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最高レベルのビデオカメラを求め、俺はショッピングモールにある倉庫を漁っていた。
大画面のテレビは見つかった。
それがまだ使用可能かはまだわからないが、最高級品が梱包されたままの姿で見つかったので、まだ生きていると信じたい。
いや、ここは愛国心を前面に押し、帝国の科学技術を褒め称えることでその生存率を少しでも上げるべきだ。
素晴らしきは我が祖国!
その技術に惜しみない称賛を送ろう。
(まあ、でも自爆しちゃったんですけどね)
やってしまったものは仕方がないのでビデオ探しを継続。
取り敢えず必要と思われる機器は見つかった。
肝心の物が見つからない。
流石に展示されていた物は使えないだろうし、何よりカタログにある「望遠倍率付き最新鋭多機能型」と書かれている24万ニェンもする初任給を上回るコレが欲しいのだ。
けれども一番欲しい物が探せど探せど見つからない。
第二候補は見つかったのだが、こちらはちょっとサイズの都合上止めておきたい。
スペック的には問題ないのだが、やはりサイズの問題は大きい。
しばらく探し回ったのだが、見つからなかったため諦めることにする。
(……こうなったらジスヴァーヤにある電気街に行くか?)
兵器工場を始め見るべきものが多いジスヴァーヤだが、戦争をしていたので無事かどうか不安が残る。
何せ帝国が使用する弾薬の半分はここで作られているのだ。
狙われる可能性がかなり高く、大戦が終わった後に破壊されたことも十分考えられる。
ともあれそれは先の話だ。
今は必要な物を集めて本拠点へと運ぶことが第一だ。
大型テレビとプレイヤー、映画のデータディスクがあれば一応映画鑑賞ができる環境は整ったことになる。
今回は試験運用の必要性も加味し、データディスクを幾つか持ち帰るだけで満足しておく。
改造リュックの容量にはまだ余裕があるので、使う可能性がある物でも持ち帰って良いだろう。
ということで以前ハイテンションで集めた物品の山を見に行く。
久しぶりに見た己の暴走結果を笑い飛ばして物色開始。
結果として持って帰ることにしたのはタオルと工具、鉈に追加のリュックサックとクーラーボックス。
リュックは背負わずとも小物を入れて持ち運ぶことに使えるし、クーラーボックスは俺の食事量を鑑み、もう一つあった方が良いだろうということで持っていく。
後は布団で巻いた大型テレビやその他機材の入った改造リュックを背負い、他の荷物を手に持ったり肩にかけるなりして不格好になったところで本拠点に帰還しよう。
(一番欲しい……いや、実験したかった物が手に入らなかったのは残念だが、元々街を往復するつもりだったから問題はない。それに布団はもっと沢山ないと俺には使えないんだよな)
流石に俺の体をもってしても布団は嵩張る。
ケースごととなれば尚更で、今回はテレビの緩衝材代わりとして出しているが、大きな箱というのも入れ物として活用できる。
次に来る時はケースごと持って帰ってもいいかもしれない。
(さて、では出発しますかね)
ノタノタとバランスを確かめるように歩き、徐々に速度を上げて安全第一で本拠点へと帰る。
やはりというべきか、速度を抑えたおかげで丸一日以上経過してしまった。
俺は荷物を下ろすとまずは狩りに出かける。
この施設は地下の水脈を利用しているのは良いのだが、そこの通路が全て人間用であるため俺には使えない。
すぐ近くに水があるのに使えない点がこの拠点最大の不満点である。
そう思っていたのだが、一部の蛇口からは普通に水が出てきた。
やはり帝国の技術は最高である。
流石にしばらくは出しっ放しで様子を見たし、その後味や臭いにおかしな点はなかったので使用することにしたのだが、念の為にここの水は煮沸して飲むことにする。
水事情は置いておいて、鹿が獲れたので施設の地上部分で焼き肉を開始。
換気の都合で下ではできない。
焼き上がりを待つ間に水と塩を持ってくる。
ついでに食器や各種食事に使う道具も持っていく。
ケースとなりそうなものを適当に見繕い、食器棚代わりにするつもりが思ったよりも時間をかけてしまい肉を少し焦がしてしまう。
でも大丈夫。
どれだけこびり付いた汚れもこの帝国産のタワシならピカピカさ!
(虚しい……一人が長いとどうにも人恋しくなってくる)
最近は独り言も増えてきた気がするし、思いの外影響が出ていることを自覚できるのが尚の事辛い。
突然意味もなくジョークを挟むようになったのはいつ頃だろうか、と尻を掻きながら溜息を吐く。
深刻な話というわけでもないので、気持ちを切り替えて塩で味付けした焼き肉を頬張る。
焦がしてしまった部分はあれど、食生活が豊かになった気がする。
(やはり塩だけじゃなくて、もっと色々欲しいんだよなぁ……)
調味料を大量生産していた国など帝国しかなかったわけだが、他の国の食事事情は現在どうなっているのだろうか?
がおがおと呟きながら焼き肉を完食。
食休みを挟んで鉄板を下に持って行き洗う。
洗った鉄板を拭いたところでまた欲しい物が出てきた。
(タオルとか布とか洗った時に干すための長い棒が欲しいな)
文化的な生活を求めて物干し竿を欲するモンスターの姿に思わず苦笑い。
仕方がないのでスコップをかけて後片付けの続きをする。
基本食事は上で摂るので、使用するものは上にまとめておくことにしよう。
塩はしっかりと密封できる容器に入れ、その上で地下施設から拝借した薬品棚の中に入れる。
食器や調理器具も最終的にこの中に入った。
フォークの代わりになっているサバイバルナイフや包丁代わりの鉈のせいで、武器庫に見えてしまうのはご愛嬌だ。
さて、食事が終わったのでテレビの設置を開始する。
説明書を苦労してめくりながら土台となる机を適当な部屋から引っ張ってくると、それを部屋のコンセントの近くに置いてその上にテレビを置く。
机の下が良い感じに空いているので、ここにデータディスクのプレイヤーを設置し、高さを適当な物で調整する。
後はコードを接続して準備完了。
電源を入れると、画面は真っ黒なままだがテレビのランプがしっかりと点灯した。
流石は帝国製、200年経ってもまだ使用可能だ。
次に持ってきたデータディスクをプレイヤーに入れ、リモコンで操作する。
(さて、これで映画が見ることができれば良い暇潰しになるんだが……)
結論から言うと再生はできた。
問題は中身だ。
経年劣化によりディスクのデータが破損しているらしく、どれもこれも音声がガリガリと喧しく、映像に至っては何が何だかわからない模様がチカチカとしていて目が痛くなる。
「これは酷い」とがおがお呟きながらプレイヤーから最後のデータディスクを取り出す。
同時に、空のデータディスクに撮影したデータを記録することができる可能性が大きく下がった。
俺は大きく溜息を吐くと取り出したディスクをケースに入れ、映画ディスクの中に放り込む。
ちなみに映画のタイトルは「宇宙騎士EP:4」である。
エピソード3までは見ていたので続きが気になっていたのだが、このお預けは非人道的ですらある。
(クソ! 三作目で黒騎士との決着が付いて、実は「主人公の父親だった」という衝撃のラストで終わって、次は過去編ということで黒騎士誕生の話を期待していたのに!)
見ることができるとなると無事なデータディスクを意地でも探したくなってきた。
娯楽の充実は生きる上で必須であり、これでますますジスヴァーヤに行く理由ができてしまった。
漫画を後回しにするのは生活環境を先に改善する必要があることと、紙媒体故に残っている場所にはしっかりと保存されている可能性が高いからだ。
まだ読んだことがない漫画も沢山あるので、こちらには生きる希望になって頂く。
やはり「お楽しみ」は残して置かねば、何かあった時に死を選びかねない。
時間がどうにも中途半端なので、地下施設の使用する部分を軽く掃除。
ジスヴァーヤで一泊できるかどうか不明なので、出発は明日になる。
よって、暗くなるまでは掃除でもして時間を潰し、それから狩りをして明日の分まで肉を確保しよう。
今日は早めに寝て、早朝にここを出発だ。
そんなわけでまだ少し暗い日が昇りきっていない早朝でございます。
必要最低限の荷物だけをリュックに入れ、食料と水も一日分に満たない程度に持っていく。
2,3日食事をしなくても問題のない体というのは色々と便利である。
ではジスヴァーヤに向けて出発。
速度を出せば今日中には着くだろうが、流石に前回のように息切れを起こすほどの無茶はしない。
この体にも随分慣れたので、適切な速度というのが大分掴めてきた。
無理なく進んでも明日の朝までには余裕で目的地へと到着する。
さて、帝国の威信をかけ、意気揚々と本拠点を発った俺だが、進路上に思わぬものを発見した。
オークである。
何故こんなものが「思わぬもの」なのかと言うと、このオークが木に吊るされていたからだ。
当然のことながら、吊るされたオークは死体であり、激しく損傷しているところから一方的な戦いだったのは間違いない。
その上でこの仕打というのだから、これは明らかな縄張り宣言である。
「俺の縄張りに入ったらこうだ」
恐らくはこんな意味だろう。
(よかろう! その挑戦、受けて立つ!)
こんなものを俺の活動圏内に置いたのだから、相手も覚悟はできているはずだ。
所詮この世は弱肉強食である。
どんな生物かは知らないが、俺に目をつけられるような愚行を犯した己の迂闊さを恨むが良い。
でも探してまでやる気はない。
今はやることがあるからね。
そう思ってまた走り出して少ししたところでばったりと出会った。
なんというタイミングの悪さ。
赤いオーガ――「レッドオーガ」と呼ばれるオーガの上位個体である。
記憶に間違いがなければレッドオーガは通常のオーガとは比較にならないほど強靭な肉体を持ち、知能が高く、個体によっては人間の言葉を理解していたらしく、戦術を読まれて大きな被害が出たこともあったと本には書かれていた。
今の俺に言わせれば「だから何なんだ?」というレベルである。
ともあれ、出会った以上は仕方なし――運が悪かったと諦めてもらうしかない。
俺はやる気満々で歯を剥き出しに威嚇するレッドオーガを前に、悠々と荷物を下ろすと「かかってこい」と言わんばかりに指を動かす。
両者ともに素手――純粋な腕力勝負と洒落込みたいところだが、レッドオーガの厄介なところは「戦闘技術を持つ」ことにあったはずである。
陸上における人型のモンスターでは最強の一角とされるその力が、帝国科学技術の最先端であるこの俺に挑もうというのだ。
両手を広げ歓迎してやる。
「ガァァァァアアアァァッ!」
レッドオーガが吠える。
俺は動かず不敵な笑みを浮かべている気分になる。
うん、表情筋がね……この顔だと上手く笑えないから気分だけなんだ。
鏡見て練習したんだが、顔がちょっと強面だから難しいのよ。
さて、先に動いたのはレッドオーガ。
先手は譲る気だったので、正面からの真っ向勝負を挑んでくれるのは都合が良い。
俺としてもいい加減肉弾戦で良い勝負ができる相手と戦ってみたかった。
こいつが期待外れでないことを祈り、最初の一撃は正面から受け止める。
レッドオーガの大振りのパンチをクロスガードで受けたのだが、これが結構痛かった。
僅かに足が後ろに下がったことからも、こいつのパワーが今まで会った中で最も大きいことは明白である。
さて、次はこちらの番である。
俺は構え、その腹に一撃を打ち込もうとして――殴られた。
顔面を殴打され、体勢を崩したところでさらに追撃を入れられる。
まだまだ入る追撃。
だが、蹴りを放ったところで俺がその足首を掴んだ。
そして間髪入れずに握り潰す。
(OK、これは試合でもなければ戦闘でもない。ただの殺し合いだ。それを希望したんだから恨むなよ)
ぶっちゃけかなり痛かった。
というか鼻血出てるし、もうこいつ許さん。
足首の痛みに悲鳴を上げることなく俺に攻撃を加えようとするレッドオーガだが、片足が持ち上げられている時点でもう勝負は付いたようなものだ。
何せ、俺に掴まれているのである。
俺は腕を引いてオーガを引き寄せると同時にその胸に渾身のストレートを叩き込む。
ガードが間に合わず、まともに受けたレッドオーガが血を吐くが、気にせずもう一発打ち込む。
レッドオーガはこれを両手でガードしたが当然腕が無事なわけもなく、片方は粉砕骨折で、もう片方も間違いなく折れただろう。
最後に尻尾で無事な足を絡め取り、こちら側に引き寄せると、拳の跡がくっきりと残る胸に足を置く。
「ヒィイィッ!」
レッドオーガが鳴いた。
悲鳴を上げ、許しを請うているのがわかったが、殺し合いを望んだ以上は容赦はしない。
俺は体重をかけその心臓を踏み抜いた。
総評としては、こちらの防御力を上回る攻撃力はあるが、致命的な能力差を埋めることはできないので、パワーで押し切れば簡単に勝てる相手、といったところか。
これはもう陸上最強の生物を名乗っても良いかもしれんね。




