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 目の前の言い争いに介入するわけでもなく、ただ黙って様子を見ている。

 恐らくこれは偶発的な遭遇と思われるので、彼らがどのような対応をするのか少し興味があった。


(二度も舐めプで壊滅させられてまだ挑んでくるようなことはないだろうが……ああ、そうか。治療費やらで金を稼ぐ必要があってここまで何かをする――もしくは探しに来たというわけか)


 それとも進行方向の先に何かあるのかもしれない。

 しばらく彼らのやり取りを眺めていたのだが、言い争いを止める気配がない。

「もう行っていいすか?」とゲンナリしつつ彼らを迂回して先に進むことにする。

 その直後、俺の背後の声が大きくなった。

 わかる範囲で「やめろ」と「そいつを止めろ」の二つだけ、結構色々喋っているが早口でわからない。

 そのまま背を向けて立ち去ろうとしたところで、俺の背後に何かが落ちた。

 音から判断して石――それも誰かが投げたものだ。

 何が狙いかはわからないが、関わるつもりはないので無視して進むと今度は魔法の詠唱が聞こえてくる。

「またやる気なのか」とそちらに振り返ると、羽交い締めにされていたウィッチハットにドレスローブの巨乳魔術師が魔法を使い、背後の男を弾き飛ばすと同時にこちらに飛んでくる。

 丁度、俺と傭兵団の中間地点に危なげに着地をすると、背筋を伸ばしこちらをしっかりと見据える。


(あれ、この魔法使い……)


 距離が近づいたことでわかったが、多分俺が知っている魔法使いの女性かもしれない。

 それならば礼の一つでも言いに来たのかと思ったが、彼女はこちらが見ていることを確認すると、一呼吸の後に自分のドレスローブを掴むと一気に下へと引っ張り下ろす。

 その豊かな膨らみが下がる衣服から開放されると、外気に晒された豊かな胸がゆさりと揺れて元の形に戻る。

 大きな胸が顕になり、俺の前でその存在を誇らしげに主張している。

「相変わらず見事なおっぱいだな」と頷いていると、おっぱいさんがその自慢のお胸を隠すように服を正す。

「え、もうお終い?」と残念に思っていると、おっぱいさんがこちらへと歩いて近づいてくる。

まさかの初手「おっぱい」に思わず立ち止まってじっくりと見てしまった。


(なるほど……俺への足止めとして使ったか、見事!)


 勿論そんなわけがない。

 かと言ってこの前のお礼として見せたわけでもない。

 何せ俺はモンスターなので、人間の価値観が通用する相手ではないと想定している。

 その上で俺におっぱいを見せるということは――


(あれ? もしかして俺、おっぱいさんのこと「胸」で記憶しているとか思われてる?)


 はい、おっぱいで覚えてました。

「まじですみません」と心の中で謝りつつ、おっぱいさんの動きに注目。

 俺の前まで来ると傭兵団の皆さんも黙って彼女の動向を見守っている。

 おっぱいさんが手にした杖を地面に突き立てると、ガリガリと何かを書き始めた。

 書き出しから文字を書く様子はなく、どうやら何か絵を描いている模様。

 しばらく見ていると完成形が見えてきた。


(蛇だな、これ)


 地面に描いたとは思えない上手さに思わず拍手をしそうになる。

 しかし蛇の絵を描いてどうするつもりだろうか?

 流石にそれだけの情報では何もわからない。

「この蛇を探しています」と言うならもっと詳細のわかる絵が欲しい。

 蛇を書き上げたおっぱいさんが俺が絵を見ていることを確認すると、傭兵団を指差す。

 次に自分を指差した後に俺を指差す。

 そして、描いた蛇に杖を勢いよく突き立てた。


(あー、蛇を探しているではなく、一緒に倒して欲しいわけか)


 さて、どうしたもんかと考える。


(はっきり言って何のメリットもない。「狩りに行こう」的なお誘いかもしれないが、俺の力を頼っているようにしか見えない。見返りなしでは……)


 そこまで考えたところで不意に名案が浮かんだ。

 俺はリュックを下ろすとその中にある容器を開けると、布がみっしりと詰まる中から一本の瓶を取り出す。

 それを指で摘みおっぱいさんの目の前に持っていくと、もう片方の手を広げ「5」を示す。

 要するにこの魔法薬5本で手を打つ、と提示しているのだ。


(モンスターと交渉などできるはずがない。そう考えるのは普通であり常識。だからこの提案を一体彼女はどう捉えるか見ものだな)


 やはりというかおっぱいさんは目を見開いて何か呟き一歩下がっていた。

 だが、覚悟を決めたのか後ろの傭兵に大声で何か言っている。

 恐らく魔法薬の確認だろうが、返ってきた言葉の中に「2本」という単語が確認できた。

 モンスターと交渉をする意味を彼女は理解しているのだろう、地面に絵を描く杖を持つ手が心なしか震えている。


(これまでの常識、価値観の崩壊だ。顔色が悪いのも仕方ないな)


 書かれた絵には瓶が合計3本――つまり手持ちはこれだけしかないという意思表示だろう。

 これでは間をとって4本ということはできない。

 追撃を入れるようで少し意地悪をしたくなってしまったが、これ以上は負担をかけすぎるでこちらから妥協案を提示。

 再びリュックを探り、もう片方の魔法薬を取り出すと、それをおっぱいさんに見せて指で「2」を示す。

 ちなみに親指と人差し指。

 親指から順に上げていくのが帝国式の数え方。

 他の国もそうだったり、人差し指からだったりと何種類かある。

 青い魔法薬が3本に、緑の魔法薬2本――この条件を提示するとおっぱいさんは頷く。

 交渉成立を示すように、地面に描いた合計五本の瓶を丸で囲む。

 俺はそれに頷くと魔法薬を容器に戻しリュックを背負うと、おっぱいさんに手を伸ばし彼女をそっと掴む。

 驚いたようだが抵抗せず受け入れるのは彼女なりの覚悟だろう。

 さり気なくおっぱいが指に当たるように調整。

 最初は6か7で迷ったが、今なら確信を持って言える――7号であると。

 そんなわけでおっぱいさんを肩に乗せて傭兵のところにのっしのっしと移動する。

 傭兵達が騒がしいが気にしない。

 少し揺らしすぎたのか、おっぱいさんが落ちないように俺の頭部をしっかり掴む。


(うむ、よい感触である)


 俺も満足したのであの大剣のおっさんの前に彼女を下ろす。


「本当に大丈夫なのか?」


 おっさんが多分そんなことを言っている。

 それに対しておっぱいさんは少し上ずった声で何か言っている。

 拾えた単語の中に「一泡吹かせる」と状況に合わないような言葉が混じっていた。

 この言葉に俺は少し考える。


(察するに、彼らがここにいるのは本意ではない……というより無理矢理行かされたと見るべきか? その理由は? 前の戦いくらいしか思いつかないが――ああ、貴族絡み臭いな)


 それならば「一泡吹かせる」の意味もなんとなく通じてくる。

 つまりこの傭兵団は前回の敗北が元で「蛇」を退治させられることになった。

 でも大半が負傷している状態ではとても倒せるような相手ではない。

 そこで俺を頼ってでも、貴族かそれに類する何かの思惑を潰してやろうということだろう。


(ふむ、嫌いじゃないシチュエーションだな)


 俺が突っ立ってると、大剣のおっさんがやや引きつった顔で声をかけて近づいてくる。

 お前は臭いから寄るなと言わんばかりに尻尾でペチコンすると、周囲から笑いが漏れるがその表情は硬く、こちらをがっつり警戒しているのが見て取れる。

 また、話し声から察するにどうやらこの隊長さんは臭いネタで団員からいじられているようだ。

 悪くない空気の傭兵団だな、と俺は仲間がいる彼らを少し羨ましく感じる。


(しっかし、あの隊長さんがいて勝てない蛇ねぇ……おっぱいさんもいて勝算が低いと見る蛇なんていたかねぇ?)


 少なくとも俺の知識にはないので、もしかしたら新種の蛇なのかもしれない。

 俺は魔法薬を受け取り、それを容器に入れると首を傾げながら歩き出した傭兵団の後をのそのそとついて行く。

 歩く速度が違うからこっちはかなりゆっくりである。

 仕方がないので周囲の警戒くらいはしてやろう。

 そう思って彼らと歩いているが特に気になるものはなく、変化がないことで余計な考えが浮かんでくる。


(しかしこうなると普通に同行するのもつまらんな)


 俺はむくむくと悪戯心が湧き上がってくるのを抑えきれず、ニンマリと後ろから傭兵団を眺めていた。

 まあ、主におっぱいさんのお尻なんだが……この人胸も大きいがお尻も実にいい感じだな。

(´・ω・`)一番やりたかったことができた。何処とは言わんがな。


これが終わると再びエルフ。物語が進む予定。

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― 新着の感想 ―
[一言] どことは言わん?…この話の中でどこって濁したらもう1つしかないやん( '-' ) そしてとうとう異文化交流来ちゃ!
[良い点] いい展開だぁ! 膨らむ期待がノンストップ
[良い点] (´・ω・`)読みながらキモイ顔でニヤニヤしてしまった、どの部分とは言わんが!
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