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 エイルクゥエルを発った翌日、すんなりと一つ目の予定ポイント付近に到着した俺は丸印を付けた地図を片手に周囲を見渡しながら歩く。

 しばらく探してはみたものの、軍需物資の集積所跡に該当するようなものはなく、また研究施設も発見することはできなかった。

 残念ながらここはハズレのようだ。


(まあ、俺が目覚めた施設から近い位置だからな。ないと言われれば納得もできる)


 地図へと視線を落として次のポイントへの方角を確認。

 今度は少し東よりの南となり、しばらく進めば完全に未探索地域に入る。

 俺としても旧帝都跡の砂漠から東側に位置する空白地帯は元大規模な工場地帯であり、この周囲に何か収穫があるのではないかと思っている。

 そのためにもフロン評議国の北進は控えてほしいし、セイゼリア王国が西に進出するのを遅らせたいのだ。

 帝国の領土は広い。

 その周囲一帯の探索を完了させるのに、どれだけ時間がかかるかなど予想もできない。

 廃棄物だの汚染だのとニュースで取り上げられていたことを思い出し、少々不安が残る面もあるが、その工場地帯は停止して二百年という歳月が過ぎている。

 深刻な状況にはなっていないだろう、という楽観的な見解で俺は走り出す。

 残るポイントの探索を済ませて早く旧工場地帯周辺へと向かいたいが、ガストが取引で何を出せるのかも気になる。

 流石にネメシスコードをどうにかできるようなものはないだろうが、広範囲の探索に有用なマジックアイテムや、純粋に戦闘能力を強化できるようなものであるならば、多少のリスクを許容しても手に入れるべきだという方針に傾いている。

 まだ決定ではないが、ほぼほぼそちらで決まっている。

 そんな狭間でゆらゆら揺れながら第二ポイントへと到着。

 辺りはすっかり暗くなっているが、魔法で明かりを灯して森の中で丁寧に建物の痕跡を探す。

 最初に発見したのはひび割れが激しく、最早砕かれたと言っても過言ではないアスファルト。

 そこから伸びる草木を見れば、完全に自然に呑まれたことが嫌でもわかる。

「まあ、想定の範囲内だ」と呟き、他の痕跡を探すべくまずは周囲を注意深く見渡す。

 完全に森と化した景色からは建造物の痕跡など微塵も見当たらない。

 ここもハズレか、と肩を落としつつも探索を再開。

 時に地面に這いつくばってでも見落としのないように入念に探す。

 その甲斐あって手に入ったものがこちら。


「……スナイパーライフルかー」


 草がたっぷりと絡まった錆びた銃――土の付着具合からも到底取引の基準を満たせるものではない。

 ただ、ここに軍用の武器があることははっきりした。

 一応確認のために地面から拾い上げたスナイパーライフルを分解してみようとしたところ……ぼろりといった。

 崩れ去った旧帝国の武器の姿にこの場所の期待が薄れるのを感じる。

 決して力加減をミスったわけではないはずだ。

 しかしその数分後、はっきりとわかる形で瓦礫が積み重なっている部分を発見した。

 つまりここには確かに建造物が存在していたということである。

 そして土と瓦礫を除去したその下には、弾薬箱と思しき損傷した箱が埋まっていた。

 中を開けるとまごうことなき銃弾。

 土が入り込んでいるので腐食してしまっているが、間違いなくここは軍事施設か関連する何かであろう。

 ハズレかと思いきやまさかのアタリ。

 最悪三か所全てが外れる可能性も十分にあったので、ここぞとばかりに自分の洞察力を自賛する。

 問題は何が見つかるのか、なのだが……こうなると暗い夜に探す効率低下が気になり始める。

 幾ら夜目が利くと言っても、こう暗くては色を見分けるのは困難なのだ。


「よし、切り替えるか」


 ポンと手を叩いて探索を中断。

 本日はここで夜を明かす。

 エイルクゥエルを発つ前に睡眠はとっているので、今晩は魔法の修練と能力の研磨に時間を使う。

 特にアサルトモードへの切り替えは未だに上手くいっていない。

 現在はどうにか両手を同時に黒く変色させるまでには至ったが、そこから先でつまづいている状態だ。

 そして気を付けなければならない点が一つ。

 それはアサルトモードに集中すると魔法が使えなくなることだ。

 そちらに意識が持って行かれているのか、何度試してもダメだった。

 こちらも同時使用が可能となるまで練習あるのみである。

 現状まともに進んでいると思われるのが、魔法の練度上昇のみというのだから帝国人としてそれはどうかとままならぬ結果に溜息が漏れた。

 そろそろ効率化にも手を出したいのだが、教えてくれそうな相手は遥か西。

 久しぶりに六号さんの声を聞いて、ダメおっぱいを馬鹿にしたい。

 思わず浮かんだ雑念を頭を振って打ち消す。

 明け方までは訓練――そうと決めたのだから集中だ。

 地道な努力が実を結ぶ。

 焦ることなかれ、と自分に言い聞かせて指先に順番に光を灯す。

 点けては消してを繰り返し、次に指の動きに合わせて魔法を使う。

 こうすることで速度と精度の二つを向上させる。

 ただ悲しいかな、俺の魔力量は少なく、この訓練を行うと三十分もすれば魔力切れを引き起こす。

 症状が軽度のうちに訓練を止め、次はアサルトモードへの切り替えを意識する。

 暗い森で黒くなる自分の手を見つめながら、俺は魔力が回復するまでその行為を幾度となく行う。

 果たしてこれが訓練となっているのか?

 そう思ったことは何度かあるが、確かに変色する部分が少しずつだが増えている。

 手首の先まではアサルトモードへとチェンジさせることができているのだから、一応前には進んでいるはずだ。


(しかしこのペースだといつになるやら……)


 魔力が回復すれば再び魔法の訓練に戻る。

 これを夜が明けるまで繰り返し続けていると、僅かではあるが森の中に日の光が差し込んできた。

 さあ、今度は探索だ。

 立ち上がった俺はまずは何か新たな発見はあるかと周囲を見渡す。

 まあ、森が明るくなり始めただけで何かが見つかるようなことなく、俺は黙って探索を再開する。

 すると早速少し離れた地面に埋まった銃を発見。

 やはり明るくなってから調べる方が効率が良い。

 掘り出してみると出てきたのはハンドガン。

 丁度これくらいのものが欲しかったのだが……状態が良いはずもなく、これは使えないと放り投げる。


「あ、掘り出し物は一か所に集めるか」


 散乱していては探した場所がわからなくなる恐れがある。

 整理整頓はしっかりして部屋は綺麗にしよう。

 姉と妹がいるなら理由はお察しだ。

 ということで効率の上がった探索で次々見つかる埋まった物資。

 出土するものの傾向からやはりここは軍事施設と思われる。

 でなければこうも武器弾薬が出てくるはずはなく、これは期待できるのではないかと探す俺の手にも力が入る。

 そうして思わず潰してしまったガラクタを集めた出土品の元へと放り投げ、周囲を調べ回り続けること一時間。

 腐った木箱の中に詰め込まれていた見知った銃を発見するに至る。


「おお、懐かしいな」


 思わず声が出てしまう程に覚えている訓練時に用いていた銃の一つをそっと撫でる。

 三十六式ライフル――単発式の古いモデルだが、軍に正式採用された量産型であるため、その頑丈なつくりと相まって俺の時代でもまだ使用できたものが大量に残っていた銃である。

 そのため、銃の基本的な使い方を学ぶための練習用として、訓練兵は誰かの手垢の付いたこいつで射撃訓練をしていた。

 ちなみに俺が知る限りの最新は七十二式のアサルトライフルである。

 単発ライフルでとなれば五十九式が確か最新のものであったと記憶している。

 この差が表すことは一つ、突撃銃万歳だ。

「マガジン六発だもんなー」とかつてその手に馴染んだボロボロの銃を見る。

 取引としては最良といかずとも候補に挙がる銃である。

 この中から状態が最も良いものならば、ガストからは何を引き出すことができるだろうか?

 一考の余地はあるが、それもこの箱の中から状態の良いものが見つかれば、の話である。

 俺は壊さぬようにそっと一つずつ丁寧に銃を木箱から取り出していく。

 木箱の中に詰められていたのは全部で十八丁の三十六式。

 その中で錆びはあれど、布に包まれていた二丁は原型をしっかりと留めていた。

 両者を見比べ、片方を手に取るとリュックの中から布を取り出し、壊れないように巻いて包む。

 もっと都合が良いものが見つかれば交換するが、これ以上に状態の良いものが見つかることは恐らくないだろう。

 そう思っていたのだが、机と思しき残骸の引き出しからハンドガンが見つかった。

 しかも金属製のケースに入っていたので状態がかなり良い。

 おまけに装飾が付いており、一点ものの可能性がある上に所有者と思しき名前が彫られている。


「ハミルトン・ウルド・ウェンテリア」


 彫られた名前を読み上げ、俺は乾いた笑いを漏らす。

 ミドルネーム持ちのお貴族様とか南に持ち込んだ方がいいのかね?

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― 新着の感想 ―
[一言] なぜか読者ウケしそうな要素や登場人物からどんどん削られていく印象です。書きたいものがよくわからんです。
[一言] 面白い
[良い点] 丁寧な描写にワクワクする
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