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56 とある警備兵の泣き言

(´・ω・`)時間に余裕ができてからというもの、最近の流行りの作品などに目を通しているせいか、目がちょっと疲れ気味。

 自分で言うのも何だが、弓に関してはそこそこ自信がある。

 いや「あった」というべきか。

 同期の中では確実に頭一つ抜けていたというのは事実だが、全体で見るならば「まあ、優秀だな」と言われる程度だった。

 そういうこともあってか、俺は戦士としての道を諦め警備隊となった。

 安定した職ではあるし、モンスターに襲われている女性を助けてそこから親密な関係になったりすることもあるだろう。

 5年警備を務めて一度もそのようなことは起こらなかったのは、不運ではなく襲われる女性がいなかった幸運を喜ぶべきである。

 俺の名はスピンクス――26歳の若き警備隊であり、恋人募集中の何処にでもいる独身男性。

 趣味は読書とガーデニング。

 つまり無趣味だ。

 これがせめて「弓の練習」とかであればもう少し注目を集めていたかもしれないが、残念ながら才能のある奴というのを見た後ではそんな気には到底なれない。

 さて、警備兵をやっていれば当然モンスターとの戦闘もある。

 とは言っても、それを「戦闘」と呼べるかどうかは怪しい。

 魔法を使って脅すだけで、連中は勝手に逃げていくのだ。

 警備隊に入って初めての仕事でそれを見せられて拍子抜けした。

 実情を知っている者からすれば、警備隊というのは大変楽な職業らしい。

 そうとは知らず入ってラッキーかと思いきや、そう言った事情もあってか女性と縁があまりないそうだ。

 軽くショックを受けた。

 おまけに同じ警備隊の女性は皆お相手がいるというではないか。

 出会いを求めるも成果を得られず時間だけが過ぎていった。

 そしてあいつが現れた。

 そう「森林の悪夢」だ。

 死んだと聞いていたのに生きているとか酷い話である。

「悪夢」がいなくなったからこそ、俺は警備隊に入ったのだ。

 それなのにこの仕打は酷すぎる。

 おまけに緊急事態ということで「除隊は認められない」という旨を隊員全員を集めて発表。

 ヤバい、逃げ道がなくなった。

 だが、我々エルフにはまだ最強の守護神がいる……え、まだ傷が癒えてなくて戦えない?

 待って、いやホントに待って、お願いだから。

 あの「悪夢」が里に来たら俺も戦わなきゃいけないんだよね?

 確か魔法が全く効果がないんだよな?

 で、矢が凄く刺さりにくい。

 俺いる意味あるの?

 あ、時間稼ぎですか、そうですか。

 絶望した。

 恋人もできないまま死んでいくのかと思ったが、どうやら巫女を作るらしい。

 記憶が確かなら感知不能な「悪夢」に対抗すべく、視覚を封じることで聴覚を鋭くし、その位置を把握するための訓練を受けた者のはずだ。

 別に女である必要なくね?

 そう思ったのだが、戦うのは大体男だから女の方が都合が良いらしい。

 俺は「ごもっとも」と大いに納得した。

 問題は、選ばれた巫女がアーシルーだったことだ。

 俺と同じ「ガーデル」の氏族の女で胸がめちゃくちゃデカイ。

 これは周囲の男が張り切るであろう人選である。

 しかし「毒にも薬にもならない」と評判の凡骨しか生まれないガーデルから巫女が出てくるとは……何が起こるかわからないものだ。

 もしかしたらうちの氏族の発言力が少しは強まるかもしれないな。

 え、そういう意図はなくて、痴情のもつれ?

 あー、ゼサトの……うっわ、もしかしてうちの氏族災難?

 勘弁してよ……ただでさえ空気と思われがちなうちの氏族がゼサトみたいなとこに目をつけられたらヤバいだろ。

 そう思っていたら同じ氏族という理由で「悪夢」討伐に参加させられることになった。

 俺、兵士じゃなくて警備隊なんですけど?

 あ、弓の腕前を買ってくれるんですか、そうですか。

 でも俺くらいならそこそこいますよね?

 ああ、そこそこいるから警備隊の俺なんですか、わかりました。

「わかるかボケェ!」と怒鳴り散らしたいが、相手が悪い。

 どうやらこの討伐の編成は「死んでも構わない」中から選ばれたようだ。

 流石ガーデル、扱いが酷いぜ。

 こうなると生存は絶望的と思われたが、話を聞くとどうやら「悪夢」は腹が膨れると生き残りを殺さずに何処かへ行ってしまうこともあるそうだ。

 おい「食われる」って何だ?

 エルフを好んで食う?

 どこ情報だよ、それ……あ、確定情報なんですね、疑ってすみませんでした。

 俺食われるの?

 殺されるだけのケースもある?

 ああ、抵抗が激しいと殺されるだけだったりするわけですね。

 だから死ぬ気で抵抗しろ、と……はは、俺まだ26なんですけど?

 普通こういう役って若いの外しません?

 無理ですか、そうですか。

 ゼサトの……ああ、あの陰湿な女がアーシルーを的にしてるわけですか。

 それだと俺もろにとばっちりじゃありません?

 結局何を言っても無駄に終わり、氏族からは「逃げたら地の果てまで追いかけても殺す」と脅され、心休まる時はなく、討伐当日を迎えた。

 前日に氏族の長が尋ねてきたかと思えば、俺を監視するそうだ。

 そこまで信用ないのか、と肩を落としたが「お前なら逃げかねん」と止めを刺された。

 泣くぞ?

 しかも討伐に出発する間際まで俺を監視してやがった。

 クソジジイは「我が氏族から巫女が選ばれるとは」とゼサトの陰湿女に媚を売っていた。

 我が氏族事ながら泣きたくなる。

 そうでもしないと危ういほど今のガーデルは状況が悪いのか?

 流石に普段無関心の俺でもこれがおかしいことくらいわかる。

 俺は長の心中を察することができなかったことを心の中で詫びた。

 ところが討伐に出発する直前に自分の孫の命惜しさに俺を差し出していたことがわかった。

 よし、戻ったら覚えてろよ。

 そうは言っても戻れるかどうかは運次第。

 討伐部隊の数名を除き、本気で「悪夢」を倒すつもりでいるようだが、事前情報を見る限りここにいる全員でかかっても勝てる気がしない。

 半ば諦めた俺はアーシルーの豊かな胸を凝視しながら進む。

 川を越え、森に入ってからしばらくして巫女の耳が怪しい音を捉えたようなのだが、どうやらそれは「悪夢」ではないらしく、部隊長が本命を見つけろと怒っている。

 正直なところ「見つかりませんでした」ということにして帰りたい。

 ただひたすら「見つかりませんように」と願いながら進んでいたら――眼の前で一人消えた。

「悪夢」の襲来を巫女は直前で察知したが、それではあまりにも遅すぎた。

 一人、また一人と食われ、殺され、部隊の数が減っていく。


(ああ、俺もここまでか)


 そう諦めかけたその時、アーシルーを捕まえた「悪夢」に何かが飛びかかった。

 見たことのないモンスター――灰色の肌を持つオーガ並の体躯を持つそいつは「悪夢」を地面に引きずり下ろすと攻撃を始める。

 運の良いことに「悪夢」の足の範囲から逃れることができた俺はその光景をじっと見ていた。

 俺達エルフが為す術もなく食い散らかされた「悪夢」をそいつは食らっていた。

 そいつの腕にしがみついていたアーシルーは、意外なことに引き剥がされた後丁寧に地面に置かれる。

 どうやらエルフは眼中にないらしく、あいつは「悪夢」を食うことに夢中になっている。

 俺はアーシルーをこちらへと誘導するが、突然彼女は目隠しを外し「悪夢」が捕食されている様を見ると後ろに倒れた。

 思わず「何やってんだ!?」という大声を出してしまったが、幸いあいつは食べることを優先していたのでその場から立ち去ることができた。

 巫女をおぶって逃げる役目を引き受けることができたのは一生の思い出になるだろう。

 それ以上にあの「悪夢」から逃げ切ったことは、一生分の運を使い果たしたと言っても良い出来事だ。

 俺は「悪夢」が食われたという情報を里に持ち帰った。

 そしたら監禁された。

 生き残った7名全員から事情聴取を行うためそういう措置になったらしいが本当だろうか?

 結論から言えば、俺達が解放されたのはそれから二日後。

「悪夢」の死亡が確認され、里では大騒ぎとなっていたが、新モンスターについての話題は一切なかった。

 ゼサトの意向で情報が制限されたらしい。

「俺としては生き残れただけでも満足だ」と殴り倒された氏族の長を足蹴に格好をつける。

 だが、それからしばらくして急遽北側の里へと向かうことになった。

 一体どういうことかと思ったのだが、里の周辺に大きな足跡が確認されたそうだ。

 俺はすぐさまあの新種のモンスター絡みだと理解した。

 なのでどうにかして他の生き残りになすりつけることができないかと思ったが、既に全員が満場一致で俺になすりつけていた。

 覚えてろよ。

 そして、目的地へと辿り着いて事情を聞いていると、妙に里が騒がしい。

 それもそのはず、魔法キチと名高いあの魔女が話題のモンスターを引き連れて里へと入ってきた。

 思わず「あいつだ」と呟いてしまったが、それで確認が取れたことで俺は一先ず解放された。

 その後、ゼサトの長の長男と魔女の間で非常に拙い空気が流れたが、フォルシュナのお嬢さんが間を持ったことでどうにかなった。

 翌日――俺としては帰りたかったのだが、向こう側にも都合があるらしく一泊せざるを得なかった。

 朝の訓練の代わりに里の周囲を軽く走る。

 すると、魔女の家は噂通り里の外れにあったようで、あのモンスターの姿が見えた。

 ただじっと棒立ちしているあいつの近くに何気なく近づく。

 危ないとは思うが、本当に支配の魔法が使われたのであれば「近づく者を殺せ」とか命令されてない限り大丈夫なはずだ。

 俺はそいつの近くに行くとポツリポツリと「悪夢」を討伐する羽目になった経緯を話す。

 完全にただの独り言だが、こいつのおかげで生き残れたことには感謝くらいしても良いだろう。

 それに、同じ氏族ってこともあるんだが、あのご立派な胸を見ることができなくなるのは悲しい。

 こいつに言っても仕方のないことかもしれないが、あいつを助けてくれて感謝している。

 気が付けば感謝の言葉を口にしていた。


(はは、モンスターに「ありがとう」とか何言ってるんだろうな、俺も……)


 って今頷いたような……いや、気の所為だ。

 魔法はちゃんと効いていて、こいつは動かなかった。

 うん、俺の勘違い、気の所為。

 さあ、用件はこれで終わりだから里に戻るとしよう。

 それはもう急いで戻ろう、今すぐ戻ろう。

 里の警備隊として留守にするわけにはいかないんだ。


エルフ豆知識:「趣味は読書、ガーデニング」

 どちらもエルフの生活に根付いているものであるため、これを趣味を呼ぶのは無趣味と同義。わかっていても皆そう言う。「趣味はありません」というよりかはマシだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] このエロフは何だかんだいって長生きしそう 勘も良いし何より運が良い
[気になる点] 尻の共通言語も出してくれ。 [一言] 胸は共通言語。同じ胸が好きなら、俺達は仲間だ、と。
[一言] おっぱいで友情が育まれる日も近いのやもしれん。
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