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 俺の攻撃が始まったのは良いのだが、いきなり問題が発生した。


「ギャァァァァァッ!」


「止めろぉ! ――来るな!」


 これこの通り、大混乱でございます。

 聞こえる単語も簡単なものばかりで、8割くらいは理解できていて助かるのは良いのだが、抵抗もせずに逃げ出すばかりで倒れた兵士が踏まれて死亡というケースすら発生している。

 士気が高いと思っていたが、これは正確な情報が伝わっていない気がしてきた。

 騎士の指揮も拙く、軍はほぼ潰走状態。

 俺が軍の中に入って暴れたことで、戦域の一角が完全に崩壊。

 味方を置いて逃げ出す者が既に出始めており、これが戦争なら勝敗がついている。

 逃げ始めた者が「こんなの聞いてねぇよ!(意訳)」と叫んだことから、どうやら俺の予想は当たったようだ。

 まあ、俺みたいな大物を退治するのに雑兵なんぞいてもできることはない。

 近代兵器で武装してから出直せという話だ。


「ガアァァァッ!」


 わざとらしく吠えて腕をぶん回し、兵を薙ぎ払っては飛び、また別の場所で薙ぎ払う。

 死なないように手加減はしているが、俺の腕は体の割にちょっと大きい。

 質量と速度の暴力とは酷いもので、俺の腕の射程内の兵士全員が盾を構えても、そのまままとめて空中に吹き飛ばすことができる。


「引け! 後退だ! 陣形を立て直せ!」


 多分そんな感じのことを言っている騎士が馬の上から大声で命令を下しているが、陣形を立て直してどうするつもりなのだろうか?


「傭兵共め! ―――!」


 聞き取れなかったが多分罵声だ。

「お前も戦ったらどうだ?」と騎士の前に出てやるとチョビ髭のオッサンが面白い顔で俺を見上げる。

 直後、騎馬が一騎こちらに向けて走り出したことを音で確認。


「マーティス卿! 助太刀に参った!」


「おお、カサングラ卿! 感謝致す!」


 意訳ではあるが、大体こんな感じのことを身振り手振りを交えて大仰に言っている。


(演劇やってんじゃねぇんだ。真面目にやれ)


 カナン王国の貴族とやらは度し難い阿呆なのか?

 俺はランスチャージを仕掛けてきた騎士をランスごとぶん殴って吹き飛ばし、同時に尻尾でもう片方も叩き伏せる。

 残った騎士が潰走する味方を止めようと声を上げるも、残念ながら効果はなし。

 兵の半数くらいはふっ飛ばした気がするので、今度は傭兵へとターゲットを変更。

 俺に挑んでいた精鋭を無視して傭兵が固まっている場所に突進する。

 当然止めるすべはなく、傭兵達は俺に跳ね飛ばされていく。

 弱いものから叩く――これをされると一番困るのは知っている。

 人を育てるには時間と金がかかる。

 折角育った者を失うのだからそのダメージは相当なものとなる。

 部隊の士気を、今後の活動を考えるならば、彼らが取るべき手段は一つしか無い。

 兵士が畑で取れると勘違いしている領主や国王と違い、傭兵団は「損耗」を避けなくては傭兵家業を続けることすらままならなくなる。

 その辺りの事情を知るが故に、俺は傭兵の群に突撃し縦横無尽に駆け抜ける。

 そして先程俺の相手をしていた精鋭達が戻ってきたところで突如として方向転換。

 一列となった強者どもに突撃する。


(さっきは俺を囲んでの戦闘だったが、こうすればどう対処する?)


 先頭はあのグレートソード持ちの隊長さん。

 俺が突如向かって来たことで集団は一瞬足を止めたが、迎え撃つことを選択したグループとそのまま勢いを殺さずすり抜け様に一撃を狙う組に分かれた。

 初手は予想通りの行動に出た隊長さんだが、こちらも結構な速度を出しているのであの大剣とまともぶつかるつもりはない。

 隊長さんは横に滑るように手にした大剣で薙ぎ払うが、それは軽く跳躍した俺には当たらず、すれ違いざまに尻尾の一撃をまともに食らい吹き飛ばされる。

 そして着地と同時に後続を叩き、迎撃組に勢いを落とすことなく突っ込んでいく。

 直後、俺の前に土の壁が現れた。

 こちらの身長よりも高い土の壁をショルダータックルでぶち壊し、驚愕の表情を浮かべる傭兵達を轢き殺すような勢いで通り抜ける。

 ここでブレーキをかけ、180度向きを変えて四つん這いになって滑る。

 通り過ぎたと思ったら既にこちらを視界に捉えているというのだから、傭兵達には悪夢だろう。

 追撃を行い、まだ立っている者に襲いかかる。

 振り回した腕に当たって吹き飛ぶ。

 迫る腕を受け止めたは良いが空中を舞う。

 尻尾で弾き飛ばされる。

 それは最早、ただの蹂躙だった。

 気づけば周囲に立ち上がる者はいなくなっていた。

 無事な者は遠巻きにこちらを見ている戦意を喪失した兵士と傭兵くらいなものだ。


(終わったか。手加減はしてるから死んだ奴は少ないだろうが……それでも死んだ奴は運が悪かったということで)


 俺が立ち去ろうとした瞬間――声が聞こえた。

 それが魔法を使用する際の詠唱であると即座に判断した俺は、そちらに振り向く。

 見ると俺の拳の倍はある先の尖った石の槍が、高速で回転しながらこちらに向かって来ていた。


「ガアァッ!」


 全力の裏拳で咄嗟に軌道を逸らす。

 質量、速度共に優秀。

 加えてあの回転である。

 直撃すればタダでは済まなかっただろう。

 そんな感触があの一撃を殴った拳に残っていた。

 あの状況でも潜んで機会を窺っていたのだから大した魔法使いである。


(いやいや……「勝った」と思った瞬間が一番危ういとか、漫画の知識って意外と当たってるな)


 最後の一撃を撃った魔法使いの女性はその場にへたり込む。

 どうやらあれは残った力を全て注ぎ込んだ渾身の一撃だったようだ。

 俺は彼女の元へとノッシノッシと移動する。

 大きなウィッチハットで見えないので、顔くらいは拝んでおこうと思ったからだ。

 だが、彼女に近づいたその時――手にした杖から青白い光が伸びると同時にこちらを斬りつける。


(ライトブレード!? ちょっとそれ欲しいんですけど!?)


 すんでのところで横薙ぎの一撃を上体を反らして回避しながら、手にした杖を尻尾で叩き落として彼女を掴む。

 細い腰に大きな胸と大変素晴らしいスタイルである。

 痛くないように加減しながらも、逃げられないようにしっかりと掴む。

 抜け出そうともがく度、大きなおっぱいが指にポヨンポヨンと当たる。

 しばしこの感触を堪能していたいが、まずは彼女の顔を確認しよう。

 そう思い腕を上げたところで、両手で体を持ち上げるように抜け出そうともがいたことで、ドレスローブを置き去りに豊かな胸が露出した。

 もがく度にゆさゆさと揺れるたわわなおっぱいを眺めていて思い出す。


(なんか見覚えがあるような見事な胸……あ、これオーガの時のおっぱいさんだ)


 念の為に顔も見てみたが、美人であることがわかっただけで顔とおっぱいが一致しない。


「――! ――!」


 やはりというか何を言っているのかわからない。

 多分セイゼリア語を話していることから、やっぱり彼女はあの時のおっぱいさんなのだろう。

 となると彼女はあの魔剣を取り戻しにわざわざカナン王国まで来たということになる。


(あー、やっぱ相当高い物だったかー……)


 命を助けた代金としてはあの魔法薬でも十分である。

 実際の魔法薬のおかげで俺は命拾いしている。

 俺は「仕方ないな」とがおがお呟くと、喚くおっぱいさんを掴んだまま荷物の元へとノッシノッシと移動を開始。

 歩く度に振動でポヨポヨ。

 抜け出そうともがく度押し付けてムニムニ。

 いやはや、実に素晴らしいものをお持ちで。

 そこでふと逃げ出すこともできずに立ち竦む連中に目を向ける。

 魔法使いが一人攫われようとしているが、残された者達の中に何かしようとするものはなく、むしろ「一人の犠牲で済むのなら」と諦めの表情すら浮かんでいる。

 俺はその光景を見て鼻を鳴らすと、興味が失せたと言うように再び背を向けて歩き出す。

 抜け出すことが無理だとわかったおっぱいさんがポカポカと俺の指を叩くが、痛くも痒くもない上に何かカワイイので放置。

 またおっぱいが出しっ放しだったので好感度がアップした。

 さて、抵抗を諦めたおっぱいさんが何か言っているが理解できないので無視。

 美人を無視するのは心苦しいが、今は許して欲しい。

 そんなわけで荷物の元へ到着、彼女をそっと地面に下ろすと状況が理解できないのかこちらに何か話しかけている。

 取り敢えず、まずは渡すものを渡そうとリュックに付けた魔剣を外し、それを彼女の前に持っていく。

 それをしばらく信じられないものを見るかのような目で見ていると、我に返ったようにこちらに向き直る。

 俺は頷き、魔剣をその場に置くとリュックを背負いドタドタと立ち去る。

 馬車が逃げずに残っていたので帰りも問題ないだろう。


「―――!」


 後ろから彼女の声が聞こえた。

 俺に何かを呼びかけているかのように思えたが、振り返るのも格好がつかない。


(いや、もう一目あのおっぱいを見るのもアリなのでは!?)


 そう思ったが、流石にもう服の乱れを直しているだろうとそのまま走り去る。

 これであのおっぱいさんとの接点はなくなった。

 少し悲しい気持ちになったが、俺にはエルフ監視の任務もある。

 ともあれ、これでカナンでの活動に制限がかかった。

 さて、次の狙いはどうしたものか?

次回は別視点の予定

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― 新着の感想 ―
[良い点] コードネーム「おっぱいさん」(灬ºωº灬)
[一言] …ピッコ〇での更新が楽しみだ(*´ ꒳ `*
[良い点] いやもぅ…なんかすごいですねこの作品は…w
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