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 あれからどれくらい時間が経っただろう?

 エルフの観察を開始して25日目くらいだとは思うのだが、間違っていないと断言はできない。

 日が傾き、もうじき夕方になろうという時間に、俺は拠点で寝そべりながら水浴びに来たエルフ達を今日も今日とて観察している。

 皆楽しげに話しており、時に水を掛け合ったりすると水に浮かび、空を眺めては笑い合っている。

 彼女達を観察してわかったことが幾つかある。

 一つはエルフは皆スレンダーというのは思い込みだった。

 普通に帝国人くらいの胸の大きさだし、太っているのもいる。

 ただ腰が細いのが多いのは統計的に正しいと思われる。

「全体を通してみるとモデル体型が多めであることは間違いない」と累計147名(子供除く)のエルフの女性の裸をじっくり確認させて頂いた俺が力説する。

 男は知らん。

 そして二つ目なのだが、エルフは日常的に魔法を使っている。

 例えばちょっと手が届かないところにある物を取る時や、服を乾かす、火を点けるといったことを大体魔法で行っている。

「魔法のエキスパート」とも呼ばれているが、何気ない日常と一体化している様を目の当たりにすると納得せざるを得ない。

 他にも細かいことがわかったが、まだまだ確証を得るには至らず推測の域を出ない。

 それは間違いなくもっとしっかりと観察することで得られるものだと、エルフ達が全裸で戯れる光景の一挙一動見逃さないという姿勢でこの目に焼き付ける。

 それにしても6号さんは相変わらずよく揺れる。

 さて、こんな感じに毎日エルフの話し声を聞いているのだが……相変わらずさっぱり何を言っているのかがわからない。

 多少の知識があったところで、ネイティブなエルフ語の前では単語すら拾えないようだ。

 もっとも、俺が知ってるエルフ語なんて「くっ、殺せ!」とか「貴様のような下等種族に!」とかそんなのばかりなので仕方がない。

 せめて常用する単語くらいは知っておくべきだった。

 さて、本日の「ヘナ川から送るエルフ水浴び劇場」が終了したところで夜に備える時間である。

 川から上がる際、6号さんが躓いてお友達を巻き込んだことで、仕返しとばかりにもみくちゃにされていたが、それ以外は普段と何ら変わらず、魔法で体を乾かし服を着ると森の中へと帰っていく。

 彼女達の後ろ姿を見送って、俺はゆっくりと立ち上がると持っていく物をまとめる。

 まだ夜まで時間はあるので、少し森の奥をブラブラする。

 そして夜になると拠点に戻って荷物を持って川へと向かう。

 エルフ達は日が暮れると川には近づかないが、念の為にこうして夜まで待ってから向かうことにしている。

 川に到着すると体を洗ったり魚を取ったり水を確保したりする。

 朝や昼は遭遇する可能性があるので控えることにしたところ、自然とこのライフスタイルになってしまった。

 川の用事が済んだので、処理した魚をクーラーボックスに入れ、荷物を担ぐと拠点の裏にある調理場(仮)へと向かう。

 夜ならば煙を気にせず肉や魚が焼けるので、ここで明日の朝の分もまとめてやってしまう。

 食事は相変わらず貧相で味気ないが、これを解消するなら人を襲う必要が出てくる。

 馬車の積荷とかゴッソリ奪えれば食糧事情が良くなるかもしれないが、そう都合よく調味料や食材が豊富なものに出会えるかと思えばそう上手くは行かないだろう。

 そんなことを考えながら焼けた魚にかぶりつく。

 こうして食事をしていると、朝と夜の一日二食が馴染んできたなと思う。

 今更なのだが、魚を食べていた時に誤って骨を噛んでしまったのだが、そのままバリバリいけた。

 試しに動物の骨でもシャクシャクいけた。

 食感的に骨付き肉をそのままいくのもアリなのかもしれない。

 食事が終われば川へ行って洗い物。

 それが終われば拠点に戻って就寝である。

 鳥の羽毛を熱湯消毒したものを薄く敷き詰め。そこに枯れ葉を加えたベッドと呼ぶにはお粗末なものの上に寝転がる。

 こんなものでも無いよりはマシ。

 そう思って目を閉じる。

 だが眠れない。

 最近はいつもこんな感じだ。

 眠気はなくとも眠ることはできる。

 だが、気持ちが晴れない。

 喉に刺さった骨のようにやはりどうしても気になるのだ。

 踏ん切りがつかないとでも言うべきか?

 それとも割り切れない?


(やはり一度帝都に行かないとな……)


 埃をかぶらせたままにはしておけないものがある。

 自分を誤魔化して生きるのは案外難しいのかもしれない。

 翌朝、昨晩作った食事を済ませ、拠点を発つ準備をしていた俺は、気が付けば水場で子供達を引率する6号さんをずっと見ていた。

 うん、自分を誤魔化すのは苦手なんだ。




 どうにかエルフ達の誘惑に耐え、無事に拠点を出発することができた俺は、改造リュックを背負って森の中を駆け足で進んでいる。

 今はリュックに空きがあるのでクーラーボックスもこの中だ。


(まさかあんな落とし穴があるとは……これだからエルフは油断ならない)


 もしやエルフの容姿が優れているのは、他者の目を引きつける意味があるのではなかろうか?

 なるほど、それならばエルフの女性が誰の目があるかもわからない川で裸になることに抵抗がないのも頷ける。

 つまり、彼女達は俺に何らかの暗示、もしくは魔法を行使するために裸を見せつけていたという可能性も存在する。


(何という策士。帝国が辛酸を嘗めさせられたのも納得だ)


 茶番はさておき、ただ見ているだけしかできないというのも辛いものがある。

 相棒も未だ行方知れずという状態だから尚の事で、目の前に食べることができない御馳走をぶら下げられている気分になる。

 もしかしたらあの男もそれで狂ってしまったのかもしれない。

 少しばかり同情を寄せてしまったのは、俺もいずれ「ああなってしまう」可能性が頭を過ぎったからだろう。

 考えていても仕方がないのでこれ以上は止めておこう。

 太陽が真上に来るまで南東に進み続けたところ、軍事基地跡が見つかったのだが……やはりというか徹底的に破壊されており、ほとんど更地という具合で探索をしようという気すら起きない。

 基地跡を歩きながら見渡すと、一部に明らかに人為的な破壊が見受けられる箇所が幾つも見つかった。


(戦場になった場所はわかりやすいな)


 ここにいる意味はない。

 地理的には恐らくこのまま南東に進み続ければ何らかの痕跡が見つかるはずなので、そこから方角を調整していけば帝都に辿り着くはずである。

 できれば帝都周辺の街にはよっておきたい。

 どうせゴブリンの巣になっているだろうが、欲しい物が増えたので排除することも吝かではない。

 というより帝国人のお墓掃除的な意味では積極的にやってもよいかとすら思っている。

 道中デカイ熊や猪型のモンスターと出くわしたが、適当に痛めつけて格の違いをわからせてやった。

 日が暮れる頃に崩れた人工物を発見したのでそちらに向かう。

 恐らく「アイドレス」の町の跡なのだろうが、建物が軒並み原型を留めておらず、屋根のある建造物が見当たらない。

 エイルクゥエルやルークディルに比べると人工物の破損具合が酷く、ゴブリンが住み着けるような場所がない。

 町が幾つか戦場になったことはわかっていたが、いざ目の辺りにするとその爪痕に当時の戦争の凄惨さが見えてしまう。


「ガッ、ハー」


 俺は息を一つ吐き、コンクリートの瓦礫の山に腰を下ろす。

 これをエルフがやったのかと思うと、能天気に覗きなんてやっていたことが恥ずかしくなる。

 しかし俺もエルフの裸を覗き見ることで辱めている。

 よし、イーブンだ。

 帝国流のジョークを一つ挟みつつ、ここでは収穫の見込みがないことを残念に思いながらアイドレスを発つ。


(アイドレスからほぼ真東に行けば「ジスヴァーヤ」があるが……南東に行った方が帝都に近づくんだよなぁ)


 ジスヴァーヤには兵器工場があるので、何かしら収穫がありそうなのだが、ここと同じように更地にされている可能性も捨てきれない。


(ルートを確認しよう。まず帝都まで直進するコースの場合、立ち寄る街は「シュバル」と「アイザ」の二つ。確かアイザには巨大なショッピングモールがあったはずだ。次は一度東に向かいジスヴァーヤを通り街を多く回るルート……この場合、ジスヴァーヤの次に「バナイ」「コザ」「アランヴェイン」を経由し帝都へと入る。少々大回りになるが、兵器工場という目玉がある)


 共和国がどの程度侵攻していたかを正確に掴めていれば、ここまで悩むこともなかったかもしれない。

 やはり情報は重要である。

 僅かな月明かりでも道なき道を走ることが苦にもならない我が身を案じる必要などなく、ならばいっそのこと「帝都行ってから戻る時に回ればよくね?」という結論に至った。

 肉体のスペックが高すぎて活動限界が測りづらいというのは贅沢な悩みである。

 夜通し走り続けたことでシュバルの象徴とも言うべき鉄塔が見えてきた。

 夜明けからまだ時間はあまり経っていないので少し薄暗いが、この程度なら問題なくよく見えている。

 もっとも、やはりと言うべきかかつては「栄華の象徴」とも呼ばれた鉄塔は、最早見る影もなく錆付き傾いていた。


(いや……むしろ200年あの鉄塔が立ち続けていることが、帝国の技術力を示している)


 子供の頃に見たあの鉄塔が過去の物になってしまったことは少し悲しいが、しがみついていても仕方がない。

「なにせ今の俺は人間ではないからな」と自嘲気味に笑う。


(家族との思い出がある場所というのは来るものがあるなぁ……)


 こんな姿になってしまったが、たまにはセンチメンタルなのも悪くない――そう思ってシュバルの街だった場所に足を踏み入れる。

 するとやはりというべきか奴らがいる。

 姿は見えなくとも臭いでわかってしまう。

 つまり、まだここはゴブリンが住めるくらいには原型を留めているのだろう。


(久しぶりに来た懐かしい街だ。掃除くらいはやってやるか)


 俺はわかりすい目印となる標識の傍に荷物を地面に置き、スレッジハンマーの具合を確かめる。

 ようやく使う時が来た。

 さあ、ゴブリンの駆除を開始しよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 丁寧な描写が良い、ダイジェストみたいな作品は味気ないし [一言] 欲は発散出来ないと蓄積して行くから部位が無いのは辛そう 古今の権力者も老い過ぎたり宦官でアレが無いのに夜な夜な張型で弱者を…
[一言] 話が冗長すぎる。展開が遅く退屈。
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