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(´・ω・`)応援サイト……そういうのもあるのか。
本拠点に戻って三日――一つの問題を解決した俺は、再び新たな悩みを前に腕を組んで唸っていた。
持ち帰ったデータディスクプレイヤーが、うんともすんとも言わない故障品だったのは仕方がないと諦めも付く。
ペッパーミルが小さくて苦労したのも良い。
結果としてちゃんと粗挽きのブラックペッパーができたし、焼いた肉の味が良くなったことで歓喜したくらいだ。
とはいえ、やはりというか所詮は野生の動物。
帝国のように食用に飼育された家畜とは肉の味が根本的に劣っている。
これに関しても仕方のないことだとわかっている。
食生活改善のためにカナンで香辛料を手に入れて、それを使って食事をしたことで新たな問題が発生した。
(肉ばっかで飽きた。野菜食べたい)
そう、俺は猛烈に野菜が食べたかった。
そこらの野草なんぞ食べる気にもならない。
きちんと栽培された野菜が食べたいのだ。
人間だった頃ならば「肉食ってりゃ良いんだよ、肉ぅ!」というよくわからないテンションで貪り食っていたものだが、いざ肉ばかりの食事となると野菜が欲しくて堪らない。
あと果物も欲しい。
砂糖を貰って来たのは良いのだが、使い道が驚くほどなかった。
直接舐めるのも何か違うので、果物を砂糖漬けにするなり一緒に煮詰めるなりしたい。
では何処から調達するか?
野菜、果物とくればやはりエルフが真っ先に浮かぶ。
確かに彼らの食生活はそういうイメージがあるが、偏っているというわけでもなく肉もバランス良く食べている。
何よりあのエルフと真っ向から勝負するとかタダで済むとは思えない。
当然ながら却下。
東のセイゼリアに至っては、農産物を生み出しているのが奥地にある王都から近い農地がほとんど。
僻地にも農村くらいあるだろうと思うが、あのモンスターが蔓延る国ではそれは望めない。
よって、そんなところまで足を運ぶ気が起きないので却下。
南――こちらも遠すぎる上、あの二国の国土が豊かであったためしがなく、最悪まともな食料を調達することさえできないこともあり得る。
勿論却下。
となると自然カナン王国へと行くことになる。
これに関しては「またカナンか」と考えざるを得ない。
少々大きく動いたばかりなので、あまり頻繁に活動すると今後に差し障りがある。
具体的に言うと物流に障害が発生したことによる経済的打撃が、俺の収穫量に影響をモロに与える。
カナンの抵抗に関しては問題視していない。
というわけで今回狙うは僻地の農村。
いつモンスターに滅ぼされるかわからないような場所から略奪するのも気が引けるが、僻地で農地開拓なんぞやる人間がまともな経歴であるはずもなく、都市部でやらかした奴が流刑地として送り込まれているのが大半だ。
そのモンスターが俺だったというだけの話なので、さして気にするほどのことでもない。
僻地の農村ならばなくなったところで王国の上層部は関与しないだろうし、情報が広まりにくくその影響も小さいと考える。
つまりこれは名案である。
俺、天才。
自画自賛を挟んだところで倉庫にしている部屋から地図を持ってくる。
何分200年前のものなので少々頼りないが、それでも地形は正確である。
この地図から村がありそうな場所をピックアップし、そこへ向かうわけだ。
しばし地図とにらめっこをして頭に叩き込むと早速出かける準備を始める。
流石にこの精度の地図を持っていくわけにもいかないので、これは再び倉庫に大切に仕舞い込む。
昔の帝国領がわかる数少ない資料なので大事にしよう。
時間を持て余したが故の施設探索でこんな物が手に入るのだから、もっと探せば他にも何か見つかるかもしれない。
余裕がある時にまた部屋を一つか二つ入念に漁ってみよう。
電気が僅かとは言え使えるので、もしかしたら遺伝子強化兵に関する情報が何か手に入るかもしれない。
さて、出かける準備ができたので荷物をチェックし、施設の地上部分へと上がる。
扉をきちんと閉めてから調理場で鉄板と各種食器をリュックに入れ、忘れ物はないかと最終チェック。
リュックを背負っていざ出発。
第一目標はカナン王国国境付近にある前線都市エメリエード――その北東にある空白地帯である。
ここでエメリエードの食料が生産されていると予想し、まずは西から順に候補地を訪れる。
だがその前にエルフ監視用拠点で一泊する。
任務からしばし離れていたので変化はないかチェックする必要があることと、ここで水を補給しなかった場合、次の補給ポイントが不明であることが不安材料となるためである。
各種帝国産の容器を手にした今、水の運搬量は5リットルから10リットルへと倍増した。
おまけに瓶と違い割れる心配がなく、緩衝材が不要となったことでリュックの容量にも優しい。
久しぶりの任務に気も引き締まる。
やはり俺の本質は帝国軍人なのだろう。
短期間とは言え訓練を受けただけでこの自覚――教官殿には感謝をしなくてはならない。
そんなわけで昼前には拠点に到着したので、早速任務の準備に取り掛かる。
ちなみに教官の顔はあんまり覚えておらず、無駄に声がデカイオッサンだったというのは記憶にある。
さて、時間的には少々早いが気が逸るので仕方ない。
俺はウキウキしながらエルフの少女達が川に来るのを崖の拠点から見守っていた。
待ち続けること一時間――そろそろ時間である。
俺はビデオカメラが使用できるようになった時に備え、カメラの位置や角度を妄想しつつ時間を潰し、今か今かとエルフの登場を待ちわびた。
結果、夕方になっても誰も来なかった。
崖にある偽装を施した拠点の覗きポイントでは、無表情でじっと川を見ている俺がいた。
(何が……一体何があったぁぁぁぁぁぁ!?)
俺は心の中で叫んだ。
だが俺は帝国軍人。
「いついかなる時も冷静であれ」との訓示を受けた身だ。
ただ今日何も起こらなかっただけという可能性もある以上、明日一日だけでも様子を見るべきだ。
そう結論付けると、取り敢えず俺は今日の晩飯の確保に向かう。
「たまたま今日はそうだっただけだ」と心を落ち着かせ、無心で獲物を解体して焼いて食う。
食べ終わって夜になったところで水を確保しつつ、魚を獲って処理を済ませるとクーラーボックスに入れる。
その後、鉄板と魚を焼く時に使用した鉄串を洗い、やることがなくなったので早めの就寝。
翌朝、保存していた魚を食べて監視の任務に就くがどれだけ待っても6号さんと子供達は来なかった。
他の覗きポイントも見て回ったが、誰一人として見つけることができずに夜を迎えることになる。
何も新しい発見はなく、今日という日を無駄にした。
(もう一日! もう一日だけ様子を見るぞ!)
俺は心のオアシスを失いたくないばかりに冷静さを欠いてしまった。
結果、さらに一日無駄にすることになる。
つまりエルフは誰一人として川に来なかったのだ。
(これはもう何かあったと見るしかない)
その翌朝、寝床からゆっくり起き上がると泣く泣くその事実を認めた。
だがエルフ国家に対して俺ができることなど何もない。
つまり彼らの問題が解決するまでは監視任務はお休みということになる。
おまけに告知なんて当然されないので、次はいつ「6号さん劇場」が開催されるか不明。
反射的に叫びそうになるのをどうにか堪え、どうにか呼吸を整え平静を保とうと全力を注ぐ。
(そうだ。これは一時的なものだ。つまり神はこう言っている。「早く野菜を食べなさい」と――)
神の意志ならば仕方ない。
どうにか心の平穏を取り戻すと、当初の目的を遂行すべく出発の準備を進める。
朝食を摂り、崖の偽装を確かめてから拠点を発つ。
ふと「自分の存在がバレたことでエルフが川に来なくなった可能性」を考えてみたが、モンスターがいたところで連中が行動パターンを変えるとも思えず、この可能性を否定する。
(しかし、共和国で起こった問題か……)
それが正解かどうかを知る術はないが、あのエルフが困るようなこととは一体何なのだろうか?
少し興味があるが、首を突っ込むには相手が悪い。
俺は大人しく目的地へと向かったが、その足取りは重く予定よりも随分と遅くカナン王国の国境を通過。
その後、エメリエードを迂回して農村を探すが最初のポイントが見事にハズレだった。
正確に言えば農村はないが、廃村ならあった。
折角なので少しこの村を見て回る。
野犬が住み着いていたことから、人間はもう長い間ここに来ていないのかもしれない。
しばらく探索をしてみたが、どうやらこの村は何年も前にモンスターに襲われ、壊滅したまま放置されていることがわかった。
当然野菜は勿論食料となるものがここにあるはずもなく、俺はさっさと次の候補地へと足を運ぶことにしようと思ったが、もうすっかり日が暮れてしまっている。
それならばここで眠れる場所を探すか作るかした方が良いだろうと判断する。
明日以降寝床があるかどうかわからないので、ここで一泊するのも悪くはない。
幸い寝床になりそうな倉庫があり、そこに丁度あった藁を敷き詰めて寝ることにする。
敷いた藁の上に周辺から拝借した布を被せ、簡易ベッドの完成である。
寝る準備が整ったので今日はもう眠ることにする。
明日は良いことがありますように。




