表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/242

48

 おまけに彼女の反応だけが頼りなので、周囲のエルフが8号さんを落ち着かせようと動いた時点でこの試みは終了を告げる。

 もう少しオロオロする8号さんを見たかったが、こちらも位置がバレそうなので距離を取る。

 当然普通に動くとバレるので、足でタカタカとわざとらしく音を立てつつ遠ざかる。

 どうも8号さんは俺が立てる音が非常に気になっている様子なのだが、周りのエルフが諌めているらしくこちらを無視している。


(ふむ……何か目的があって目の見えない彼女の力を頼る必要があり、周りのエルフが武装しているところから察するに――敵は「見えない相手」でしかも手強い、と言ったところか)


 その条件で俺の知るモンスターや動物を思い浮かべるが、該当するものが出てこない。

 そもそもエルフが「手強い」と思うようなモンスターがほとんどいない上、そこからさらに「視認が困難」もしくは「擬態能力を持つ」を加えるのだから、そんなモンスターが――ここにいる。


(うん、俺がばっちし該当する)


 ということはここにいる連中は俺を討伐するためのものなのか?

 理由は?

 まさか覗きがバレていた?

 つまりエルフ達は覗きモンスターである俺を警戒して川から遠ざかり、制裁を下すべく彼らを編成したということか?

「そんなことがあってたまるか」と俺の手足がビートを刻む。

 8号さんが驚いた顔でこちらを指差し何か言っているが、武装エルフに怒られている。

 シュンとする美人も良いものですね。

 さて、少々理屈が飛躍したが、彼らの狙いが俺ではないことは実はわかっていた。

 何故ならば、武装したエルフは全員が上を向いていたからだ。

 つまり彼らはこの前の蛇のように木の上から襲ってくる敵を警戒していたことになる。

「もしかしたらあいつなのか」と思ったが、シャドウヴァイパー程度に後れを取るようなエルフではないだろうし、別のモンスターである可能性の方が遥かに高い。

 そんな訳で少々「エルフが討伐隊を作るモンスター」というのが気になったので、この一団を遠巻きに見守ることにする。

 この討伐が完了すれば、エルフ達も川に戻ってくるだろうし、結果の確認は必要である。

 ところが問題が早々に発生。

 俺が少々はしゃぎすぎたせいか、どうにも8号さんの集中が途切れがちのようだ。

「そんなことでは見えない相手から奇襲を食らうぞ」と心の中で叱咤激励しつつ、足音を消さずにここに俺がいることをさり気なくアピール。

 しかしいつまでもそうやっているわけにはいかない。

 擬態能力の使用は無制限ではない。

 なので視界を完全に切って擬態を解除し、さらに遠くから一団を見守る。

 こうなると彼女の耳にも俺の足音は聞こえないようで、見た感じ彼女は集中しているようにも見える。

 そんな時、俺の視界の隅に何か動くものが映った。

 だがそれが何なのかを俺は判別することができなかった。


(俺と同レベルの擬態能力――なるほど、これは警戒するわ)


 エルフ達の慎重っぷりも頷ける周囲への同化能力は、俺も望遠能力で細部を確認しなければ見失うレベルのものだった。

 おまけに驚くほど静かに動く。

 少なくとも俺の位置からでは音が聞こえてこない。

 目隠ししている8号さんもまだ気が付いておらず、周囲の武装エルフ達も気が付いていない。

 そして謎の生物はゆっくりとだが確実にエルフに向かって進んでいる。

 その輪郭をどうにか把握しようと努めるが、何せよく動く癖に擬態能力が完璧に機能している。

 同レベルかと思ったが、俺よりも高性能な気がしてきた。


(うーん……これは奇襲を防げない気がしてきた)


 エルフ達の行動から恐らく既に犠牲者が出ているのは確実。

 それに対応するように8号さんを引っ張り出してきているが、肝心の彼女がまだ気づいていない。

 謎の生物の射程がどれほどのものかはわからないが、これは犠牲者が確実に出ると判断。

 居場所くらいは教えてやろうかとも思ったが、エルフのお手並みを拝見する方がまだ実利がある。

 なのでよく見える位置に陣取って成り行きを見守る。

 いざとなれば8号さんだけでも逃してやろうと思うが、しっかりと武装したエルフの集団には無用のものだろう。

 さて、予想通りというべきか先手を取ったのは謎の生物。

 エルフ一団の進行方向で待ち伏せを行った結果、8号さんは奇襲を受ける直前でようやく相手の存在を感じ取ることができた。

 当然警告を発するが時既に遅し――武装したエルフの男性が何かに絡め取られ宙へと舞い上がる。


(ああ、多分あの生物に似たモンスターだな)


 その生態には詳しくはないが、あの水生生物に似た特徴を持つことから謎の生物の正体に当たりをつけるが、俺の知るものと随分違うので正直まだ自信がない。

 エルフ達は持ち上げられた仲間を助けようと魔法や弓を放つが、見えない相手には有効な場所に当てることができないのか効果が薄い。

 そうこうしている間に捕らえられたエルフの姿が見えなくなった――つまり食われた。

 仲間が食われたことで位置が把握できたのか、一箇所にエルフ達の攻撃が集中する。

 だがそれで謎の生物に対してダメージが入った訳ではなく、突如背後から掴まれたエルフがまたしても宙へと持ち上げられる。

 それに対し、エルフの一人が剣を抜いて斬りかかったことでようやく擬態の一部が解けた。

 同時に他のエルフが救出を試みるが、捕らえられた者は血を吐いてもがき苦しむと、やがてぐったりとして声を上げなくなった。

 恐らく絞め殺されたと見て良い。

 その後もエルフの一団は見せ場もなく一人、また一人と殺されるか食われるかという結末を迎えている。


(はあ? ちょっとお前ら一体何やってんの!?)


 その体たらくに思わずイライラして悪態をつく。

 8号さんを守るように戦っているのは褒めてやるが、その内容が余りにお粗末。

 どうやらこの謎のモンスターには魔法が効果的ではないらしく、エルフ達は弓と剣をメインに戦っている。

「魔法が効かないモンスターなんているんだな」と感心していると、遂にエルフの数が半数となった。

 魔法を主力とするエルフには最悪の相性の相手らしく、このままでは8号さんが餌食になるのも時間の問題だろう。

 俺は仕方なしに介入することを決める。

「まったく、エルフが帝国兵に助けられるとか……」と文句を言いながらも、立ち上がると同時に勢いよく走り出し、姿が見えなくともそこにいることがわかっている謎のモンスターに向かい跳躍する。

 同時に捕らえられたのか逆さまで宙へと浮かぶ白い下着の8号さん。

 俺は見えないモンスターの本体に体当たりをぶちかまし、木の上から地面へと引きずり下ろす。


(この感触――予想通りのモンスターだな!)


 接触したことで擬態が無意味と悟ったか、そのモンスターはその姿を表す。

 8本の足を持つ軟体動物――タコ型のモンスターだ。

 その足の長さだけでも10mはあろう巨体を地面に押し付けられ、暴れ狂う触手が俺を襲う。

 巻きつけられた触手には脅威を感じないので、取り敢えず8号さんが掴まっている触手に手を伸ばしそれを掴もうとするが、やはりというか表面のヌメリが邪魔をする。

 仕方なしに余り伸びていない爪を頑張って立てて引き寄せると、口を開けて触手に噛み付いた。

 逃れようとしたタコの足がうねり、掴まっていた8号さんが投げ出される。

 自分の状態が理解できないのか、手足をばたつかせて飛び込んだ先には俺がおり、8号さんは衝突すると同時に、落ちないように腕にしっかりとしがみついた。

 その直後、俺の意識は別の場所へと旅立った。

 そこは真っ白な空間だった。

 ただ何もない世界――そこに人の姿をした俺が一人立ち尽くしていると、不意に肩が叩かれた。

 反射的に振り向くと、そこにはいつも軽薄そうな笑みを浮かべている父が、真面目な顔つきで俺を見ていた。

 親父が頷く。

 親指を立てて、笑顔で頷き消えていく。

 遠ざかるように消えていく父の影に俺は手を伸ばす。


「良いんだよ」


 最後にそう聞こえた。


「……親父」


 帝国軍人として、仇敵であるエルフを助けるなど血迷ったとしか思えない。

 だがその帝国は最早この世に存在していない。

 父はそのくびきから俺を解き放つために現れたのかもしれない。


(だってさ……8号なんだぜ?)


 いや、もしかしたら9号すら射程圏内である圧倒的質量。

 それが今、俺の腕に押し付けられている。


「正直になれば良い」


 正直になっても良いと、背中を押された俺は彼女を守るべく父が消えた方角から背を向ける。

 もう、迷いはない。

 俺は現世へと戻ると同時にエルフを助けるべく一歩踏み込んだ。


(まったく、これじゃまるでバトル漫画に出てくる「お前を倒すのは俺だ」とか言って助けるキャラじゃないか)


 己の姿を客観的に見て苦笑しつつタコの本体へと迫る。

 足の相手をしても仕留めることはできない。

 本体を叩くべく腕に抱きつく8号さんを意識しつつも口に銜えた足を噛みちぎる。

 それを吐き出そうとした瞬間、俺の動きが止まる。

 ヌメる表面を吐き捨て、中のクニクニする肉を噛む。

 十分な咀嚼のあと、その肉が喉を通る。


(……あれ? こいつ美味くね?)


 タコという生き物は普通は食べようとは思わない見た目だが、好きな人は好んで食べるという話を何処かで聞いたことがある。

 吸盤のついた足が俺にくっついているが、それを脅威とは全く思わない。

 むしろ逃げる気がないのは幸いである。

 冷静に考えれば考えるほど、目の前のタコが美味しい食材に見えてきた。


(目的を変更――こいつは俺の獲物だ)


 俺はそっと8号さんを優しく掴み、地面に下ろして逃がしてあげる。

 これで目の前の獲物の確保に全力でかかることができる。

 この時の俺は新たな食材に浮かれ完全にあることを失念していた。

 今ここにいる武装したエルフ達は、この「タコ型モンスター」という脅威のために集まったのである。

 ならばそれ以上の脅威が出現した場合、どうなるのかを俺は全く考えていなかった。

おまけ

現在主人公が把握している大まかなスペック

身長3.2mくらい? 体重500kgくらいはあると思う(実際はもう少し重い)

攻撃力:岩をも砕く。武器?何それ?役に立つの?

防御力:おう、対戦車ライフルもってこい

器用さ:手がでっかいんだよ、察しろよ

素早さ:この図体でこの速度は反則だろ

体力:丸一日走り続ける

知能:人並み……人並みって言ってるだろ!?

魔力:はいはい、帝国人帝国人

五感:まさに野生の獣

特殊技能

 望遠能力 擬態能力 感情抑制機能


見た目

主人公はゲーム「Evolve」に出てくるモンスター「ゴライアス」を灰色にした後、棘を無くして上半身を少しゴツくした感じを想像すると「大体そんな感じ」になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今話の最初の部分に違和感があります。おそらく仮称8号さんに悪戯を仕掛けたのだと思いますが、描写が繋がっていません。 火の通ってない生のタコとか食えたもんじゃないと思うんだが………。 この巨…
[気になる点] 他の方も書いてますが、47話と48話の間の話が抜けています。 流れからして、主人公が色んな音とか出して8号さんを困惑させて楽しむような感じの話だと推測するのですが。
[気になる点] 47話の最後と48話の最初のつながりが変な感じがする。 何か話が抜けていないだろうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ