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73 とある元巫女は怠けたい

 生き延びた。

 そう、私は生き延びてやった。

 巫女などという実質ただの生贄から見事生還を果たしたのだから称賛を喜んで浴びよう。

 だと言うのに氏族の連中は私を腫れ物扱い。

 ゼサトの引きこもりの機嫌が悪いらしく、その皺寄せが来ているらしいがそんなの知ったことではない。

 むしろ「ざまあみろ!」と声を大にして手を叩いてやりたいほどだ。

 しばらくの間は事情聴取とあって拘束されていたが、何もせずダラダラとできたのでそう悪くない待遇だった。

 例の現場を目撃した者達が外に出ることができない間に、どうやら脅威である「悪夢」が去ったということになっていたようだが事実は違う。

 あの「悪夢」が食われたのだ。

 そのことを口止めされていたのだが、そんなの関係ねぇ。

 私の口を閉ざしたいのであれば、出すものを出してもらおうか?

 というようなことを仄めかしたところ再び拘束された。


「事実を知る権利ってあると思うの」


 このように私が主張したところ「無駄に混乱を招こうとした」として拘束時間がさらに伸びた。

 何もせずにダラダラする時間が延長されたが、今回はすぐに解放された。

 なので里の会議室に乱入し、今回の巫女として働かされた報酬を要求。

 こちらの正当性を理解できる者はおらず、三度目の拘束となった。

 顔なじみとなった守衛の真面目そうな男性に、此度の件について愚痴を漏らすも「お願いだから静かに、じっとしていてくれ」と懇願された。

 話のわかる奴もいるところにはいるものだ。

 私はそのお願いを聞いてあげることにしたが、暇な時間が長く続くと流石にこの景色にも飽きてくる。

 何よりこの怒りの矛先を何処に向ければよいのだろうか、と己の不幸を嘆いてみたが、私を見ようともしない。

 なるほど、職務を全うするには私の体が魅力的過ぎるようだ。

 真面目過ぎるというのも考えものである。

 残念ながら彼は恋人候補にすら上がらない。

 いくら真面目さや誠実さを前面に出したところで、ものには限度というものがあるのだ。

 色々と惜しい男性との別れの時間がやって来たが、私は過去を振り返らない。

 でもあの女だけは許さない。

 どうしてやろうかと日々報復の計画を練ってみるが、どれもこれもが現実的ではない。

 やはり勢いのあるゼサトの氏族の一人を単独でどうこうするのは無理があるようだ。

 できないことはできないと認めるのも必要。

 私はそこのところはきちんと弁えている。

 さて、そんな私事に日々エネルギーを費やしてはいるが、どうにも里が騒がしい。

 どうやらあの魔法狂いとまで言われた「レイベルン」の誰かが何やらやらかしたらしい。

 誰が何をしたか知らないが、このご時世に私の件より話題になるとか、ちょっと情報の統制が行き過ぎではないだろうか?

 余程ゼサトの連中は巫女を独断で用意した件を風化させたいようだ。

 それならば私にも考えがある。

 そう思って行動に出たのだが、気づけば私は拘束されていた。

 しかもどういう訳か再び巫女服に着替えさせられ、手を縛られ連行されている。

 意味がわからない。

 あとか弱い乙女をいつまで歩かせる気なのか?

 文句を言うが誰も返事をしない。

 男の中に手を縛られた極上の女が一人という状況が非常に拙いことは嫌でもわかる。

 なので下手に刺激しないように、どのような命令で彼らが動いているのかを尋ねたところ、最悪なことが判明した。

 どうやら私はあの「悪夢」を食らったモンスターの生贄にされるらしい。

 言っている意味がわからず詳細を尋ねたところ、どうやら件のモンスターが禁忌である支配の魔法で制御下に置かれていたようなのだが、魔法が不完全だったおかげで自由を取り戻し、今はこの森にいるとのこと。

 それの謝罪という意味で私をそのモンスターに引き渡すことになったそうだ。


「は? ふざけんな」


 思わず言ってしまったが、口に出た以上は仕方がない。

 話しを続けるとどうもあのクソ女が強引にまとめて送り出されたらしく、危険が及ぶであろう彼らにも拒否することができなかったようだ。

 最悪、この場にいる全員が殺されると話していた。


「え? 冗談よね?」


 全員が沈痛な面持ちで溜息を吐き、無言で森へと進んでいく。

 あと私が喋り続けていたのが癇に障ったのか、猿ぐつわを噛まされることになった。

 これで助けを呼ぶこともできなくなった。

 どうやら私の人生はここで終わりらしい。

 この人数差で抵抗しようものなら何をされるかわかったものではなく、ただ黙って縄を引かれるがままに歩く。

 あのクソ女が無理をしていたのならまだチャンスはあると思い暴れてみたが、あっさりと地面に押しつけられ身動きが取れなくなる。

 そして、恐れていた事態が起こった。


「なあ、やっぱこいつ化物にやるの惜しくないか?」


 男達の手が伸び、衣服を掴むと引き裂かれる。

 真っ先に胸を隠す布が失くなり、こいつらの視線が集中していたところにズボンを脱ぎだした男を見て必死に暴れるが、力の差は歴然としており衣服がボロボロになる。

 私に跨る男を跳ね除ける力などあるわけもなく、こんなところで犯されて死ぬのかと思うと涙が出てきた。

 だが救いはやって来た。

 男共の目的であるあのモンスターが姿を現したのだ。

「助かった」と思ったと同時に逃げる手段がないことがわかった私は、このボケ共が無残に殺されるよう祈ったが、早口にまくし立てるように任務を完了させて逃げていった。

 幾つかの質疑応答があったことから、このアルゴスというモンスターがエルフ語を理解しているという驚くべき事実を目の当たりにする。

 言葉が通じるのであれば、という願いが実を結び、命が脅かされることがないとわかると、命と貞操の危機を乗り切ったところで沸々と怒りがこみ上げてくる。

 怒りのあまり叫んでしまったが、それをまさかモンスターに窘められるとは思っても見なかった。

 思った以上に理性的なモンスターのようだ。

 ともあれ、拘束を解いてもらって衣服を正すと念の為にもう一度私を食べないのか確認すると、食べる部分が少ないと私の胸を突いてくる。

 そこは柔らかいけど食べ物じゃない!

 取り敢えず食べられることがないとわかり、安心すると感情が爆発した。

 どれだけの間愚痴を言っていたのかはわからないが、少なくともモンスターに理解を示されるくらいには説得力のあるものだったらしい。

「嫉妬されてんだろうから深く考えるな」とは、中々このモンスターもわかっている。

 つまり私に魅力があることを理解できているということだ。

 思わず自分で自分を褒め称えてしまったが、そう言えばこのモンスターには以前にも命を救われている。

 その件についてお礼を言ったのだが、意外だったのか不思議そうな目で見られていると感じた。

 それはともかく、生きて戻れるのだから報復の時間。

 待っていろよ、クソ女と男共――誰を敵に回したのか、その身にたっぷりと教えてやる!




 そして今、私はアルゴスの住処にいます。

 あのクソ女の悪行を里の皆が知る前に戻れば、消される危険があるとの忠告を受け入れ、このゴブリンたっぷりの森でのサバイバルなどできない私はこうしてアルゴスにくっついて行くこととなった。

 しかしまさか帝国の遺跡に住んでいたとは……これは一儲けできる匂いがしてきた。

 ここに来て運が回ってきたようだが、巫女の件といいこのモンスターが来ると良い方向にことが進んでいる。

 やはり運命なのだろうか?

 だが残念、幾ら強くて金儲けができそうでもこいつはモンスター。

 これでエルフ……もしくは人間だったならばこの体で落としていたところだ。

 しかし私が興奮するとすぐに胸を触ってくるのは頂けない。

 どうも鎮静手段として用いているようなのだが、少し私の扱い雑すぎない?

 だがそんなことより遺跡である。

 まさか地下にこんなものがあるとは思わなかった。

 そして私のか弱さを理解してくれたのか、危険な物を取り除いてくれるアルゴス。

 うむ、くるしゅうない。

 待ちに待った地下遺跡の探索は散々だった。

 思い出したくもないとはまさにこのことである。

 取り敢えず遺跡の奥には二度と行きたくない。

 どうも実験施設みたいな場所のようだが、あんな化物を何に使っていたのか……お金の匂いが更に強くなるが、この件は危険であるとアルゴスから忠告された。

 命を助けてもらったこともあり、このモンスターは私に対して害意が少ないこともあってか話ができる。

 おまけにエルフ語だけではなくフロン語も達者というのだから芸の多いモンスターである。

 そのフロン語について話をしたところ評議会に興味があるのか、色々と聞いてくる。

 よろしい、何でも聞きたまへ。

 それからアルゴスとの生活が始まったのだが、思ったよりもあっさりと終了を迎える。

 私としても得るものが多い三日間であったが、それが無駄に終わりそうなのが残念でならない。

 それよりも本当に私の身は安全なのだろうか、とアルゴスに確認するが、まさかここで四大氏族の一つのフォルシュナの名前が出てくるとは思わなかった。

「こいつ、人脈もあるのかよ」とますます人間種でないことが悔やまれる。

 ともあれ、フォルシュナの氏族の下でなら安全にぐーたらできる。

 ご飯を用意してくれるが、ここでの食事は単調なのが頂けない。

 寝床の質は悪くはないのだが、遺跡の奥にはあの化物の残骸――おかげで離れて寝るのが怖くてできなかった。

 というわけでここを離れることに未練はあんまりない。

 可能なら何か持って帰りたかったが、この白衣だけでも信憑性を得るには十分だろう。

 アルゴスの肩に乗り、いざ出発!

 里までこの微妙な乗り心地を我慢しなければならないのかと思ったが、川に目的の人物がいたようで予想より早く降りることができそうだ。

 ああ、やはり私は天に味方されている。

 いやむしろ愛されてる?

 あとはフォルシュナの氏族に守ってもらい、必要なことを証言すれば、今回の件に片がつくまでダラダラしていられる。

 おまけに恩まで売れるのだから最高である。

 そう思っていたのだが――フォルシュナの女性の私を見る目が厳しい。

 というかただならぬ雰囲気?


(あれ? アルゴスさんや、言ってることが違うんじゃない?)

(´・ω・`)次回からは主人公視点。

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― 新着の感想 ―
[一言] ダメおっぱいはダメおっぱいだったのがハッキリと分かった。 看守の人もめんどくさかっただろうなぁ…キレなかった看守殿と主人公に敬礼(*`・ω・)ゞ
[一言] 先の6号さん視点からの、この落差... 普通~有能からの、この駄目さの緩急になかなかついていけない。 アルゴス視点でも駄目だったけど、本人視点だとなおさら駄目駄目だった...
[良い点] すげぇ…… ダメおっぱい視点で出来事を語ると、主人公視点で指摘されたことややらかした事が全部抜け落ちてやがる…… さすがダメおっぱい、駄目オッパイだからこそダメおっぱいなんだな……!
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