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 蔦で雑にグルグル巻きにした精霊剣を肩にかける。

「これでよし」と拒絶の反応がこないことに頷く俺はようやく一息ついたとばかりに脱力した。

 レイチェルとの別れの後、まずは蹴り飛ばした精霊剣を探して移動を開始。

 そして目的物を発見するなり再び森に向かって蹴り飛ばす。

 それを繰り返すことで北へ北へと進んだ。

 幸い追撃はなかったので何事もなく無事に森に到着し、精霊剣を持ち運ぶために森の中を蔦を求めて歩き回って完成したのが今し方背負った植物由来の鞘である。


「これからどうする?」


 一息ついたところで次を考える。

 折角取り返した精霊剣をまた見つけられても困る。

 ならばここから遠い場所に捨てる必要があり、北へと進出するフロン評議国の手に渡らないようにするには結構な距離を移動することになる。

 問題は今の俺は荷物を失い、直火焼きの生活に戻っていることである。


(いや、それも問題だが……もうそっちの心配はいらないんだよ)


 次に理性を失った際に精霊剣を落としてしまう可能性があること、だ。

 ともあれ今はこの場から離れることが先決である。

 肩にかけた精霊剣が落ちないか確認しながら速度を上げて北へと走る。

 この辺りは走り難さもあってか、木に精霊剣がぶつかって蔦が千切れるアクシデントもあったが、休みなしで走れば森の中央部くらいまでは一日で辿り着く。

 丸一日走り通したので休息を取るべきかと思ったが、今の俺にそんなものは必要ない。

 無理だろうが無茶だろうがこの体はそれができるようにできている。

 飲まず食わずでも動けるならば、今は動く時である。

 前回理性を失ってから二日と経っていないため、時間の猶予はまだあるはずなのだが、不安材料など幾らでもある。

 これまで通りという保証がない上、時間経過で間隔が短くなることも予想できるのだ。

 しかしいきなり極端に短くなるようなことはないだろうと思えるだけの材料もあり、僅かながらの余裕を持てたことで、こうして冷静に動くことができている。

 精霊剣を二度と彼女の手に渡さないためには、もっと北に移動しなくてはならない。

 可能ならば人の手に届かない場所が良い。

 そうして北上し続けた俺の前に見覚えのある地形が現れた。


「……しまった。行き過ぎたか」


 目の前にあるのはどう見ても街道――つまりカナン王国まで来てしまったようだ。

 カナンに返す気は全くないので踵を返して来た道を戻る。

 今し方できたばかりの道だが、この巨体故に初めて通った場所は意外とわかりやすい。

 ここで考える。

 カナンには南進する余裕が最早ないと思われる。

 セイゼリアは西を開拓する意思があり、そのための準備も進めている。

 エインヘルはエルフがそもそも領土の拡張にやる気がなく、森の領有を宣言したらしいが、内部で揉めて動いていない。

 そして問題のフロンは軍を揃えて北進している真っ最中である。


(こう考えると旧帝国領の北西辺りで精霊剣を隠すのがベストだよな?)


 いっそエルフに渡してしまおうかとも考えたが……そこまでする義理もない。

 俺が発見できなかった他の被験者が目覚めた場合のことを考えれば、渡すという選択肢もないわけではない。

 しかし帝国人としては目覚めた者の意思を尊重するべきであり、肩入れをするのはどちらかなど言うまでもなく、先ほどの考えを頭を振って否定した俺は精霊剣を隠す場所を探すことにした。

 評議国と共和国が衝突するケースもあるので、やはり隠すのが正解だろう。


「となると問題は……気配か」


 俺でもわかる精霊剣の何とも言えない圧。

 この気配がある以上、ある程度近づけばその存在が暴かれてしまう。

 また、それを探知する手段が存在する可能性も考慮に入れなければならず、生半可な場所では見つけられる恐れがあるのだ。

 こうして考えると中々に条件が厳しい。

 森の中をキョロキョロするだけではダメな気がしてきた。

 ならば、とこの辺りで適切な場所はないかと記憶を手繰る。

 しばし立ち止まって思いついた場所が一つ。


「掘り起こすか?」


 埋められてしまった蜘蛛男がいた研究施設を思い出しポツリと呟く。

 位置的に理想的とまではいかないが、旧帝国領の北西に位置しており、少し西側に寄り過ぎているということを除けば条件にほとんど適合している。

 問題はそこが埋まっている、ということだ。

 縦穴部分だけでもどうにかできるのであれば、一から穴を掘るよりずっと時間の短縮になる上、状態が状態なだけに見つかり難いという利点もあるはずである。

 それから利点と欠点を思いつく限り並べてみたところ、現状最も俺の目的に即した隠し場所になるような気がしてきた。


「……やるか」


 次にやることが決まればすぐに動く。

 記憶にある場所からなので問題なく目的地に辿り着くことができるはずだ。

 そう思っていたのだが……予想より少し手間取ってしまった。

 川沿いに移動すれば確実だろうと思ったのだが、エルフの一団を発見してしまい、見つからないようにステルスモードでゆっくり動く羽目になってしまったのが主な原因。

 見知った顔がいなかったので、恐らくはフォルシュナの関係者ではないと思うが、こちら側で活動するとなるとゼサトの連中だろうか?

 肩にかけた精霊剣を隠すようにしてコソコソしていた所為で時間はかかったが、無事に目的地へと到着することができた。

 施設の地上部分が全て瓦礫の山となっているので、まずは地下へと続く昇降機の場所を確認しなくてはならない。

 蔦でグルグル巻きにした精霊剣を一先ず適当な場所に置き、早速瓦礫の撤去作業を開始する。

 程なく地下へと続く昇降機があった場所を発見し、周囲の瓦礫を取り除くと次から次へと雪崩のように崩れ落ちて元通りとなる。

 これは横着せずに上から順番に撤去していく必要があるようだ。

 仕方なしに瓦礫の山を登ると足がズボリと崩れた中に滑り込む。

 一時静止した俺は大きく息を吸って――全力で瓦礫をひっくり返した。

 思えば俺はフィジカルモンスター。

 丁寧に取り除くのではなく、破壊するという選択肢だってある。

 そこに気づいた俺は瓦礫の山をかき分けるように崩していく。

 時に蹴り飛ばし、周囲に騒音を撒き散らしながらみるみる瓦礫を減らしていった。

 そんな大暴れがしばらく続き、発見したのは昇降機の扉。

 ここからは縦穴に崩れた瓦礫が入ってこないように周囲を片づけてから作業をすることになる。

 できればこの深さを最大限利用したい。

 だが、落ちた瓦礫の量と取り除くことが可能な深さを考えると半分くらいが精々だろう。

 ここで縦穴に落とす精霊剣の方に視線を移す。

 そこには俺が無造作に暴れたことで飛んだ瓦礫や破片で刀身部分がほとんど埋まった精霊剣の姿があった。

「何やってんだ俺は」と頭を掻きながらそちらへと向かったところ、唐突に声が聞こえてきた。


「やっと見つけましたー!」


 反射的に振り向くとそこには何時ぞやのエロ本仲間……もとい、フォルシュナ氏族のクラーゼ君の姿があった。

「何故ここに?」という疑問が頭を過るも、彼のことだからきっとまたエロ関連の話だろう。

 良かろう、冥土の土産に聞いてやろう――といつもの俺なら首を縦に振っていた。

 しかし今は精霊剣を隠す真っ最中である。

 場所を知られるわけにはいかないので追い払うという選択をする。


「ようやくこれを自慢できる相手と巡り会えた」


 そう言って無駄にかっこよく取り出した三枚の紙。

 それが目に入った直後、彼を追い払おうとした俺の手が止まった。

 クラーゼの手にある紙を俺に見せびらかすように向けるとニヤリと笑みを浮かべる。


「それは……」


「ええ、できました。完成しましたとも」


 頷くクラーゼから紙を受け取ると俺は思わず見入ってしまった。

 そう、三枚の紙は紛れもない写真だった。

 紙の質感は俺の知るそれとは違うものの、写し出された絵は間違いなく写真と言えるものだった。

 そしてその中身なのだが……全部女性である。

 しかも二枚がダメおっぱいことアーシルー。

 一枚目は普通に正面から撮ったものだが、もう一枚は状況不明なので説明が欲しい。

 恐らく「少し汚れた上半身裸のダメおっぱいが女性から乳にビンタされている」ように見えるのだが、これはいったいどういう状況で撮られた写真だろうか?

 最後の一枚は知らない女性だが、視線がこちらを向いていないことから盗撮とわかる。


「追憶の頁……」


 俺の呟きにクラーゼ君が首を傾げる。

 口にしてしまったものは仕方ないので、俺が手に入れたマジックアイテムについて説明すると「先駆者がいたか」と悔しそうにしていた。

 というかこれを一人で開発したとなると、彼は優秀な人材なのではなかろうか?

 そんな彼が氏族内では末端というのだから世の中は世知辛い。

 なお二枚目の内容だが「洗濯を命じられたアーシルーが途中から足でやり始めたところを戻って来た教育係が張り倒し、泥が付いたままの汚れた衣服を脱いでそのまま洗濯物の中に入れようとしたことで説教され、上半身裸で背筋を伸ばしたところで乳にビンタされているシーン」とのことである。

 相変わらずのダメおっぱいで安心した。

 思わず和気あいあいとしてしまったが、今はそれどころではなかった。

 用が済んだならさっさとお引き取り願おうとしたところ、どうやら彼にはまだ言うことがあるようだ。


「一つ目の用件はただの自慢ですが、もう一つありまして。うちの……あー、ルシェルのお嬢さんの付き人みたいな男性覚えてます? その人から言伝があります」


 六号さんの傍にいる男と言えば、名前も知らない何となく覚えている程度のこちらへの警戒を隠そうともしなかった彼を思い出す。


「確か『約束を果たす時が来た』だそうです」


「約束?」


 六号さんならともかく野郎と約束などした覚えがない。

 何かあっただろうか、と頑張って思い出そうとするもただただ首を捻るばかり。

 腕を組んで唸っていたところにクラーゼ君から差し出された追加の写真。


「まだまだ自慢したいものがあるんですよ」


「いや、これどう見ても盗撮だろ?」


 新技術故に法整備が進んでいないらしく、やりたい放題の彼のペースに呑まれてしまっている。

 趣味人を喋らせると長いのはよくわかっているが……さて、これをどうしたものか?

 見上げた空はまだ青い。

 あ、その六号さんの写真ストップ。

 肌色は少ないがなんかアングルがいいね。

 コピーとかできる?

(´・ω・`)次回から急展開の予定。

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― 新着の感想 ―
お、3人目?
[一言] 面白い
[一言] ダメおっばい出てくると平和を感じる。 急展開。戦争勃発か、必要な最後の被験者発見か。何かなぁ。
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