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(´・ω・`)おまたせ。

 交渉は成立した。

 しかし問題がないわけではなく、おっぱいさんがきちんとポーションを持って来てくれるのか?

 また俺を見つけて渡すことができるのかがわからない。

 持ち逃げされたら終わりである。

 そう思っていたのだが、おっぱいさんが言うには「どうせまた強制的に動員される」と俺の不安を飛ばしてくれた。

 加えて、品物を取りにこっちに来られると面倒なことになるので、大人しく待ってろとも言われた。

 取り敢えず連絡手段は必要だろうと、何かないかとリュックを漁ろうとしたところでおっぱいさんが提案してくれる。


「用がある時は昼くらい――太陽が真上の辺りで川の向こうに狼煙を上げるわ。それでこっちの位置を把握して頂戴。そっちの方が移動が速いんだから、あんたが来るで構わないわよね?」


 テキパキと決めるおっぱいさん。

 わかりやすいので文句はない。

 俺はゆっくりと頷いて承諾すると、残ったワインをリュックに仕舞う。

 それをじっと見ているおっぱいさん。

 ちなみに彼女の名前は「ディエラ」というそうだ。

 正直、そのご立派なものの印象が強すぎて覚えていられるかが不安である。

 そんなわけで無事に話し合いが終わり、別れの時間がやってきた。

 暗い夜道を帰ることになる彼女たちだが、ハンターならば心配は無用だろう。

 だが不意に初めて遭遇した時のことを思い出す。


(あの時はオーガがいたとは言え、全滅間際のところだった)


 彼女の実力を考慮するとあの程度ならどうとでもなりそうなものだと思うのだが……その件について尋ねようかと思ったが、流石にこれは無神経な質問と思い直す。

 新しい仲間にも出会えたようなので、過去の傷を不用意に掘り返すのはよろしくない。

 明かりの魔法で川を照らして渡り始めた彼女らを見送るが、未練がありすぎるおっぱいさんが何度もこちらを振り返っている。

 仕方なしにメモ一枚にでっかく「後払い用」と書き、明かりの魔法を使ってリュックから取り出したワインと一緒に掲げる。

 それはそれは良い笑顔で親指を立てるおっぱいさんが「ワインを元の場所で保管しとけ」と大声を出す。

 ちょっとこの人は適応力が高すぎるのではないか?

 無類のお酒好きという可能性も否めないが、彼女たちを見送った俺は大きく息を吐いた。


「思った以上に話せる相手だった」


 セイゼリアのハンターと言えば「モンスターだ。殺せ!」が一般的だと思っていたが、どうやら話せる相手もいるようだ。

 それとも依頼内容の都合で今回は偶々である可能性も十分に考えられるが、それはそれでそんな依頼を出すような相手がいるという情報にもなる。

 ともあれ、ワインの状態にケチを付けられたくないので、ここは大人しく従っておくことにする。

 厳重に入口を塞いでいたこともあってか、少々手間取ったが無事ワインセラーに収納完了。

 状態の良い地下室なので、ここは可能な限りこのまま保存しておきたい。

 ということでまたも慎重に、かつ他の生物に荒らされないようにと厳重に戸締り。

 最後にいい感じの残っている崩れた壁面を利用して蓋をする。

 俺が両手を広げて持ち運ぶサイズなので、ゴブリン程度ではどうにもならないはずだ。

 人間ならば道具があれば破壊することができるだろうが、こんなところにそんなものを持ってくる変人はいないだろう。

 これで一安心と夜明け間近の夜空を見上げる。

 朝食のために一狩り頑張るとしよう。




 夜が明けて日が昇る。

 川辺に作った竈を再利用して鉄板で兎の肉を焼く。

 食べられるキノコにハーブを合わせ、最後の調整とばかりに塩を一摘まみ――完成である。

 皿に焼き立ての肉を移し、その上に焼いたキノコを乗せて見た目もバッチリ。

 ナイフとフォークを親指と人差し指に中指で器用に使って兎肉のステーキを切る。

 大きく切り分けられた肉を口に運ぶ前にその香りを堪能する。

 肉の臭みが見事にハーブで打ち消されており、その分量が適切であることをこの香りが雄弁に語っている。

 そして実食――不味い。

 塩加減は問題ない。

 ただ淡泊な兎肉にこのハーブは致命的に合っていない。


「香りはいいんだがなぁ……」


 ちょっと癖が強すぎるので、使うなら猪の肉辺りが適切か、とハーブをナイフで除けつつステーキを頬張る。

 香草は使いどころが難しいな、と肩を落としつつもしっかり完食。

 後片付けを済ませると荷物を背負って探索だ。

 まずは南――地図を取り出し現在位置を確認。

 ランドマークがないので大まかなものとなるが、大体これくらいだろうと当たりを付けて探索予定範囲を円で囲む。

 さあ、探索を始めるとしよう。

 のっしのっしと森へと分け入り、しばらく進んだところで見つかったのは道路の痕跡。

 方角から察するにエイルクゥエル辺りに通ずるものではなかろうか?

 他に情報もないのでこの跡を辿ってはみたものの、十分と経たず痕跡は途絶えてしまう。

 進路を予想して進んでみるも、それ以上の痕跡は発見できず、仕方なしに通常の探索へと切り替える。

 西側を意識しつつ走っているとゴブリンを発見。

 迷わず駆除して仲間を探す。

 しかし周辺に他のゴブリンの存在を確認できなかった。


「……はぐれか?」


 だとするとこいつが出てきた群があるはずだ。

 そしてゴブリンの群があるとすれば、俺がまだ発見していない廃墟がある可能性へと思い至る。

 よろしい、ならばゴブリン狩りだ。

 廃墟と言えど、我が祖国が残した立派な遺産。

 貴様らにそれを活用する権利はない。

 久しぶりの大規模ゴブリン駆除の予感に気持ち慎重に進む。

 数の多い相手となれば、荷物の安否が気になるのだ。

 リュックを離れた場所に隠す猶予を得るためにも、気づかれることなく発見したい。

 そんなわけで意識を探索から狩りへと切り替えてしばらく進んだところで反応があった。

 最初にそれを捉えたのは聴覚。

 次に嗅覚である。

 間違いなくいる、という確信を持てたので予備のサーベルを取り出し、リュックを大きな木の上に退避させると目印とばかりに拾った枝をブスブスと地面に突き立てる。

 これで準備は万端。

 ゴブリンに遺産の使用料を徴収する訪問時間だ。

 気づかれて逃げられては元も子もないのでステルスモードで慎重に近づく。

 すると見えてきたのは粗末なあばら屋のような何か。

 しばらく観察してみたが、どうやら人間が作った幾つものボロ小屋を利用した集落のようだ。

 しかしこんなものが帝国の時代にあったとは思えない。

 スラムでももっとマシなはずだ。


(となると、これはセイゼリアの人間が何かしらの目的で作ったもの。或いは逃げた連中などが住み着いた場所だった、ということか)


 これでは使用料の徴収は叶わない。

 だから普通に駆除した。

 ゴブリンだからね、生かす価値もない。

 一応何かないかと悪臭の中で探索。

 手に入ったのは読めない紙束。

 ここのボスと思しきゴブリンが椅子にしていた金属製の臭い箱の中から出てきたものだ。

 こんなところにあるのだから重要そうなものである可能性も考えられる。

 よって念のために確保。

 おっぱいさんとの取引時に何かに使えれば御の字と言ったところか。

 こんな具合に日が暮れるまで探索を続けてみたが、他に成果はなかったので東に進路を変更し川へと向かう。

 本日は休息を取る予定なので、川に到着するなり野営の準備。

 折角なのでゴブリンの臭いが移ってるかもしれないので水浴びもしておく。

 焚き火で暖を取ってから調理開始。

 エビやカニが俺の手に盛れるほどに確保できたので、本日はこれを使ってダシを取ってみる。

 甲殻類は良いダシが出ると何処かで聞いた記憶がある。

 サイズ故に苦戦しながらも腸や内臓と思しき部位を取り除き、洗ったものから手鍋にどんどん投入。

 煮立ったところで最後に塩で味を調節して味見――思った以上にいける。

 折角なので捕った魚も切り身にしてこちらに投入。

 中々豪勢な見た目の鍋となった。

 おたまでスープを啜るとその出来に思わず感動。

 そのまま中の具も一緒に頂く。

「美味である」とモンスターも頷く美味さ。

 恐らくだが、これまで作ったものの中で一番上手くできている。

 これはまた何処かで披露せねばなるまい、とリアクションが素晴らしいおっぱいさんのおっぱいを思い浮かべる。


(やっべ、名前が出てこないぞ?)


 やっぱり印象的な部分があればそちらが優先されてしまうようだ。

 満足の行く一杯を最後まで堪能した俺は、後片付けを終えると日課となっている魔法の練習をすることもなく眠りに就いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法使えるのあっさりとばらしたね
[一言] 明かりの魔法を使ってリュックから取り出したワインと一緒に掲げる。 ↑ 魔法使うのもバラして良いの?(´・ω・`)焚火の火と見分けつかない距離だった?それとも気付かなかったけれど途中で使ってい…
[一言] 面白い
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