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8号さんこと本名「アーシルー・ガーデル」を担いで本拠点に到着したは良いのだが、地上部の研究施設跡を見た彼女のテンションがめちゃくちゃ高い。
「お、おお? おー、マジで? マジ? これもしかして、もしかしなくとも旧帝国の建造物? うっは、これ中にある物持って帰ったら金持ちになれる? なれちゃったりする? 働かなくても生きていける?」
このように大変俗物全開で興奮していらっしゃる。
これはますます地下で好き放題されては堪らない。
まずは地上部で彼女を下ろし、地下のエロ本やエロデータをきちんと処理してからでなければ大変なことになってしまう。
取り敢えず肩の上に座る興奮しすぎて俺の頭をベシベシ叩くアーシルーの服の胸元を指で摘んで寄せ、その暴力的なまでに豊かな胸を露出させて黙らせる。
「あんたはどうしてそう私の胸を弄ろうとするのよ!?」
「鎮静、手段」
慌てて胸を隠し、地面に書かれた文字を見て「ぐぬぬ」と黙り込む。
流石に自分でもはしゃぎ過ぎたことは自覚があるらしい。
ちなみに移動中はしっかりとおっぱいを押し付けさせたり、わざと振動を大きくしてポロリをさせたりして楽しんでいた。
そのおかげで大分あの大きさの衝撃にも慣れてきたので、最早押し付けられた程度では妄想が暴走するようなことはない。
そう、一見ただの欲望に忠実な行動のように思えても、それは訓練として必要なことだったのだ。
(いや、ほんとおっぱいだけは桁違いに凄い。あの大きさで形まで良いんだから反則級だ)
6号さんといいエルフの体は造形美が危険域に突入している。
モデルであった姉が霞むレベルがわんさかいるのだから、それはもう薄い本に引っ張りだこというのも頷ける話である。
一度沈静化させたにもかかわらず、アーシルーは「早う中へ!」と俺をバシバシ叩いている。
というかいい加減降りたらどうだろうか?
仕方なく施設内部へと入って彼女を下ろし、俺がキッチンとして使っている部分まで移動する。
「え? ここでご飯食べてるの?」という顔をして俺を見るアーシルーを無視して、地下への入口まで移動しようとしたところで肝心なことに気がついた。
「危険排除、待機」
これを書くために一度彼女を持って外に出ることになった。
喋ることができないというのは本当に不便なものだ。
紙とペンを常備する必要がありそうだな、とアーシルーを地上部分に残して地下へと降りる。
そして急いでエロ本やエロデータのパッケージを回収。
だが全てを隠す必要はない。
ここの研究員が隠し持っていた等の理由で存在するのは決しておかしなことではないからだ。
未使用の部屋にある丁度よい崩れた外壁の向こうにある空洞に大部分を隠し、その手前に彼女では動かせないような重い棚を配置して隠蔽完了。
テレビ等は隠すスペースがないので、ケーブル等を抜いた状態にして倉庫の中に置いておく。
一部エロ本は本棚の中に混ぜておき、それを「回収した本の中にあった」という風に偽装する。
ジャンルがバラバラであるからこそ通じる理屈だ。
断じて「エロ本を見た女性の反応を見てみたい」という理由からではない。
後は割れたガラス片などを一箇所に固め、それを運び出せば言い分通りで怪しまれる心配はない。
姉と妹に囲まれて育ち、エロ本を隠し続けた弟の技量は残念おっぱいエルフに見破れるほど浅くはない。
というわけで割れ物を袋に詰めて地上へと戻り、物珍しげに施設の中を探索しているアーシルーを見つける。
手にした袋を見せて、最低限危険な物を取り除いたことを知らせると地下へ行くかどうかを身振り手振りで確認。
「行くに決まってんでしょ! お宝よ、お宝!」
地下にあるものが何かを知っている身としては彼女の反応が容易に予想できるのだが、本人がその気になっている以上止めるのは気が引ける。
(止めたら止めたで、無理をしてでも降りるだろうしな)
昇降機の扉を開け、下まで彼女を担いで飛び降りる。
悲鳴を上げていたが気にせず着地。
溢れた胸を指でポンポン持ち上げると、文句を言いながらも衣服を戻す。
非常に心地よい重みだった。
「うう……無事な服が欲しい」
その言葉に服を調達してやろうかと思ったが、真っ先に思い付いたのがコスプレ衣装。
胸が全く収まらないバニースーツとか凄く見てみたいが、流石に無理があるだろうと頭を振って地下の扉を開けた。
「おぉ……まだ無事な帝国の地下施設。これは探索が捗りそうね」
ニマニマとした笑いが止まらないアーシルーが「早う下ろせ」と足をバタバタ。
俺は溜息を吐いて彼女を下ろすと、走り去る彼女が明かりの魔法を使って施設内部を照らすのを黙って見ていた。
(腐ってもエルフ。それくらいはできるのか)
まず彼女が入ったのは俺が倉庫として使用している部屋。
中の状態が気になるのか首を傾げて物色中のアーシルーの背後からヌッと手を伸ばし、紙とペンを探し出す。
彼女は驚いた様子を見せるが、この部屋を物置き場としていることを把握したらしく、興味を失い別の部屋に移動する。
「お宝出てこいー」と能天気に次の部屋に入ると机の中を物色開始。
残念ながらそこらの部屋は既に俺が探した後なので目ぼしい物は何もない。
彼女を見張る必要はあるが、取り敢えず寝床の用意くらいはしてやろうと俺が使用している布団の一部を引っ張り出す。
「ほうほう、ほうほうほう……」
わかった風な素振りを見せながら施設内部をうろついているが、間違いなく何もわかってはいない。
目につくものが珍しいのか、色々手にとって眺めたり触ったりしているが、僅かながらこの施設には電力がある。
下手に触られてゲートが閉まるようなことがないように釘は刺しておく。
「ふむ、ここの施設が何なのかわからないし、下手に動かすと危険かぁ……それっぽいものには触らなければ大丈夫よね?」
そう言ってアーシルーは俺が入れない奥へと走っていく。
ちなみに「この施設の操作はさっぱりなので下手に触るな」と書いたつもりだった。
特にやることがないので座って本を読む。
今回も「食べられる野草」を選択したが、一月以上時間が空いた所為で内容がほとんど頭から抜けたので仕方がない。
それからしばらくして予想通りのことが起こった。
「きぃやぁぁぁぁああああぁぁぁぁっ!」
恐らく蜘蛛男の失敗作でも見たのだろう。
悲鳴の聞こえてきた方向を見ていると、涙目で飛び出した片乳をばるんばるん揺らしながら全力で走ってくるアーシルーが現れた。
そして胡座をかいている俺の足へと飛びつき大きな胸を押し付けてくる。
本人にその気はないのだろうが、サイズがサイズなので事ある毎にそうなってしまう。
「ばけ、ばばば、化物! 化物がいた!」
「死体」
俺は用意していたメモを見せ、乱れた衣服を直してやる。
勿論、おっぱいを仕舞う時はしっかり触っているがね。
「あれ、死んでるのよね? 本当に死んでるのよね?」
「接触危険。酸、毒」
最後に「持ち出し不可」と書いたメモを見せると、本を床に置き頭を撫でてやる。
「あれ何? おかしいわよ。生物として有り得ない。上半身が人間で下半身が蜘蛛とか……まるで別の生き物同士をくっつけたみたいじゃない!」
まあ、何も知らない人間からすれば、ここにあるものに拒絶反応を示すのも当然だろう。
「……でも、お金にはなりそうよね?」
しばらくは優しくしてやろうかと思った矢先、この俗物が本領を発揮した。
「冷静に考えれば、これって凄い発見よね? 位置情報や建造物の情報――そしてこの中身! はっ、資料とか残ってないかしら? あればきっと高く売れる!」
うん、心配して損した。
そしてそんなことは許しません。
その旨を伝えるとアーシルーは露骨に機嫌を悪くする。
「えー、何でよ―」
口を尖らせ、ぶーぶーと文句を垂れる彼女の前に一枚の紙を突き出す。
「可能性提示。実験対象増加」
最後にアーシルーを指差すと、意味がわからないのか彼女も自分を指差し首を傾げる。
なので文字を隠し「実験対象」の部分だけを見せ、もう一度指差す。
意味を理解したのか、テンションが下がって真顔に戻ると考え始める。
「えっと……大丈夫じゃない? そこまで神経質に考えなくとも……大丈夫よね?」
俺は心配そうに訊くアーシルーを無視して読書を再開する。
しばらく「大丈夫って言ってよ」と俺の足を叩いていたが、反応する気がないと悟ったのか大人しくなった。
これで勉強の再開ができる――そう思った矢先、また彼女が口を開く。
「あんたそれ読めるの?」
読めてなければ本なんて手にすることはないだろうに、と無視して「食べられる野草」を読み進める。
まあ、写真が多い本であることは認めるが、それでも文章量は少なくはない。
俺が黙って黙々と本を読んでるのが気に食わないのか、アーシルーがその間に体を割り込ませると、文章の一つを指差した。
意味を答えろとでも言うのだろう。
「食用」とだけ紙に書き、それを見せると再び本に視線を戻す。
「はー、エルフ語だけじゃなくてフロン語まで読めるとか……あんた一体なんなのよ?」
何を言われようが相手をせずに読み……まて、今こいつ何て言った?




