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(´・ω・`)ちょっと短め
(´・ω・`)6/3 砦侵入前にリュックを下ろす描写を追加。
見える範囲で既に複数のオークが俺の臭いに反応しており、それが何かまではわかっていないようだが、出処を探し出そうとするのも時間の問題だろう。
一度撤退するという選択肢もあるのだが、それだと俺がオークから逃げたようで気分的にはよろしくない。
さりとてどれだけの数がいるかもわからない大量のオーク相手に徹夜をするのも面倒臭い。
ゴブリンと違ってそこまで臭いがきつくないのは救いだが、基本的にスペックが全体的にかなり上なので、知能が高い分逃げ方を工夫するなどしてくるので厄介だ。
そもそも統率個体がいた場合、逃げ出すことがないゴブリンと違い、オークはキングやクイーンを状況に応じて逃がす方向に動く。
そのため、オークはゴブリンのように最後まで逃げずに戦うというわけではない。
ならばどうするか?
引くのは嫌だ。
でも戦うのも面倒臭い。
俺が見つかるのも時間の問題だ。
(よし、豚を無視して突っ切るか)
正々堂々と正面突破に思考を切り替える。
しかし走って横切れば戦闘を回避したようにも見えて、オークを調子づかせるのは良くない。
ならば、と俺は立ち上がり、真っ直ぐにオークの群れの中へと歩いて行く。
俺の存在に気づいたオーク共が鳴き声を上げて周囲へ知らせると、一斉に小屋へ向かって走り出した。
恐らく武器でも取りに行ったのだろうと、無視してお粗末な柵を飛び越えて集落へとお邪魔する。
俺の予想が当たったようで、小屋から出てきたオークは槍と小盾を持っていた。
しかし侵入されている状況で綺麗に一列に並び順番を持つオークというのもシュールな光景だ。
(しかも長い! 100mくらいあるんじゃないか?)
統率が取れているのはわかったが、オツムの方は今ひとつなのかもしれない。
俺は武装したオークが槍を向けてくるのを無視して集落をのっしのっしと横断する。
ちなみにオークの身長は2mあるかないかと言ったところなので、俺を少し見上げる感じになっている。
俺が特に何かするつもりもないことを理解したのか、武器を持った連中は遠巻きに囲うだけに留めており、現状攻撃を仕掛ける気はないようだ。
これなら面倒なことにならずに済みそうだと思っていたのだが、これだけ数がいれば当然おかしな行動をする奴も出てくる。
俺の前に一匹のでかいオークが立ち塞がる。
大きいと言ってもオーガ並とかではなく、オークにしてはでかいという程度。
手にしたハルバードは「オーク用か?」と思うほどサイズが合っていたが、比率的にやや手が大きい俺には合わないので特に興味もない。
どうやらこのオークは侵入者である俺を眺めるだけの同族に憤っているらしく、ぷぎぷぎ喚いては周囲の連中が気不味そうにお互いを見合っている。
中途半端に利口だとこうなるかと、物珍しげに眺めているとそれが気に障ったらしくハルバードを振りかぶった。
どうやら死にたいようなので望み通り殺してやる。
振り下ろされたハルバードの刃の部分を指で摘んで止め、そのまま引き寄せたところを強めのビンタ。
首が半回転して後ろ向きになっているのでちゃんと死ぬことができるだろう。
さて、明らかに自分達よりも遥か上位の存在を目にした豚の行動は――恐慌。
どうやらこの集落は数は多いが統率するものがいないらしく、オーク共がピーピー泣き喚いて逃げ惑っている。
距離をおいて槍を向ける連中がマシなレベルというのだから、どうやらここのオークは安全地帯でぬくぬくしていた正真正銘の豚のようだ。
構う価値もないとはこのことである。
もっとも、相手にするつもりはなかったのでこれはこれで都合が良い。
俺はそのままのっしのっしと我が物顔でオークの集落を歩くが、それを止めようと前に出てくるものはいない。
結局、集落を抜けるまで攻撃らしい攻撃はなく、威嚇のためか石を投げてきた程度で、それさえも俺に当たることなく手前で落ちるヘタレっぷり。
このまま進路は南にするとして、ここを見た後だとオークの活動範囲について懸念が生まれる。
農場の位置から推測するに、ここはその防波堤の役割を持っていそうなものなのだが……訓練された動きは見せるものの戦う意志が全く見えなかった。
つまり戦闘を想定していないかのように見える。
もしくは「戦闘を想定する必要がなかった」と見るべきだろう。
厄介なのが後者――前者であるなら「ただオークが怠けていた」で済む話だが、後者であった場合、他に大規模な基地、またはそれに準ずる何かがあり、あの場所が安全地帯であったとも考えられる。
(最悪を想定すると本当に「オーク王国」ができている可能性がある。しかも地理的にその相手をするのはフロン評議会。北側の守りはないに等しいようだが、全軍を南に向けているというのであれば、あの手薄さも一応納得はいく)
これは何らかの介入を必要とする可能性がある。
様子見をして、状況次第ではフロンに関わるつもりはあったが……このケースは想定外だ。
ともあれまずは南に向かう。
オークの勢力が何処まで伸びているかを見ておかなくては、今後の活動に支障が生じる恐れがある。
いざとなれば潰してしまえば良いだけの話だが、折角作物を育てるだけの規模になったのだから、安定した収入源として活用することも考慮に入れたい。
モンスター相手に遠慮は無用。
農業を諦めた時が豚共の最後である。
そんなわけで夜を徹して南に移動したのだが、思ったよりは事態は深刻だった。
何故かと言えばオークが砦を築いていた。
しかも絶賛拡張中。
朝っぱらから肉体労働とはご立派だが、オークが労働に従事しているという状況は人間には良い傾向とは言えない。
恐らくここが前線基地になるのだろうが、悠長に拡張工事なんぞをやっていることを考えれば、最前線はここからさらに南になる。
(ちょっとオークの勢力範囲広くない? これ、東西の状況次第だと国家レベルの戦力になってそうなんだが?)
もしもフロン評議会が旧帝国の周辺国と同等程度の国力まで落ち込んでいるのであれば、最悪存亡の危機に立たされていることすらあり得る。
うんうん唸りながら遠目から石材を積み上げているオーク達を眺めていると、人の声が俺の耳に届いた。
女性の声――だが悲鳴ではない。
砦の中から聞こえてくる声はまるで戦っている時のような叫び声だ。
一体どういう状況だろうか、と興味が湧くが、砦を人間が攻めているわけでもないので、あまり好ましい状況でないことは確かだろう。
場合によっては救出も視野に入れて動く。
俺はリュックを下ろし、適当な場所に置くと風上から擬態能力を使用して砦に近づき壁をよじ登る。
「この豚共が!」
外壁の上に到達したところ、守備兵が誰もいないことに笑いそうになるが、正直笑えない光景が目の前に広がっていた。
剣を持った裸の女性が一匹の槍を持ったオークを相手に戦っていた。
それを楽しそうに笑いながら周囲のオークは手を叩いており、相手をしている豚もニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながらのらりくらりと女性の振る剣を躱している。
女性が剣の扱いに慣れていないのは間違いなく、刃を潰したショートソードでは致命打を取ることは難しい。
つまり、これはただの見世物だ。
捕虜を嬲るだけではなく、玩具にもしているということは、相当数の女性がこの砦に捕まっていると見て間違いない。
でなければ、あのような娯楽をオークが求めるはずがない。
オークが人間を玩具にしている。
オーク如きが、帝国の血を引く者を弄んでいる。
そう思った瞬間、スイッチが切り替わった。
俺は平静を取り戻し、急激に冷えた頭で眼下の光景を見ている。
(取り敢えず、オークは皆殺し。これは決定事項)
問題は捕らえられている人間がどれだけいるか?
また彼女達をどうするか、なのだが……それは助けた後に考えるとしよう。
俺は一度外壁から降り、誰にも見られていないことを確認すると擬態能力を解除する。
それから再び外壁を登り、その姿を現した――のは良いのだが、オーク共は見世物に夢中で誰も俺を見ていない。
気づくものさえいない状況に、俺は外壁の上でポツンと佇む。
(よーし、豚どもー覚悟しろよー)
外壁を蹴り壊す勢いで天高く跳躍すると、ようやく異変に気づいたか豚共が俺のいた場所を指差し騒ぎ始めた。
砂埃を上げ、オークと女性の間の地面へと盛大に音を立てて着地する。
さあ、虐殺を開始しよう。




