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(´・ω・`)お待たせ。予定を変更したせいで遅くなりました。思いつきですぐに書く内容変更するから安定しないんだよなぁ
直撃を免れたことは幸いと言ってよいだろう。
しかし勝負を決しかねない一撃は浅くない傷跡を俺の右腕に残した。
「ぐっ……!」
漏れ出る声は痛みによるもの。
肉を断たれ、骨まで届いた一撃であったが故に割り込みが間に合った。
カバサを蹴り飛ばすも追撃を諦めたことで防御が間に合い後方に飛ばすだけの結果に終わったが、すぐに距離を詰めてこないことからダメージはあったと見える。
その間にもレイチェルが左腕に刺さった精霊剣を抜こうとしており、こちらも気を抜くことができない。
人間は脆い。
それを嫌という程に理解しているからこそ、決断を迫られている。
この状態での戦闘は彼女を殺しかねない。
故に最悪の事態だけは避けるため、彼女の手を破壊するか否か――精霊剣さえ奪取できれば、逃走という選択肢が生まれる。
ならば、と彼女を生かすために覚悟を決めるが、それさえもレイチェルの声が吹き飛ばす。
「ユーノス。お前は何故その道を選んだ?」
伸ばそうとした腕が止まる。
何故?
決まっている。
家族を守りたいと願ったからだ。
誇れはしなくとも、兄として恥ずべき姿を見せたくないと思ったから兵士となった。
訓練は辛かったし何度「帰りたい」と思ったかわからない。
(確かに逃げ場にした。それでも、守りたいと願ったことが、あの日の俺の選択だった)
だがその想いは言葉にならない。
彼女の声がどうしても重なり、遠き日の思い出となってしまった場所に手を伸ばしてしまう。
「……何故、そう思った?」
今彼女が俺をユーノスと断じた理由を聞くことに何の意味があるのか?
一刻も早く現状を打破せねばならない状況ではあまりに悠長な言葉が口から出る。
「私の実家に一枚の写真がある。丁寧に保存された古い写真だ。一つの家族が写っていた」
喋りながらも俺の腕に刺さる剣を抜こうとしている彼女を止めることができず、回復薬と思しき物を兵士から手渡された正面のカバサからは視線を外さない。
「三人の女性に一人の男。名前は母親であるリーシエル。長女のミレイナ、次女のセリーヌ。そして長男であるユーノス。帝国が瓦解する前に撮られたものだと聞いている」
「それが何故私に繋がる?」
「タイプゴライアスの生存者は四人に絞られる。その内一人は女性だ。ならば残るは三人で一人は軍人ではない。これで二分の一となったが……あんな写真を持っていれば、お前がどちらかなど考えるまでもない。お前はクラウゼンではなくユーノスだ」
やはり見られていたブロマイド。
危機的状況であるはずなのに少し恥ずかしくなってしまう。
「彼女は有名なモデルでな、私はファンだった」
「では何故お前は私を殺さない? チャンスなら幾らでもあった。今も、だ。似ているだけの別人だけでは理由とするには薄いな。私を手にかけることができない時点で、お前は自分が何者であるかを自白している」
本当に姉のようによく見ている。
だが、確定させてしまえば状況は最悪となる。
ならば俺がすべきことは「足掻くのみ」である。
「……知っているか? ミレイナのサイン入りブロマイドはたった八枚しかこの世に生まれなかった」
「は?」
「彼女が載った雑誌は全部で二十三。写真集は七冊だ。サイン入りのブロマイドを手に入れるにはその全てが必要であり、その先に抽選があったんだ……」
そこまで言って俺は一度口を閉ざし覚悟を決めた。
何の覚悟か?
決まっている――尊厳を捨てる覚悟だ。
「欲しかったんだよ! 何軒も古本屋を回って! 雑誌を集めて! 応募券だけ切り取られた雑誌を何冊もゴミ箱にぶち込んだ! それでも、揃えて、応募したのに抽選に外れた! わかるか!? あの時の俺の気持ちが!? 欲しかったんだよ! だから見つけた時は手を叩いて喜んださ! そんなブロマイドだから大切に持ち歩いてたんだ! 悪いか!?」
俺の叫びに周囲が静まり返る。
ポーションを飲んでいたカバサの腕も止まったままだ。
この色々とかなぐり捨てた叫びにはレイチェルも「あれ? もしかして違うのか?」と不安そうな表情を垣間見せた。
ちなみにこの内容自体は学友が突然俺の前に来て叫んだものであり「どうにかしてくれ」と泣いて頼まれた。
名前くらいしか知らない相手だったので当然拒否したが、予想外の叫びに周囲が停止している今なら口利きくらいはしてやってもよい気分になる。
これはいけるのでは?
そう思った矢先、兵士の中から声が上がった。
「それ、どっち道少佐は殺せない、ってことですよね?」
そちらを見るとちびおっぱいさんが小さく手を挙げている姿が確認できた。
うん、確かにその通りだ。
俺の気迫に押されていた面々も再起動。
やはり俺の頭ではここら辺が限界だったようだ。
しかし、尊厳を捨てただけの効果はあった。
この一瞬を好機と見た俺はレイチェルを左腕に押し付けるようして右手で包み、基地に背を向けて走り出す。
我に返るなり慌ててポーションを飲み干すカバサだが速度では俺が上――つまり出し抜いた時点で俺の勝ちだ。
(っていうかよく見たらそのポーション俺が持ってたものじゃねーか!)
思わず悪態を吐きそうになったが、今はレイチェルを持って逃走することが最優先だ。
走り出したカバサだが、最早俺を止められる者などいない。
いや、一つあった。
「少佐に当てるなよ!」
「いや、当てるつもりで撃て!」
当てるな、というカバサに「狙え」というレイチェル。
「何言ってるんだこいつ!?」と一瞬手の中のレイチェルを見たが、彼女は俺が守ると確信しており、それは見事に的中している。
実際、魔力反応で真横から魔法銃が撃たれることを察知した瞬間、俺は彼女を庇うように自分の身を差し出していた。
「やはりお前は……!」
レイチェルが言い終わる前に俺は走り出す。
振動で精霊剣の刺さった腕が痛む。
斬られた方の腕も、銃弾がめり込んだ肩も痛い。
俺の包囲へと方針を変えた兵士たちを跳び越え、俺は森に向かって走り続ける。
後ろから撃たれてはいるが、ただの銃ではこの背中の外皮は貫けない――そう思っていたら膝の裏に命中。
ちょっと足がもつれかかったが、久しぶりの二足歩行での全力疾走でもなんとかなるものだ。
そう安堵の息を漏らしかけた直後、プレッシャーが背後から迫って来た。
「逃がすと思ってんのかぁぁぁぁっ!」
精霊剣の気配で後ろを見なくても位置は把握できる。
だからこそわかる。
(距離が縮まってる!? 嘘だろ!)
いや、本当に何なんだこいつは?
侮っていたつもりはないが、カバサは尽く俺の予想を上回ってきている。
精霊剣そのものに対する認識を改める必要がありそうだが、今はカバサの対処をしなくてはならない。
立ち止まることはできない。
ならば、タイプゴライアスが何のモンスターを元にしたか知った際に思い付いたアレを試す時が来た。
追われる者という立ち位置だが、相手の位置を把握できるからこそ振り向くことなく、全力で走りながらも迎撃可能な人間にはない尻尾が猛威を振るう。
相手の間合いに入る部分だけをアサルトモードで強化し、迫るカバサに伸ばした尻尾を振るう。
聞こえた舌打ちに弾き返される尻尾。
速度は落ちたがこの程度ではやはりダメだ。
予想通りの結果だが、次はそうはいかない。
再び振るわれた尻尾の先に意識を集中してカバサの頭部を狙う。
しかし狙いはダメージにあらず、剣の動きを気配で確認すると同時に俺は魔力を解き放つ。
それは閃光――照明の魔法を限界まで短縮し、一瞬だけ強く光を放つことで行う目くらまし。
俺の魔力と練度では僅かな時間しか効果はないが、それだけあれば今は十分。
精霊剣に弾かれ、傷ついた尻尾をなおも振るい、一撃を入れることには成功する。
だが強引にカバサに叩き込んだ一発の代償は、尻尾の切断という形で支払うことになる。
見事なまでにカウンターで斬り払われた尻尾が宙を舞い、俺はそれを確認することなく歯を食いしばって走り続ける。
(これぞ正しくトカゲの尻尾切り!)
ゴライアスリザードはトカゲだからね、そりゃこんな戦法だって思いつく。
閃光はほとんどぶっつけ本番だったが上手くいって何よりだ。
カバサとの距離は離れ、銃の射程距離からも脱出した。
今度こそ勝ったと思ったら、思わず振り返るほどに精霊剣の気配が増大する。
「逃がさん、と言ったぞ?」
その声が俺にははっきりと聞こえ、ゾワリと背筋に悪寒が走る。
「あ、これはヤバイ」と体を反転して迎撃しようとしたところで、指の隙間から顔を出したレイチェルが叫んだ
「中佐! 議会の承認は得ていない!」
その言葉で一瞬気配の増大が停止するも、再び勢いを増した圧力に俺は逃走を諦めかけたが、続く彼女の言葉で走り続けることになる。
「こいつに私は殺せない! 必ず戻る! 迎えを寄越せ!」
俺は北へと逃げ続ける。
流れ落ちた血が続いている限り、彼らは俺を追うことができる。
だから俺は走り続けた。
高い治癒能力のお陰で出血が止まるのは早かった。
森を視認できるまでまだ距離はあるだろうが、ここまで来れば時間の猶予はあるだろう。
そう判断してレイチェルを地面に降ろすが、彼女の手はまだ俺の腕に刺さった精霊剣を握ったままだ。
「剣を渡してもらおうか」
「断る」
まあ、予想通りの返答だ。
「ならばその手を砕き、奪わせてもらう」
やってみろ、とばかりに黙ったまま挑発的な視線を送るレイチェルに俺は剣を握りその手を掴む。
そして精霊剣を腕から引き抜き、両手で彼女の手を包み込むと指を一本ずつ丁寧に引き剥がす。
「やはり傷つけることさえできないのか。貴様はそれでも帝国の軍人か?」
「俺は訓練兵だった。正規の軍人じゃない」
全ての指を引き剥がし、精霊剣が地面に落ちる。
レイチェルの手を離れると同時に感じられる精霊剣の気配。
どうやら彼女が持つと気配が消えるみたいだが……少なくともそのような特性があったと記憶にない。
アルベルトがこの能力に気づかなかっただけだろうか?
後はこれをどうやって持ち運ぶか、である。
取り敢えず奪い返されないように精霊剣を遠くへ蹴り飛ばした。
持てないから仕方ない。
森まで行けばどうにかなるので最善といかないまでも悪くない選択だろう。
これで目標は達成。
自分の状態を確認すると満身創痍一歩手前と言ったところだろう。
「血を辿れば帰ることができる。もう行け」
「丸腰のか弱い女性に一人で戻れ、と? 薄情な血縁者もいたものね」
「銃を持ってるだろ?」
俺がそう言うなり抜いた銃を突き付けて来るレイチェル。
「無駄だ。そんなものが俺に通用しないことくらいわかっているはずだ」
言った傍から無言で引き金が引かれる。
「止めろ。無駄弾を使うな」
支給品の拳銃程度ではこの至近距離でも俺に傷を付けることはできない。
それを確認したレイチェルは大きな溜息を吐いた。
「どうしてカバサを止めた?」
「言ったでしょ? 議会の承認がなければ中佐の切り札は使えない。予め取っておくべきだったわね、見誤ったわ」
恐らくは大きな反動、または代償を払うタイプの切り札がカバサにはあったようだ。
(持ち手が変わると性能も変化するっぽいし本当に精霊剣は意味がわからん。エルフの誰かにでも一度聞いて……いや、その必要はもうない)
気が付けばまた生きようとしていた。
俺は頭を振って出血が止まった腕を確認する。
「行け。時間稼ぎは無意味だ」
問題なく動かせる腕と硬く握ることができない手を無事に見せかけ、俺は彼女を追い払うように言う。
しかしレイチェルは動かなかった。
「貴方はどうして徴兵に応じた? 帝都に住んでいたのなら、拒否することはできたはずだ」
態々俺の胸の内を明かす必要などない。
黙殺しよう、そう思っていたのだが口が勝手に動いてしまう。
「家族を守りたかった」
一度開いてしまった口は閉じることが叶わず次から次へと言葉を放ち始める。
「出来の悪い息子と言われた。手のかかる弟で、ダメな兄だった。それでもできることがあると兵となり、これで守る力になれると思った。それが思い違いと知り、自分がちっぽけな存在であると理解して、安易に手に入る力に手を伸ばした結果が……この様だ」
気づけばその場に座り込みぶちまけていた。
誰かに聞いてほしかったという想いは確かにあった。
それでも、弱音だけは吐くまいと出かかった言葉を飲み込む。
目の前のレイチェルは何も言わずに俺の前に立ったままだ。
「もう行け」
俺の言葉でようやく彼女は動いた。
座ったままの俺の横を通り抜け、仲間の待つ南へと歩いて行く。
「ああ、そうだ」
俺も歩き出そうと立ち上がろうとした時、思い出したかのようにレイチェルが口を開いた。
「帝都に住んでいた私の祖先はな。帝国が崩壊する直前は南にいたらしい。何でも兵士となったはずの家族との連絡が途絶え、調べてみると南方勤務となっていたんだそうだ。それで会いに行ってやろうと家族揃って南方の町に到着した直後、帝都で大きな爆発があった、と聞いている」
それだけ言うとレイチェルは再び歩き出す。
その背中に俺は振り返ることなく「そうか」とだけ応えた。
今の話が真実であるかどうかはわからない。
しかし姉の子孫がこうして生きているのであれば、それを信じてもいいのではないだろうか?
都合の良い話だとは思う。
(でも、意味があった)
あの日の俺の選択が家族を救うことに繋がったのであれば、これほど嬉しいことはない。
もう交わることは二度とない。
会うこともなければ見ることも、その声を聞く日ももう来ない。
それでいい。
意味があった――それがわかっただけで十分だ。
見上げた空ははっきりと見える。
涙が流れることはない。
それでも、きっと俺は泣いていた。
(´・ω・`)次回は別視点。それが終われば最終章となります。




