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適正な距離感というものは難しい。
人間同士であっても同じことが言えるのだから、見た目がモンスターならば尚更である。
突き放す以外に選択肢がなかったとは言え、あれから無言で片づけを終えて気まずい空気が流れている。
何かを察したのかレナも黙って何やら採取をしており、目の届く範囲だが少しばかり離れている。
そんな中、木に背中を預けているおっぱいさんが大きく息を一つ吐いた。
「よし、割り切った。今後の話をしよう」
そう言って俺に近づく彼女だが、歩く度に揺れるものについつい目が行ってしまう。
結局メイド服を着ることを諦めたので、現在のおっぱいさんは上は結んだタオルで下は短いスカートのみとなっており、ある意味全裸よりもエロく見えてしまう困った格好だ。
「一応カナンに送るくらいは考えていたが?」
そのついでにエイルクゥエル跡によって着替えを入手。
あわよくばおっぱいさんに色々と着てもらおうと企んでいたのだが、彼女は俺の言葉に首を横に振る。
「カナンはダメだ。前回の一件で目を付けられている」
やはり蛇の一件は何やら事情があった模様。
ならばどうするのか、と続きを待つ。
「フロン評議国まで護衛と案内を頼みたい」
カナンでないならばそこしかない。
予想できたことではあるが、これには難色を示さざるを得ない。
なにせ距離がある。
おまけに利益がない。
損得勘定で動くのあれば拒否以外の選択肢はなく、無償でやるにも理由がない。
(何よりも、時間がかかるということは、それだけ俺が彼女たちを殺す可能性が高くなる)
幾ら「運が悪かった」と割り切ればよいとは言え、時間をかければそれだけリスクは上がる。
それを許容してまで承諾するつもりはない。
座ったまま黙り込んだ俺におっぱいさんはさらに近づく。
そして俺の顔を両手で掴み真っ直ぐにこちらを見つめる。
「報酬は全て前払いだ。私の知る限りの全ての魔術の知識とセイゼリアの情報を渡す。それでフロン評議国までの護衛と案内。可能ならば入国の手助けをしてほしい」
真剣な顔で俺の目を覗き込むおっぱいさん。
提示された条件はどちらもそこそこ魅力的だ。
情報という重要なものを提示する辺り、俺がその価値をわかっているとの判断だろうが……彼女には最早それくらいしか手札が残されていないとも言える。
その全てを賭けた依頼に俺はどう答えるべきか?
重要なのは俺にとって有益な情報があるかどうか、である。
それについてはおっぱいさんはこう語る。
「まずあんたの勘違いを正しておく。私はハンターとしてはそれなりに優秀だという自負がある。でも魔術師として見た場合、私程度は真ん中もいいところだ。本当に危険な連中は『英知の塔』と呼ばれる場所に引きこもっている。こいつらは魔術師としては別格だ。あんたでも勝ち目は薄いと断言できる」
思わず「ほう」と顎に手をやり続きを促す。
「多分あんたはエルフを基準に考えているんだろうけど、あいつらはそのエルフすら容易に捕らえて実験材料にする。たとえ戦士階級のエルフであっても結果は同じ。塔の連中は本当の意味で別格だ。知っているといないとでは、間違いなく生存率が違う」
その言葉に俺は半信半疑といった様子で首を傾げる。
流石にエルフ以上というのは過大評価なのではないか?
確かに弱いエルフもいるが、当然強いのもいる。
それは人間にも言えることだ。
突出した者たちが集まる場所と考えても、平均で大きく上回っているであろうエルフ以上がごろごろいるというのは誇張のように思えてしまう。
「才能……というより天才が集まってる事例として、さっき戦っていた量産型の魔動機がある」
あれはゴーレムではなく「魔動機」という名称らしい。
量産型の八式と言っていたが、当然他にもあることは想像に難くない。
確かに兵器としては中々に強力であったことは認めるが、それだけで判断するには早計である。
しかし続く彼女の言葉で俺はその考えを改めざるを得なかった。
「あれは、ここ数年で開発されたものだ。それもたった一人の天才の手によって」
彼女が言うには、魔動機自体は三年ほど前に突然現れたものらしく、その時は小さな人形がトコトコと動く程度のものだったらしい。
しかしその一年後には既に俺が見たような形となっており、現在ではコストパフォーマンスに優れた量産型が生産されているが、彼女が言うには元々はコストを度外視した専用の兵器だったらしい。
そこに至る経緯まではわからないが、少なくともおっぱいさんが知る限りでは三体の量産型とは比較にならない強力な魔動機が存在しており、その全てが俺と同等かそれ以上の能力を保有していると断言した。
しかも問題はそれだけではなかった。
「あんたが一番警戒しなければならないのは、あいつらが開発している武器なんだ」
「武器……魔剣を量産化したのか?」
俺の言葉におっぱいさんが首を横に振る。
「この森に住み、かつて存在した国から知識を得たあんたならわかるはずだ。あいつら、帝国の兵器を魔法技術で蘇らせた」
その内容に思わず息を呑む。
魔法王国において、魔術師の、それもほんの一握りだけが知ることが許された事実であると語る彼女は続ける。
「私がこれらを知ることができたのは本当に偶然だ。それが今から二年前。新技術の開発があんな異常な速度で行われるなら、私たちはもっと豊かな暮らしをしていてもおかしくない。でも現実はそうじゃない。だったらこれはどういうことだ? 疑問に思った私は調べた。その結果、一人の天才が主導してのものだとわかった」
これを聞いた俺は何かが引っかかった。
嫌な予感――とでも言うべきか?
まるで聞いた覚えがあるような話であることが、その予感に拍車をかける。
「あー、随分話しちまったけど、この先を聞きたいなら依頼を受けとくれ」
帽子をかぶり直すような仕草をしたおっぱいさんが「喋りすぎた」と後頭部をばつが悪そうに掻く。
切り出すタイミングとしては悪くなかったことを伝え、俺は頷き依頼を受ける。
安堵の息を漏らす彼女だが、話の続きが気になるので急かすように催促。
どうも先ほど感じた嫌な予感が気になって仕方ない。
おっぱいさんも俺の要望に応えるように頷くと続きを話し始めた。
「蘇った兵器は銃と砲。私の知る限り、これらは表に出ていない。でも最近王都の城壁に奇妙なものが設置されたという噂を聞いた。他にも見慣れない奇妙な杖を持つ一団の話なんかも絶えない」
これを聞いて俺は何故ガストがああも事を急いだのかを理解する。
(商人である彼がこの話を知らないはずはない。ならば、目標の周囲が銃で武装する前に、と考えたのか)
話を聞いて彼の蜂起が失敗すると思ったのは仕方のないことだ。
既にあるものを渡したとは言え、彼らは後発である。
数を揃えるにも時間はかかる。
目的の人物を殺すだけならば可能かもしれないが、内乱とまではいかないだろうと俺の期待が外れたことに内心肩を落とす。
「さっきも言った通り、こいつらは表に出てこない。何をしてるのかもさっぱりだ。でも目的くらいは想像がつく」
「西か」
俺の答えに頷くおっぱいさん。
というか国土が隣接している国がカナンのみで、しかも山脈と森のせいで極僅かともなれば、セイゼリアが目指すは西の旧帝国領土以外ないのはわかりきった話である。
そのために戦力を集めている最中だとすれば、南東の探索は早めに完了させる必要がある。
この情報だけでも収穫としては悪くない。
「何年か前にエルフがフルレトス大森林の領有を宣言した。当然そんなものは受け入れられない、と森に隣接する国は反発。結果として好きに切り取る、という形に収まったんだけど、うちは国土が広くてモンスターがうじゃうじゃいる。そこで新たな魔法技術の開発を急いだ、って話は聞いていた。けどどう考えても早すぎるんだ。私も魔術師の端くれだ。そんなことができるなら皆とっくにやっている。でも、それをやった奴がいる」
「さっき出ていた天才か」
頷くおっぱいさんが続ける。
「魔術師としての才能も、その実力も規格外。セイゼリアのエリートだけが入れる塔の中でも異質とまで言われた天才が、僅か十年足らずで魔法技術を飛躍的に上昇させた。でもそれらは全て秘匿されたままだった。一部の極々限られた者だけが、その恩恵に与ることとなり……結果、あの貴族みたいに魔術師を特別視したがる連中が台頭したりと、私ら下々の者には良いことなんて何もなかった。それどころか怪しげな実験は増々怪しくなったと囁かれる始末」
ここで俺はようやく気付いた。
嫌な予感の正体――それはまるでセイゼリアの急激な技術の発達が帝国のそれと酷似していたかのように思えたからだ。
(まさか……いるのか?)
エルフが定める禁忌を犯す存在。
かつて帝国を驚異的な速度で発展させた者。
転生者――その存在の影が見えた時、俺はどうするべきかと頭を抱えた。
その姿を見たおっぱいさんが突如俯いた俺を見て話を中断。
何事かと俺の顔を覗き込む彼女の顔と谷間が目に入ると「まあ、後で考えればいいか」と後回しにする。
依頼を受けた以上、今は二人をフロン評議国まで送り届けることが先決だ。
まずはそちらを片付けてから、この件を考えるとしよう。




