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(´・ω・`)短め

 スレッジハンマーを一振りし、付いた血と肉を払う。

 俺は屍の大地と化した競技場で最後の一匹である統率個体女王を叩き潰し、生き残りがいないかどうかを確認する。


(動くものはなし……これで全部かね?)


 3万人を動員できる競技場をここまで埋めるゴブリンを皆殺しにしたのだから、これは最早重労働と言って差し支えはないだろう。

 手足が汚れないように導入したスレッジハンマーなのだが、結局は手足どころか尻尾も使って大掃除。

 前回のゴブリン駆除の倍はいたであろう数の相手は、流石に疲れを感じさせるくらいには大変だった。

 ちなみに数が倍でも質が変わらなかったのでやっぱり無傷である。

 王と女王のセットであったが、ただのデカイゴブリンが俺をどうこうできるはずもなく、スレッジハンマーの一撃で構えた盾ごと頭を粉砕され死亡。

 女王を守るべく群がり続けるゴブリンを文字通り千切っては投げ、千切っては投げ……数千の汚物に変えた後、残った肉の塊を叩き潰して終了である。

 ここの連中は前回と違って悪臭の度合いが軽度であったことが幸いだった。

 恐らく、屋根が半分くらいなくなっていたことで換気ができていたのだろう。

 ゴミ掃除が終わったのでどこかで体を洗い、記憶にある商店街で寝床作りと洒落込もう。

 アイザのショッピングモールには及ばないが、ここも決して小さな街ではない。

 きっと今の俺に足りなかった物が見つかるに違いない。

 まずは体についたゴブリンの血を洗い流すことから始めよう。

 そのために水を求めて自然公園にやってきたのだが、当然の如く噴水は止まっている。

 水鳥が住んでいた池はゴブリンが使用していたのか濁っていて汚い。

「やはり今回も下水道か」と思っていたのだが、廃墟になった温室に雨水が良い感じに溜まっていたのでそれを使用する。

 前回雨が降ったのは四日前だったので問題はないはずだ。

 さて、綺麗にとまではいかないが、さっぱりしたので置いた荷物を取りに行って商店街へと向かう。

 大掃除に時間を随分取られたので、既にお昼を過ぎてしまっている。

 明るいうちに必要な物を確保し、周辺で狩りをして今日はここで一泊する。

 最近は毎日睡眠を取っていたが、昨晩は夜通し走っていたので今日はしっかりと眠っておきたい。

 というわけで商店街で物色を開始。

 必要な物を集めつつ、寝床になりそうな場所を探して使えそうな物資を運び込む。

 体感で二時間ほど商店街を行ったり来たりした結果、やはりというか山ができた。


(……タワシだけで幾つあるんだ? あと布を持ってきすぎた)


 布団屋があったのは良いのだが、ほとんどが使えなかったり持ち運ばれていたため妥協しているが、それでもベッドに関してはそこそこ良い物が完成した。

 実際寝転んでみたが、この体重を受け止められる四層のマットが良い仕事をしている。

 マットの上にも二重に布団を敷いたこともあって、寝て良し座って良しなのだが、おかげで天井が更に低くなってしまった。

 細かいことは寝る前に調整するとして、次は食料だ。

 森へ行って狩りをする――のだが、ここにいたゴブリンが取りすぎているのか、結構遠くまで出かける羽目になった。

 本当にゴブリンは害悪だ。

 戻ってきた時には既に日が沈んでおり、確保した猪を解体して火をおこす。

 猪一頭分くらいなら問題なく一食で収まった。

 空腹感はなくとも、満腹感はある体であることはエルフを監視していた期間に判明しているが、この程度では腹いっぱいにはならない。

 俺は水を一瓶飲み干して作ったベッドに寝転がる。


(悪くはないな。明日は帝都に着けるだろうか……)


 俺は目を閉じると思いの外早く眠ることができた。




 翌朝、目を覚ました俺は大きく欠伸をすると体を伸ばす。

 建物が少し壊れてしまったが、家主のいない今となっては咎める者は誰もいない。

 俺はタワシと布、トングを追加して更に充実した荷物を背負うとシュバルを発つ。

 進路は南東、目指すはアイザ。

 距離はそこまで離れていないので昼前には到着するだろう。

 この辺りは木の密集具合がそれほどではないため速度が出せる。

 道中は特に何もなかったが、思ったよりも早くアイザの街が見えてきた。

 それは良いのだが、思ったよりも荒廃が酷いのが遠目からでもわかる。


(これはショッピングモールに期待できないかもしれないな)


 そんな不安は見事に的中。

 アイザの街は予想以上に荒れていた。

 原因はすぐにわかった。

 この街は間違いなく焼かれている。

 崩れた外壁が焼け跡を残したままの姿で残されており、ゴブリンは疎か他の生き物の気配が少なすぎる。

 おまけにどういうわけか植物が異様に少ない。

 これまで見てきた街はどこも自然に侵食されていたが、アイザの街は緑ではなく灰色だ。

 しばらく探索をしてみたのだが、とてもではないが使える物を探せるという状態ではない。


(戦争とは言え、ここまで念入りに焼く必要がどこにある?)


 どこを見渡しても焼け落ちたままの建物がそのままの姿で残されており、その破壊の跡が尋常ではないことを物語っている。

 しばらくアイザの街だった場所を散策してみたが、当然というべきか持っていけるような物が残っているはずもなく、ここでの時間は完全に無駄なものとなった。

 こうなると心配なのは帝都であるが、そこまで攻め込まれているということはないと信じたい。


(いや、待て。まさかとは思うが、これって前に見た最終兵器を投入した結果がこれというオチはないだろうな?)


 不意に思いついたことについてしばし考える。

 出した結論は――あり得る。

 最終兵器を使って自国の街を灰にするとかちょっと自分の国と言えど擁護できない。

 だがあくまで可能性である。

 エルフとの戦争が激化した結果、こうなったということも考えられる。


(そう言えばエルフって300年くらいは生きることができるんだよな……)


 いつの日か、エルフ目線でとは言え何が起こったかくらいは知ることができるかもしれない。

 まあ、そのためにはエルフ語を学ばなければならないことを考えれば、あまり現実的な話とは言えない。

 それはさておき、もうここに見るべきものはないので帝都へと向かう。


(200年ぶりとなる帝都は、今どんな風になっているのやら)


 いざ考えてみると、住んでいた家が今どうなっているのかなど、知りたいことや見たいものが意外と多いことに自分でも驚く。

 そして灰色の街を抜けようとした時、目の前に見慣れない光景があった。

 いや、思えばもっと早くに気づいていても良かった。

 進むべき先に、森がないことに気づかなかったのはどうしてだろうか?

 視線の先にあったのは砂漠だった。

 どこまでも続くような砂の大地が広がっていた。

 俺はこの環境の変化に首を傾げつつも、砂漠へと足を踏み入れる。

 砂だ。

 少々歩き難さはあるが、問題なく歩くことはできるし走ることもできる。


(帝国には海はないが、砂浜というのはこんな感じなのだろうか?)


 砂を蹴って走ってみる。

 意外と速度がでないことに驚いた。

 砂場というのは存外動きが制限されるものなのだと、しばし歩き方や走り方を工夫してみるが成果はなし。

 その後も俺は砂漠という珍しい環境を満喫するかのように進んでいく。

 俺は自然と「何故こうなったのか?」と考えることはなかった。

 理由はわからない。

 だが、考えてはいけないような気がした。

 そして、現実が突きつけられた。

 心の中ではそうだろうとは思っていても「実はそうじゃない」ということを期待していた。


(これが、帝国が滅んだ理由か……)


 俺の前にあったのは、一言で言うならば「爆心地」である。

 それも一体どれだけの爆薬を使用すればこのような巨大なクレーターが出来上がるのか、俺には到底想像の及ぶものではなかった。

 帝都を飲み込み、農耕地を焼き尽くし、アイザの街まで巻き込んだ。

 この砂漠は、そうして出来たものだ。

 ただ立ち尽くす。

 俺は理解した。

 カナン王国が科学を捨てたその理由を。

 これが科学を発展させた末路なら、誰だって捨てることを選択する。

 いや……むしろ現代に於いて、科学を発展させるような国家は攻撃対象にすらなり得る。

 愛する祖国とまでは言わないが、貴方に一つだけ質問がしたい。

 一体何をしたらこんな惨事が生まれるのだ?

 帝国が歩んだ道は間違いだったのか?

 拳を強く握り、目の前の光景を前に立ち尽くす。

 帰りたかった場所はなく、行くべき場所も見当たらない。


(学生時代の進路相談が懐かしいな)


 思ったよりも来るものがある。

 とっくに受け入れたつもりではあったが、案外現実から目を逸らしていたようだ。

 言いたいことが山程あるが、言葉にできないこの体。

 ならばせめてと大きく吠えた。

 聞いているものは誰もいない。

 俺はクレーターに背を向けると歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] せつないではありませんか。
[一言] 核爆発のような汚染を伴う大量破壊兵器に 人間を主人公たちのようなゾアノイド(違う)に変える狂気の科学力……。 そりゃあバッチイって捨てたくもなるか。 地球の様に先進国が競い合って科学力を高め…
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