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 状況を確認しよう。

 小屋の中には賊が四人と死体が一つ。

 賊は全員武器を構えて何か叫んでおり、何人かは泣きそうになっている。


「ちきしょう! 何だってこんなところにモンスターがいるんだよ!」


 拾えた単語から推測すると多分こんなことを言っている。

 他には「運が悪い日」だとか「最悪だ」くらいはわかった。

 そして最後に死体なのだが……妙に身なりが良い。


(これはあれか? 身分の高い人間を攫ったは良いが、抵抗されてしまい勢い余って殺してしまった場面にでも遭遇したか?)


 情報が足りないのでなんとも言えないが、賊四人は生かしておく必要は特に無い。

 しかしながらこの小屋の入口は俺が通るには狭すぎる。

 開けた扉の前で突っ立っていると賊の一人が俺を指差し何か叫んだ。

 すると他の三人が安堵したかのように武器を降ろしホッとしている。


(あー、なるほど。「あいつはデカイから小屋に入れないから安全だ!」とでも言ったのか)


 学校の先生曰く「人の嫌がることは進んでやりましょう」――今がその時だ。

 俺は遠慮なく小屋の入口を破壊し「お邪魔します」とがおがお声を出す。


「いやああああぁぁぁぁぁぁっ!」


 四人の賊が一斉に叫んだ。

 窓を開けて逃げ出した奴は腹が支えて出口を塞ぐ。

 それを引き抜こうとしてズボンをずらし、汚い尻が顕になる。

 不愉快なサービスにNOを突きつけるようにスレッジハンマーが賊に迫る。

 30秒後、無駄な抵抗を試みた一名を最後に屠り、無事小屋の制圧が完了。

 スレッジハンマーさんがおなくなりになられたので適当な場所に廃棄する。

 なお、制圧自体に特に意味はない。

 強いて理由を挙げるならば「見られたから」という自分から目の前に現れておいて述べるものではない。

 一応小屋に何かないかと物色してはみるものの、俺にとって役に立ちそうなものは見つからず、無駄な殺生をして武器を使い潰しただけに終わった。


(名前も知らない男の仇を取っただけになってしまったな)


 少数とは言え賊を退治したのでカナン王国にとってはプラスにはたらいたことだろう。

 それならば馬車の荷を奪うというマイナスの帳尻合わせとでも考えておけば良い。

 バランスは大事である。

 水場探しはここらで諦め、街道を見て回るため一度南へ移動する。

 位置的に野営をしている可能性もある場所を確認するためである。

 明るいうちから街道をのっしのっし歩くほど俺は大胆ではないので、こうして暗くなってから見て回るのだ。

 途中から「どうせ誰も見てないのだから」と二足歩行で全力ダッシュ。

 東にも道はあったことを思い出し、草原を蛇行運転するかのようにフラフラと走り回る。

 思えば森の中ばかりだったのでこういう場所を走るのは久しぶりだ。

 折角なので慣らしも兼ねて走り回るとしよう。

 そんな具合に走ること一時間。

 二足歩行での全力疾走は危ないので適度に速度を落としつつ、辺りを見回していると南東に明かりが見えた。

 その周囲には馬車が複数確認されたことから、間違いなく野営中の商隊だろう。

 走るのを止め、歩きながら馬車の周囲に目を凝らす。


(見張りが2……いや、3人か。他にも横になっている者もいるが、これは護衛だな。馬車の数は全部で6台で外に出ている人数は、見えてる範囲で14人か)


 馬車にも人がいることを考えれば20人前後はいると見て良い。

 近づく前に荷物を地面に置き、発見を遅らせるために伏せて移動。

 勿論擬態能力を使用しているので、どこで気が付くかで護衛の能力がどの程度なのかという判断材料にもなる。

 順調に近づいているが、今の所誰一人こちらに気づいた様子もなく、中には談笑している者すらいる。


(ちょっと気が緩みすぎだな……この辺りは治安が良い方なのだろうか?)


 帝国と違い都市と都市との距離が大きいカナンにしては、賊やモンスターの被害が少ないというのは珍しいことだ。

 ここの統治者の腕が良いのだろうか?

 もっとも、対処不能な脅威レベルであろう俺がいるのでそんなものは関係なくなってしまう。

 蜘蛛男が生きていた場合を考えれば、相当マシであることには違いはないので報酬の徴収くらいなら良心が傷まない。

 先程の善行と合わせれば、十分な量の物資を頂いてもお釣りが来る。

 さて、既に商隊との距離が50mを切っているのだが、まだ誰も俺の存在には気づいていない。


(ここまで来るといっそのことスニークミッションにチャレンジしたくなってくる)


 と言うより、人間相手にどこまでこの擬態能力が通用するか知りたくなってくる。

 同時に「自分の能力は隠すべきである」とも考える。

 しばし立ち止まり考えた結果、俺は擬態能力を隠す方向で動くことにする。

 なので一度距離を取る。


(位置の調整もした方が良いな。見張りが馬車で視線が切れるような場所で擬態を解除しよう)


 配置につくと地面に伏せて擬態を解除して這うようにこっそりと近づく。

 丁度その時、見張りの一人が馬車の上に登り周囲を見渡す。

 そこでようやく俺に気づいたらしく大声を上げた。

 体が灰色だから夜に溶け込むには向いてないようだ。

「案外すぐに見つかるものだな」と伏せていた体を持ち上げる。

 悲鳴が聞こえたが、こちらは非戦闘員の護衛対象のものだろう。

 のっしのっしと悠々と近づき、武器を構える護衛を見る。


(剣と槍が二人……盾持ちが一人に弓持ちが二人。魔法使いが二人か)


 焚き火に近い女性魔法使いが詠唱を開始すると、続けて男性の方も詠唱を始める。

 矢が飛んできたが無視。

 刺さらないし当たっても痛くない。

 馬車の上にいる弓持ちの二人が何か叫ぶが、どうせ「矢が刺さらない」とか言っているのだろう。

 俺は前衛の5人を無視して馬車に近づくと、魔法使い達との射線を切る。

 流石に魔法は警戒する必要があるので一旦身を隠す――と見せかけて跳躍して馬車を飛び越え魔法使いの元へ行く。

 俺の着地の衝撃で焚き火が吹き飛び火の粉が舞うと、魔法使いが構えた杖を素早く叩き落とし踏み潰す。

 折角だったので引っかかったフリをして肩出しのドレスローブを下にずらしていたところ、胸に入れる詰め物が地面に散らばっていた。


(……1号か)


 見た目4号だと思ったのだが、それは少々盛り過ぎである。

 仲間の危機に駆けつけた男衆の視線が下にいっていたのを俺は見逃さない。

 多分彼女も見逃していない。

 後々のことを想像するとちょっと彼らを死なせるのは惜しい。

 女魔法使いがギャンギャン煩いのでデコピンで黙らせる。

 なお、一回転して吹っ飛んだとかはなく、そのまま普通に地面に倒れてノックダウンなので命に別状はないだろう。

 男性の魔法使いも使用する魔法を変えたのか、まだ詠唱をしている。

 少々面白くなってきたので、一応彼らにも「やるだけやりました」という言い訳は用意してあげよう。

 前衛5人を相手取り、時間を潰して魔法を打たせる。

 案の定、周囲を巻き込みにくい魔法に切り替えており、直線的な攻撃ならば回避迎撃お手の物。

 タイミングを合わせた振り向き様の叩きつけるような裏拳で炎の矢を消し飛ばし、同時に尻尾で盾を持った男を吹き飛ばす。

 背中を狙って槍を突き出してきた女を返す尻尾に巻きつけ左手に渡すと、魔法使い目掛けて投げる。

 魔法使いの男は受け止めようとしたが、踏ん張りが効かず揃って吹き飛び転がっていく。

 残った三人の前衛を死なないように適当に蹴散らし戦闘終了。

 ちなみに弓の二人は矢が通らないと見るや逃げ出していた。

 こちらでも修羅場が一つありそうだ。

 戦利品が逃げ出そうとしたので後ろから掴んで馬車を持ち上げると、悲鳴を上げるオッサンが転げ落ちた。

 他を見ると逃げ出す馬車がいたので、そちらを追いかけ捕まえるとこちらもオッサンをポイ捨てして引っ張っていく。


(さて、馬車6台確保。それでは物色開始!)


 ということで始まった戦利品の確認。

 中身が壊れたりしないように慎重に木箱を開けて一つずつ見ていく。

 最初の馬車の中身は食料品がメイン。

 こちらはアタリかと思ったのだが、小麦が主だった積荷のようで俺が持っていくのは干し肉くらいだった。

 料理ができるのであれば小麦も選択肢に入ったのだが、こればかりは仕方がない。

 もっとも、この図体で使える道具も必要となるため、食材だけあっても少々困る。

 酒も少しあったが今回は見送る。

 では次の馬車である。

 覗き込むと悲鳴がした。

 どうやら家族のようだが、我モンスター故に容赦なし。

 子供二人が泣き声を出さないように両親が口を手で塞いでいる。

 気にせず物色するが、あったのは家具や調度品。

 どうやらこの家族は引っ越しのようだ。

 ハズレだったので次へ行く。

 こちらは青年が女性を庇うように自分の後ろに下げている。

 少しお腹が大きい気がするので妊婦なのかもしれない。


(中々の美人さんだな。このリア充が)


 俺は吐き捨てると次へ行く。

 流石に母体に悪いと思うくらいの優しさはある。

 積荷も少なかったのでどうせ欲しいものはなかっただろう。

 そして4台目にてようやくお目当ての物を発見。

 壺に入った塩が5つに羊毛――


(それと、鉄鉱石か?)


 塩二つと羊毛を少々頂くことにして馬車から取り出し次へ行く。

 5台目は……こちらも小麦。

 オッサンがガタガタ震えながら何か呟いている。

 恐らく護衛にでも文句を言っているのだろう。

 そして最後の6台目――覗き込んだ瞬間レイピアが突き出された。

 これを噛んで止めると、そのまま馬車から引きずり出す。

 レイピアから手を離した青年が地面を転がると、今度は殴りかかってきたので尻尾でベチコン。

 気を失ったことを確認すると、レイピアを指で摘み爪楊枝代わりに歯を掃除して投げ捨てる。

 改めて最後の馬車を物色開始すると、見つけたのは装飾品や色とりどりの布地。

 明らかに俺には必要ないものである。

「これもハズレか」と肩を落としたところで、鍵のかかった箱を発見。

 腕力に物を言わせて箱を開けると、そこには封をした水瓶が一つだけあった。


(如何にもな怪しい品……魔法関連か)


 使い方はわからないが取り敢えずこれは貰っておく。

 というわけで戦利品はこちら。


 干し肉 1kg程度 塩の壺×2 羊毛少々 水瓶


 略奪としては命を取らなかった上、非常に良心的である。

 あとは荷物を回収し、これらを収納して一度山へと戻るとしよう。

(´・ω・`)次回は恐らく別視点

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公さんのアライメントがニュートラルからカオスに振れちゃってるね。ダークヒーロー化著しい
[一言] 1号とか8号とかなんの記号だ?って思ったけど、ようやくわかったわ|'ヮ') つまり今回は…A…なんですね?( ≖ᴗ≖)ニヤッ
[一言] 人と接しなくなると自分勝手なバランス感覚になっちゃうよね。壊れる前に仲間なりできるといいけど
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