63
(´・ω・`)新章っぽい。
崖の中程にできた出っ張りと窪みを活用し、周囲の枝を強引に曲げることで隠密性を確保したこのエルフ監視用拠点――我ながら道具もなしによくぞここまで作り上げたものだと感心する出来映えである。
その拠点で尻尾を曲げて這いつくばり、川に来たエルフの集団を監視するのが、今はなき帝国の兵士である今の俺の最重要任務である。
遺伝子強化兵という特殊部隊も真っ青なスペックを誇る俺が就く任務とは思えないが、エルフを侮るなど以ての外である。
周辺国全てを敵に回して国土を守り切っていた帝国の守りを唯一突破した種族である。
またこの遺伝子強化兵である俺を禁忌の魔法である「支配」を用いて従属させた実績すらある。
これを警戒しないなど帝国兵として有り得ない。
既に国はなくとも、俺は祖国に忠誠を誓った身である以上、心は未だ帝国軍人。
仮令相手が女子供であれど油断なく監視を行う。
この強化された目を持ってすれば、距離が離れていようが細部までしっかりと見ることができる。
言語を理解したことで声も拾うことが可能であるが故に、如何なる機密も漏らさず確保。
俺は決して焦らない。
たとえ成果は少なくとも確実に秘密を暴いていく。
それが今の俺に与えられた任務であり、帝国軍人としてなすべきことである。
「こら、返しなさい!」
片腕では隠しきれないたわわな胸を揺らし、男子達に奪われた上着を取り返そうと川を走る6号さんを見続ける。
相変わらずこの人は子供達に良いようにされており、今日も今日とて日々進化する悪戯に引っかかり水に濡れて透けた肌着を奪われている。
走る度に腕から飛び出したおっぱいがゆっさゆっさと揺れる様を眺めながら、この微笑ましい光景にウンウンと頷く。
そう、これこそ俺が求めていたものだ。
俺がエルフの集落を去ってから早5日――本拠点に戻った俺は雑務に追われた。
何せ一ヶ月以上放置していたのである。
掃除も必要だが、使用可能設備の確認や地上部分にある調理器具などの点検も必要だった。
掃除を手早く済ませ、本拠点周囲を入念に調べてゴブリン等の生物が立ち寄っていないかのチェックも行った。
これには何者かの痕跡と思しきものが見つかったため、三日も費やす羽目になった。
ちなみに結果はただのはぐれたオークだった。
基本的にオークとゴブリンは縄張り争いする関係にあり、この森ではゴブリンが優勢であったかのように思えた。
しかし俺が立て続けにゴブリンのコロニーを壊滅させたおかげか勢力図が変わりつつあるのかもしれない。
そんなわけで四日目にしてようやく川の監視任務に戻ることができた。
そこには元気に子供達に悪戯される6号さんの姿があった。
どうやらエルフは俺を然程脅威と見做さなかったようだ。
そう思っていたのだが、他の監視ポイントにエルフが現れる気配はなし。
やはり自然調和委員会である6号さんは俺に対する認識が他と違うようだ。
「しかしそれで子供達を巻き込むのは如何なものか?」と思わなくもないが、文字で意思疎通が可能であることを知っている彼女からすれば、委員会の理念に適う相手である。
ここまで都合の良い存在が目と鼻の先に生息しているともなれば、多少の危険も許容範囲なのだろうか、と6号さんの強かさを感じて少し見る目が変わる。
(そう言えば結構な立場の人物らしいし、組織や派閥みたいなドロドロした中で生きているわけだからそういう一面もあっても仕方がないか)
そんなことを考えながら綺麗にすっ転ばされた6号さんから、見惚れるほど素晴らしい動きで下着を抜き取った男子がそれを掲げて勝利のポーズ。
はためく白い布を幻視したが、普通に濡れて少し透けた感じのする下着である。
丸見えになったお尻を眺めながら、怒った6号さんの逆襲を眺める。
肌着と下着を奪われた6号さんはほぼ全裸という姿なので正に眼福である。
捕まった子供達はちゃっかり彼女の胸に顔を押し付けるなどして子供時代を思う存分に堪能している。
その光景を見る女子の目つきが大変厳しいものになっていることに今更気づく。
だっていつも6号さんばっかり見ているのだから仕方がない。
なのでその内の一人がザブザブと川の水をかき分けながら6号さんに近づくのを見逃した。
俺が気づいた時には少女は両手を6号さんに向かって伸ばしており、彼女の手は悪戯小僧を掴まえており対処ができない。
そして、少女の手が彼女に届く。
同時に6号さんが子供を掴んでいた手を慌てて離したが――既に遅かった。
少女の手が6号さんの胸を揉みしだく。
6号さんの胸を鷲掴みにしようとして手を埋めている女の子が「これが諸悪の根源か!」と叫んだ。
10歳くらいの女の子が言うセリフではない。
どうやら女の戦いが始まっている模様。
これには「関わるべきではない」と本能レベルで察している俺は、戦利品である6号さんの白い下着を掲げて振るう男の子の将来に「爆死しろ」とエールを贈る。
きゃあきゃあと叫ぶ声をBGMに6号さんのあられもない姿をじっくりと堪能する。
久しぶりの「6号さん劇場」に満足した俺は、彼女達が帰っていく姿を見送ると他の監視ポイントをもう一度確認しに行く。
何だか今日は良いことが起こりそうな気がする。
そうして時間を潰しつつ川からしっかりと距離をおいて全てのポイントを確認した結果、一切何の変化もないことが判明した。
日は傾き、そろそろ夕日が川を染める時間が迫っている。
(この時間帯はもう一度6号さんとそのお友達が来る時間! 急ぎ戻らねば!)
ダッシュで監視用拠点に戻り備えていたところ、良いタイミングで6号さんと友人三名がやって来る。
残念なことに下着姿ではあるが、水に濡れた肌着は透けて張り付き、大変素晴らしいものだった。
新たな扉が開きそうになっていたが、彼女達の表情を見るに警戒をしているらしく、頻りに森を見ているので純粋には楽しめていないようだ。
「本当に大丈夫なの?」
一人がそう不安そうに6号さんに尋ねているのがわかったが、聞かれた彼女は笑顔で応じている。
もしかしたら彼女は俺が襲ってくるとは微塵も思っていないのかもしれない。
そう思って彼女達の会話に耳を傾けつつ、生足で川の水をパシャパシャしている姿を拝見。
如何せん距離があるので結構集中しなければ日常的な声の大きさでははっきりとは聞こえない。
小声で話されていた場合はその内容を聞き取ることはできないのが、この監視拠点の欠点とも言える。
そうして彼女達が帰るまで見届けた結果、ある程度のことがわかった。
どうやら俺の扱いについては未だエルフの中でも揉めているらしく、未だ議論が続いているとのこと。
それに先駆けとして、6号さんを始めとする自然調和委員会がその牽制にあのように無防備に川まで来ているようだ。
付き合わされた友人達は最初から最後までこちらの森を気にしていたので、一般的なエルフにとっては俺は危険な存在なのだろう。
エルフの天敵である「森林の悪夢」を食い散らかす新たな脅威という認識が今は強いと判断。
このことから下手に姿を見せず、遠くから見守るのが現状ではベストではないだろうか?
明日からの楽しみを得た俺は監視用拠点で一泊することにして、夕食となる魚を確保しに川へと向かう。
ついでにしっかりと体も洗う。
本拠点にある水道から出る水量ではやはり満足ができないこの巨体。
体を洗うのなら川に限る。
そして川で魚を獲っていると気配を感じた。
(うーん……誰がこっちに来ているのか想像がつくんだよなぁ)
正直に言うと今はまだ会いたくない相手である。
遠くから影でコソコソと見る分には良い女性なのだが、その立場から考えられる目的故に現状関わるのは遠慮したい。
傭兵達のように悪戯を仕掛けるのは逆効果となりかねないので、ここは黙って大人しく距離を取る。
もう少し魚を獲りたかったが、今晩の食事は控えめにしておくとしよう。
俺が立ち去った後に6号さんが川に沿って移動をしているのを確認した。
やはり俺を探していると見て間違いないだろう。
(良い人なのはわかるんだが、下手に利用されると面倒事に巻き込まれるのは目に見えているのが玉に瑕だよな。そうでないなら、いっそペットみたいに可愛がられるのも――いや、悪くないか?)
容姿やスタイルはかなり理想的だ。
はっきり言うと物凄く好みである。
問題は彼女が自然調和委員会であるということ。
だが、俺がペット化してその問題点が逆にメリットとして作用するとしたら?
(俺にベタベタする6号さんか……悪くないぞ!)
暴走を続ける妄想に耽っていると気が付けば朝だった。
よし、冷静になれた。
飯を食って後片付けをした記憶がないほどに集中してしまうとは不覚である。
そもそも何処の世界にどデカイモンスターを食べ散らかす凶悪な面構えのモンスターを愛玩動物扱いする変人がいるというのか?
「いや、いるかもしれないな」と思わず僅かな可能性を模索してしまった。
どうやら思った以上に俺の性癖は歪みつつあるらしい。
取り敢えず朝食を確保しようと思い、昨晩の予定だった魚をもう一度確保しに行く。
エルフの集落にいた時は魚は一度も出てこなかったので、その反動かどうにも食べたくなってしまうのだ。
時間的に6号さんと子供達が来るのはまだまだ先である。
それでも一応注意深く川に近づいたわけなのだが――少し離れたところで、川を越えて森に入るエルフの一団を察知した。
どうやらイベントが発生しそうな予感である。




