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最近時間に余裕ができるようになったので某アニメを見始めたのですが、早速影響を受けたのか思わず書いてしまったものがどう見てもアウト。
運営様にお叱りを受けない程度にこの作品にもゴブリンをいつか出そう。
200年ぶりの地上――と大げさに言うものの体感では多分2日ぶり程度。
太陽の位置から今は昼前といったところだろう。
天気も快晴で旅立ちには最高と言える。
旅に出るかどうかは不明だが。
日光浴と洒落込みたいくらいではあるが、残念なことに俺の周囲……いや、見渡す範囲が薄暗い。
何故か?
その疑問に答えると同時に俺も一言言いたい。
「どこだよ、ここ?」と――
施設の外に出て見渡した周囲は緑、緑、緑――森というより手つかずの自然そのままと言った感じである。
(こんな場所帝国にあったか? こんな自然豊かな土地が帝国にあるなんて聞いたことないぞ?)
やはり200年という歳月が原因か?
まさか帝国が新たに領土を獲得した?
「流石にそれはないだろう」と頭を振ると、周囲をよく観察してみる。
(一応植物は見たことのあるものばかり……位置的には帝国領だった場所から然程離れてはいないと見るべきか?)
そもそもの話、俺は意識がなかった時に移送されているわけである。
体が既にこの状態であろうとなかろうと、冷凍睡眠装置などという大掛かりな物がホイホイ用意できるとは思えない。
よって、ここは元帝国領であることはほぼ確定と言って良い。
流石にここまで大規模なドッキリを仕掛ける意味がわからないので、これはもう「冷凍睡眠装置で200年眠っていた」という部分は確定にしてもよさそうである。
(となると、緑だらけのこの状況には何かしら原因があると言うこと――あー、戦争がどのような形で終着したか気になるな。まさかこんな状態のまま放置して戦争継続とかあり得ないだろし、どこかの領土になってるなら、これだけの土地をこんな状態で放置とか考えにくい……いや、西側だったならあり得るが……ダメだ。判断材料が少なすぎる。これは少し施設地上部分の調査に時間を割くことも視野に入れるべきか?)
しばしその場に立ち止まりうんうん唸ってはみたものの、考えがまとまる気配はなし。
「考えていても埒が明かない」とまずは動くことを優先する。
とは言うものの、動くのであればまずは情報が欲しい。
特に現在位置情報。
何をするにしても、地形の把握に現在位置の確認は必須であり、これからの行動を決める判断基準にもなる。
それに水や食料も手に入れなくてはならない。
今はまだ空腹や喉の渇きを感じていないが、これで「強化故に感じにくいだけで無理が利く」とかであるならいつ危険な状況に陥ってもおかしくはない。
何せコールドスリープとはいえ200年以上眠っていたのである。
睡眠はともかく、飲まず食わずが続いてる現状では水と食料は可能な限り早く確保したい。
これだけ自然が多いのであれば食べられる物が何かしらあるだろうが、この巨体である。
野生の木の実など腹の足しになるのか怪しく、食べられるものがあるかもわからない。
いっそ獣でも狩った方が良いかもしれない。
しかしそうする場合、今度は「生で食う気か?」となり、火をどのように調達するかという問題が発生する。
(そうだ、一度戻って使えそうな物を何かに入れて持ち運ぶか)
そんなわけで一度施設地下へと戻ってみたのだが……
目の前には土砂で埋まったゲートがあった。
ゲートは無事でも周囲の老朽化は深刻なレベルだったのか、そこに俺が横穴なんぞ掘ったことで限界を突破。
あとは60mからのあの落下がトドメにでもなったのだろうか?
俺があれだけ苦戦したゲートは、僅かにその痕跡を残し土砂に埋もれ、研究施設への道が完全に消え失せていた。
誰がどう見ても戻ることは不可能な状態である。
これは無理に掘ろうものなら「自分まで埋まりかねない」と肩を落とし諦める。
「ゴハァァァァ……」
俺は大きく溜息を一つ吐くと、せめて周囲に何かないかと探してみる。
そして探すこと小一時間――俺の持ち物はこのようになった。
・リュックサック:背負えないけど小さな荷物は全部これに入る。密封されたロッカーに入っていたためまだ十分使えるのが良い。色は緑。
・空き瓶:お酒の空き瓶。水とか入れるのに使える。蓋も健在。比較的綺麗な物を3本。
・マッチ:ライターはどれも使用不可だったが、包装された状態の新品が3箱。まだ使えると信じたい。
はい、一時間探してこれだけの成果です。
無能と思うことなかれ、大半の物は錆だったり破損状態が酷かったりで使用に耐えうる耐久性が認められなかったためである。
(そりゃ200年も経ってれば使える物なんてほとんどないわな)
これだけあっただけでも上出来とすら言える。
欲を言えば使える刃物が欲しかったが、贅沢を言っていられる状況ではない。
リュックを腕に通し……たかったが手で掴み、縦穴を登り施設から出ようとしたところで周囲を見渡す。
見事なまでに緑に侵食された廃墟――こちらは地下と違い「探すだけ無駄」というのがひと目でわかる。
だがそれでもこの状況の手がかりくらいはあるかもしれず、無視するわけにはいかないというのが俺の知能で出した結論。
このでかい身体では施設地上部分は狭くて仕方がなく、正直探索どころではないのだが「見逃し」があるとどうにも気持ち悪くて仕方がないのがゲーム脳。
まずは時間のかからない施設外縁部――周囲を回りながら何かないか見て回る。
外壁の破損に銃弾の跡や爆発物でも使ったような形跡があれば、少しは今後の推測の役に立つだろうとの判断である。
ところがグルっと一周して見たもののそのような痕跡は一切見つからず、この施設はまさに「自然に朽ちていった」という有様だというのがわかっただけに終わった。
(やっぱ内部から資料とか何か見つけるしかないのかー)
しかし都合よく紙媒体で、しかも読めるレベルで保存状態が良好な物があるとも思えない。
ましてやこの植物の侵食具合……この状態で無事な紙があるならもはやファンタジーである。
俺は一度施設全体を見ることができるように少し遠ざかる。
施設囲む所々崩れたコンクリート製の壁をひょいと乗り越え、何かないかと見渡したところで俺は何かを発見した。
入り口――緑に覆われた壊れた門に何かが貼り付けられている。
それは金属製の板であり、何かが書かれていた物であることがすぐにわかった。
俺は近づくなりその周囲の蔦や葉を毟るように引き千切り、看板の役目を果たしていたであろう残骸を注視する。
文字のほとんどは消えかかってはいるが、断片から読み取るには十分であり「立ち入り禁止」のマークと合わさればそこに何が書かれていたは想像に容易い。
その内容を簡単に言えば――
「汚染地区につき立入禁止」
である。
欠けてほぼ読めない部分を補完し、もっと詳しく言うならば「重度汚染地区指定に付き閉鎖、立ち入りを禁ず」と言ったところか。
俺は探索を即座に中断し、全力で廃墟を後にした。
いやー、研究所では災難でしたね。
自分の足の速さにもびっくりしたが、恐らくこの体に慣れればもっと速く走ることもできる気がする。
などと思えるくらいには俺は正常である。
「汚染」――というからには化学物質による汚染と思われる……というか帝国領で起こったことと考えるとそれしかない。
加えてそんなことが起こりうる科学技術を持つ国と言えば――帝国だけだ。
(おう、祖国。何やってくれてんの?)
北のカナン王国でも科学は取り扱っているがその水準は帝国のそれを遥か下回る。
とてもではないが候補に入らないどころか考慮する余地すらない。
東のセイゼリアに至っては魔法国家である。
科学一辺倒のフルレトス帝国内で魔力による汚染――それも重度のものを引き起こすなど地形が変わる規模の変化でもない限りあり得ない。
西も同様だが、自然崇拝が盛んなエルフ国家が汚染なんぞ引き起こすかと言えば、その可能性は限りなく低いと言わざるを得ない。
最後に南のレーベレン共和国とハイレ連邦だが……レーベレンのような小国にそんな実力があるはずもなく、領土に関して貪欲極まりないハイレに至っては、大戦中にセイゼリアに戦争を仕掛けられており、帝国領土でそのようなことが行えるわけもなく、こんなことをする余裕が当時のあの国にあったとは到底思えない。
となれば答えは一つ。
(帝国の自爆だな。間違いない)
自国と言えどこの信頼よ。
カナンと戦争中にトンデモ兵器をホイホイ作ってその度に爆発事故繰り返していればそのような考えも定着する。
「今回の重度汚染は一体何をやらかしたのやら」と呆れる他ない。
まさかとは思うが、この鬱蒼とした森林地帯全域が「重度な汚染」の影響で誰も人が寄り付かなくなりできたものではあるまいな?
だとするなら森林地帯全域がアウトである。
というか大陸最大の領土を持つ帝国がどこもかしこもこんな状態だとしたら、凄まじい緑化運動である。
思わず危機感を抱いてしまうが、未だ汚染が残る状態であるならば植物に何かしら異常が見られるはずである。
だがそのような光景は未だ目にしておらず、周囲を見渡しても見知った植物と昆虫しか見当たらない。
当然奇形のようなものはおらず、汚染は過去の物であるという可能性も十分ある。
あとは希望的観測に過ぎないが、この肉体が化学物質による汚染に強い可能性だってある。
こんな状況だからこそ焦りは禁物――まずは当初の予定通り地形の把握と現在位置の確認を優先する。
なお、施設探索は現状の大凡の原因に見当が付いたので必要ないものとする。
取り敢えず周囲を見渡してみるのだが、この身長を持ってしてもこの森の先を見ることは叶わないほどに木々が成長している。
というわけでいっちょこの身体能力を活かして垂直跳び。
ドン、という大きな音を立て地面を蹴ると、頭上の枝をバキバキと粉砕し雲一つない青空が視界に広がっていく。
ビックリすることに自分の身長くらい飛んでいた。
(これ、着地大丈夫か?)
増えに増えたこの体重を支えるだけの強度はあると信じているが、やっぱり怖いものは怖い。
正面に見える景色には丁度良い高所が近くにはなく、ただただ森が広がっておりこの方角に進むという選択肢は消えた。
少し心配だった着地も、ドスンと両足が地に着いたところで痛みもなければ痺れもない。
ただ衝撃と音にビビった鳥が飛び立ったことくらいだ。
「いやはや、本当にお強い体なことで」と感心しっぱなしである。
今度は反対方向を見るために体を180度回転して再び垂直跳び。
するとあるではありませんか――小さいながらも切り立った崖が。
少なくともこの周囲を一望できるくらいの高さはありそうだ。
距離もそこまで離れておらず、2,30分も歩けば着けそうである。
ちなみに全力で走るには木が邪魔すぎる。
さっきの全力疾走で無駄に広い肩幅のおかげでガッツンガッツン木に激突していた。
木々の密度が少し高いこの辺りではランニング程度に押さえて走るのが正解だろう。
二足歩行ではなく両手も使ったものを「ランニング」と称して良いのかどうかはわからないが、ニュアンス的にそんな感じだ。
折角なので走り方を最適化しつつ目的の崖に向かう。
わかってはいたが兎に角勝手が違う。
体の重心もそうだが、身体能力がデタラメに高く、その制御に神経を使うあまり周囲の地形の把握が覚束ない。
結果、ちょっとしたものに脚や肩をぶつけることが多く、勢い余って自然に自然破壊を行う体たらくである。
これには「自然に慣れるのを待つのではなく、自分から慣らしていく必要がありそうだ」と考えるくらいには危機感を持たざるを得ない。
野生動物程度に負けるつもりは微塵もないが、魔獣とも呼ばれるモンスターや人間の集団が襲いかかってこないとも限らない。
特に人類種に狙われた場合、状況にもよるだろうが「危険な生物」と認定されれば多少の犠牲は払ってでもこちらを狩りに来ることが予測される。
流石にそれは勘弁願いたい。
何かあってからでは遅いのだ。
「体への慣れは時間を割いてでもやるべきである」というのが、えっちらおっちら走りながら出した結論である。
さて、色々と考えているうちに目的の崖が見えてきた。
視認できる距離まで近づいたところで大凡の高さを把握可能となってくる。
(んー……まあ、俺が跳ぶよりかはずっとマシか)
正直少々がっかりではあるが、じっくり見渡せば何か見つかるかもしれない。
何はともあれこの小さな崖を登ってみないことには始まらないので、足場となるような場所を探す。
そうして探すこと約1分――この巨体の足場なのだからあるならすぐに見つかるだろうとは思っていたが、本当にすぐに見つかるとは思わなかった。
バカでかい階段状になっており2~3mほどの高さで3段あり、跳べば簡単に登れるお遊戯レベルのアスレチックである。
足場としても十分の広さがあり、今の肉体スペックでこれを危ぶむ理由はない。
もう少し崖に見えたこの場所を見てみたところ、何故かこの周囲だけがせり上がっているような奇妙な地形だった。
どのようにしてできたものなのか少々気になるところではあるが、今はその原因を究明する時ではないので一段一段を確実に登っていく。
さてさて、何か見覚えのあるオブジェクトでもあれば良いのだが。




