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(´・ω・`)新章っぽい感じ

 やはり帝国最大の脅威であったエルフの情報を集めるということは、俺が生き残る上でも必須である。

 今回俺が目をつけたのは一人の女性エルフ――常に目を閉じていることと、三名の従者を侍らせていることから、共和国に於いて立場のある者であると推測している。

 彼女は他の川を利用するエルフと違い、まるで「身を清める」かのような儀式を中心とした動作を行う。


「これはきっと何かある」


 未だ彼女が目を開けたことがなく、従者がいることから特殊な立場――もしくは体質や能力を持っていると推測される以上、そう感じずにはいられない。

 故にここでの観察は現在彼女を軸に行っており、一度たりとも見逃すことのないよう目を光らせている。

 恐らくあのエルフは目が見えない。

 だからこそ、最大限の注意を払わなければならない。

 今もこうして身を潜め、望遠能力を最大限活用してその動作の一つ一つを注視している。

 魔法に関する知識が乏しいことから、監視時間を否応なく増やすことになっているが不満はない。

 俺は盲目のエルフを「8号さん」と呼称し、彼女の一挙一動を観察している。


(ええい、共和国め! あのような兵器を隠し持つとは!)


「まったく、これだからエルフは侮れん!」とニマニマしながら脳内茶番に勤しむ。

 暇だからね、仕方ない。

 帝国が滅んだ原因を突き止めたまでは良かったんだが、何というか……こう、心に穴が空いたとでも言うべきか?

 いや、そうじゃない。

「もしかしたら」という希望が無くなったんだ。

 心のどこかで帝国の生き残りがいたとか、技術を受け継ぐ集団がいたりして俺が人間に戻る希望がまだあると、そう願っていた。

 だが現実というのは容赦がないわけで……もうずっとこのままなのかと思ったら、生きることに張り合いがなくなってしまった。

 やりたいことも見つからないまま、こうして茶番を演じて誤魔化すことしかできなくなった。

 悩みを話せる相手もいない。

 そもそも会話ができる相手がいない。

 悲しくもあり、寂しくも思う。

「俺」という存在がこの世界でどう扱われるか?

 考えるのが怖くなる。

 想像するのが嫌になる。

 そんな風にいじけながら動く度にゆっさゆっさと揺れるおっぱいをガン見する。

 相棒はいなくても性欲みたいなものがあるから厄介だ。

 おかげで狂うことなくエルフの監視に邁進できる。

 さて、8号さんが川から去っていく様子を見ながら今後の方針を今日も考える。


(いやー、やはり8号さんは胸も良いがお尻も素晴らしいな。あ、そうだ。晩飯は猪にしよう)


 でも三大欲求が勝利する。

 難しいことを考えるのは得意ではないので「いっそのことモンスターとして開き直るのもアリかな?」などと思い始めている。

 欲しかったものが手に入らなくなった今、手に入るものだけで満足するには、俺は文明的な暮らしを知りすぎた。


(これはあの男も通った道なのかねぇ?)


 俺としても「ああはなりたくない」のは勿論、なる気もなければなるつもりもない。

 しかし、いつまでもこうしていられないというのもわかっている。

 何せ崖の拠点に戻って既に十日……こうして覗きポイントを増やしては悩んでいる。

 立ち上がり、その場を後にしたところで思いついた馬鹿げた案を片っ端から却下しているとき、ある考えが頭に残った。


(そうか、不満を一つずつ解消していけば良いのか)


 珍しく建設的な案が出てきたので、拠点に戻りながら現状の不満を出していく。


(まず飯が不味い……あれ?)


 立ち止まって考える。

 食事というのは重要だ。

 生きる上で最重要とも言える。

 そこに不満があるのは何故か?


(そうだよ! 飯に不満があるけどそれを解消する方法があるのに何で実行しないんだよ!)


 そう、俺は実に簡単な食生活の見直しをしていなかった。

「塩が欲しい」と俺は食事の度に思っていた。

 だったら解決なんて簡単だ。


(そうと決まれば……カナンでいいか!)


 取りに行けば良い。

 幸いカナン王国には海があり、塩の流通量は多い。

 そうと決まれば話は早い。

 俺は拠点へと急ぎ戻ると、荷物をまとめて移動を開始した。




 改造リュックサックを背負い、右手にスレッジハンマーを手に俺は森を駆け抜ける。

 前回のゴブリン掃除で少しばかり歪んでしまっていたが、一応まだまだ武器としては使うことができるので持っていく。

 予備の武器について考えが及ばなかったことで、今更ながらアランヴェインやゴザ、バナイはともかくジスヴァーヤに寄っておいた方が良かったかなと思う。

 とは言え、現状生活用品に不備はなく、より便利さを追求するとなると魔法の分野にも手を出さなくてはならず、俺の知識だけでは少々手に負えない。

 これに関しては運良く手に入ることを期待するしかないので、放置する他ない。

 そんなこんなでカナン領内へと侵入。

 森の中なので正確なところはわからないが、多分入っている。


(あとはどこで塩や香辛料を手に入れるかだが……いや、パンも欲しいな)


 考えれば考えるほど欲しい物が出てくる。

 長らく貧しい食生活が続いたおかげで、食べたいものが思った以上に多かった。

 狙いは一先ず馬車だ。

 ダメなら村だ。

 今の俺はモンスターだからね、辺境の略奪くらいはよくある話だ。

 エルフ観察の任務を一時中断してまで確保しようというのだから、手段なぞ最早選ばない。

 というかそれくらいしか手段がない。

 どうやってこの姿で取引を成立させろというのか?

 言葉の壁もあるので平和的な交渉は絶望的だ。

 そもそも俺はカナン王国の傭兵から攻撃を受けているので、既に敵対行動を取られている以上遠慮は無用。

 森の中を移動しながら、記憶にあるカナン王国の地図を頭に浮かべ狩りポイントを思案する。


(さて、どの街道を抑えるか……やはり塩が来る北側にするとして、商隊はどのルートを使用するだろうか?)


 森を抜け、街道を横切り再び森へと入る。

 北へと向かい山へと辿り着いた時には日が暮れていた。

 現在地は以前使った拠点の反対側なので、グレンダの街からは結構距離がある。

 名前も知らない新しく出来た町の北北西辺りだろう。

 南部を領土としたいカナン王国としては、最前線となるあの町へと物資を運ぶのは自明の理。

 それを頂こうという算段である。


(しっかし、200年あってまったくと言ってよいくらい領土拡張をできていなかったことから察するに、5年前かその前後まで手を出すことができない理由があったんだろうな。でなきゃセイゼリアも西に拡張してるだろうし……一体何があったのやら)


 予想はできるが、何がきっかけで領土拡張に乗り出したかまではさっぱりわからない。

 それを知る手段は思いつかないので、これ以上は考えないようにしよう。

 日は暮れたが拠点とできそうな場所はなく、暗いという理由で移動を止める選択肢もない。

 このまま条件が良い場所を探すとして、水場がこの周囲には恐らく無い。

 かと言ってこれ以上北へと移動すると、かつて帝国が占領した「アグリネア」という街に近づきすぎる。

 これならばいっそのこと以前拠点とした場所からこの辺りまで出張した方が良い気もする。


(やはりというか、どこにいっても水の問題が付いて回る……)


 幾ら肉体のスペックが高かろうが、こればっかりはどうしようもない。

 溜息を吐いた後に水を飲んで一息つくと、物音が聞こえた。

 次に聞こえてきたのは話声――つまりこんな時間、このような場所に人がいる。


(怪しいなんてもんじゃないな)


 こんな時間に山にいるとか不審者でしかない。

「恐らく賊だろう」と当たりをつけ、擬態能力を使用し声のした方角へと慎重に移動する。

 視界が悪いので動きながらの遠見は使用せず、音と臭いを中心に索敵を行い距離を詰めていく。

 しばらく北西に進んだところで僅かに明かりが漏れている場所を発見。

 僅かではあるが声もそこから漏れているようだ。

 何を言っているかまではわからないが、数名が興奮したように声を荒げているのはわかった。

 光源の元へと近づくに連れ、小さな小屋が見えてくる。

 周囲にある木材から察するに、木こりの小屋のようなものだろう。

 擬態能力を維持したまま近づき適度な位置に陣取ると、光が漏れる窓の隙間から小屋の中を望遠能力を使用して覗き見る。

 位置を調整しつつ中の様子を窺っていると一人の男が見えた。


(あ、うん。賊っぽいな、これ)


 その身なりを一言で言えば貧相。

 もう少し言えば不潔。

 無精髭を生やした赤髪の見すぼらしい格好をした男が、曲刀片手に怒鳴り声を上げている。

 小屋の状況は未だ不明だが、俺にとってはどうでも良いことなので脅威はなしと判断。

 擬態をする必要もなくなったので解除してのっしのっしと二足歩行で小屋に近づく。

「ちわー、新聞屋でーす」という感じの軽い挨拶を「ぐあぐあ」としつつ、無遠慮に小屋の扉を開けると、そこには先程見た男に加えて三人の賊と見られる者達と、血塗れの男性の死体があった。

 奥さん、事件です。

おまけ:新聞屋の事件簿

帝国で放送されていたドラマ。若いブンヤが色んなところで事件に巻き込まれてそれを解決するもの。何故か主人公である新聞屋が訪問するお宅には美人がいて、着替え中だったり風呂上がりだったりすることが多い。本作の主人公が覗き好きとなった原因。「奥さん、事件です」という台詞もこのドラマから。なおシリーズ化はされておらず、陳腐なトリックから視聴者がすぐに離れてしまいお色気に方向転換した迷作である。

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― 新着の感想 ―
[一言] なにその迷作、みたい!!
[一言] モンスターは見た!
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