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(´・ω・`)短め
少しばかりイベントがあったが、無事ジスヴァーヤに到着した俺は、破壊され尽くされることのなかった街を見てホッと胸を撫で下ろす。
だがまあ、街が無事であるということはいるわけだ……緑のアレが。
女王がいたので殲滅自体は楽だったが、時間が無駄にかかってしまう。
結局、昼を大分過ぎた辺りで掃除が完了。
道路から引き抜いた血とよくわからない体液に塗れた標識を投げ捨て、荷物の下へと戻ると手を洗い、残った水を胃に流し込む。
「こいつらほんと何処にでも湧くよなぁ」とガオガオボヤきつつ、足や尻尾に付いた血をその辺から拝借した紙で拭う。
さて、ここに来た以上は目的達成第一である。
何せ帝国最大の弾薬庫。
200年も経過していれば大丈夫だとは思うが、おかしなイベントが発生する前に退散したい。
この街並みを見る前ならば一泊も考えることができたが、こうもしっかりと残っていると逆に怖いのが兵器工場という存在だ。
何らかの理由で「ドカン」となる前に、電気街に行って用件を済ませたい。
というわけでやってきましたジスヴァーヤにある電気街。
ここならどんな電化製品でも手に入ると思ってきたのだが……荒らされている。
しかも荒らし方が酷いというか雑というか……見て回ってわかったのが、これは人間の仕業でなくゴブリンがやったことであるということだ。
埃の積もり方を見れば、荒らされた場所がここ数年のものであることは何となくわかる。
恐らくゴブリン共は沢山ある電化製品を武器にでもしようとしたらしく、散らばった残骸からアレコレ弄って諦めて投げ捨てたかのように思えてならない。
これが展示品ではなく、倉庫にあるものなら発狂ものだが、ゴブリン如きに帝国制作の防犯シャッターを破る術などなく、お宝は無事200年という長い時間守り抜かれた。
そんなわけでシャッターを壊してお邪魔します。
俺でも入れる巨大な倉庫というだけあって、流石に目移りしてしまう。
目的の物を手に入れればさっさとおさらばするつもりだったが、少しくらいなら時間を取っても良いだろう。
まずは目的である最新型の高級ビデオカメラ。
こちらはすぐに見つかった。
万一を考えて二台持っていく。
次に録画用データディスクの束を取り敢えず50本分リュックに丁寧に仕舞い込む。
入れ方を少々工夫しつつ、今度は別の倉庫に向かう。
シャッターを強引に抉じ開けた先にあるのは大量の箱詰めされたデータディスク。
(この中から目的の物を見つけるのか……)
店と違い綺麗に整頓されているわけではないので、探し出すのは困難に思える。
それでも、俺は探さなくてはならない。
この山と積まれたダンボールの中から名作の数々を掘り起こさなくてはならないのだ。
そうして開封作業を開始して10分――俺は見つけてしまった。
(そうだった! ここはデータディスクの倉庫。ならばあらゆるジャンルのデータディスクが揃っているということだ!)
そう、アダルトなデータディスクである。
しかも大量。
俺の秘蔵のコレクションなど吹けば飛ぶレベルの物量に、思わず目が眩む。
その眩しさに一歩後退るが、今の俺には後退の文字はない。
この程度で俺の目的を阻もうなどと片腹痛い。
俺は目の前の圧倒的物量を鼻で笑い、目的の物を探すべく手を伸ばした。
結果、アダルトディスク25本に映画ディスク3本が俺の手元に残った。
いや、言い訳をさせてくれ。
俺が好きだったグラビアアイドルがR-18落ちしてたんだ。
だから思わず全作品を網羅しようとしたら、何か見逃してはならないオーラをまとったものが幾つも見つかってしまっただけである。
そもそも今回の目的はビデオカメラであって映画はおまけである。
続編物の続きが見たかっただけで、この時代に残されたデータディスクが利用可能かどうかを知るためのサンプルが幾つかあればよいだけだから、そのジャンルは問わないのだ。
そう、ジャンルは問わないのだ。
これでジスヴァーヤでの目的は果たしたとし帰還の準備に移る。
もしかしたらここにはまたお世話になるかもしれないので、ゴブリンが住み着かないように丁寧に開けた穴を周囲の廃材を使って封鎖する。
(さらばジスヴァーヤ。またここに来る日を楽しみにしている)
リュックの容量にはまだ余裕はあるが、持ち運ぶものに精密機械があるので移動を重視してのことだ。
パンパンに膨らんだリュックを背負って駆ける場合、思わぬことで大惨事となる可能性がある。
大型テレビをリュックに縛って運んだ時に得た経験は、しっかりとものにしなければならない。
そんなこんなで無事帰還。
途中ジスヴァーヤ――アイドレス間の線路跡を発見し、木がない道を使うことで時間を短縮できたこともあって昼過ぎには本拠点に到着した。
思えば各街には駅があり、線路を使って移動すればスムーズである上、事故を起こす心配もほぼなくなる。
(問題は、どこもかしこも緑に覆われているせいで何処が線路なのかわからないことだな)
これは街の駅から出発すれば大体解決するのだが、肝心の駅が形を残していない場合はその限りではない。
例えばアイドレスのように徹底した破壊が行われた場所や帝都とその周囲の街は、残念ながらこれに該当してしまう。
要の帝都があの状態では、帝国の交通網を最大限利用することは「ほぼ不可能」という結論を出さざるを得ず、運良く見つけることができれば使う程度に留めるしかないだろう。
今後の移動に関する話はこの辺にしておいて、準備が整ったのでまずは映画鑑賞を始めよう。
狩りを先に済ますべきだったかもしれないが、気になって仕方がないのでこちらからだ。
データディスクをプレイヤーに入れ、リモコンで操作する。
テレビの電源を入れ忘れていたことに気づき、慌ててそっと爪先でスイッチを入れる。
映った映像は「少しマシ」という程度のものだった。
音割れも酷く、とてもではないが視聴に耐えうる代物ではない。
次から次へとデータディスクを入れ替え映像を確認していくも、結果は全て同じだった。
(これはつまり、データディスクは200年耐えることができない、ということか……)
その結論を出した時、俺の中で嫌な予感がした。
「まさか」という思いでビデオカメラを取り出すと空のデータディスクを入れると、密かに充電していたバッテリーを装着しカメラを回す。
動く――そして撮れている。
しばし機材の調子や機能を確認しながら時折「がおがお」言って音声を入れつつ撮影する。
そして取り出したディスクをプレイヤーに入れ、再生ボタンを押した。
運命は残酷だった。
撮影は失敗――200年という歳月を、データディスクが耐えきれなかったことにより俺の計画は断念することとなった。
膝が崩れ落ち、俺は希望を失い天を仰ぐように暗い天井を眺める。
(いや、待て! プレイヤーに問題があるという可能性を俺は忘れていた!)
微かな希望が灯ったことで俺は息を吹き返す。
とは言え、今すぐジスヴァーヤに行く気は流石に起きない。
まずは腹ごしらえを済ませ、十分に体を休ませることが先決だ。
俺は重い足取りで施設地上へと這い上がり、ノタノタと狩りへと出かける。
成果は猪一匹。
随分と時間がかかってしまったが、それだけショックが大きかったということだろうか?
包丁としての役割を遺憾なく発揮する魔剣を洗い、解体が終わった肉を青天井の調理場に運び込む。
食わない部分は森に作った廃棄穴に放り込む。
小さな獣や虫が良い感じに処理してくれているので、悪臭も少なく便利なものだ。
塩を振った肉を食う。
食事に変わり映えがない。
沈んだ気持ちのまま食べては塩味が付いたところで色褪せてしまう。
俺は作業のように肉を胃に入れると、鉄板や食器を洗い適当な場所に立て掛ける。
まだ洗った物を置くための専用のスペースや用意はない。
俺は地下へと移動すると、時間をかけて作ったベッドに倒れ込む。
寝るにはまだ早い――でも、起き上がる元気が出ない。
しばしそのまま目を瞑ってゴロゴロとしていたが、結局目を開けた。
すると散乱したデータディスクの中から「巨乳祭り! 夏のビキニフェスティバル!」のパッケージが目に止まる。
生活環境を良くするのが先か、それとも娯楽を優先するべきか――答えがでないまま、俺はゆっくりと意識を手放した。




