂き骨を砕く。

 外壁にいるオークに掴んだ豚を投げつける。

 広間にいる豚にも投げつける。

 踏みつける。

 殴る。

 蹴る。

 俺がアクションを一つ起こす度に豚の命が摘み取られる。

 程なくして、砦の中で動くものはいなくなっていた。

 なので、死体のフリをしていた兜豚の頭を踏み潰すと、同じように死んだふりをしていたオークが逃げ出した。

 だが門を一箇所にしか作っていなかったため、逃げ場など外壁の上から飛び降りることくらいであり、そこへと至る階段は先程の蹂躙の最中に豚の死体を集めて置いたので上がるには苦労するだろう。

 最後の一匹が命乞いをするように膝を突き、額を地面に擦り付けて組んだ両手を頭の上で掲げる。

 俺は無慈悲にその頭に拾った槍を突き立てた。

 後は外にいる連中だ。

 中の騒ぎで異常が発生していることはわかっているだろうが、門を開けることができないのでこちらの様子はわからない。

 血の匂いや豚の悲鳴で察することはできるだろうが、全てが逃げ出しているわけではないだろう。

 逃げ遅れた豚は全て屠殺する。

 自分達が「狩られる側」であることを思い出させてやろう。




 殺した数は内と外、合計で300に満たない数だった。

 思った以上に外の連中が逃げておらず、駆除に時間をかけてしまったが、その分多くの豚を始末できたので良しとしよう。

 さて、次は中にいる女性達だが……まずは友好的に接しておく。

 掃討中に都合の良いシナリオを思い付いたので、その設定に沿って話を進めたい。

 まずは侵入前に置いておいたリュックを回収。

 それから砦に戻り外壁をよじ登ると――ほとんど裸の女性が沢山いた。

 彼女達は俺を見ると悲鳴を上げたが、一人が静かにするよう強く命令すると大人しくなった。


(やっぱり予想通り軍人が紛れ込んでいると見るべきか)


 そうであるならやりやすいので、こちらとしては歓迎だ。

 取り敢えず数を数えてみたのだが……全部で38人もいた。

 外壁を降り、彼女達の下へとゆっくりと歩くとオークの槍を手にした女性達が立ち塞がる。

 なので俺はメモ帳とペンをリュックから取り出し、サラサラと字を書くと一枚破ってそれを手前の女性の目の前に突きつけた。


「話をしようか」


 そのメモを見た女性は驚愕の表情で恐る恐る突き出された紙を手に取る。


「言葉が、わかるの?」


 俺は首肯し、メモ帳に再び字を書いた。

 少し長文となるので待ってもらっていたが、警戒をしつつも興味深そうにこちらを見る女性が何人かいる。

 どうやら彼女達はオークに捕まってまだ日が浅いらしく、状況を観察する余裕があるようだ。

 文が書けたのでメモを破って代表の女性に手渡す。

 内容はこんな感じだ。


「オークへの襲撃はこちらの都合なので詳細はこの場では割愛する。こちらの目的の関係上、そちらの指揮官に会いたい。つまり君たちへの要求は一つ。指揮官、もしくはそれに準ずる者との面会と話し合いの場を設けること。これを呑むのであれば、君達を無事に帰すことを約束しよう」


 代表の女性が信じられないと言った表情でメモと俺を何度も見る。


「要するに、私達を手土産にしようってことかしら?」


 後ろに控えていた一人がメモを覗き込むと感想を漏らす。

 そう取ってくれて構わないので俺はこれに首肯する。

 たとえ取って付けたような理由であったとしても、それが「理由」として成立するならば人は納得する。

 納得しているのであればいちいちこちらを疑ったり、おかしな行動を取ることがなくなりスムーズに事を運ぶことができるようになるだろう。

 そして肝心なこととして、俺がフロン評議会の指揮官、またはそれに該当する者と会いたいというのは事実である。

 これは人間側で集まっている情報が目当てだ。

 俺が一人でオークを観察するよりも、現在進行系で事を構えていると思われるフロンから情報を貰った方が手っ取り早く、また正確と思われる。

 この取引で彼女達には「ついで」で助けられているように思われるだろうが、俺としてはこちらも本命。

 その両方をこなしつつ、距離を縮めすぎないようにするにはこのような偽装が必要だった。


「考える時間は与える。返答は砦内の物資を漁ってからでも構わない」


 追加のメモを見た代表が頷き、他の女性達に指示を飛ばす。

 やはりというかほぼ裸のままというのは問題がある。

 服を着て、武器を持てば少しは心に余裕ができるだろう。

 誰もいなくなった砦の広場でしばらく待っていると、建物の中からぞろぞろと武装した女性達が出てくる。

 問題は、手にした武器に血がついていたこと――そして、それがオークのものではないことだ。


(まあ、そうだよな。この砦は昨日今日に出来たものじゃない。長く捕まっている者が、まだ内部に残っていた――いや、動けなくなった者達がいた)


 肉体的、あるいは精神的――最悪はその両方で限界を迎えている者を置いていくわけにはいかない。

 そのための苦渋の決断だったのだろう。


(法が支配しない世界というのは、本当に嫌な気分になるな)


 もっとも、力が支配する流儀はある意味では人間も同じ。

 互いに互いの主義主張を押し付けているわけなので文句は言えない。

 ただ黙って実力行使あるのみである。


「我々はそちらの提案を受け入れることにする。我々が無事に帰還できたならば、司令部との場を設けよう」


 俺は代表の言葉に頷きつつも、覚悟を強いたことを少し申し訳なく思う。

 だが、あそこで魔法薬を取り出し与えてしまえば、必要以上のものを彼女達に与えてしまう。

 下手に貸し借りを作れば、それはやがてしがらみへと繋がる。


(モンスターの体というのも、存外不便が多いもんだな)


 俺は彼女達の意思を確認すると門へと歩く。

 変形して開閉のできなくなったただのでかい鉄板を拳一つで吹き飛ばすことで己の力を誇示する。

 これで少しでも安心してくれれば良いのだが……そう思い後ろを振り返るが、彼女達の顔色は冴えない。

 この力を見てなお不安材料がある――そう判断した俺は気づかぬうちに緩んでいた気を引き締める。

 門だった鉄の塊が地面に落ち、大きな音を立てて跳ねた。

 初の護衛任務となる。

 犠牲者を出さないよう全力で挑もう。

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― 新着の感想 ―
ちゃんと帝国軍人なんだなって見直しました。
[良い点] そういえば、初の軍人らしい行動だね。 これまで物資の回収と監視任務ばかりだったので。
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