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(´・ω・`)今日は短め
翌朝、微妙に寝心地の悪い藁布団からむくりと起き上がり欠伸を一つ。
帝国産の布団に慣れてしまえば、このような粗末なベッドでは満足することはできないのだ、とさり気なく祖国を持ち上げる。
最近どうにも運がないように思えるので、ここらで一つ神頼みというわけだ。
ちなみに帝国にもちゃんと宗教は存在しており、教会のようなものもある。
ただ他の国と違って○○の神の○○という役割と名前が付いているわけではなく、要約すると「神様って何処にもいるし、沢山いるからなんとなくで崇めてね」というふんわりとしたものだった。
これに関しては過去に周辺国から干渉されたようだが、その時に帝国の対応はと言うと――「ならその神様も今日からうちの神様ね」と相手の要求をガン無視。
「うちの神を崇めないとはどういう了見だ?」と舐め腐った要求をして来た南の国は「崇めてますがなにか?」という帝国の主張を崩すことができなかった。
詳細は大分違っていると思うが、こんな感じの宗教観が俺にも根付いており、取り敢えずその辺にいそうな帝国の神様にでも神頼みというわけである。
神様は器がでかいので、たまにする神頼みくらいなら受け入れてくれるはずだ。
きっと今日は良いことが起こるだろう。
さて、まずは何をするにも腹ごしらえだ。
今まで空腹を感じたことはないが、食事はしっかり取らなければどうにも気分的に調子が出ない。
というわけで周囲を散策したところ鶏がいた。
恐らくだがここで飼育されていたものが、村が壊滅したときに逃げ出し野生化した、といったところだろう。
「これは良い発見だ」と早速の幸運を神に感謝。
ここで食べるよりも持ち帰って卵を得た方が食の幅は広がる。
今回は鶏を入れるケージがないため諦めるが、準備を整えた時にまた来よう。
他にも大きな鳥が我が物顔で空を飛んでいたが、ここは旧帝国領と違ってフライニードルはいないようだ。
(そういやあいつらって何処に潜んでいるんだろうな?)
帝国の学者が調べていたような気もするが、謎が多すぎるモンスターとして何かで見た気がする。
取り敢えずさくっと捕まえた野生の豚が本日の収穫である。
家畜と違い肉が硬そうだが、この顎の力の前には無力。
魔剣がなくなったことで手間が少しかかるようになった解体にも慣れてきた。
薄切りは鉄板。
ブロックは直火に分け、鉄串を刺して内部まで火が通るようにしっかりと焼き上げる。
少々表面を焦がしてしまったが、この肉塊に齧り付くのは中々病みつきになる。
食後に水を飲んだ後は、廃村の井戸で洗い物。
それから水の補充も行おうと思ったが、水質に問題がある可能性を感じて中断。
微妙に臭いが気になる気がしたためである。
例えば、この村が廃村になった原因から逃げるために井戸に落ちた人間がおり、そのままここから這い上がれずに――なんてこともあるかもしれない。
となると鉄板を洗ったのは拙かった。
思わず飲料用の水を使って軽く流してしまう。
どうせ他の候補地で補充することができるだろう。
後片付けを済ませた俺はリュックを背負い、次の候補地へと向かう。
距離はあまりないのでサクッと行こう。
というわけで辿り着いた候補地付近。
残念ながらここには村はないようだ。
念の為少し周囲を確認してみたが、やはり村は疎か集落すらない。
ここはまだ未開拓のようだ。
仕方がないので次の候補地へと向かおうとした足が止まる。
(……次の位置が思い出せない)
山の向こうか現在位置の北だった気がするのだが、どちらだったかはっきりと思い出せない。
(確か地図上だとここから北に行くと山があって、それを越えたら海だよな? だったら東に行って山を……いや、南東にもう一個候補が合ったような気がする)
これはメモでも用意しておくべきだったと己の迂闊さを悔やむ。
しかしこれだけ大きな手だとペンを持つのも一苦労する上、何かを書こうとするなら尚更である。
なにか対策を講じる必要があるなと思いつつ、取り敢えず南東に行ってから山へと向かうことにする。
平地が多いので手早く移動できるから少しくらい寄り道をしたところで問題はない。
そして昼過ぎ――候補地と思しき場所には確かに村があった。
ただし、ここにも村人の気配がない。
一つ気がかりなことに、村にある建物の大部分が原型を留めているのだ。
壊れている部分もあるが、それは何者かに破壊されたかのような印象を受ける。
(臭いや音でわかる範囲に人はいない)
擬態能力を使用し村を囲う柵に近づいて中を探る。
周囲をゆっくりと移動した結果、この村には人はいないと断定。
少し調べてみようと擬態能力を解除し中に入ったが、やはり人の気配はない。
壊れた家を調べてみたら、それが何年も前に壊された古いものではなく、ここ最近破壊されたものであるかのように思えた。
柵が壊れた様子はなく、人間同士の争いであった場合、破壊された家の壊れ方が余りにも奇妙だ。
(まるで大きな何かがぶつかったかのような壊れ方なんだよなぁ……)
これをモンスターがやったと見た場合、柵を壊さずほとんどの家屋を破壊せずに人間だけを食べていたことになる。
壊れた家は隠れていた人間を食べるために破壊したのかもしれない。
そうなるとここを襲ったモンスター像が浮かび上がってくる。
(人口がこの規模から多くても200人くらい。それを全て食ったとは思えないが、わざわざ柵を壊さずに人間を襲う理由は何だ? また血痕や血の臭いが残っていない理由は?)
この二つの疑問を合わせると、犯人は隠密行動を行い村人を一飲みにした――ということだろうか?
犯人像に心当たりがない。
モンスター博士というわけでもなく、読んだことがある本の情報が頼りなので流石にこれだけの情報で特定するのは無理がある。
ともあれ、人がいないというのは好都合である。
俺は畑に向かい目的を達成しようとしたが、生憎作物はまだ育っておらず、手入れする者を失った畑には僅かながら雑草が姿を現している。
やはりここは人がいなくなってからまだそれほど時間が経っていないようだ。
倉庫に行けば何かあるかなと思い、そちらに向かってみたのだが、あったのは無残にネズミに食い荒らされた食料だけ。
恐らくここは食料庫だったのだろうが、そこは見事なネズミの王国になっていた。
俺は戸を閉めるとその場から黙って立ち去る。
次の候補地は山を越えたところにある。
夜通しで走れば辿り着くだろう。
俺はのっしのっしと村の中を歩き、柵を華麗に飛び越えると山へと向かう。
しばらくは森の中を進むことになるので移動速度が少し落ちるが、悪路を走破することに定評がある今の俺ならば然程影響はないはずだ。
などと胸を張っておきながらそれはもう見事に阻害されている。
うん、自生している樹木が違うせいで密度が高いの。
それで通れない場所が多くて走ると木をなぎ倒しながらになるからこうやって歩いてる。
(人が入らなさすぎてまるで樹海だわ。これはちょっと想定外だったなぁ……)
そうやってトボトボと枝や背の高い植物を掻き分けながらすすんでいると、俺の耳に反応があった。
(……複数。数は10……いや、その倍はいるな。方角は……このまま進めばぶつかりはしないが視界に入りそうだな)
実はもう少し前から音だけは拾っていたのだが、樹木の厭らしい配置でイライラしていたので気にかける余裕がなかっただけである。
足音からそれが人のものであることはなんとなくわかる。
それが二十人以上おり、声を出さずに歩いている。
(あー、これもしかしてさっきの村から逃げた村人か?)
一応確認だけはしておこうと、音を立てすぎないようにそちらへと向かう。
途中から擬態能力も使用しようかと思ったが、村人に見られるくらいなら問題はないとそのままゆっくりと近づく。
そしてそろそろ視界に入るだろうかというところで、斜面に踏み入った俺の足元が崩れた。
そこから滑り降りるように前へ前へと押し出され、両手を地面について止まったところで顔を上げる。
すると俺の視界に見知った者が映る。
大剣を持った傭兵――これで三度目だ。
「この傭兵団とも縁があるな」とまだ距離のある彼らが戦闘態勢へ移るのを黙って見ていると、何やら内輪揉めが始まった。
はてさて、彼らの目的は何だろうか?




