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 綺麗所さん達を眺めるのは良い。

 皆さんタイプがそれぞれ異なるので大きいのから小さいのまであって大変よろしい。

 だが、全員の目が完全に怯えきっている。

 どうにか前に出ることができた女性も、顔が引きつり足が震えている。


(というか、この人頬に殴られたような跡があるな)


 抵抗した際のものだろうが、年下の4人を守ろうとする辺り面倒見の良いお姉さんか彼女達のまとめ役といったところか。

 しかしこれは困ったことになった。

 賊と思って襲ったら実は人攫いだったのだから、アテが外れたというより騙された気分だ。

 とすると一人だけ場違いな身なりの男は奴隷商か何かだろうか?

 このような連中が跋扈するとはカナン王国も進歩がない。

 奴隷と言えばこいつらは「一体どこに彼女達を売るつもりだったか?」と疑問が湧いてくる。

 セイゼリアに密入国できるルートがある、ということになれば、相応の組織である可能性が出てくる。

「さて、どうしたものか?」と衣服の乱れがある二人を中心に視線をやる。

 あの太っちょが「味見」でもしようとして襲おうとしたところに、タイミング良く俺が来たと言ったところだろうか。

 目の前の年長のお姉さんもそうだが、帝国のような下着が一般に出回っていないせいか、一番胸の大きい娘とかスケスケだから色々と見えている。

 露出度も高く、皆様素敵な御御足で大変眼福にございます。

 あと、下着履いてない娘もいるのだが、そのスリットでノーパンとか娼婦のお姉さん方ちょいとばかし攻めすぎてませんかね?

 ここで俺が何もしてこないことを訝しんでか、両手を広げて後ろの4人を庇う女性がこちらに語りかけてくる。

 勇気を振り絞ったことは痛いほどわかるのだが、拾えた単語が「私達」だけなことを本当に申し訳なく思う。


(いやもう本当に、つくづくもっと真面目に勉強しておくべきだったと後悔してる)


 彼女達に何かするつもりはないが、何もしないというのもそれはそれでおかしい。

 積荷を頂くつもりだったから馬車の中にある物を貰っていくというのも考えたが、一部散乱した彼女達の私物を見れば、俺が必要とする物など見当たらない。

 と言うか、流石に人攫いに襲われた人らの荷物を奪うような鬼畜ではない。

 相手が美人さんなら尚更である。


(いっそ布目当てで衣服や下着……どんな噂が流れるかわかったもんじゃないな。却下だ、却下)


 むしろ逃げた連中を追ってアジトを襲撃する方がまだ建設的な気がする。

 そこまで考えた時、俺の中に一つの閃きが起こった。


(そうだよ、隣国に密輸できるほどの組織ならアジトくらい幾つもあるはずだ。なら最初に逃げた連中がそこに向かう可能性は十分にある。そこを襲撃すれば色んな物が手に入るのでは?)


 名残惜しいが、ここで彼女達とはお別れだ。

 距離的にはさっきの町までそれほどないし、俺が通った時には危険な生き物もいなかったので、落ちてる武器を持っていけば大丈夫だろう。

 それに荷物に手を付けなければ水や食料に問題はないだろうし、馬車も無事なので暗くなる前には到着するだろう。


(あ、やっぱり水だけ少し頂いていこう)


 丁度水を補給しなければ心許なかったので、腕だけ馬車の中に突っ込み積荷の木箱に手を伸ばし水を探す。

 お姉さん方は自主的に避けてくれたので、ガサゴソと瓶の入った木箱を探り出すとそこから一本拝借。

 その栓を親指ですぽんと抜いて中の水を「がっがっ」と飲み干して気づく。

「これ、お酒だ」と思わず口に出る。

 俺が「が、がー」と吠えたことでお姉さん達を少々驚かせてしまったらしく、全員が隅によって固まっている。

 度数はあまり高くないとは言え、酒は酒。

 お酒は二十歳になってから、というのが帝国の法律だが、俺は200歳超えなので問題はない。

 あと、味がイマイチ。

 タダ酒に文句を付けるのもどうかと思うのだが、カナンの酒は口に合わないようだ。

 あまり長々と探すのもお嬢さん方の精神衛生上よろしくないので、水は諦めて賊を追いかけることにする。

 賊のような臭いの強い人間ならば、嗅覚を頼りに追跡することも不可能ではないはずだ。

 俺が去っていく様子を警戒しながら見送る視線を背中で感じながら、逃げ出した賊を追う前に荷物を慌てて取りに戻る。

 ちょっと忘れそうになっていたが、俺が引き返したことで馬車の中で小さな悲鳴が上がっていた。

 申し訳無さでいっぱいだが、アジトまでどれだけ距離があるかわからないから持っていくしかないんだ。

 荷物を担いでいざ追跡。

 馬車の横を通り過ぎる際にまた悲鳴が聞こえた。

 少しだけ胸が痛い。


(そこまで怖い顔じゃないと思うんだがなー?)


 ホラーゲームなら10作ほどやっていたが、この容姿ではランクインすらできないレベルのまともなモンスターっぽい外見である。

 個人的な感想だが、グロくはないしむしろ格好良い部類に入るとすら思っている。

「軽くショックだわ」と肩を落として賊に追いつけるように速度を出す。

 すると10分もしないうちに逃げた三人と思われる臭いを確認。

 擬態能力を使おうと思ったが、荷物までは隠せない。

 こんなところでも足を引っ張るか、ブルーシートよ。

 仕方がないので振り切られない距離を維持しつつ、臭いを頼りに進んでいく。

 まあ、これも訓練の一つと思えば良いかと一時間ほど追跡をしていると、視界の先に洞窟の入り口らしきものが見えてくる。

 臭いもその先に続いているので、あそこがアジトと見て間違いない。


(しかし洞穴のような地面に空いた穴を拠点にするとは……もしかして中はしっかりと作られているタイプかね?)


 後はどの程度の深さがあるかだが、これは入ってみないことにはわからない。

 俺は適当な場所に荷物を降ろし、周辺の葉っぱや枝を折って偽装すると、目印とばかりにスレッジハンマーを木に吊るす。

 まだ一回も実戦使用していないが、使う日はやって来るのだろうか?

 そんなわけで擬態を使用し、見張りもいない穴の中へと入っていくのだが……ぶっちゃけ入口がちょっと狭い。

 入れないことはないが、あまり余裕がないのでぶつからないように注意しながら中へと入る。

 真っ暗な洞窟の中を進んでいくと、思ったよりも中が広いことがわかった。

 通路のはずなのだが、俺が立ち上がることができるくらいには高く、幅も十分あり木材で壁や天井を補強している。

 曲がり角を一つ過ぎた辺りからは壁と天井は石材に置き換わり、魔法的な仕組みで動いてると思しき照明が設置されていることから、明らかな人工の施設へと変化している。


(結構古そうな感じだが、長年活動している人攫い組織……いや人身売買組織のアジトってところかねぇ)


 こうなるとここにある物にも期待が持てる。

 そう思った時、怒鳴り声が微かに聞こえてきた。

 大分先の場所からのものであることから、どうやらここはかなり大きいアジトのようだ。

 自分の擬態能力を確認しつつ、周囲の警戒を怠ることなく先へと進む。

 するとやはりというべきか牢屋が見つかる。

 鉄の格子の先にあるのは鎖で繋がれた白骨死体。

 状態を察するにそこまで古いものではないだろう。

 そしてこの臭い……死体は他にも沢山あるようだ。

 胸糞が悪くなるが、犯罪組織というのはそういうものだ。

 少なくとも、俺がこの先にいるであろう連中を生かしておく気がなくなったということだけは確かである。


「ぎぃやぁぁぁああぁぁっ!」


 一つの決意を胸に、次の死体を発見したところで悲鳴が聞こえてきた。

 男のものだったので無視する。

 というか、十中八九先程逃げ出した賊の中の誰かがお仕置きでも受けて上げたものなので、気にするほどのものでもない。


(確かこういう犯罪組織とかマフィアがこういう「ケジメ案件」を処理する時は、指を切るとかテレビで見たことがあるな)


 子供の頃の知識なので定かではないが、少なくとも今の悲鳴が「指を切り落とした」時の悲鳴でないことくらいは俺でもわかる。

 明らかに命に関わりそうなレベルの絶叫に近い恐怖の叫びだ。

 どうやらここのボスは中々部下に厳しい奴のようだ。

 近づくに従い話し声が鮮明に聞こえるようになってくるのは良いのだが、相変わらずほとんど聞き取れない。

 どうにか聞き取れた単語から推測するに、どうやら先程の娼婦のお姉さん達を攫ってくることを失敗したことでボスからお叱りを受けていると言ったところだろう。

 ただ、ボスと思しき声があまり流暢なカナン王国語を話していない。

 これのおかげで比較的聞き取りやすく、推測もしやすくなっている。

 つまりここのボスは外国人であり、他の国から派遣されてきたと考えられる。

 どうやらここの組織は多国間を股にかける大規模なものであるようだ。

「これは略奪品にも期待ができる」と俺はこっそりほくそ笑む。

 通路を進み、T字路を声がする左に曲がるとその奥に部屋があった。

 扉はしまっており、その奥から話し声と叫び声が聞こえてくる。

 どうやらまた一人ケジメを付けられたようだ。

 ここで問題が発生。

 扉が小さい。

 人間用のものにしては大きいとは思うのだが、俺にとっては狭くて通り抜けるのがやっとといったサイズである。


(入れないことはないし……いや、壊すか)


 周囲の壁くらいなら余裕で破壊できるだろうし、ここは一つインパクト重視で登場してみよう。

 そんなわけでダイナミックにお邪魔します。

 擬態を解除し、両手を床につけて右足を引く。

 狙いは扉。

 右足が床を蹴った――俺の全力のぶちかましが扉に炸裂し、周囲の壁ごと破壊して室内に乱入する。

 そこにいたのは、俺から逃げ出した3人の賊の死体と巨大な蜘蛛。

 本来あるべき蜘蛛の頭部の代わりに人の上半身――胸から上が生えているという蜘蛛と人を合わせたかのような化物。

 裸の上部にスキンヘッドの如何にも人相の悪い顔があり、こちらを見ると蜘蛛の足が突き刺された賊の死体を投げ捨てる。


「あぁ? 何だてめぇは?」


 はっきりと聞き取れたそれは俺にとって間違いなく最も馴染み深い言葉。

 目の前の化物はフルレトス帝国語で喋っていた。

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― 新着の感想 ―
おっさんアラクネ?誰得!
[一言] 残念だよ…蜘蛛と人ならばアラクネーさんで上半身は女性だよ! ハゲたおっさん_| ̄|○
[一言] 目の保養目の保養❤ 反応しないマイサンにしょんぼりしながらクールに去るぜ!(悲鳴) おや、人さらいのボスは主人公の同類か。 まあ趣味の合わない輩のようだし、サツガイするしかないね!
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